ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

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せっかく某リワードサイトの引換が復活したのに交換できなくて、
アホ過ぎて呆れます、あのク×運営。
それはそれとして、ガブリ草で大怪我を負ったバルダはどうなるでしょうか?


第53話 ベタクサ村へ

 隊商は揺れた。

 手綱の鈴がチリンチリンと鳴った。

 しかし、ルーカスは歌っていなかった。

 薄暗い中で、ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミンはバルダを間に挟んで座り、

 負傷したバルダを激しい揺れから守ろうとしていた。

 ルーカスがヴァージニア達を探しに来るまで、

 小屋の火の傍で一時間、悲惨な時間を過ごしていた。

 リーフは身震いした。

 ルーカスが骸骨を見てメモを読んだ時の事を思い出し、そう思った。

 しばらくすると、ルーカスの顔が曇り、顔がむせ始めた。

 突然、ルーカスは目をぎゅっと閉じ、唇を噛み締めた。

「嫌だ! 嫌だ!」

 リーフはルーカスが背を向け、石壁を拳で叩いているのを聞いた。

 ルーカスがスカールと格闘し、凶暴な兄を抑え込もうとしているのだとリーフは悟った。

 しばらくして、戦いは終わった。

 ルーカスは疲れ果てながらも、落ち着いた表情でヴァージニア達の方を振り返った。

「変えられないものは耐えなければなりません。今は生きている人達のために頑張りましょう」

「あなた、ガブリ草の事を知ってたの? バルダは生き残れる?」

 ルーカスは唇を噛みしめ、躊躇った。

「『ベタクサ村』なら暖かくて快適だろう」

 ルーカスは屈み込み、まるで大男が子供であるかのように軽々とバルダを抱き上げた。

 そして振り返る事なく、小屋から出て行った。

 ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミンはルーカスの後を追ったが、

 ルーカスが質問に答えていない事をよく分かっていた。

 四人は木々の間を沈黙のうちに歩き、飛び石の始まる場所まで行き、

 そこからガブリ草の生息地をゆっくりと横切って戻った。

 前方に隊商が一台だけ停まっており、馬がその脇で待っていた。

 道を塞いでいた木々は切り倒されていた。

 炊事用の火、食料、そしてゴミは、まるで強風に吹き飛ばされたかのように散らばっていた。

 影の憲兵団の面影は、血まみれの灰色の布切れが、

 そこかしこに散らばっている以外、何も残っていなかった。

 リーフは身の毛もよだつ思いで、

 スカールが犠牲者の遺体を処分するのに最も簡単な方法を選んだ事に気づいた。

 道に一番近いガブリ草は、満幅のようだった。

 

 数時間後、ヴァージニア達は忌まわしい臭いに気づき始めた。

 腐敗の悪臭が隊商に染み込み、静かで埃っぽい空気を覆い尽くした。

 ジャスミンは嫌悪感に鼻をひそめた。

「何なの?」

 リーフとワソは肩を竦め、

 荒れた地面を走っているかのように激しく揺れる隊商の体勢を立て直した。

 二人はバルダを見下ろした。

 バルダの脚と腕を巻く粗末な包帯は血に染まっていた。

 彼は少し水を飲み、女王蜂の蜂蜜を口に塗ると、唇から舐めた。

 しかし、目を開ける事も、口を開く事もなかった。

 蜂蜜とヴァージニアの奇跡のおかげでバルダは生きている、

 とリーフは思ったが、それも長くはないだろう。

 バルダをきちんと手当てするために。

 傷を洗い、新しい包帯を巻くために。

 そして――リーフは無理矢理考えてみた――もしバルダが死ななければならないとしても、

 この冷たく、震え、臭い隊商ではなく、暖かいソファで、安らかに、心地よく死ねるように。

 

