といっても、ある人物だけは気づいていたようですが……。
とにかく、衝撃の展開なので、目を離さないでください。
またしても、息苦しく、震える1時間。
ルーカスの声が、優しく歌いながら、自分が見ているものを語っていた。
隊商が減速し、城門を通過する荷馬車の列に加わるまでの、恐ろしく緊張した数分間。
影の憲兵団の叫び声。
そして突然、耳に痛いほど聞き覚えのあるデルの声が聞こえた。
車輪、ベル、人々の叫び声、押し合い、
雑然とした石畳の道をゆっくりと轟音を立てて進む隊商の側面にぶつかる音。
そしてついに……静寂。
腐った野菜の臭い。
隊商の後部へとゆっくりと近づく足音。
掛け金がカチッと鳴る音。
ドアが少し開く。
ルーカスの顔は緊張し、中を覗き込んでいる。
背後の空は薄暗いオレンジ色の光に照らされている。
ルーカスは隊商に乗り込み、ドアを後ろでしっかりと閉じた。
「静かそうですね」
「通りには誰もいませんし、影の憲兵団もいませんわ」
「じゃあ、みんなどこにいるの?」
ジャスミンは自分の首に顔を擦り付けながら、すすり泣いているフィリに両手を差し出した。
「デルは広い場所だ」
バルダは唸り声を上げた。
「もしかしたら城壁を守っているのかもしれない。城の周囲にいるのかもしれない……」
「あるいは城壁の外、木立の中で私達を待っているのかもしれません!」
ルーカスの言葉にリーフは身震いした。
それは、彼らの中にスパイがいるという事を意味する。
つまり、仲間達が今、まさに罠にかかっているという事だ。
リーフは口を開きかけたが、バルダはリーフの手を押さえた。
「もしそうだとしたら、ベルトがここで安全である事に安堵するしかない。
だが、仲間達は無防備にはならない。
もし街から脱出できれば、ルーカスは今すぐ会合場所に向かうだろう」
「いずれにせよ脱出します」
ルーカスは厳しい口調で言った。
「そして会合に出席します説明するために――あるいは、仕返しをするために」
ルーカスはバルダの手を握り、それからリーフの手を握り、
次にヴァージニアとワソの手を握り、そしてジャスミンの手を握った。
「幸運を。またすぐに会えますように」
ヴァージニア達は静かに荷馬車から降りた。
山積みになった野菜くずを齧るネズミ達が甲高い音を立て、足元に散らばっていた。
ルーカスは、しおれた緑の葉を齧っている老馬を軽く叩いた。
「待ってください」
馬は頷き、小さく鼻を鳴らした。
ボロボロの荷馬車の群れをかき分け、ヴァージニア達は小さな庭の端まで忍び寄った。
しかし、市場広場に入る前に、突然の騒ぎが起こった。
ドアがガチャンと開いた。
荒々しい声と重いブーツの音が、夜空に響き渡った。
たくさんの松明の明かりが暗闇を照らした。
ヴァージニア達は慌てて庭の影へと退いた。
音はますます大きくなっていた。
ガチャンという音、唸り声、石が砕ける音。
(一体何が起こっているんだ?)
