ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

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この世界では休息は貴重なのです。
だから、たっぷり休ませないと、とヴァージニアを気遣いました。


第5話 黄金の騎士ゴール

 リーフ、バルダ、ヴァージニアはできる限りの速さで移動した。

 森が深くなるにつれ、三人はほぼずっと木のてっぺんを離れず、

 蔓を頼りに枝から枝へと登っていった。

 頭上には星が散りばめられた空が広がっていた。

 下には静かな闇があった。

 クリーは三人の前を飛び、三人が遅れると立ち止まって待った。

 フィリはジャスミンの肩にしがみつき、目は大きく輝いていた。

 リーフは一瞬ごとに力が戻ってくるのを感じた。

 それでも、ジャスミンの家に着いた時は、リーフもヴァージニアも嬉しかった。

 

「ここが、あなたの家ですの?」

 それは確かに一種の巣だった。

 苔むした空き地に自生する巨大な捻じれた木の高いところに、

 枝や小枝を編んだ大きな受け皿が乗っていた。

 月が葉の間から降りてきて、巣を柔らかく白い光で満たしていた。

 ジャスミンはすぐには何も言わなかった。

 彼女はリーフ、バルダ、ヴァージニアを座らせ、ベリー、果物、ナッツ、

 そして甘くて冷たい水がいっぱい入ったメロンのような硬い殻を持ってきた。

 リーフとヴァージニアは休んで、不思議そうに辺りを見回した。

 ジャスミンの持ち物はほとんどなかった。

 歯の折れた櫛、ぼろぼろの寝袋、古いマフラー、小さなボトル二本、

 小さな木彫りの人形など、失った両親を悲しく思い出させるものもあった。

 ベルト、短剣二本、火を起こすための火打ち石数個、金貨や銀貨など、

 他のものはウェンバーが食べた影の憲兵団の死体から取ったものだった。

 ジャスミンは食べ物と飲み物を六等分に分け、

 フィリとクリーの席をまるで自分の家族であるかのように並べていた。

 リーフは彼女を見て、ぼろぼろの灰色の服も影の憲兵団から取ったものだと気づいた。

 

 ジャスミンは布を自分の体に合うように切って結んだ。

 彼女が無力な犠牲者から金品を奪い、死なせた事を考えると、リーフは身悶えした。

 リーフは、影の憲兵団がジャスミンの両親を連れ去った

 ――恐らく殺したか、少なくとも奴隷にした――

 そしてジャスミンをこの荒れ果てた森に置き去りにした事を思い出そうとした。

 しかし、それでもジャスミンは冷静にリーフ達に言った。

「これを食べて元気になって」

 ジャスミンの声がリーフの考えを遮った。

「へぇ、なかなか美味しいですわね」

 ヴァージニアが奇妙なピンク色の果物をかじると、果汁が顎を伝って流れ落ちた。

 こういう美味しいものを食べるのは教会ではあまりなかったので、新鮮だった。

「それにしても、あなたのおかげで生きてられましたわ。ありがとうございますわ」

「そりゃ、あなたは悪い人じゃなかったからね」

「神聖な勝負を邪魔した邪悪は許しませんわよ」

 ジャスミンとヴァージニアが話し合う中、

 リーフはバルダが食べ始めたのを見て、自分も食べ始めた。

 リーフはこれほど奇妙な食事を食べた事がなかった。

 食べ物が家で慣れ親しんだものと違うからだけではなく、とても高い場所で、

 白い月の下、風が吹くたびに優しく揺れる台の上で食べていたからだ。

 そして、クリーという黒い鳥と、

 フィリという小さな毛皮の生き物が一緒に食事をしていたからだ。

 

 まず、ヴァージニアは様々な「なぞなぞ」を出した。

「地球上で一番きたない場所はどこですの?」

「トラックにリンゴ、モモ、ナシがのっていますわ。さて、カーブでは何を落としました?」

「車には何歳から乗れますの?」

「たくさんの目を持つ、投げるだけでわたくし達の運命を決めるものは何ですの?」

「幼稚園、小学生、中学生、高校生のうち、一番大きいのは?」

 この世界では聞いた事がない言葉ばかりだったが、リーフ達は案外楽しんだようだ。

 

