でもまぁ、あの国があの国ですからね?
その後、完全な静寂が訪れた。
鳥は鳴かず、草むらで小さな生き物は音を立てなかった。
それは待つ事の沈黙だった。
絶望の沈黙、死の沈黙、太陽は空に沈んでいった。
長く暗い影が、三人が横たわる場所に縞模様を描いた。
すぐに、すぐに暗くなるだろう。
そして、リーフは思った。
ウェンバーがやってくるだろう。
マントは胸の上で暖かく感じられた。
手を上げて触る事はできなかったが、それでもマントはリーフに安らぎを与えた。
リーフはそれが一緒にいてくれて嬉しかった。
そして、リーフは目を閉じた。
突然、何かがリーフの肩を掴んだ。
リーフは恐怖で叫び、目を開けるとジャスミンの顔が自分の顔のすぐ近くにあった。
「口を開けて! 急いで!」
ジャスミンは小さなボトルをリーフの唇に押し付けた。
リーフは困惑しながらも言われた通りにした。
舌の上に冷たい水滴が2滴落ちるのを感じ、口の中に酷い味が広がった。
「何をしたんだ?」
しかしジャスミンは既にリーフから背を向けていた。
「早く、口を開けて!」
「えっ?」
ジャスミンがバルダとヴァージニアに囁く声が聞こえた。
しばらくして、バルダとヴァージニアはむせ返るような嫌悪感を露わにした。
リーフは、自分もその酷い味の液体を飲まされていた事に気づいた。
「毒だ!」
バルダはかすれた声で言った。
「ど、毒ですって?」
リーフとヴァージニアの心臓がドクンと大きく鼓動した。
そして突然、リーフとヴァージニアの体は熱くなり、全身がチクチクし始めた。
徐々にその感覚は強くなり、体は燃えるように熱くなる。
刺すような痛みは、針のように鋭い突き刺しとなった。
まるで燃えるイバラの茂みに捕まったかのようだった。
鳥の警告の鳴き声が遥か上空で響いた。
木の葉の向こうの空は赤く染まっていた。
バルダは叫んでいた。
しかし今、リーフとヴァージニアは何も聞こえず、何も見えず、
自分の痛みと恐怖以外何も感じられなかった。
二人は地面の上で身悶えし、のたうち回り始めた。
そして、ぼんやりと、ジャスミンがリーフの上に屈んでいる事に気づいた。
ジャスミンはリーフの腕を引っ張り、硬い裸足でリーフを蹴っていた。
「起きなさい!」
「えっ、動けますわ……?」
息を切らし、信じられない思いで、リーフは痛みを堪え、四つん這いになってもがいた。
リーフは夢中でマントを探し、今はもう手放すつもりはなかった。
「木よ!」
ジャスミンは叫んだ。
「木に登って! ウェンバーがもうすぐ来るわ!」
ジャスミンは既にバルダとヴァージニアの方を向いていた。
バルダはシダのベッドの上で転がり、苦痛に呻いていた。
ヴァージニアは何とか、ゆっくりながらも木を登った。
リーフはマントを後ろに引きずりながら、彼らの方へと体をよじ登らせたが、
ヴァージニアは手を振って呼び戻した。
「行って! 私が何とかするから!」
「……わ、分かりましたわ……」
リーフとヴァージニアは大きな木の幹に向かって這い始めた。
二人の足と腕は震えていて、全身は熱波で震えた。
そして、木に辿り着き、まっすぐに立ち上がった。
リーフの手の近くには低い枝があった。
彼は息を切らしながらそれを掴み、もう一方の手でマントを体に巻き付けた。
ほんの1、2日前、リーフは何も考えずに高い壁の頂上までロープを登った。
今では、この枝に登れるかどうかさえ疑わしかった。
空き地は薄暗くなった。
太陽は地平線の下に沈んでいた。
リーフの上空高くで、黒い鳥が止まり木から飛び立つと、羽音がした。
荒々しく切迫した声で鳴きながら、
それはジャスミンが肩に寄りかかって木に向かってよろめくところまで舞い降りた。
「分かってるわ、クリー!」
鳥が不安そうに頭の周りを羽ばたくと、ジャスミンは息を呑んだ。
「臭いがするわ」
ジャスミンがそう言うと、リーフも何かの臭いを嗅いだ。