最早好奇心を抑えきれず、リーフは角を慎重に覗き込んだ。
至るところで松明が燃え盛っていた。
広場の中央では、10人の影の憲兵団が作業していた。
影の憲兵団は巨大な石材を積み上げ、平らな頂上を持つ階段状のピラミッドを作り上げていた。
ピラミッドの中央からは、高くそびえ立つ柱が突き出ており、周囲の石材が支えていた。
「あの怪物はどこだ?」
「イカボッドは城で餌をやっている。すぐに降りてきて、もっと食うだろう。
肉は焼いた方がいいらしいぞ」
耳障りな笑い声が響き渡った。
リーフの肌がゾクゾクし始めた。
「上がれ、6号!」
「他の連中を連れて来る時に準備が出来ていないと、大変な事になるぞ」
6号は影の中へと大股で歩いて行き、ぼろ布の束らしきものを抱えて戻ってきた。
「それで、奴らは捕まえたのか、1号?」
ピラミッドの頂上に登りながら、1号が叫んだ。
1号は縄と油壺を手に持っていた。
「簡単だ。奴らがいつ、どこにいるか、正確に分かっていただろう?」
1号は柱に向かって階段を上って、その束を持ち上げていた。
「奴らは先にあいつを捕まえたから、あいつは魔法を使う事はできなかった。
その後はそれほど酷くはなかった。大きくて醜い奴は少し時間がかかった。
それに、グノメ族がちょっと厄介だったらしい。一人で四匹を倒したらしいが……な」
リーフの心臓は止まったようだった。
背後でヴァージニア達の荒い息遣いが聞こえたが、振り返らなかった。
恐怖で体が硬直したリーフは、
1号が束を柱に立てかけ、6号がそれを縛り始めるのを見守っていた。
それはデインだった。
絹のような髪が前に垂れ下がり、青白い顔の脇腹が松明の光に揺らめき、見え隠れしていた。
リーフが見守る中、リーフはゆっくりと頭を上げた。
恐怖で目が開き、大きく見開いた。
リーフの背後から、重苦しい息遣いと、荒々しい動きが聞こえた。
「駄目だ! スカール! 影の憲兵団がデインの近くにいる間は駄目だ。
奴らは短剣と火ぶくれ弾を持っている……今、攻撃すれば、すぐに殺してしまう。
待ってくれ、頼む!」
一瞬の抵抗があった。
それから息遣いが和らぎ、動きが止まった。
「やっと目覚めたか? よかったな」
1号が手招きすると、影の憲兵団は枯れ枝を腕いっぱいに抱え、デインに近づき始めた。
影の憲兵団がデインの足元に薪を積み上げ、高く積み上げると、6号は油を振りかけた。
「これで熱くなるだろう」
6号はくすくす笑った。
それから顔を上げて、松明の明かりをじっと見つめた。
「他の連中も一緒に来るぞ。パーティーはいつ始まってもおかしくない。
誰かがファローを連れてこい。3号、行け」
「来ないぞ」
「西で五人を目撃したという話を聞いて以来、心配しなくなったんだ。
緑のライトをつけてあの部屋に閉じ込めている。ドアの下から見えるだろう。それに奴は……」
「きっと来るぞ。見逃したら大変な事になるぞ。さあ、行け!」
3号がぶつぶつと呟きながら去っていくと、
城門に一番近い広場の脇から、足を引きずるような、カチャカチャとした音が聞こえてきた。
次の瞬間、よろめきながら歩く人影が視界に入った。
影の憲兵団に引きずられている者もいれば、重い鎖で足を縛られ、一人で歩いている者もいた。
リーフは顔を見渡した。
グラ・ソンがいた。
髪は血で濡れ、つやつやとしており、左腕は役立たずのように脇に垂れ下がっていた。
恐怖に震えるマナスが次に続いた。
その後ろでは、ファーディープとナニオンが、
二人の間に力なくぶら下がっているゼアンを支えていた。
そして、最後の影の憲兵団の後ろに腹ばいになって引きずられ、
石畳の上をドスンと音を立てながら進むゼアン。
手首からは血が溢れ、鎖が肉に深く食い込み、張り詰めていた。
それは……グロックだった。
行方不明者はたった一人だった。
「これで分かった」
バルダが呟いた。
ルーカスの巨体が全身を震わせ始めた。
リーフは恐怖に震えながらバルダを一瞥した。
ルーカスの目はデインに釘付けだった。