 その後、リーフはジャスミンに質問した。

「ジャスミン、ここでどれくらい一人で暮らしていたんだ?」

「私が七歳の時に影の憲兵団が来たわ」

 ジャスミンは指を舐め、別の果物に手を伸ばした。

「奴らはデルからはるばる来たに違いないわ。ウェンは奴らを捕まえなかったからよ。

 私は川で水を汲みに行ってた。両親は食糧を探して、木の上の家まで運んでいたの。

 そこに影の憲兵団が現れて、家を燃やしてさらっていったわ」

「でも、奴らは君を見つけなかったのか?」

「それはどういう事ですの?」

「母が振り返って、シダの中に隠れて黙っているように合図したの。

 それで私は言われた通りにしたわ。

 そうすれば、私が良い子だったら、母と父が戻ってくるだろうと思った。

 でも、両親は帰ってこなかったわ」

 彼女の口は引き締まり、端が下がったが、泣かなかった。

 ジャスミンは、恐らく長い間、泣いていなかったのだろう、とリーフは思った。

 

「それで、君はこの森で一人で育ったのか?」

 リーフが尋ねると、ジャスミンは頷いた。

「心優しい木々と鳥達が私を助けてくれたからな」

 ジャスミンは、まるでそれがこの世で最も普通のことであるかのように言った。

「私は両親が教えてくれた事を思い出した。私は古い家からできる限りのものを集めたわ。

 焼け落ちなかったもの。私はこの巣を作って夜はその中で寝たわ。

 そうすれば、暗闇の中で森をうろつくものから身を守る事ができたからね。

 それで、私はそれ以来ずっとそうして生きてきたの」

「それで、さっきの薬は何ですの?」

「あの薬は、私達が再び移動できるようにとあなたがくれたものよ」

「何だったの?」

「母が昔、ウェンの道沿いに生えているような葉っぱから作ったの。父が刺された時に治したの。

 フィリにも使ったわ。赤ん坊の時にウェンに捕まったのを見つけた時ね。

 そうやってフィリは私と一緒に暮らすようになったのよね、そうでしょう?」

 ジャスミンの隣でベリーをかじっていたフィリが同意してお喋りした。

 彼女はにっこり笑ったが、ヴァージニア、バルダ、リーフの方を向くとすぐに笑顔は消えた。

「あなた達を見つけた時、果実はほんの数滴しか残ってなかったわ。瓶はもう空っぽ」

「もっと作れないのか?」

 バルダが尋ねると、ジャスミンは首を横に振った。

「影の憲兵団が放った火が、ここの森に生えていた葉を枯らしたわ。

 他の葉はウェンの道にあるだけよ」

「……そうか。ジャスミン、僕達は君に心から感謝しているよ」

「俺達は君に命を救われたんだ」

 ジャスミンは肩を竦め、膝に残った果物の種を払いのけた。

「そしてデルトラは君に大きな借りがある」

「今のところ、私達は探索を続けられるわ。

 もし森を探索するのが、私が思う場所にあなたを導いたとしても、

 いずれにせよ生きて帰れないわよ」

 ジャスミンは顔を上げて、ぶっきらぼうに言った。

「あなたをウェンバーに残していった方がよかったかもしれませんわね」

 短く、不快な沈黙が続いた。

 それからジャスミンは再び肩を竦めた。

「でも、私が何を言っても、あなたは続けるでしょうね」

 ジャスミンは溜息をつきながら立ち上がった。

「それじゃ、私が道案内をするわ。準備はいい?」

 

 四人は夜通し、木のてっぺんに沿って旅を続けた。

 その下には、目に見えないものが騒めき、唸り声を上げ、シューシューと音を立てていた。

 ジャスミンは特定の木々の間だけを通ったため、道は曲がりくねっていた。

「優しい木ね」

 ジャスミンはその木々を呼んだ。

 時々、ジャスミンはそのような木の幹に頭を下げ、耳を傾けているようだった。

「木々は、これから何が起こるか教えてくれるし、危険を知らせてくれるの」

「……えっ? 木が?」

 バルダが驚いて眉を上げた時、

 ヴァージニアは、何故信じてはいけないのか分からないかのように、バルダを見つめ返した。

 ジャスミンは、彼らを連れて行く場所についてはほとんど話さなかった。

「森に長く住んでる割には、森の事は知らないんですのね」

「私が知ってるのは、一番小さな真ん中の森の真ん中にあるという事だけよ。

 鳥達はその森には入らないけど、森の中心には邪悪で禁じられた場所があると言われてるわ。

 彼らはこの場所を『闇』と呼んでいて、恐ろしい番人がいる。

 そこに行く者は決してそこを離れず、木々でさえもそれを恐れているわ」

 ジャスミンはかすかな微笑みを浮かべながらリーフの方を向いた。

「あなたが探してる場所のように聞こえない?」

 リーフは頷き、安心するために剣に触れた。

 ヴァージニアもメイスを握り締めた。

 