 まさにその時、驚いた事に隊商は止まった。

 後部ドアが勢いよく開き、ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミンは外へ飛び出した。

 雨は止んだ。

 太陽は沈み、空は鈍いオレンジ色の光で満たされ、奇妙で恐ろしい光景を照らしていた。

 隊商は巨大なゴミ捨て場の真ん中にあった。

 四方八方に、ぼろ布、骨、壊れた家具、家庭用品、ねじれた金属、

 腐った食べ物の残骸など、巨大で悪臭を放つ山が積み重なっていた。

 山の中では、ぼろぼろの服を着てみすぼらしい人々が、

 身を屈め、足を引きずりながら、ゴミを漁っていた。

 リーフは怒りに震えながらルーカスの方に振り返った。

「どうしてこんなところに連れてきたんだ?」

「バルダをベタクサ村で休ませるためだと思うけど……」

 ルーカスは一言も発する事なく、隊商が止まった場所のすぐ脇に立つ看板を指差した。

 リーフが何か言う前に、ぼろぼろの服を着た清掃人の一人が、棒に重く寄りかかりながら、

 よろよろとヴァージニア達の方へ近づいてきた。

 片目には黒い目隠しがあり、口と鼻にはスカーフを巻いていた。

 塚の悪臭から身を守るためだろう。

 清掃人は身を乗り出し、片方の目でヴァージニア達を嫌らしい目で見ていた。

「ここで何を探しているんだい?」

「デルの残骸の中で?」

 リーフとジャスミンは何と言えばいいのか分からず、躊躇った。

「あの、私達は、この人を休ませるために歩いているんです」

「じゃあ、一緒に来てくれ。ベタクサ村は誰でも歓迎だ」

 清掃人はよろよろと歩き出し、長年の訓練で培った軽快さで塚の間を縫うように進んだ。

 他に何をすればいいのか分からず、ヴァージニア達も後を追った。

 ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミンは徒歩で、ルーカスは馬で慎重に迷路の中に進んだ。

 歩いていると、木片、ブリキ、布切れで作った、みすぼらしい小屋がいくつも通り過ぎた。

 人々は小屋の外にしゃがみ込み、その日の収穫物を選り分けたり、

 料理用の火をおこしたりしていた。

 見知らぬ人達にニヤリと笑みを浮かべる者もいれば、頭を上げる事さえしない者もいた。

 大きな塚の一つの奥には、もっとしっかりした小屋が建っていた。

 ゴミ拾いの男が手招きすると、ヴァージニア達はルーカスを振り返り、

 ルーカスの後について中に入った。

 そこで、ヴァージニア達は驚きの光景を目にした。

 薄いブリキと板の層の下に、頑丈な建物があった。

 入口以外は塚の奥深くに埋もれていたため、外から見たよりも遥かに広かった。

 建物は広いだけでなく、清潔で整然としており、

 壁の周りにはたくさんの担架がきちんと並べられ、

 それぞれの上には折りたたまれた毛布がかかり、その下には家財道具が積み重なっていた。

 ゴミ拾いの男はヴァージニア達の方を向き、背筋を伸ばし、眼帯とスカーフを放り投げた。

「ジョーカー!」

「俺の事を知らなかったのか? それはいい事だ。

 レジスタンスの拠点がゴミ捨て場にあるとは思わなかっただろう。

 だが、隠れるにはこれ以上の場所があるだろうか?

 誰も自らここに来る者はいない――影の憲兵団でさえも。

 それに、誰が哀れなゴミ拾いを気にかけるというんだ?

 ここに来る途中で見た奴の中には、

 本当のゴミ拾いもいる――デルから来た哀れな魂――家を失った奴らだ。

 他にも大勢、俺達の仲間がいる。

 グロック、ファーディープ、ゼアンでさえ、他の皆と一緒にどこかにいる。

 デインは水を汲みに出かけている」

 リーフはゆっくりと頷き、その言葉に納得した。

 つまり、ここでも何もかもが見た目通りではないのだ、とデインは思った。

「ジョーカー、バルダがガブリ草に襲われて大怪我をしちゃったんだ。それに……」

「残念な知らせがあるよ」

 リーフはポケットを探り、エンドンのくしゃくしゃになったメモを取り出した。

 ジョーカーの瞳は、まるでこれから何が起こるか分かっているかのように暗くなった。

 しかし、ジョーカーはメモを受け取らず、代わりに、再び素早くドアの方を向いた。

「いや、バルダの手当てが終わったら、その話はもう十分だ。

 バルダを連れて来い。できる限りの事をする」

 