黄色から茶色、茶色から黄色へと変化していた。
口元は引きつり、肉体は震えながら、スカールと覇権を争っていた。
「俺が合図したら、リーフはあいつのところへ走れ。
お前達全員、リーフを全力で守れ。残りは俺達がやる!」
リーフは恐ろしい、身悶えする顔から目を離し、再び辺りを見回した。
ヴァージニアとワソも、リーフの傍らに立った。
今やデインの傍らには、1号と6号だけが立っていた。
しかし、二人ともまだ短剣を抜いていた。
リーフはデインの短剣に手を伸ばしたが、指先が痺れた。
生きてデインの元に辿り着けたら、その短剣で縄を切ろうとした。
「あれ?」
しかし、短剣はもうなくなっていた。
リーフは下を向き、間抜けな瞬きをした。
短剣はベルトから誰にも気づかれずに落ちたに違いない。
恐らくデルへの道で隊商に乗り込む時だろう。
どういうわけか、この小さな喪失が、自分の大きな失敗の象徴のように思えた。
リーフは隣で硬直したジャスミンを一瞥した。
ジャスミンの目は細く、真剣そのものだった。
唇は固く結んであった。
ジャスミンの背後には、バルダがそびえ立っていた。
バルダは剣を抜いていた。
顔にはまだ病の跡が残っていたが、眉間には決意のしわが刻まれていた。
リーフは身震いした。
弱気になっている場合ではない。
ピラミッドの方を向き、自らの剣を抜いた。
父親がリーフのために作った剣。
これもまた、縄を切り、世継ぎを解放する事ができる。
まさに相応しい剣だった。
鎖に繋がれた一団が壇の前で立ち止まると、1号は冷酷に笑った。
「珍しいご馳走が待っているぞ。死ぬ前に、偉大な出来事を目撃する事になるぞ」
3号が慌てて視界に入ってくると、3号は苛立ちながら下を向いた。
「ファローはどこだ?」
「ドアを開けてくれなかった!」
「言っただろ!」
「じゃあ、奴抜きで始めるぞ! 影の大王様が来たら、その報いを受ける事になるがな!」
6号に首を振り上げると、6号は地面に飛び降り、松明を掴み取って3号に差し出した。
囚人達は鎖に繋がれたまま、恐怖に怯えながら必死にもがき苦しんでいた。
デインは柱にもたれかかり、目を閉じた。
リーフは身構えた。
「さあ、裏切り者どもめ!」
1号は松明を掲げながら唸り声を上げた。
「お前達のちっぽけな王が、燃え盛る炎の中で命乞いをするのを見てやろうじゃないか」
1号は松明を木に当て、炎が燃え上がり始めると安全な場所へと飛び降りた。
「今だ!」
叫び声が広場に響き渡った。
一人の声ではなく、二人の声だった。
そして、その二人はまるで雷鳴のようだった。
リーフは風のように走り、掴みかかる手や、飛んでくる火ぶくれ弾をことごとく避けた。
彼は後ろを振り返らなかった。
叫び声、怒りの唸り声、恐怖の叫び声で終わる命令の叫び声は、ほとんど聞こえなかった。
ワソ、ヴァージニア、ジャスミン、バルダはリーフの両側にいたが、
リーフの歩調についていく事ができなかった。
それでもヴァージニアとワソは、何とか走り出した。
数秒のうちにリーフ、ヴァージニア、ワソは処刑台に辿り着いた。
リーフは一人で頂上まで飛び上がり、
デインを縛っていた縄を切り裂き、炎の中からぐったりとしたデインの体を引き上げた。
煙に目を走らせながら、リーフはデインを処刑台のさらに下へと振り下ろし、放した。
デインはよろめきながらも自分の足で立ち上がった。
リーフはデルトラのベルトの留め具に掴みかかった。
ついに留め具が外れ、腰からベルトを引き抜いた時、ヴァージニアがリーフを止めた。
「待ちなさい、リーフ! あいつにベルトを渡しちゃいけませんわ!」
「デインが世継ぎじゃなかったのか?」
「リーフ! デインは……デインは……!」
その時、大きな衝突音と轟音が響き、リーフ、ヴァージニア、ワソは振り返った。
ジャスミンとバルダは広場にぽっかりと開いた穴の縁でよろめきながら立っていた。
周囲には燃え盛る松明が散らばっていた。
ルーカス、スカール、そして多くの影の憲兵団が姿を消していた。