 小さな空き地を横切り、森の真ん中に入った時、夜が明けようとしていた。

 ここでは木々が太陽の光をほとんど隠していて、音は全くなかった。

 鳥の鳴き声も聞こえず、虫は一匹も動かなかった。

 四人が登ってきた木々や蔓さえも、

 薄暗く湿った空気をかき乱す風などないかのように、静まり返っていた。

 ジャスミンはよりゆっくりと慎重に動き始めた。

 フィリはジャスミンの首に寄り添い、頭をジャスミンの髪に隠した。

 クリーはもう先には飛ばず、枝から枝へと彼らと一緒に跳ねたり羽ばたいたりした。

「木々が私達に引き返すように言ってるの。私達は死ぬと言ってるの」

 ジャスミンの声には恐怖があったが、ジャスミンは止まらなかった。

 リーフ、バルダ、ヴァージニアは、危険を知らせる音や光景を耳と目で探りながら、

 濃くなる森の中、ジャスミンの後を追った。

 しかし、周囲には緑しかなく、静寂を破るのは自分達が動く音だけだった。

 

 ついに四人は、これ以上進めない場所に辿り着いた。

 重くねじれた蔓が交差して絡み合い、

 巨大な木々を覆い、巨大な生きた網のような障壁を作っていた。

 四人は左右に探し、蔓の網が完全な円を描いて、中にあるものを囲んでいる事を発見した。

「ここが中心よ」

 ジャスミンは息を切らして言った。

 彼女はクリーに向かって腕を上げ、クリーはすぐにジャスミンのところへ飛んでいった。

「ここで降りなくちゃな」

「ダメよ、ここは危険。木々は沈黙していて、私に答えてくれない」

「多分、死んだんですのね」

「蔓に絞め殺されたのよ」

 ジャスミンは再び首を横に振った。

 彼女の目には悲しみ、哀れみ、そして怒りが宿っていた。

 ヴァージニアは、本当にジャスミンは自然を愛するんだな、と思った。

「みんなが捕まってるようですわね」

「リーフ、降りなきゃダメだ」

 明らかに、木々に感情があるというこの話は不安になった。

「これ以上は無理ですの? やっぱり一人?」

「……」

 木のてっぺんにしゃがんだジャスミンを残して、

 ヴァージニア達は森の地面に向かって半分登り、半分滑り始めた。

 リーフは一度見上げてジャスミンをちらりと見た。

 ジャスミンはまだリーフ達を見守っていて、クリーはジャスミンの腕に止まっていた。

 もう一方の手で、ジャスミンは髪の下に隠れているフィリを撫でていた。

 リーフ達はどんどん下へ滑り落ちていった。

 そして突然、リーフは恐ろしい興奮で心臓が飛び上がるような何かを感じた。

 服の下に隠された鋼鉄のベルトが彼の肌を温め、チクチクさせていた。

「多分、ここで合ってるんじゃないかな。

 ベルトが、この辺に宝石の一つがあるって知らせてるからね」

 リーフはバルダの唇が引き締まるのを見た。

 宝石が近くにあるなら、恐ろしい敵も近くにいるはずだ。

「ここに一つ目の宝石がありますの……?」

 ヴァージニアが小さな声で言う。

 バルダは自分一人で、他に考える人がいなければ、どれほど楽だろうと考えたに違いない。

「僕の事は心配しないで」

 リーフは声を落ち着かせて穏やかに囁いた。

「もし、死んだとしても……それは、仕方のない事だから」

 バルダはリーフをちらっと見て、返事をしようとしたように見えたが、

 すぐに口を閉じて頷いた。

 ヴァージニアは渋々、リーフ達についていくのだった。

 

 ヴァージニア達は森の底に着き、枯れ葉の中に膝まで深く沈んでいった。

 ここはすっかり暗く、完全な沈黙が広がっていた。

 木の幹には蜘蛛の巣が張り、至るところに菌類が醜い塊となって群がっていた。

 空気は湿気と腐敗の臭いで充満していた。

(嫌な臭いですわね……)

 ヴァージニアは鼻をつまんで臭いを嗅がないようにし、

 リーフとバルダは剣を抜き、蔓で囲まれた円の周りをゆっくりと動き始めた。

 リーフの腰のベルトはだんだん暖かくなってきた。

 もっと暖かく、もっと熱く……かなり、熱い。

「もうすぐだ……」

 リーフは息を吐き、バルダがリーフの腕を掴む。

 宝石はもうすぐで見つかりそうだ。

 

