ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

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番人の名前は一体、何なのか?
しかし、そこにも影の大王が罠を仕掛けているらしく……。


第48話 番人のゲーム

 リーフはヴァージニア達もネリダも見ようとしなかった。

 指の関節が白くなるまで椅子の肘掛けを握りしめ、自分の感情を表に出さないように努めた。

 しかし、番人は明らかに騙されていなかった。

 番人はテーブルを囲んで微笑み、赤い目で客達の表情を貪欲に捉えた。

 それから番人は皿の残り物を取り、無造作に床に投げ捨てた。

 四体の怪物は食べ物を奪い合い、それぞれが分け前を巡って激しく争った。

 リーフはゆっくりと椅子を後ろに押しやり、立ち上がった。

 奇形の怪物達はリーフの後ろでよだれを垂らしながら、よろよろと歩いていた。

「さあ、ゲームの時間だ。わしが一番好きな時間じゃ」

 ヴァージニア達に尋ねる必要はなかった。

 彼らが望むと望まざるとに関わらず、番人は煌めく空間を次々と通り抜け、

 怪物達も番人のすぐ後をついてきた。

 ついにヴァージニア達は、明らかに番人がほとんどの時間を過ごしている部屋へと辿り着いた。

 深紅のカーテンが壁を覆い、霧と他の部屋を遮っていた。

 美しい絵や絵画、そして彫刻の額縁に入った巨大な鏡が、カーテンから下がっていた。

 床には、花や果物、鳥がふんだんに描かれた絨毯が敷かれ、

 その両端には謙虚な隠者の絵が繰り返し描かれていた。

 番人のちょっとした冗談の一つだ、とリーフは思った。

 この谷で、素朴で美しい生き物は他にどこにも見つからないだろう。

 絨毯の上、クッションが山積みになった長椅子の前に、

 本が散らばった低いテーブルが置いてある。

 さらに何百冊もの本が、壁を取り囲むようにそびえ立つ棚にぎっしりと詰まっていた。

 番人は立ち止まる事なく、まっすぐ部屋を横切り、カーテンを引き開けると、

 壁の片側にはめ込まれたガラスの扉が現れた。

 番人は扉を開けずに脇に寄り、

 腕を軽く振ってヴァージニア達にその向こうの空間を覗き込むように促した。

 そこは小さな部屋で、中央にガラスのテーブルが置かれているだけだった。

 テーブルの上には金の小箱が置かれていた。

「お前達の探している宝石はその小箱の中にある」

 明らかに、番人は喜びと興奮を抑え切れずにいた。

「わしと知恵比べをして勝った者が部屋に入り、賞品を受け取る事ができる」

「へー、じゃあパズルを解けばいいんですのね!」

「そういう事になるな」

 こういうのは、巨人のなぞなぞ以来だと、ヴァージニアはワクワクする。

 まるで、自分が危険な世界に飛ばされた事をすっかり忘れたかのように。

 リーフは扉のガラスに体を押し付けた。

 デルトラのベルトがリーフの肌に触れてかすかに温かくなった。

 番人が真実を語った証だった。

 偉大なダイヤモンドはその部屋にあり、ベルトはそれを感じ取る事ができた。

 バルダは肩で扉を押したが、扉は動かなかった。

「この扉はどんな力でも開かない。魔法で封印されており、ゲームに勝たなければ開かない。

 さあ、勝負するか?」

「他に選択肢はあるの?」

「もちろんだ! もしそう望むなら、今すぐ手ぶらでここを出て行ってもいい。

 探しに来た宝石に背を向けろ。元いた場所へ帰れ! 止めはしない」

 ヴァージニア、リーフ、バルダ、ジャスミンは互いに顔を見合わせた。

「もしゲームに勝って部屋に入れば、ダイヤモンドは僕達のものになるのか?

