デルトラの世継ぎは、本当に見つかるのでしょうか?
鍛冶場は暗く、荒涼としていた。
門には影の大王の烙印が押されていた。
しかし、隠れ家があり、暖かさと水があった。
そして、今のところは、安全だった。
ヴァージニア達は火を焚き、ジョーカーを毛布で包んだ。
女王蜂の蜂蜜を与え、傷口を洗った。
ようやくジョーカーは目を覚ましたようだった。
瞼が瞬き、開いた。
暖炉の炎が跳ね上がるのをぼんやりと見つめていた。
「どこだ……?」
ジョーカーは嗄れた声で呟いた。
彼は喉に手を当て、額の腫れに手を当てた。
「静かにして」
ジョーカーは頭を向けて、その人物を見た。
その人物の目は混乱し、誰なのか分からなかった。
「頭への打撃は酷かったみたいね」
ジャスミンは落ち着きなく部屋の中を歩き回りながら言った。
「治さなきゃ」
「時間がない」
バルダは窓辺に歩み寄り、カーテンの隙間から慎重に覗き込んだ。
「逃げた事に気づいたら、きっとここを探すだろう。すぐに動かなければならない」
しかしリーフはジョーカーを見ていた。
ジョーカーは部屋を見回し、眉間にしわを寄せて困惑した表情を浮かべ、
テーブルや椅子、クッションをじっと見つめていた。
まるでこの場所がジョーカーにとって見覚えのある場所のようだった。
その時、ジョーカーはジャスミンの姿を見つけた。
ジョーカーの顔が明るくなり、ジョーカーの唇が動いた。
「ジャスミン!」
「早く来い!」
ジャスミンは火の傍に急ぎ、ジョーカーのそばにしゃがみ込んだ。
ジョーカーは手を挙げてジャスミンの頬に触れると、ジョーカーの唇が再び動いた。
言葉はかすかで、ほとんど聞き取れないほどだった。
「ジャスミン。お前は……俺の妻に似た気がする」
「えっ!?」
ジャスミンは蜘蛛を振り払うかのように、ジョーカーの手を振り払い、飛び退いた。
「どうしてそんな事が分かるの? お母さんは死んだのよ!」
「ああ、俺の妻は……死んだ」
ジョーカーの顔は悲しみに歪み、目には涙が溢れた。
リーフの心臓は大きく跳ね上がった。
「ジャスミン……」
しかし、ジャスミンはすすり泣きながら顔を背けていた。
ジョーカーは目を再び閉じたが、再び口を開いた。
「奴らは……逃げる事を拒んだんだ」
ジョーカーは呟き、まるでメモをくしゃくしゃにするかのように指を曲げた。
「俺達は……引き返さなきゃならない……デルの西ではなく東へ……」
リーフは息を呑み、ジョーカーが遠い昔の記憶を蘇らせている事に気づいた。
頭への一撃が、記憶が眠る扉の鍵を開けたのだ。
「俺達は……しなければならない。知らせによると……影の憲兵団が……西の道で待機している。
女も皆殺しになった。俺達は東に……森に向かう。あそこで俺達を探そうとは思わないだろう」
ジョーカーは立ち止まり、耳を澄ませているようだった。
愛しい声が思い出の中で語りかけてくると、ジョーカーの口元は優しく微笑んだ。
ジャスミンが振り返ると、涙が頬を伝っていた。
フィリは小さく不安げな声を出し、クリーは悲しそうにコッコッと鳴いた。
ジャスミンはぼんやりと肩に手を当ててフィリとクリーを落ち着かせようとしたが、
その目はジョーカーに釘付けだった。
「危険なの?」
「ああ、愛しい人よ。でも今は全てが危険だ。俺達は気をつける。俺達は……生き残る。
俺達の子供は無事だ。その時が来るまで、強く育ってくれ……」
リーフの心臓は胸の中で激しく鼓動していた。
息が苦しかった。
リーフはバルダが窓から振り返り、不思議そうにこちらを見つめているのに気づいた。
ジョーカーの頭が落ち着きなく動いていた。
「俺の愛娘……ジャスミン……」
ジャスミンはジョーカーの手に自分の手を置いた。
「お父さん、ここにいるわ」
ジャスミンは優しく言った。
ジョーカーはもう一度目を開けようとしたが、瞼が重かった。
「お前は勇敢だけど、独りぼっちだった。鳥や動物以外に遊び相手はいなかった。