影の憲兵団の叫び声が一瞬、夜空に響き渡り、そしてかき消された。
スカールが牢獄の壁に向かって怒りをぶちまけると、地面が揺れた。
隊商が停まっている小さな庭から、ネズミ達が群れをなして飛び出してきた。
ネズミ達は走りながら、煌めき、青白く輝き、揺らめく白い炎へと昇っていった。
目には炭が、口には歯のない大きな口が開いていた。
そして、ネズミ達の心臓には、影の大王の印があった――つまり、オルだ。
リーフはベルトをぶら下げたままデインの方へと振り返った。
恐怖と混乱で頭が真っ白になった。
どうやら、影の大王が罠を仕掛けていたらしい。
バルダとルーカスの計画を知る者は誰もいなかったはずなのに……。
そして、リーフはデインのベルトに差した短剣を見た。
鞘から抜いた短剣は、炎の激しい光に包まれ、先端は銀色に輝いていた。
リーフ、ヴァージニア、ワソは視線を逸らし、デインの暗い瞳を見上げた。
そして、ついに覆いが剥がれたその瞳の中に、三人は全ての疑問への答えを見た。
「残念だったな。この姿に戻った時に短剣を脇に置いておくべきだった。
お前のせいで、オレの計画は失敗しそうだったよ」
振り下ろされた手はリーフの腕に強烈な一撃を与え、ベルトは炎の中に叩き落とされた。
叫び声を上げてリーフはベルトを掴もうとした。
しかし、デインはリーフの手首を氷のように冷たい鋼鉄で掴んでいた。
デインが目を細めると、リーフの剣は突然白熱していた。
水ぶくれだらけの手から剣は落ち、階段をガタガタと音を立てて転げ落ちた。
「オレは、お前らがどれほど愚かだったか、教えてやりたくてうずうずしていたんだ」
「デイン! どうしたんだ!?」
「ふん、今更気づいたのか。まあいい。アディンのベルトはすぐに溶けて鉄屑になるからな」
「そう……あなたは……」
デインは残った影の憲兵団を指差した。
ヴァージニア達はデインの正体に打ちひしがれ、口をあんぐり開けていた。
「そいつらを城へ連れて行け! 用済みだったんだよ」
「くっ……!」
デインの大きな、死んだような目が煌めいた。
「オレが呼べば影の大王様はいらっしゃるだろう。お前達は他の裏切り者全員を目にするだろう。
そうすれば、オレは影の大王様の最高のしもべとなり、
城の軟弱な奴らには到底できなかったように、この地は影の大王様が支配するするだろう。
そして、お前らは――愛する奴らの中で、悶え苦しみながら死ぬんだよ」
リーフ、ヴァージニア、ワソの表情を見て、デインの口元は軽蔑に歪んだ。
「じゃあ、イカボッドは何をしていましたの!」
「愚か者め。イカボッドがオレの命令で動いているなんて、夢にも思わなかっただろう。
オレをさらったふりをしていたからな。
オレが短剣に化けた時も、お前は一瞬たりとも疑わなかった。
特別なオル――Aオルはどんな姿にも変身できる事を知っていたにも関わらずだ。
お前はそれを自分のベルトにしまった。お前はオレを凄く心配していただろう。
その時からオレをずっと連れて歩いている事など、知る由もなかったな。
オレはお前の一挙手一投足を注視していた。お前の計画を一つ一つ聞き取っていた。
ルーカスとあの呪われたベルトを、どうすれば壊せるか、ずっと見ていた。
そして、もう十分だと悟った時――
オレはお前から離れ、ここに来たんだよ……これを準備するために」
デインは沸き立つ場所に向かって手を振った。
しかし、ヴァージニア達は視線を逸らさなかった。
リーフはデインの背後で動きを見た。
誰かが壇上の階段を這い上がってきて、こちらに向かってくる。
鷹のような顔、青白いみすぼらしい傷跡、絡まった黒髪。
「デイン、君を信じていたんだ。君が世継ぎだと思っていたんだ」
リーフの言葉に、デインは冷笑した。
「それこそが狙いだったんだよ、愚かな人間。それこそがオレが創られた目的だった。
オレは自分の役割を完璧に果たした、そうだろう?」
「……わたくしは、何となく……気づいていましたわ……」
ヴァージニアはこれまでの自分の推理で、デインについて何となく感づいていた。