 ダイヤモンドを持って谷を出て行っても構わないのか? 誓うのか?」

「もちろん! それがルールだ。ダイヤモンドはお前のものだ」

「もし失敗したら? その後はどうなるんだ?」

 番人は両手を広げた。

 肉厚の紐が手首から外れ、背後の怪物達が動き出した。

「ならば――ならば、お前はわしのもの。

 そして、わしと知恵比べを選んだ他の者達と同じように、ここに留まるのだ。

 お前はいましめの谷の一部となるのだ。永遠に」

「よし、全力で解きますわよ」

 ヴァージニア達は扉の脇でじっと立っていた。

 棺が置かれた小部屋の外では、絶望に満ちた灰色の手が、渦巻く霧の中、ガラスを撫でていた。

「挑戦を受けるか?」

 番人は呟いた。

 ヴァージニア達の答えを待つ間、番人の目は燃えるように熱かった。

「決める前に、もっと情報が必要だ」

 バルダは冷静に言った。

 しかし、ネリダは首を横に振った。

「もうこれ以上知る必要はないわ! もう決めたのよ。この四人は好きにすればいい。

 でも、私はゲームには参加しないわ!」

 番人は頭を下げたが、口角は軽蔑で引きつっていた。

「では、お嬢ちゃんは帰りなさい」

 番人は軽々しく腕を振りながら言った。

 ネリダは、自分を縛っていた呪いが解けたようによろめいた。

 彼女は後ずさりし、それから踵を返し、振り返る事なく部屋から走り去った。

 

「残念だ。お前達の中で、あの女こそダイヤモンドの誘惑に抗えないと思っていたのに。

 もしかしたら、今でも考えを変えて戻ってくるかもしれない。

 あの女には欲深さと嫉妬深さの臭いが強く残っている」

 番人は溜息をついた後、足元にいた怪物達を振り返り、一つずつ撫でた。

「お前達はそれを鋭く感じただろう?」

 番人は甘い声で言った。

 怪物達は唸り声を上げ、鼻を鳴らして同意し、

 膨れ上がった顔を番人の手に愛情を込めてこすりつけた。

「……確かにあのネリダですもの。諦めるはずがありませんわ」

 振り返る事もなく、番人はヴァージニア達の方へ指を軽く弾いた。

 安堵と共に、ヴァージニア達は目に見えない束縛が解けるのを感じた。

 突然、ヴァージニア達は自由に動けるようになった。

 番人は鏡へと歩み寄り、感謝の念を込めて自らを見つめ始めた。

 髭を撫で、微笑んだ。

 リーフの指は剣に手を伸ばして攻撃したくて疼いた。

 しかし、ヴァージニア、バルダ、ジャスミンと同じように、無駄だと分かっていた。

 ウヌボレ、ワルヂエ、シット、ヨクバリが、

 ギザギザの歯をむき出しにして四人に立ち向かっていた。

 警告の音が一つ聞こえれば、番人は振り返り、新たな呪文を唱えるだろう。

 もしかしたら、前回よりもさらに強力な呪文かもしれない。

「そろそろ寝る時間だ」

 番人は欠伸をしながら鏡から背を向けた。

「民とは違い、わしはまだ生きている。それ以上に何を知りたいというのじゃ?」

(もしかしたら、わたくし達がダイヤモンドを求めている事を知ってますのね)