 その後、ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミンはバルダのベッドの傍に座った。

 傷を綺麗に洗い、包帯を巻き、バルダはようやく眠りについた。

 出血は止まっており、ヴァージニア達はグロックに感謝せざるを得なかった。

「包帯や並の奇跡じゃ治らないぞ」

 グロックはリーフの手首を掴んで調べながら呟いた。

「ガブリ草は出血毒みたいなのを入れるんだ」

 グロックは自分の担架のところへ行き、その下をかき回してから、

 灰色のペーストが入った汚れた瓶を持って戻ってきた。

「これを刺されたところに塗れ」

「何なの?」

 ジャスミンはペーストの匂いを怪しそうに嗅ぎながら尋ねた。

「俺が知るわけねぇだろ? 作った奴らはとっくに死んでる。

 でも、昔はジャリス族ではいつも使っていたんだ――

 ガブリ草の野原に迷い込んだバカな奴やガキに」

 ジャスミンは怒りを抑え、バルダの方を向いた。

「無駄な金を使うな。奴はもう終わりだ」

「終わり……?」

 ジャスミンは返事をしなかった。

 ヴァージニアは不安げな表情になる。

 ジャスミンは既にバルダの手入れ済みの傷口にペーストを塗りつけていた。

 グロックは嫌悪感に唾を吐き、重々しく立ち去った。

 今や、グロックの姿はどこにも見えなかった。

 リーフは疲れたように顔を上げた。

 ゼアン、ファーディープ、そしてジョーカーが、

 そう遠くないところに一緒に立っていて、ルーカスも隣にいた。

 彼らは頭を下げ、真剣な表情でエンドンのメモを読んでいた。

「それで」

 リーフはジョーカーが重々しく言うのを聞いた。

「これで終わりだ」

 彼らは顔を上げ、ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミンが見ているのに気づき、

 彼らのところに近づいた。

 ジョーカーはメモをリーフに返した。

「グノメ族とララド族は、旅の終わりだったと気づくだろう。旅は全て無駄だった」

 ゼアンの顔は悲しみに曇っていた。

「本当に辛いです。私には――そんな希望があったのに」

「もしそれが偽りの希望なら、打ち砕かれるのはいい事だ」

 かつての苦々しい声がジョーカーの声に戻っていた。

「もうすぐ皆、元の場所に戻る。そして、一歩一歩、知っている事を伝えていく。

 そうすれば、他の愚か者が、無駄な事に命を危険に晒すような誘惑に駆られる事はなくなる」

 その時、リーフの横で何か音がした。

 リーフは下を向き、心臓がドキドキと音を立てた。

 バルダが目を開けて、身動きしていた。

「どうした……?」

「何でもないよ。さあ、休んで」

 ワソはバルダの額を撫でた。

 しかし、バルダは苛立たしげに頭を動かし、リーフの手にあるメモに目を留めた。

「それは何だ? 見せてくれ!」

 リーフはバルダの事をよく知っていたので、断るなんて考えられなかった。

 仕方なく、リーフはバルダに見えるようにメモを差し出し、それが見つかった経緯を説明した。

 バルダはその恐ろしい言葉に目を瞬かせた。

 そして、リーフが驚いた事に、バルダは微笑んだ。

「それで……これが君を悩ませているのか?」

 リーフとジャスミンは不安げに顔を見合わせた。

 ヴァージニアとワソも、不安そうな表情をしている。

 バルダの心は彷徨っていた。

 ワソは再びベッドに覆いかぶさった。

「寝て。あなた、弱っているよ」

「俺は弱いのかもしれない。でも、嘘を見ればそれが分かるほど弱くはない」

 バルダは疲れたように、驚いた顔の輪を見上げ、再び微笑んだ。

「このメモは巧妙なでっち上げだ」

「でっち上げ? どうしてバルダに分かるの?」

 ワソが疑問を言うと、バルダは小声でこう言った。

「文字はトーラで見たメモとよく似ている。だが、この言葉を書いたのはエンドンじゃない」

「だったらどうして……」

 ワソが質問しようとすると、物音に気を取られ、バルダの声は震えた。

 リーフは慌てて振り返ると、ドアから急いでこちらに向かってくるデインに気づいた。

 デインは疑問に目を丸くしていた。

 しかし、デインが口を開く前に、ジョーカーは眉をひそめ、指を唇に当てた。

 リーフはベッドの方を向いた。

「バルダ、このメモがエンドンが書いてないってどうして言えるの?」

「あなた、わたくしと同じで、エンドンを知らないんですのね」

「そうかもしれないな。でも、ジャードはそう言った。

 ジャードは何度もエンドンの酷い罪悪感について俺に話してくれた。

 デルトラを失望させた事を悟ったエンドンの苦悩を語る時、エンドン自身も涙を流した。

 ところが、デルトラからの脱出後、

 間もなく書かれたエンドンの最後のメッセージとされるこの手紙には、

 そんな言葉は一言も書かれていない」

「その通りだ」

 リーフは悪夢からゆっくりと目覚めつつあるのを感じた。

「エンドン自身と家族以外への謝罪や悲しみの言葉は一言も書いていない。

 こんなはずはない。あのメモ、あの骸骨は、影の大王が仕掛けた罠だったんだ!