森が用意してくれる玩具以外には玩具はなかった。本もなければ、慰めもなかった。
そして多くの恐怖があった。何度も、俺達は自分が正しい事をしたのだろうかと自問した。
自分達の選択を後悔はしていなかった。でも、お前がいなかったら……」
ジョーカーの声は途切れ、再び眠りに落ちようとしていた。
「私は幸せだったわ、お父さん」
ジャスミンは涙を拭った。
「あなたとお母さんがいたの。ゲームも、歌も、童謡も」
ジャスミンはジョーカーの袖を引っ張り、ジョーカーを起こそうとした。
「絵が描いてあったから、特に好きだった詩があるの。お父さん、それをくれたの。覚えてる?」
ジョーカーは何も答えなかった。
ジャスミンは必死にジョーカーの手を離し、ジャケットのポケットの中をかき回し始めた。
彼女の宝物が膝の上に散らばった――羽根や糸、歯の折れた櫛、鏡の切れ端、コイン、石、
樹皮、紙切れ……ついに、ジャスミンは探していたものを見つけた。
一番古い紙――汚れていて、何度も折り畳んであった。
ジャスミンはそれを慎重に広げ、ジョーカーの意識を失った顔の前で振った。
「まだ持ってるわ」
「地図?」
リーフは目の前の光景が信じられず、顔を上げてバルダの目を見つめた。
エンドンの幼少期に詠んだ詩。
城への秘密の通路を告げる詩。
リーフの父がまさにこの部屋で、エンドンとシャーンの脱出の物語を語る際に繰り返した詩。
これは否定できない唯一の証拠だった。
そしてジャスミンはずっとそれを持ち歩いていた。
リーフの心は、ベタクサ村で七部族がベルトに誓いを立てたあの瞬間へと戻った。
その時、リーフは世継ぎがここにいる事を知った。
震える指で、リーフは腰からデルトラのベルトを取り出した。
リーフはジャスミンの腕に触れた。
ジャスミンは苦悩の表情で彼の方を向いた。
リーフはベルトを差し出した。
ジャスミンはリーフの言葉を理解し、衝撃で目を見開いた。
「おい、ジャスミン、ベルトを締めろ!」
「ジョーカーはエンドンの事だ。お前は奴の娘だ。デルトラの世継ぎだ!」
「嫌よ!」
ジャスミンは首を振り、身を引いた。
クリーが甲高い声を上げて肩にひらひらと舞い降りてくると、
ジャスミンは再び首を振り、リーフから逃げようとした。
「駄目! そんなわけない! やりたくない! できない!」
「できる! やらなきゃ!」
ジャスミンは一瞬、反抗的にリーフを見つめた。
すると、ジャスミンは顔がくしゃくしゃになったように見えた。
ジャスミンは這って立ち上がり、待った。
リーフはジャスミンのところへ行き、
息を止めてベルトをジャスミンの細い腰に巻き付け、締めた。
しかし何も起こらなかった。
ベルトは光る事も、閃く事もなかった。
何も変わらなかった。
ジャスミンは大きく震える溜息をつきながら留め具を引っ張ると、
ベルトはジャスミンの足元の床に落ちた。
「つまり、ジャスミンは世継ぎじゃないって事なんだね」
「取り消して、リーフ。間違っていたのは分かっていたのに」
「でも、間違ってるはずがない!」
リーフはどもりながら言った。
「君が世継ぎなんだ!」
「もし私がそうだとしたら」
ジャスミンは相変わらずの生気のない声で言った。
「ベルトについて私達が聞いた事は全部嘘になるわ。
ジョーカー? お父さんが? ずっと正しかったのよ。
私達は人生と希望をおとぎ話に託してきた。
魔法を信じたいと願う人々のために作られた古い物語よ」
バルダは椅子に崩れ落ち、両手で顔を埋めた。
リーフは屈み込み、床からベルトを拾い上げた。
腰に再び巻き付けると、感覚が麻痺した。
(なんでベルトが光らないんだ? もしかして、間違っているのか……? いや……)
リーフは火から、静まり返ったバルダから、
そして眠るジョーカーの傍らに跪くジャスミンから離れた。
(わたくし達が助けなかったら)
(リーフはどうなるんだろうね)
ヴァージニアとワソは、リーフの後についてきた。
リーフは部屋を出て、その奥の暗闇へと足を踏み入れた。