オルと戦って倒れた時、自分の奇跡を拒んだ事。
「友人を探している」と言った時、急に自分を睨みつけた事。
親がトーラ族のはずなのに尋ねず、それどころか、トーラの街で体調を崩した事。
つまり、デインという存在自体が、邪悪な影の大王の作り物だったのだ。
「わたくしを睨んだのも……ワソと友達なのが……気に食わなかったから……?」
「ああ、そうだ。あいつは影の大王様が自らしもべにした女だ。
そいつが新しい手柄を立てるのが、オレは気に入らなかったんだよ。
まあ、あいつはもうとっくに影の大王様が用済みとみなして捨てたけどな!」
ワソは影の大王が自ら召喚し、洗脳した。
後から来たしもべが自分よりも信頼しているのは、デインにとって非常に屈辱だった。
複雑な感情が混ざったヴァージニアは激怒して、デインにこう言った。
「ふざけないで! ちゃんと真っ向から立ち向かって、ワソを取り戻したんですのよ!!」
「許さない!!」
ワソはデイン目掛けて発砲するが、デインは姿を変えて弾丸を掴み、ワソに向けて投げ捨てた。
「バルダに毒を盛ったのも、お前だな」
「もちろん、奴が弱っている理由は分かっていたはずだ。毒が近づくとアメジストの色が変わる。
だが、エメラルドは解毒剤だ。それが奴を治したんだ」
デインの唇が歪んだ。
「影の大王様と出会った時、きっと後悔するだろう」
「あなたは、王と城の事を知りすぎていたバルダさんを恐れていましたわ。
骸骨が残した偽のメモをいとも簡単に見抜いたバルダさんを毒殺しようとしましたのね」
「それで、影の大王の計画は、一つ潰れた!」
今やデインは息を切らしていた。
歪んだ顔は、リーフが見てきた繊細な少年のそれとは、ほとんど分からなくなっていた。
「影の大王様には多くの計画があったのさ、愚かな人間よ」
デインはしゃがれた声で言った。
「そしてオレは時が来るまでじっと待っていた。
何度もお前らを密告したいと思った事か、お前らが眠っている間に殺したいと思った事か!
だが、それは影の大王様が固く禁じていた。
オレは影の大王様の他の計画が全て失敗した場合にのみ使う、切り札だったんだよ」
「君は一度、影の大王に連絡を取った」
「あなたは、わたくし達の名前を影の大王に教えたんですのね」
すぐに、デインは思い出した痛みに胸を掻きむしった。
「オレは――その事で叱られた。それでオレは自分の計画を立てた。そして今、時が来た!」
何の前触れもなく、デインは頭を後ろに反らせた。
「影の大王様!」
「来ますわ……!」
雷鳴が大地を揺るがした。
北から巨大な赤い雲が空を覆い隠し始めた。
デインは目を輝かせてリーフ、ヴァージニア、ワソに向き合った。
「あれが……影の大王……!」
ヴァージニアとワソは絶句する。
自分達を召喚した諸悪の根源を見た二人の足が、がくがくと震えた。
だが、決して膝をつくわけにはいかなかった。
「この地で、影の大王様に逆らう者は皆殺しになる。
そしてお前は、奴らの全てに怒りをぶつけたんだ。
デルのリーフよ、お前とその仲間には死んでもらう!」
「させるか!!」
叫び声と共にジョーカーはデインに飛びかかり、デインを押し倒し、剣で心臓を突き刺した。
しかし、デインは蛇のように身をよじり、その体は溶け、再び白い柱となって立ち上がった。
氷の霧が、デインを包み込んだ。
デインはくるりと振り返り、指をジョーカーの喉元に伸ばした。
長く細い指は、死の冷気を運んできた。
リーフは想像を絶する寒さに身震いし、よろめきながら後ずさりした。
炎は揺らめき、そして消えた。
「くっ……まさか、スパイがあいつだったとはな……!」
「わたくしには分かっていたのに、話せなかった……!」
ジョーカーは膝をついた。
Aオルという正体を現したデインは、笑い、破壊へと突き進み続けた。
広場からは叫び声と呻き声が響き渡る。
ジャスミンとバルダは松明を燃え上がらせ、
這いずり回る百人のオル達を抑えつけ、仲間は引きずり出された。
空は真っ赤な雲に覆われていた。
「わたくしが助けますわ!」
