デルトラの本当の世継ぎも現れて、しばらくの間は、王国は平和になりそうです。
そんな第一部の最終回を、どうぞご覧ください。
「結局、わたくし達はまだこの世界にいなきゃいけませんのね」
「そうみたいだね……まったく、影の大王ったら……」
デルトラのベルトの力で影の大王は追い払われた。
だが、影の大王は最後の最後で、ヴァージニアとワソに見えない鎖を放った。
それは、ヴァージニアとワソがこの世界に留まらなければならない事だった。
だが、リーフはそんな事など、知る由もなかった。
呆然としたリーフは両親の傍らに寄り添った。
跪き、母を抱きしめ、父に屈み込むと、ジョーカーと目が合った。
ジョーカーの口元は、かつての嘲るような笑みを浮かべた。
「まだ分からないのか?」
その笑みは問いかけているようだった。
リーフは首を横に振った。
かすかに群衆の歓声が聞こえた。
鎖から解き放たれたバルダとジャスミンが、リーフの隣に崩れ落ちていくのを感じた。
しかし、リーフは動けなかった。
声も出せなかった。
ただジョーカーを見つめるしかなく、その瞳には疑問が渦巻いていた。
「完璧な隠れ場所だ」
ジョーカーは呟いた。
「そうではないか? 誰も疑う者はいないだろう?
17年近く前のあの夜、デルから逃げ出した男と女が偽の足跡を辿っているなんて?
まさか、奴らが本当の国王と王妃ではないなんて?」
リーフの両親を見つめると、リーフの目は熱くなった。
「デルトラの国王が鍛冶屋として暮らしているなんて、誰が想像するだろうか?
トーラ族の血を引く立派な王妃が、野菜を育て、ありふれた糸を紡ぐなんて?」
だが、デルトラの初代国王アディンは、鍛冶屋以外の何者でもない。
それからリーフの父親はリーフの方を向き、片方の眉を上げた。
「デルトラの世継ぎが、普通の少年として育てられ、
自分の世界や人々のやり方を経験する以上に相応しい事があるだろうか?」
その時、リーフは驚きと共にそれを悟った。
計画の単純さを目の当たりにした。
犠牲の上に成り立つ計画。
そして、デルが陥った混乱と混沌の上に成り立つ計画。
隣人が隣人を見失い、友人が友人と連絡を失い、誰一人見覚えのない顔。
ジョーカーの計画……ジョーカー、エンドンではなく、ジャードだった。
愛する妻と共に、愛する土地のために、身分、家、そして命を友に捧げたジャード。
あの暗い夜、宮殿へと導いた小さな詩をポケットにしまい、デルから逃げ出したジャード。
こんな両親がいると、ジャスミンがあんな風になるのも無理はなかった。
「ジョーカー、囮のアイデアは以前にも思いついたのかい?」
「そうらしいな。トーラ族の友人達を西へ送った時は、知らなかったがな。
奴らもまた無事だと考えると安心する」
リーフが振り返ると、城から戦闘の音が聞こえた。
「レジスタンスが到着した」
ジョーカーは何気なく言った。
「最後の影の憲兵団を始末してくれるだろう。
バルダやルーカスと同じく、誰にも知られずに特別な計画を立てるのが賢明だと思った。
デルには、城の厨房に通じる排水路がある……」
「知っているような気がする」
リーフは呟いた。
「一度見つけた事がある。誕生日に……」
母はリーフの手を握った。
鍛冶屋のアンナではなく、薬草や植物の栽培に精通した、トーラ族のシャーンだ。
奇跡のように織り物をこなした母だ。
その機知と勇気でリーフに多くの事を教えてくれた。
リーフは父を見下ろした。
優しく物腰柔らかな男。