 番人は気にしないふりをしているが、心からゲームに参加してもらいたいのだ。

 彼のプライドが、自分がヴァージニア達より強く賢い事を証明し、

 ヴァージニア達を打ち負かそうと駆り立てる。

 それが番人の弱点なのだ。

「ゲームについてもっと知らないと、参加する決心がつかないわ。

 それは何? どうやってやるの?」

 番人は眉をひそめ、躊躇った。

「参加してほしいんだろ? そして、僕達は……正直に言うと、ダイヤモンドが欲しいんだ。

 でも、勝てる可能性があると知りたいんだ」

「もちろん! わしは決して嘘をつかぬ」

「でも、ゲームの中には偶然や運に左右されるものもありますわ。

 あなたのゲームもそうかもしれませんわ。もしそうだとしたら……」

「黙れ、異世界の者よ! わしのゲームは知恵比べじゃ!」

 番人はヴァージニアが異世界の者だと知っているようだ。

「ならば証明しろ。俺達が何をすべきか教えてくれ」

 番人は少し考えた後、微笑んだ。

「どうやらお前達は立派な対戦者のようじゃな。分かった。教えよう。

 お前達がしなければならないのは、ただ一つの言葉を見つける事じゃ。扉を開ける言葉じゃ。

 そしてその言葉とは――わしの本当の名前じゃ」

 ヴァージニア達は黙って番人を見つめた。

 四人が予想していたであろうあらゆる出来事の中で、これが最後のものだった。

 番人は満足そうに頷き、ヴァージニア達の驚きに大いに喜んだ。

「謎の手がかりはこの宮殿にある。そして最初の手がかりは、まさにこの部屋に隠れている!」

 バルダは肩を竦めた。

「俺達の決断について話し合うために、少し二人きりで時間をいただけたら幸いです」

「もちろん! わしは非常に分別のある人間じゃから、そのお礼は許す。

 しかし、どうかわしの忍耐力を試すでない。すぐに戻ってくるから、その時は必ず返事をくれ」

 番人は自分の怪物達のリードを両手に集め、振り返ってヴァージニア達のもとを去った。

 

 二人きりになるとすぐに、ジャスミンはガラスのドアに駆け寄り、

 もう一度その向こうを見つめた。

「あそこにもう一つ扉があるわ! 外に通じる扉よ。ほら、隅っこの方よ」

「それで? どんな計画なんだ?」

 ジャスミンの目は鋭く輝いていた。

「簡単よ。番人に、あの馬鹿げたゲームに付き合うって言うの。

 それから、番人が眠っている間に、この部屋に侵入する方法を見つけるの。

 宝石を盗んで、別の扉から出て、番人が目覚める前にこの谷から出て行けるの」

「やめろ!」

 リーフは衝動的に叫んだ。

 ジャスミンは苛立ちながらリーフを一瞥した。

「怖いの? 番人の魔法が怖いの?」

「まったく、怖いもの知らずなのはいいんですけど、度が過ぎますわよ、ジャスミン」

「あいつの力は強すぎる。かつてのあいつが何者であれ影の大王が身も心もあいつを歪めている」

 バルダは低いテーブルに身を乗り出し、そこに置かれた本を素早く整理していた。

 リーフは、いつものように現実的なバルダが、本の表紙に番人の名前、

 あるいはその一部が走り書きされていないか確認している事に気づいた。

 リーフは手伝おうと歩み寄った。

「そんなんじゃ名前なんて絶対に分からないわよ!」

 ジャスミンは激怒して息を呑んだ。

「そんなに簡単なら、窓の外の哀れな魂達は……」

「待って!」

 リーフの驚きの声がジャスミンの言葉を遮った。

 本の山の一番下に、見覚えのあるものがあった。

 小さくて色褪せた青い本だ。

 リーフはそれを掴み、開いた。

 半ば期待し、半ば恐れていた通り、それは『デルトラのベルト』だった。

 自宅で何度も研究した本。

 最後に見たのは、鎖に繋がれ無力に横たわる父親の地下牢だった。

 そして今、それはいましめの谷にあった。

 心臓が高鳴る中、リーフはヴァージニア、バルダ、ジャスミンに見せるために本を掲げた。

 バルダは眉をひそめた。

「番人がこの本のコピーを持っている事は、何の意味もない。

 きっと、1冊だけでなく、たくさんのコピーが作られたはずだ。

 王国中の忘れられた場所に散らばっているはずだ」

「確実に、番人は影の大王のしもべですわ」

「もし番人がこの本を研究していたとしたら、それは影の大王が命じたからだ。

 番人は、僕達がただの欲深さからダイヤモンドを探している、

 ただの余所者だと思っているふりをしている。

 でも、もしかしたら、僕達がそうではない事を最初から知っていたのかもしれない」

「なら、どうしてゲームの話ばかりするの? あいつはいつでも私達を殺す事ができるのよ!」

 リーフは身震いした。

「もしかしたら、ただ楽しんでいるだけなのかもしれない。

 猫がネズミと遊ぶように、僕達と遊んでいるんだ」

「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。俺達がいつ来るか知らなかったんだ。

 それに、男と少年と修道女と黒い鳥を連れた少女がいるという警告を受けたら、

 俺達が来るって気づかないかもしれない。

 クリーは一緒にいないし、ジャスミンは男装してるし、俺達はネリダと一緒にここに来たんだ」

「少なくとも、それなら、少しは役に立ったわね」

 ジャスミンは鼻をすすった。

 リーフは必死に小さな本をめくっていた。

 どのページにも、よく覚えている単語やフレーズが並んでいたが、

 リーフが探していたのはただ一つ、ダイヤモンドの力について書かれた部分だった。

 ついに、リーフはそれを見つけた。

 