かすかに、不快な腐敗臭が空き地を通り抜けていた。
リーフの胃はひっくり返り、マントの紐を結び、両手で枝を掴み、何とか体を引き上げた。
荒い樹皮にしがみつき、息を切らして震え、今でも落ちるのではないかと恐れていた。
ジャスミン、バルダ、ヴァージニアは木に辿り着いたが鳥はまだ彼らの上を舞い上がっていた。
「もっと高く!」
ジャスミンはリーフに叫んだ。
「だったらどうして、わたくし達に毒を……?」
「死にたくなかったら静かにしなさい!」
ヴァージニアはジャスミンに言われて仕方なく口を噤んだ。
「できるだけ高く登って。ウェンバーは登れないけど、爪で引っ掻いて私達を落とそうとするわ」
リーフは歯を食いしばり、腕を上げ、より高い枝に登った。
ヴァージニアも、ふらつきながら木に登った。
バルダが苦労して唸り声を上げながら、リーフの後を追うのが聞こえた。
悪臭は今やさらに強くなっていた。
そして音がした。
重く、こっそりと滑る音、小枝が折れる音、葉がざわめく音、枝が折れる音。
何かが空き地に向かって動いている。
「急いで!」
ジャスミンはリーフの横に飛び上がった。
彼女がフィリと呼ぶ小さな生き物は、
恐怖で目を大きく見開いて、ジャスミンの肩の上で喋り続けた。
「バルダ?」
「邪魔しちゃダメ!」
「……太陽は沈んだみたいですわね。ウェンバーはどこですの?」
フィリは叫び、クリーは金切り声を上げた。
空き地の反対側の茂みは激しく揺れ、曲がっていた。
空気が酷く悪臭で充満し、リーフは窒息して吐き気を催した。
ヴァージニアも不快な感じがして、気分が悪くなる。
すると、今まで見た事もないような巨大で醜い生き物が視界に現れた。
4本のずんぐりとした脚は、巨大な腐った果物のように丸く、
しみがあり、膨れ上がった体の重みで曲がっていた。
大きくて平らな足が、足元の小枝を粉々に踏み潰した。
首からは、しわが寄った緑がかった灰色の肉が垂れ下がっていた。
頭には、長くて邪悪な顎の上に置かれた2つの小さな目があるだけだった。
口が大きく開き、黒い歯がずらりと並び、息をするたびに悪臭を放っていた。
(気持ち悪っ! 何ですの、このウネウネした怪物は……!)
ウネウネした生き物が苦手なヴァージニアは、思わず吐きそうになる。
嫌悪感と恐怖の叫びを堪えながら、
リーフは震える足と腕を無理やり自分の意志に従わせ、木の上によじ登った。
一本、もう一本、またもう一本。
開けた場所に恐ろしい唸り声が響いた。
リーフは下を見た。
バルダ、ジャスミン、ヴァージニアはリーフのすぐ下にいて、彼らも下を見ていた。
ウェンバーはシダの茂みに辿り着いていた。
それは口をカチカチと鳴らし、頭を左右に振り、獲物がなくなった事に怒りで唸っていた。
(……どうやら、撒けそうですわね)
ヴァージニアは心臓がドキドキしながら思った。
(ああ、ここまでは届かないだろう)
ヴァージニアとリーフは安堵で眩暈がしそうになりながら目を閉じた。
「リーフ!」
ジャスミンが叫ぶと、リーフはちょうどいいタイミングで目を開け、
ウェンバーが後ろ足で立ち上がるのを見た。
前足で空気を掻きむしり、薄暗い中で薄灰色の腹が光っていた。
怪物は唸り声を上げ、首から垂れ下がった皮膚のひだは消え、
首が膨らんで大きくなり、頭をどんどん高く上げた。
そしてウェンバーは前方に跳び上がり、木に向かって突進し、顎をカチカチ鳴らし、
小さな目は怒りと飢えで燃えていた。
恐怖がリーフとヴァージニアを上へと駆り立てた。
その後、ウェンバーの巨大な体が木の幹に激突し、
その強靭な顎が踵を噛み砕いた時、命懸けで登っていた事を思い出せなかった。
武器を取る時間がなく、逃げる以外に何もする時間がなかった。
リーフが我に返った時、ジャスミン、バルダ、ヴァージニアが傍らにいて、
高い枝にしがみついていた。