今となっては、その名前がジャードではなく、エンドンである事が分かっていた。
(僕の父さんは、エンドン国王――ジャードと入れ替わった本物のエンドン国王だった。
友達に怒るのは、当然かもしれないけど)
優しい父の顔は滑らかになり、和らいだように見えた。
目は温かく、とても穏やかで、口元に微笑みを浮かべた。
リーフはバルダが息を呑む音を聞き、自分の目が涙で熱くなるのを感じた。
「私のために泣くな。私は幸せだ。私の人生は満たされた。
今、死を迎えるこの瞬間、私はずっと望んでいたものを手に入れた。
私の過ちが引き起こした悪が帳消しになったという確信。
愛する妻と共に、民を賢明に導き、彼らの心を知る息子を育てたという確信」
「どうして教えてくれなかったんだ、父さん。どうして僕が世継ぎなのか教えなかったんだ」
「お前が知らなかった間、お前は安全だった。そしてお前は、人々を愛し、人々を知る事、
そして彼らの一人となる事を学ばなければならなかった。私は誓ったのだ」
「でも……バルダ?」
リーフは、静かに隣に跪くバルダを一瞥した。
母親は首を横に振った。
「バルダは真実を知らなかったの。ジャードとアンナが去っていくのを見たの。
私達がそう話したから、二人は国王と王妃だと思っていたわ。
城では、バルダは私達を遠くからしか見ていなかった。城のような衣装と化粧をした私達を。
私達はバルダに秘密を漏らさなかった。計画は四人だけの秘密にすると誓ったのよ。
そして、あなたが冒険に出かけた時、ベルトが完成すれば説明は不要になるだろうと思ったの」
「宝石の順番が重要だとは知らなかったんだ」
ジョーカーが言葉を締めくくった。
「どうしてそんな事が? 本には何も書いていなかったはずなのに」
「書いてあったんだ。でも、なぞなぞみたいにね」
「まさにうってつけだ」
「リーフ、ずっと前から、この物語は何もかもが見た目通りじゃないんだ。
私はそういう物語が好きだ。そういう物語は大抵ハッピーエンドだからね。この物語もそうだ」
(わたくし達はまだ、帰れませんけどね……)
そして、リーフの父親は永遠に目を閉じた。
リーフは母親の手を握り、頭を下げた。
「それでジニー、ワソ、これから元の世界に帰るんだろ?
影の大王をデルトラから追い払ったんだから」
「それが……あいつ、わたくし達をこの世界に縛ったんですの」
「しかも、帰る方法を教えてくれなくて」
「えっ!?」
ヴァージニアとワソの言葉にリーフは落胆する。
影の大王の罠で二人はこの世界に来たのだが、肝心の影の大王が帰る方法を教えなかったのだ。
まあ、召喚した人、それも邪悪がわざわざ教えてくれるとは到底思えなかったが、
それでもまだ帰れない事を知ると、リーフはまだまだやり残しがあるな、と思った。
(この世界には平和が戻った。でも、ジニーとワソはまだ帰れていない。
それでも、この平和を大事にしなくちゃ)
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミンは共に立ち、夜明けを眺めていた。
「リーフ、あなたが来てくれてよかった。本当によかった」
「バルダも……一緒にいて、よかったですわ」
「……バルダさん、から、バルダになったか」
ジャスミンの顔は泥で汚れていた。
髪は絡まっていた。
口元は力強く、まっすぐに結んであった。
「どうして? 私は何もできなかったのに」
ジャスミンはリーフから離れて言った。
「どうして私が王妃になれるというの?