 ダイヤモンドは純潔と力の象徴。

 あらゆる人の心を魅了す。

 心正しき者、この石を持てば、勇気と力沸き、災いを逃れ、真実の愛を得る。

 されど注意せよ。

 ダイヤモンドは暴力と不正を嫌う石なり。

 欲に駆られ、これを奪う者あらば、その者に必ずや不幸をもたらす。

 悪しき心をもってこの石を手にしたる者、恐ろしき報復を覚悟すべし。

 

「これ――これだ、僕が思い出そうとしていたのはこれだ」

 リーフはヴァージニア達にその一節を見せながら、急いで言った。

「だからダイヤモンドを盗んではいけないんだ!」

「危なかった……」

 ヴァージニア達は本を見つめ、それから互いを見合わせた。

「この警告は私達に向けたものじゃないわ!

 だって、私達は欲深さや嫉妬から宝石を欲しがっているんじゃないのよ。

 正当な理由があって盗むのよ。悪の手から救い出し、本来あるべき場所に戻すのよ!」

 リーフは首を横に振った。

「ダイヤモンドは力ずくや策略に頼らずに手に入れなきゃいけない。

 さもなければ、番人を招いたように、僕達に災いをもたらすだけだ!」

「やっぱりパズルを解くんですのね」

「それで……?」

 リーフは溜息をつき、本を閉じてテーブルの上に戻した。

「番人はそれを惜しみなく与えなければならない。そして、そうさせる方法はただ一つ。

 番人は自惚れが弱点で、このゲームはその自惚れにとって重要なんだ。もし僕達が勝てば……」

 その時、足音が聞こえた。

 番人が戻ってきたのだ。

 彼は部屋に駆け込み、ペット達が番人の後ろをのろのろと歩いてきた。

「さて、決心したのか?」

 リーフ、バルダ、ヴァージニアはジャスミンをちらりと見た。

 ジャスミンは少し間を置いてから、顔をしかめ、軽く頷いた。

 バルダは前に出た。

「ああ、ゲームを使用」

 怪物達は興奮して鳴き声を上げ、リードを引っ張った。

 番人の目は燃えるように輝いていた。

「素晴らしい!」

 番人は鏡の下のテーブルに置かれた、火のついていない背の高い蝋燭を指差した。

 揺らめく黄色い炎が浮かび上がった。

「この蝋燭の命は、部屋への扉を開けるまでだ。

 蝋燭が消えるまで扉が開かれなければ、お前は敗北を認め、わしのものになる。同意するか?」

「「「「同意する(しますわ)」」」」

 四人は怯む事なく、同時にその言葉を言った。

 番人は再び両手をこすった。

「では、おやすみなさい。好きなように探索すればいい。

 最初の手がかりはこの部屋にある、言った通りじゃ。

 ある意味では隠れているが、別の意味では、お前の鼻先のように明白じゃ」

 番人は扉へと歩み寄ったが、先に進む前にもう一度振り返った。

「忠告だ。扉を開けるチャンスは一度きりじゃ。たった一度きりじゃ。

 推測に時間を無駄にするな。明日の朝に会おう。わしの勝利を宣言するために」

 そう言うと、番人は怪物達を従え、部屋を出て行った。

 しかし、ヴァージニア達の視界から消えるとすぐに、勝ち誇ったような高笑いが始まった。

 それは宮殿のガラス壁に百の声のように響き渡り、

 番人が眠りにつくにつれて、ゆっくりと遠くへと消えていった。

 

 一時間もの間、ヴァージニア達は部屋中を捜索し、

 番人の名を紐解く手がかりになりそうなものなら何でも探し回った。

 棚の本は役に立たなかった。

 バルダが棚から引き抜くと、粉々に砕け散った。

 戸棚の引き出しの中の書類も黄ばんで脆く、触れるだけで罅割れ、崩れ落ちた。

「一体どうすればいいんですの……?」

 絵を見ても手がかりは何もなかった。

 カーテンの向こうにはガラスと霧しかなかった。

「奴は全てを手に入れたと思っているけど、何も持っていないじゃない!