ウェンバーの悪臭が空気を満たし、その咆哮が彼らの耳に響いた。
ついにリーフ達は、首をいっぱいに伸ばしてもウェンバーの届かない高さにいた。
しかしウェンバーは諦めなかった。
ウェンバーは木に体当たりし、爪で樹皮を引っ掻き、彼らを落とそうとしていた。
(ジャスミンの言う通りですわ。しっかり掴まらないと)
まだ完全に暗くはなかったが、とても寒くなっていた。
リーフのマントは体を温めていたが、木にしがみついた手は痺れていた。
隣では、バルダが激しく震え、歯がカチカチ鳴っていた。
このままでは落ちてしまう、とリーフは思った。
リーフはバルダ、ジャスミン、ヴァージニアにできるだけ近づいた。
冷たく不器用な指でマントを拾い上げ、その温かさを分け与えようと、四人は身を寄せ合った。
しばらく四人は寄り添っていた。
そしてリーフは何かが変わった事に気づいた。
獣は木に体を打ち付けるのをやめた。
咆哮は低く響く唸り声に変わった。
リーフは動きを感じ、
ジャスミンがマントのひだの間から何が起きているのかを覗いている事に気づいた。
「ウェンバーが離れていくわ。どうして?」
ジャスミンは驚いて息を吐いた。
「マントだ」
バルダは弱々しく囁いた。
「マント? きっとわたくし達を隠していますのよ」
リーフは、母親がマントをくれた時のことを思い出して胸が躍った。
―これも、どこへ行ってもあなたを守ってくれるわ。この生地は特別なのよ。
(どれくらい特別んだろう?)
ジャスミンが鋭く息を吸うのが聞こえた。
「どうしたの?」
「ウェンの目が見えるから、ウェンが来てるわ。奴らは轟音が止むのを聞いたの。
ウェンバーがあなたを殺したと思ってるの。ウェンは残り物を求めて来たのよ」
リーフとヴァージニアは身震いした。
二人は慎重に外套を脇に寄せ、空き地を覗き込んだ。
ウェンバーがうろついている近くの茂みの中で、赤い目が光っていた。
その怪物は頭を上げて睨みつけ、大きく鋭い吠え声を上げた。
それは何かの命令のように聞こえた。
茂みがざわめくと、ウェンバーは再び、さらに大きな声で呼んだ。
そして、青白く曲がった2つの姿が震えながら空き地に忍び寄り、ウェンバーの前に跪いた。
ウェンバーは呻き、不注意にも跪いた姿を掴み、空中に放り投げ、
その凶悪な顎で捕まえて丸呑みした。
リーフは気分が悪くなり、その恐ろしい光景から目を逸らし、
ヴァージニアはさらに不快な気分になった。
ジャスミンはマントを押しのけて立ち上がった。
「もう大丈夫よ。ウェン達はもう洞窟に帰るわ」
リーフとバルダは視線を交わし、ヴァージニアはほっとした。
「洞窟が隠れ場所のはずだ」
バルダは低い声で言った。
「明日の夜、怪物が餌を食いに出てきたら、捜索しよう」
「ウェンバーの洞窟には骨と悪臭しかないわ」
ジャスミンは鼻で笑った。
「どうして?」
「ウェンバーはそういう怪物だからね。で、何を探してるの?」
「教えない」
バルダはぎこちなく立ち上がった。
「でも、沈黙の森の一番秘密の場所に隠されていて、恐ろしい番人がいる事は分かっている。
ここ以外にどこにいるというんだ?」
驚いた事に、ジャスミンは笑い出した。
「なんで知らないの! ここは、この森の端の小さな一角に過ぎないわ。
森は全部で三つあって、それぞれにここよりも危険で秘密の場所が100もあるのよ!」
リーフとバルダは、ジャスミンの声が空き地に響き渡る中、再びお互いに視線を合わせた。
ヴァージニアがやれやれと呆れると、突然、その音が止んだ。
三人が再びジャスミンを見ると、ジャスミンは顔をしかめていた。
「どうしたの?」
「ただ……」
ジャスミンは言葉を止めて首を横に振った。
「今は話さないでおくわ。私の住処に連れて行くから、そこなら安全よ」
ヴァージニアのロールプレイは書いてて楽しいです。
次回は沈黙の森の番人と出会います。