私はただの野性的な娘で、短気で面倒くさがり屋で、
壁に囲まれた庭よりも森の方が落ち着くのよ?」
ジャスミンは首を振った。
「それに、ここには居られないわ。この街は私には恐ろしいものよ。
それに城なんて、まるで牢獄よ!」
「牢獄の壁なんて崩れ落ちるものだよ」
リーフは優しく言った。
「庭園は森になる。デルトラは再び美しくなる。
そしてジャスミン、君が何かできる事はあるか……」
一瞬、リーフの声は途切れた。
これはとても重要な事だった。
リーフは慎重に言葉を選ばなければならなかった。
しかし、リーフが言う事は何でも真実でなければならない。
真実の全てではないかもしれないが、少なくとも一部は。
「それで?」
ジャスミンは肩を固くして尋ねた。
「やるべき事がたくさんある」
リーフは簡潔に言った。
「やるべき事がたくさんある、ジャスミン。デルトラ中で。
僕一人じゃできない。君の勇気と強さが必要だ。君のありのままの姿が必要なんだ」
「確かに」
バルダはぶっきらぼうに言った。
ジャスミンは肩越しにヴァージニア達を見た。
フィリが耳元で囁いた。
クリーが彼女の腕を甲高い声で叩いた。
「じゃあ、しばらくここに残るわね」
ジャスミンは少し間を置いて言った。
「だって、きっとあなたは私を必要としているのよ。
あなたのお父さんが私のお父さんを必要としていたように。物事を成し遂げるためにね」
リーフは微笑み、珍しく反論せず、すっかり満足していた。
こうして影の大王はデルトラのベルトの力により、デルトラから影の王国に撤退した。
しかし、ヴァージニアとワソは、まだこの世界から脱出できなかった。
ヴァージニアとワソの最大の目的は、デルトラの世界から元の世界に帰る事。
二人の目的は、まだ達成できていなかった。
それでも、デルトラの一時の平和を、ヴァージニアとワソは享受するのだった。
これにて「ヴァージニアとデルトラクエスト」は完結です。
とある異世界転移もののスレの中にデルトラクエストがあったのがちょっと気になったので、
私のオリキャラ、ヴァージニアと他者様のオリキャラ、ワソをこの世界に転移させました。
といっても、もちろん望んだものではなく、影の大王が召喚したという形にしましたが。
ヴァージニアはもう一人の主人公としてリーフに最初から同行しましたが、
ワソをどうやってリーフ達に同行させるか迷いました。
ただ同行させるだけだとつまらないし……あ、そういえばアニメ化もされてましたよね、これ。
私はデルトラクエストのアニメを子供の頃に見た事がありますが、
それに出てくるアニメオリジナルキャラ、魔導士オーカスがなんか余計な感じがしました。
リーフのライバル的なポジションは既にデインがいましたし、
アニメではしぶとく活動した魔女テーガンは原作ではクリーがあっさり倒した上に、
彼女の子供達もリーフの機転で同士討ちしてイカボッド以外は倒されましたし。
そこで、テーガンとオーカスの代役は、影の大王に洗脳されたワソになりました。
これなら矛盾が生じませんし、ヴァージニアの動機づけにもなりますし、
何より「最初は影の大王の部下だったが、後に仲間になる」という王道展開ですしね!
もちろんそんなのはまずあり得ないので、洗脳という手段を取りましたが。
それを除けば、ヴァージニアとデルトラクエストは概ね原作通りの展開にしました。
ジャスミンがリスメアの競技大会で優勝したり、みんなで一緒に謎解きしたり、
デインがオルでリーフ、ヴァージニア、ワソが協力して倒したりと。
元々ネリダはヴァージニアが助けて説得して、その後に改心する予定でしたが、
どうせなら追いかけっこにしようと思った結果、ネリダは原作通り命を落としました。
でも、これはこれでいいと、ワソがネリダを手駒にし、そしてワソを助けたのです。
私は児童書の二次創作では不満からあまり原作を重視しない事が多いですが、
デルトラクエストは不満がなかったので原作重視にしたわけです。
「ウネウネしたものが苦手」というヴァージニアの設定を生かせたでしょうか?
殺人ミミズとかグルーとか……デルトラの世界にはそういうウネウネしたものが多いので、
ヴァージニアは苦労が絶えないみたいです。
前書きに書いた通り、デルトラのベルトの力で影の大王をデルトラ王国から撃退したものの、
影の大王はヴァージニアとワソに余計なものを残したのでまだ冒険は終わっていません。
第二部の二次創作長編「ヴァージニアとデルトラクエスト2」は、
別の長編小説が完結してから連載する予定ですので、お楽しみに!
それでは、ひとまずさよなら!