 ヴァージニア達の前には、蔓の壁に開いた穴があった。

 その穴の真ん中に、恐ろしげな巨大な人物が立っていた。

 それは、黄金の甲冑を着た騎士だった。

 胸当ては薄暗がりの中で光っていて、兜には金色の角が飾ってある。

 騎士は大きな剣を手に、身動きせずに警戒して立っていた。

 リーフは剣の柄に埋め込まれたものを見て、息を呑んだ。

 巨大な黄色い石――トパーズだ。

 

「お前達は何者だ?」

 空虚な響き渡る声が響き渡ると、リーフとバルダは凍りつき、

 ヴァージニアはぐっと唇を噛み締める。

 騎士は頭を向けず、全く動かなかった。

 それでも、ヴァージニア達には、挑戦してきたのが騎士だと分かっていた。

 

「俺達はデルの街から来た旅人だ」

「そういうあなたこそ、誰ですの?」

「我が名はゴール、この地と宝の番人だ。侵入者よ、今すぐに立ち去れ、でなければ死ぬぞ」

「三対一ですわね」

「立ち去るふりをして、不意を突けばいいんじゃないか?」

 ゴールの頭がゆっくりと彼らの方を向いた。

 兜を通して見えたのは暗闇だけだった。

 リーフの背筋がゾクゾクした。

「何かを企んでいる……?」

「決めましたわ……って、リーフ!?」

 鎧を着た腕が持ち上がり、手招きすると、

 リーフはまるで目に見えない糸に引きずられているかのように、

 よろめきながら前に進んでいる事に気づいた。

 リーフは必死に抵抗しようとしたが、彼を引っ張る力は強すぎた。

「ちょっと! リーフを放しなさい! って、いやぁぁぁぁぁっ!

 ヴァージニアは急いでリーフの身体を掴んだが、彼女もまた引っ張られる。

 手招きする腕に向かってよろめきながら、バルダが罵声を浴びせているのが聞こえた。

 

 ついにリーフとヴァージニアは騎士の前に立った。

 その騎士は、二人よりも高くそびえ立っていた。

「盗人か! 愚か者め!」

「何ですの、盗人って!」

「お前達は私の宝物を盗もうとしている。お前達の身体は、あの蔦の養分となるだろう」

「何ですって?」

 ヴァージニアはちらっと蔦を見る。

 ねじれた茎の壁はヴァージニアが思っていたよりも遥かに厚く、

 何百もの別々の蔓が絡み合ってできていた。

 たくさんの大きな木々が蔓の網に覆われていた。

 壁は徐々に厚くなり、蔓がどんどん生え、中心から外側に向かって広がっていた。

 地面から高く伸びた蔓は、木のてっぺんから木のてっぺんへと伸び、

 絡み合って、それらが守る小さな円形の空間の上に屋根を形成していた。

 茂った葉の間から、ほんの少しだけ青空が見えていた。

 ほんの数本の太陽光が届き、円の中に何があるのかぼんやりと見えた。

 壁を取り囲むように、節くれだった根が生い茂り、無数の死体と骨があった。

 ゴールの犠牲者達で、彼らの死体は蔦の養分となっていた。

 

「なっ……!? こ、これに食わせるつもりですの!?」

「その通りだ」

 円の中心には、厚い黒い泥の丸い部分があり、

 そこから金色の矢のように見える三つの光る物体が立ち上がっていた。

 リーフとヴァージニアは息を呑む。

「それは命の百合、お前達が盗みに来た宝だな」

「俺達は盗みに来たんじゃない!」

 バルダが叫ぶと、ゴールは恐ろしい頭を向けてバルダを見た。

「嘘つきめ! お前達は、昔、私がそうしたように、これを自分のものにしたい。

 お前達は蜜を飲んで永遠に生きたいと願っている。だが、私は宝を守りすぎた!」

 ゴールは鎧を着た拳を振り上げた。

「命の百合が咲き、蜜が流れる時、私だけがそれを飲むだろう。

 その時、私は七部族全ての支配者になるだろう。誰も私に対抗できず私は永遠に生きるだろう」

「おかしい! お前は、七部族をアディンがまとめた事を知らないんだ。

 まるでデルトラ王国が存在しなかったかのように!」

 リーフとヴァージニアは気分が悪くなった。

 ゴールは剣を振り上げた。

「お前を殺す。そうすれば、お前の血が蔓に流れる」

 再びゴールは力でリーフ達を操り、蔓の隙間をよろめきながら進ませた。

 ゴールは剣を振り上げながら、リーフ達の後を追った。

 

「あぁ、もう、どうすればいいんですの……!」




このなぞなぞがリーフ達の助けになる事を願いながら書きました。
次回で沈黙の森編は最後です。
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