 素晴らしい食事は灰。美しい本は塵。仲間達はよだれを垂らす、気持ち悪い怪物。

 あいつの王国は悲惨な場所よ。どうしてあいつはこんなに自惚れているの?」

「自惚れているは俺達だ」

 バルダは歯を食いしばり、ゆっくりと滴る蝋燭の火を見つめながら言った。

「奴はこの部屋に手がかりがあると言った。きっと本当の事を言っているのだろう。

 でも、どんな手がかりだ? どこにあるんだ?」

「それが見つからないから困っているのに」

「この部屋に手がかりが隠されているって言ってた!」

 リーフは両手で顔を覆い、集中しようとした。

「僕達はあらゆるものの裏側、あらゆるものの内側を探した。

 つまり、それは別の方法で隠れているんだ」

「魔法で隠されているのよ!」

 ジャスミンは絶望のあまり部屋を見回した。

「それなら奴が言っていたもう一つの言葉にも意味が通るわ。

 ある意味では隠されていて、別の意味では君の鼻のように明白だったって」

「君の鼻だって! 当然だろう!」

「えっ、バルダさん、分かりましたの?」

 バルダは雷鳴のように叫び、飛び上がった。

 ヴァージニア達が驚いて見守る中、バルダは部屋を大股で横切り、鏡を覗き込んだ。

 一瞬、ヴァージニア達はガラスに映る、不思議と柔らかく若々しいバルダの顔を見た。

 そして、その姿は消え、蝋燭の揺らめく光に白く輝く言葉が現れた。

 

 この宮殿をくまなく探せ

 一は 自惚れが強い奴の名

 二と四は 見えざる者の文字

 三文字目は きらきら光る

 最初の一文字 終わりが始まり

 全部で四文字 当ててみよ

 

「でも、意味が分からない! 全く意味が分からない!」

「意味はある。似たようなものを見た事がある。これはヴァージニアの言う通り、パズルだ」

「この韻文は、番人の名前に何文字あるのかを教えてくれるんだ。

 文字が何なのかをどうやって見つけるかを教えてくれるの。

 でも、今まで解いたどんなパズルよりもずっと難しいよ」

「だから解き甲斐がありますわ」

 リーフはデルトラのベルトを握りしめ、心からトパーズの力が完全に発揮される事を願った。

 トパーズがリーフの心を澄ませ、研ぎ澄ます前に、しばしばそう願った。

 しかし、その力は月が満ちるにつれて強まり、欠けるにつれて弱まる。

 今夜は月が全くなかった。

 もしヴァージニア達がこのパズルを解くなら、一人で解かなければならないだろう。

 

 ヴァージニアが宝物の中から見つけた紙切れに鏡に映った言葉を書き写した後、

 ヴァージニア達は座って話をした。

「まとめるとこんな感じですわね」

 

 ・怪物の名前と性格は全く一致しない

 ・悪知恵が働く奴と自惚れが強い奴はヨクバリを恐れている

 ・ウヌボレは欲深い奴と餌を取り合い半殺しにしている

 ・シットは自惚れが強くない

 

「あの番人は嘘はついてないようですわ。だからシットは『欲深い』か『悪知恵が働く』ですわ」

「悪知恵が働く奴と自惚れが強い奴はヨクバリを恐れている。

 つまり、ヨクバリは悪知恵が働くわけでも、自惚れが強いわけでもない」

「しかも名前と性格は全く一致しない……つまり、ヨクバリは嫉妬深い!」

「ウヌボレは欲深い奴と餌を取り合い半殺しにしている。

 つまり、自惚れが強くないし、欲深くもないわね。

 嫉妬深いのはヨクバリだから、ウヌボレは悪知恵が働くわね」

「シットは嫉妬深くなく、自惚れが強くないから、欲深いな」

「つまり、自惚れが強いのは……ワルヂエだ!」

 