 だからこそ、憲兵団はあそこにいたんだ。この小屋に連れて行くために」

「わたくし達を呼んだ時といい、影の大王はたくさんの罠を張ってますわね」

 まるで、どこぞのトラップマスターみたいですわ、とヴァージニアは付け足した。

 複数の罠を多彩に組み合わせ、本命の罠に誘う誘導ももちろん、

 やたらと乱発せず、忘れた頃に罠を仕掛けるのが影の大王のやり方なのだ。

「でも……」

 ジャスミンと同じく、ジョーカーも明らかに納得していなかった。

 バルダは落ち着きなく頭を振った。

「伝言の底にある印章を見ろ。そこにはあるはずがない。

 トーラの書簡には王家の印章がなかった。どうしてだ?

 エンドンが逃げた時、印章の指輪を持っていなかったからだ。

 そんなはずはない。

 印章は常にプランディンが保管し、伝言に署名が必要な時だけ持ち出してあった」

「どうして知ってるの?」

「俺の母はジャードとエンドンの乳母、ミン。

 お喋り好きで、宮廷の出来事についてたくさん話してくれた。

 正直に言うと、俺は半分しか聞いていなかった。

 でも、影の大王が思っている以上に多くの事を学んでいたようだ」

「本当にありがたい事をしてくれたのう。

 お主がいなければ、わしらは全ての希望を捨てていたじゃろう」

 ファーディープは目を丸くして息を吐いた。

「つまり、俺は何かの目的があって生き延びたんだな。でも、今は疲れている」

 バルダはかすかな笑みを浮かべながら言った後、目を閉じた。

 ジャスミンは鋭く息を吸い込み、バルダの胸に耳を押し当てた。

 背筋を伸ばしてみると、ジャスミンの顔は真っ青だった。

「どうしましたの?」

「バルダはただ眠っているだけよ。でも、心臓はかすかに動いている。

 私達から逃げ去ってしまうんじゃないかと思うの」

 ジャスミンは何も考えずにリーフに手を差し出し、リーフはそれを握りしめた。

 流石のジャスミンも、重傷を負ったバルダに涙しそうになった。

 ルーカスはバルダの腕に触れた。

「悲しむのはやめなさい、友よ。バルダはとても強い戦士だ。簡単には諦めない。

 それに、女王蜂とそこの修道女はこれまでにも奇跡を起こしてきたのだから」

「そこの、という言い方は失礼ですわね」

 ヴァージニアはルーカスを睨んだ。

 リーフはジャスミンの手が勝手に握り締めるのを感じた。

 その時、リーフの隣で突然何かが動いた。

 周りを見回すと、デインがベッドまで押し寄せ、リーフの傍らに跪いていた。

 デインの目は潤んでいたが、顔には決意が宿っていた。

「バルダを死なせちゃいけない。丁寧に手当てすれば、きっと回復する」

 ジャスミンはデインを見つめ、感謝の気持ちで顔を輝かせていた。

 しかし、リーフは今回は嫉妬の念を抱かなかった。

 バルダを救うには、あらゆる希望と助けが必要だった。

 

 その夜、そしてまた別の日が、夢の中で過ぎていった。

 ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミン、そしてデインは交代でバルダを見守り、

 蜂蜜、水、そしてスープをスプーンですくうように促した。

 バルダは時折少し元気を取り戻し、起き上がり、言葉を発するようになった。

 しかし、すぐにまた衰弱が訪れ、やがてかつてないほど悪化するだろう。

 徐々に衰弱していくかのようで、発作の頻度も減っていった。

(バルダは死にかけている。何とかしなくちゃ……)