それから手探りで自分の小さな部屋へと辿り着き、ベッドに横たわった。
聞き慣れた軋む音が聞こえた。
この部屋で最後に目を覚ましたのは、16歳の誕生日だった。
その時、ここに横たわっていた少年は、まるで見知らぬ人のようだった。
家の前から何かがぶつかり、叫び声が聞こえたので、リーフは驚いて飛び上がった。
「捕まえたぞ!」
荒々しい声が叫んだ。
「あの娘だ!」
リーフは剣を抜きながら、寝室のドアに向かってよろめきながら歩いた。
「ど、どうしたの!?」
「影の憲兵団だね!」
ヴァージニアとワソも武器を持って身構える。
ガラスが割れる音、罵声、重いブーツの音が恐怖と共に聞こえてきた。
クリーが荒々しく金切り声を上げていた。
「鳥に気をつけろ!」
「ああ? この悪魔め!」
リーフは必死に壁にしがみつき、音のする方へ手探りで進んだ。
「近寄らないで! ここにいるのは私達五人だけなのに、あなた達は10人もいるのよ!」
リーフとヴァージニアは凍り付いた。
ジャスミンは、邪魔をしても無駄だと警告していた。
近寄らないように警告すると同時に、影の憲兵団には家の中に自分とジョーカー、
そしてバルダの三人しかいないと思わせていた。
苦痛の呻き声が聞こえ、鋭い平手打ちの音がした。
「これで噛み付くぞ!」
影の憲兵団が唸り声を上げた。
「五人だ! ファローが言った通りだ。そして一人は意識を失っている。簡単に手に入るぞ!」
笑い声が上がり、床に身体が引きずられる音がした。
そして……静寂が訪れた。
リーフは少しの間、待ってから、リビングルームへと忍び寄った。
ヴァージニアはゆっくりと、ワソは手の甲に足を乗せて歩いた。
暖炉の火はまだ明るくパチパチと音を立てていた。
温かい光が、廃墟の光景を揺らめいていた。
家具は乱闘で四方八方に投げ出されていた。
窓は両方とも、割れていた。
クリーはひっくり返った椅子に蹲っていた。
リーフが近づくと、リーフは頭を回し、絶望的な叫び声を上げた。
「助けなきゃ……」
リーフは指の関節が白くなるまで剣の柄を握りしめた。
突然、リーフは冷たい怒りに満たされた。
ヴァージニアとワソは武器をとりあえず抜いて、リーフを心配した。
「今、ここにいるのは僕とジニーとワソだけだ。だが、ここで終わるわけにはいかない」
「リーフ、今、わたくしを、ジニーって……!」
その時、ヴァージニアはリーフが自分を「ジニー」と呼んでくれた事に驚いた。
この愛称は、教会の神父やシスター、神学校の同級生しか言ってくれなかったはずなのに。
親友のワソですら、言わなかったのに。
「……君を守りたかったからだよ。クリー……」
リーフが腕を差し出すと、クリーはリーフの方へ羽ばたいた。
ほぼ同時に、割れた窓から大きな鐘の音が聞こえてきた。
「タイミングが悪いね……」
「もうすぐ、あいつがくるかもしれませんわ……」
リーフの胃がむかむかした。
ヴァージニアとワソも、それが何を意味するのか何となく分かっていた。
リーフは以前にもその鐘の音を聞いた事がある。
「クリー、ジニー、ワソ、民衆が城に集まっている。僕達もそこへ行かなきゃ。
でも、一緒に壁の外に立つんじゃなくて、中に入るんだ」
「……分かりましたわ」
「私達は、絶対にバルダ達を助けるよ」
リーフは暖炉へ歩み寄り、ジャスミンが敷物の上に落とした擦り切れた紙切れを拾い上げた。
彼はそれを注意深く折りたたみ、ポケットに入れた。
そして、ヴァージニアとワソは、リーフと共に、
影の憲兵団に捕らえられたバルダ達を助けるために歩いた。
ようやくジャスミンとジョーカーの親子が再会しました。
リーフに「ジニー」と言わせたのは、ヴァージニアを守りたかったからです。
たとえ異世界人だとしても、彼女はリーフにとって大切な人物ですから。
そして、次回はついに、諸悪の根源・影の大王が現れます。
彼を撃退できるのは、デルトラのベルトを身に着けた世継ぎだけですが……。