「一文字目は『ワルヂエ』の『ワ』か」

「よし」

 リーフは立ち上がり、自分の言葉と同じくらい自信に満ちていたらと願った。

「宮殿を部屋ごとに探そう」

「どこへ行っても、韻に合うものを探すんですのね」

 三人は書斎を出て、捜索を開始した。

 一部屋、また一部屋、また一部屋と探しても、手がかりは掴めなかった。

 家具、絨毯、装飾品、一つ一つを注意深く見ていたが、手がかりは掴めなかった。

 宮殿は広大だった。

 軽快な音楽が三人の後を追うように、ヴァージニア達は平静を保ち、油断せずに進み続けた。

 しばらくの間、ヴァージニア達の音以外にも、かすかな動きの音が聞こえた。

 遠くから、かすかな足音やドアの開閉音などがこだました。

 しかし、ついに音楽が止まり、他の音も止んだ。

 今、ヴァージニア達は完全な静寂の中で作業を進めていた。

 急がずにはいられなかった。

 急ぎ足で捜索を怠らずにはいられなかった。

 皆の心の中には、蝋燭の灯りが滴り、容赦なく燃え尽きていく光景が浮かんでいた。

 ついにヴァージニア達は、番人の書斎と同じようにカーテンで仕切られ、

 閉じられた木の扉で仕切られた部屋に辿り着いた。

 扉の小さな窓には、模様のある色ガラスがはめ込まれ、柔らかな光が差し込んでいた。

 リーフはそっとノブを回し、中を覗き込んだ。

 扉の脇のスタンドに置かれた蝋燭の灯りは揺らめいていたが、部屋は薄暗かった。

 隅に積み重なった柔らかいクッションの山が、リーフの目に留まるまで少し時間がかかった。

 番人はそこに眠っていた。

 しかし、番人は一人ではなかった。

 四匹のペットがベッドを共にし、肉厚のリードが青白い蛇のように絡まっていた。

 そして、怪物達は目を覚ましていた。

 怪物達は恐ろしい頭を扉に向けていた。

 長く低い唸り声を上げ、歯を輝かせていた。

 リーフは慌てて身を乗り出し、再び扉を閉めた。

「そこは入れない。ここは番人の寝室だ。そして、怪物達も一緒にいる」

「いずれ必ず奴らと対決する事になるわ」

「どうしてですの?」

「そうでなければ、自惚れの罪が何なのかを突き止める望みなどない」

 三人は決断できずに、閉じた扉を見つめていた。

 するとジャスミンの顔が戸惑いを隠せなくなり、色ガラスの窓を指差した。

「何か変なの。今気づいたの。見て!」

 

 ◇ ☆ ◇ ◇

 ☆ ☆ ☆ ☆

 ◇ ◇ ◇ ◇

 ☆ ◇ ◇

 