 リーフは心の中でそう自分に言い聞かせた。

 希望を捨てる事ができなかった。

 デインは頼れる存在で、ベッドで交代する時間がどんどん長くなり、バルダを労っていた。

 日が沈む頃、リーフはベッドから立ち上がり、デインに場所を譲った途端、

 外から甲高い叫び声が聞こえた。

「何ですの!?」

「アクババだ! 気をつけろ!」

 突然、人々がドアから小屋に流れ込み、辺りは大混乱に陥った。

 リーフは慌てて辺りを見回した。

 しかし、ジャスミンはゼアンとファーディープと一緒に水を汲みに行った。

 リーフは戸口の人混みをかき分け、外へ駆け出した。

 ヴァージニアは急いでリーフを追いかけた。

 すぐに、探していた三人の姿が見えた。

 三人は水がたっぷり入ったバケツを持って立ち、夕日から迫りくる暗い影を見上げていた。

「ジャスミン! 逃げろ!」

 しかし驚いた事に、ジャスミンはただ振り返り、疲れたように微笑んだ。

 リーフはもう一度見上げ、その影が何なのかに気づいた。

 アクババではなく、キンのエルザだった。

 エルザは揺らめくカラスの群れに囲まれていた。

 沼地の上空に飛来すると、鳥達は急降下し、エルザは地面に降り始めた。

 エルザの袋の中の小さな人影が激しく手を振っていた。

 リーフはグラ・ソンだろうと推測し、空を見上げて手を振り返していた。

 機転が利き、口の悪いグラ・ソンだ。

 リーフはグラ・ソンの逞しい体格と、縮れた茶色の髪に見覚えがあった。

 グラ・ソン以外に、誰がキンに頼んで会合まで急いで飛んで行かせようと考えただろうか。

 ファ・グリンはキンと和解する事に同意したかもしれない。

 しかしリーフは、ファ・グリンがキンと同乗する事に同意するとは思えなかった。

 今や七部族のうち六部族がここにいる、

 とリーフはヴァージニアとジャスミンと共に新参者を出迎えながら思った。

 この到着の後には祝賀会と盛大な会話が続くだろう、とリーフは分かっていた。

 リーフはグラ・ソンに全てを説明するのを楽しみにしていた。

 エルザに再会できて大喜びだった。

 しかし、バルダを失う恐怖が雲のようにリーフの頭上に覆いかぶさり、

 あらゆる思考、あらゆる感情を曇らせていた。

 

 数日後、リーフはバルダのベッドの横に座り、うとうとしていた。

 その時、肩に軽い感触があった。

 驚いて振り返ると、しわくちゃの青灰色の顔に、

 二つの厳粛な黒いボタンのような目が映っていた。

「マナス!」

 リーフは叫び、飛び上がってかがみ込み、ララド族の男に腕を回した。

「ああ、マナス! 来てくれたんだな!」

「もちろんだ」

 マナスはジャスミンと共に後ろに立っている、金色のたてがみの男の方を向いた。

「ドール族の長、我らが友人ナニオンのおかげで、こんなに早く到着できたんだ。

 ナニオンは馬の扱いが上手だけど、私にはできない。足が鐙に届かないんだ!

 でも、本当に辛い旅だったよ。死ぬほど怖くて、頭からつま先まで痣だらけだったよ!」

 ナニオンは笑った。

「荒れた土地で蜂の大群を追うのは、決して楽な仕事じゃない。

 そして、このララド族は旅の初めから終わりまで文句ばかり言っていた。

 やっとここに来て、あの小言から解放されてほっとしたよ」

 しかし、話すナニオンの目は温かみに満ちていた。

 ナニオンとマナスは良い友人になっていた。

「どうして馬を飼うようになったの?」

「しかも、こんなに立派な馬を!」

 ナニオンは肩を竦めた。

「ある店主が貸してくれたんだ。

 持ち主が馬を探しに来た時に、ちゃんと説明してくれるといいんだけどね」

「きっとそうだろうな」

 ジョーカーは冷淡に言い、彼らの後ろをぶらぶらと歩いていった。

「ちゃんと説明してくれるのはトムの得意技だ。それで、ついに味方を決めたんだな?」

「そうでもないと思うよ。雷は同じ場所に二度落ちないってナニオンに警告したんだ。

 つまり、もう彼には頼みごとはしないって事か」

「でも、彼はもう既に我々に一つ善行を施した事を忘れていたようだ。

 私が彼に会う少し前に、彼は私の部下二人に知らせを伝えていた。

 影の憲兵団は西へ向かうよう命じられた。戦闘が予想される」

「本当か?」

 ジョーカーはナニオンを脇に引き寄せ、

 マナスとヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミンを置いた。

 

「これは悲しい事だ。どうする事もできないのか?」

 マナスはベッドにじっと横たわるバルダを見下ろしながら呟いた。

「日の出からずっと動いていない。そう思うんだが、そう長くは続かないだろう」

「わたくしが奇跡を使ったんですもの。絶対に治りましてよ」

「それなら、あの時、来てよかった。

 彼にまた会えた事は、私にとって大きな意味がある。彼は心の広い人だ」

 マナスは顔を上げ、リーフの目をまっすぐに見つめた。

「彼の命は無駄ではなかった。君達は、本物の奇跡を起こしたんだ」

「でも、世継ぎはまだ見つかっていませんのよ?」

「私達がここにいるのは、そのためではないのですか?

 月が昇っています。七つの部族が再び合流する時が来ました。世継ぎを呼ぶ時が来たのです」




次回、いよいよ七部族が集結します。
デルトラ王国の世継ぎは、どこにいるのでしょうか?

あと、ヴァージニアとワソは帰るために冒険してますからね。
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