ヴァージニアは慌てて、援軍に向かおうとする。
リーフは泣きじゃくりながら、ワソと共に火へと這っていった。
消えゆく残り火の中を這い進み、指は燃えたり凍ったりを繰り返した。
「ワソ、君はとにかく時間を稼ぐんだ。僕はベルトと武器を探すから」
「うん!」
リーフがベルトと剣を探している間に、ワソはデインと対峙した。
「デイン……あなたが私の敵である以上、もう私は容赦しない!」
「お前はもうゴミだ、ゴミは掃除するのが当たり前だろ!」
「私は……ゴミじゃない!!」
ワソはデイン目掛けて銃を発砲した。
銃弾はギリギリでデインの身体を掠める。
身体が変形したデインの隙を突き、ワソはデインを刀で斬りつけた。
デインは冷たい手でワソを攻撃するが、ワソは攻撃をかわす。
「余所見するなよ!」
「うあぁっ!」
ワソはデインの攻撃を受け、身体が凍える。
Aオルは変身能力だけでなく、攻撃力もかなりのものだ。
ワソは銃と刀を織り交ぜた攻撃を繰り出し、何とかデインを追い込んだ。
「くそっ、何をする!」
瀕死になったデインを放って、リーフはベルトを見つけた。
ベルトは白い灰に覆われていたが、無傷だった。
輝くベルトの端から灰が落ち、宝石が赤い空の下、煌めいていた。
「ベルトが見つかったよ!」
「今だよ、リーフ! とどめを刺して!」
デインはワソの攻撃を受けて、かなりのダメージを受けていた。
リーフはベルトをデインの腰に巻き付け、両手でしっかりと引き締めた。
「あああああああああああああああああ!!」
すると、デインは叫び声を上げ、両腕を振り上げた。
ジョーカーは石段を転がり落ちた。
ベルトが絡みついていた場所から煙が立ち上り、その煙の下で震える白い肉が溶け始めた。
「お前達は、影の大王様に、勝てない……!
たとえ一つの計画が失敗しても、影の大王様には、多くの計画があるのだからな……!」
デインは身をよじり、逃れようとしたが、既に死にかけていた。
溶けていく白い身体の中から、ただ一つの顔が浮かび上がっていた。
デインの顔、あらゆる表情。
臆病、懇願、涙、笑い、からかい、威厳、勇敢……。
リーフは胃がむかむかするのを感じ、屈み込み、窒息しそうになった。
しかし、リーフはベルトをしっかりと握りしめ、目をぎゅっと閉じた。
そしてようやく目を開けると、そこには石段を伝って滴り落ちる白い水たまりがあった。
デインはデルトラのベルトに宿る聖なる力によって、完全に消滅したのだ。
「デイン……君がデルトラの世継ぎだと思っていたのに……」
「もう情けはいらないよ。あいつは、私の敵だから」
「……そうだね、ワソ」
リーフはベルトを腰に巻きつけ、
ピラミッドの底、ジョーカーが横たわる場所へと身を投げ出した。
ジョーカーは寒さに震えながら、ぶつぶつと呟いていた。
唇は青白く、首には大きな赤い跡が絡みついていた。
額には腫れ上がった痣があった。
「ワソ、リーフ!」
リーフとワソは慌てて見上げた。
ヴァージニア、バルダ、ジャスミンが二人に向かって走ってきた。
広場のオル達はヴァージニア達を追いかけてこなかった。
オル達はまるで混乱しているかのように、よろめきながら、目的もなく集まっていた。
まるで、最強のオルが倒れた事で、オル達の力の源が一撃を食らったかのようだった。
しかし、既にオル達の中には回復し始めている者もいた。
そして赤い雲は渦巻き、沸騰しながら、街へと駆け寄っていた。
必死にジョーカーを立たせながら、リーフは考えようとした。
(一体どこに隠れればいいんだ?)
その時、答えが浮かんだ。
困った時にいつも向かっていた場所……それは、家だ。
「一体、デルトラの世継ぎはどこにいるんだ?」
ここでネタ晴らし。
影の大王はオルを作った後、ワソを召喚して洗脳しました。
デインはなかなか動けなかったので、積極的に動いていたワソを妬んでいたのです。
そんなわけで、デインは因縁があるワソと戦わせました。
どうしてワソが洗脳されたのかは第二部で明らかになりますので、お楽しみに!