「確かに奇妙だな。最後のマス目を除いて、全てのマス目にダイヤモンドか星がある」

 バルダはガラスを覗き込みながら言った。

「そうよ! 三文字目はきらきら光るってあるわ」

 ジャスミンはリーフの手から紙をひったくると、詩を読み上げた。

 彼女は熱心に顔を上げて、三人が理解したかどうか確かめた。

「ダイヤモンドと星はどちらもきらきら光るわ。

 この韻文は、最後のマス目にどちらを入れるべきかを問うているの。

 宝物であるダイヤモンドか、光の点である星か」

「つまり、番人の名前の三文字目は、そのどちらかの最初の文字だね」

 リーフはジャスミンから紙を受け取り、唇を噛みながら興奮を抑えながら、図にメモを取った。

 三人は色ガラスの窓を見つめ、

 目の前の模様がぼやけるまでじっと見つめたが、何も起こらなかった。

「意味がない! 全部で16個のマス目がある。でも、誰かの気まぐれで並べただけみたいだな」

 リーフとヴァージニアも同意した。

 そして、興奮が冷めたジャスミンは、ますます不安になっていった。

「もしかしたら、この謎は16に関係しているのかもしれない。

 16は便利な数字だ。簡単に小さく均等な部分に分けられるからだ。城の小隊は16だった。

 練兵場で隊列を組んで行進する時、よく一緒に出発して、8人ずつ、4人ずつ、そして……」

「見ろ!」

 鈍い指で窓の中央に十字を描き、四つの均等な部分に分けた。

「全体としては意味をなさない。

 だが、16個の小さな正方形でできた大きな正方形として見るのではなく、

 四つの正方形があり、

 さらにその四つにさらに四つの小さな正方形があるとしたら、どうなるだろうか?」

 ヴァージニアは窓を見た。

 まるで新しい目で窓を見ているかのようだった。

 今、窓は四つのブロックでできていた。

 上が二つ、下が二つ。

 最初のブロックには、星が三つとダイヤモンドが一つあった。

 その隣のブロックには、星が二つとダイヤモンドが二つあった。

 最初のブロックの真下にある三番目のブロックには、星が一つとダイヤモンドが三つあった。

 そして、空白のマスがある四番目のブロックには……。

「ダイヤモンドが一つずつ増えて、星が一つずつ減るんだ」

「だから最後のマスには星は一つもなくて、ダイヤモンドが四つになるんだ!」

「そうだ!」

 リーフは、それがこんなに単純なものだとは信じられなかった。

 しかし、バルダが解いてくれるまでは、簡単だとは思えなかった。

 城の衛兵だった頃を思い出したからだろう、とリーフは考えながら『ダイヤモンド』と書いた。

 バルダは満足そうに見ていた。

「二文字が埋まった!」

「あとは、二と四は見えざる者の文字、だな」

「これが一体何を意味するのか、さっぱり見当もつかないわ。

 自分がバカなのかもしれないけど……」

「君がバカなら、俺もバカだ。最初から俺には謎だったんだ」

 リーフもまた、あの奇妙な線が一体何を意味するのか見当もつかなかった。

 ただ分かっていたのは、このガラス張りの迷路のどこかに最後の手がかりがあり、

 それを見つけなければならないという事だけだった。

 ヴァージニアだけは理解していたが、口には出さなかった。

 必死のエネルギーに満ちた三人は、

 謎を解くのに役立つ何か手がかりを探し求め、部屋から部屋へと急いだ。

 しかし、何も見つからなかった。

 ただ壮大な虚無だけが広がっていた。

 ついに角を曲がると、ジャスミンが呻き声を上げた。

「でも、ここには以前、来た事があるのよ! もうこの部屋は調べたわ」

 ヴァージニア、リーフ、バルダは辺りを見回し、ジャスミンの言う通りだと悟った。

「もう探す場所なんてない!」

 バルダの顔には疲労と絶望が刻まれていた。

 窓の外では、闇の中に濃い霧が立ち込め、人影が漂い、

 指がガラスの上を滑らせ、怯えた視線がじっと見つめていた。

 どれくらいの時間が経ったか、リーフは分からなかった。

 再びパニックが湧き上がるのを感じ、服の下のベルトを握りしめた。

「手がかりはどこかにある。きっと分かっている」

 指先にアメジストの冷たさを感じながら、声を落ち着かせながら、リーフは言った。

「もう一度探そう」

 

 ヴァージニア達は進み続け、あらゆる場所を再び確認し、

 ついにはカーテンで仕切った書斎へと辿り着いた。

「この部屋を隅から隅まで捜索したんだ。まさか……」

 しかし、書斎に入らざるを得なかった。

 残された時間がどれだけあるのか知りたくて、

 蝋燭を見たいという衝動に抗う事は誰にもできなかった。

 リーフはこれから何を見るのか覚悟していたが、

 炎が今やどれほど弱まっているかを見て、恐怖の息を呑むのを抑える事はできなかった。

 蝋燭はただの切り株で、固まった滴の塊にほとんど覆い隠されていた。

 長くは持たないだろう。

「これ以上続ける事はできないわ。ガラスのドアを壊してダイヤモンドを奪って!」

「ダメだ、何があってもパズルを解かないと!」

 リーフは絶望的に首を振った。

 これはとんでもない間違いになるだろうと、リーフは分かっていた。

 しかし、他に選択肢はなかった。

 明らかに、無駄にする時間も、宮殿を再び捜索する時間も、考える時間もない。

 ジャスミンは部屋の中を走り回り、ガラスを割るのに使える何か重いものを探していた。

 他に良いものが見つからなかったので、ジャスミンは低いテーブルから本を払い落とし、

 ドアに向かって引きずり始めた。

「ダメだ!」

「リーフ、分からないの? どうしたの?

 古い本に書いてある警告なんか気にしていてももう遅いわ! ダイヤモンドは手に入らない。

 番人が書いた、見えざる者の文字についての謎めいた話が、私達を負かした。

 これしか道はないわ!」

「おやめなさい、ジャスミン!」

 ジャスミンは再び振り返り、テーブルを持ち上げ続けた。

 少し躊躇った後、バルダはジャスミンのところに歩み寄った。

 ジャスミンを押しのけ、テーブルを絨毯から持ち上げ、ガラス戸まで運んだ。

 リーフはバルダに飛びかかり、腕を強く引っ張った。

 しかしバルダの力には到底勝てなかった。

 バルダは容赦なくリーフを振り落とし、地面に転がり落ちた。

「下がれ。ガラスが割れるぞ。目を覆え」

 リーフは頭がくらくらして膝をついた。

 バルダは既にテーブルを後ろに揺らし、体勢を立て直し、攻撃の準備を整えていた。

 リーフは頭を下げた。

 花や果物、鳥が描いてある絨毯は、バルダの手の中で柔らかく感じた。

 ヴァージニア達は厳粛な面持ちでバルダを見上げていた。

 床に描かれていたのは、点でできた文字だった。

 ヴァージニアはじっと見つめた。

「見えざる者の文字ですわ! バルダさん、止まって!

 見えざる者の文字ですわ! 見つけましたわ!」

 バルダがゆっくりとテーブルを下ろし、

 ジャスミンが苛立ちと怒りに震えながら足を踏み鳴らす中、

 ヴァージニアは必死に絨毯を指差した。

「ずっとここにいたんですの!

 テーブルの下、わたくし達の足元にいたから、ほとんど気づきませんわ。

 でも、今ならよく分かりますわ!」

 この時、リーフ、バルダ、ジャスミンはヴァージニアの傍にいて、絨毯をじっと見つめていた。

 ヴァージニアはポケットに押し込んでいた紙をひったくった。

「見えざる者の文字。それが、鍵になりましてよ」

「それって……」

 ジャスミンは肩越しに弱々しい蝋燭の炎を心配そうに見つめながら尋ねた。

 

     ● ●

  ● ●   ●  ●

    ●● ●  ●●

 

「これ、わたくしが見た事がありますわ。

 見えざる者の文字……つまり、点字で答えが書いてありますの。答えは『ボタン』ですわ」

 ヴァージニアは、元の世界でこんな文字を見た事がある。

 点字は、視力を失った人が手で触って読む文字であり、この世界で見るのは初めてだった。

 恐らく、ヴァージニアがこの世界に来てから、番人が新しいパズルを考えたのだろう。

 そしてようやく、全ての文字が揃った。

 

「ワボダボ? ワボダボって言うのかしら?」

 ジャスミンは後ろのソファに倒れ込んだ。

 安堵の静寂が訪れた。

 リーフは突然、昨夜まで空気を満たしていた柔らかな音楽が再び始まった事に気づいた。

 きっと番人が目覚めたのだろう。

 リーフは蝋燭に目をやった。

 芯は溶けた蝋の海に浮かびながら、不安定に揺らめいていた。

 炎は今にも消えそうだったが、今はそんな事は問題ではない。

 絨毯の上にいたヴァージニア達が悲しげな目でリーフを見上げると、リーフはこう言った。

「違う。『最初の一文字 終わりが始まり』。つまり最後の文字を繋げて読むんだ。

 名前はワボダボじゃない。その名前――番人の名前――は、エンドンだ」




原作での間違い探しは、この小説では使えないのでアレンジしました。
ヴァージニアは異世界人ですし、こういうのがいいのかなぁと考えました。
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