ヴァージニアとデルトラクエスト   作:アヤ・ノア

9 / 60
~前回までのあらすじ~

ヴァチカンの修道女、ヴァージニアは影の大王の罠で異世界デルトラに転移してしまう。
ヴァージニアは、影の憲兵団から逃げる途中で鍛冶屋の息子リーフと出会う。
リーフはベルトの七つの宝石を取り戻すため、
ヴァージニアは親友を連れ戻して元の世界に帰るため、元デル城の衛兵バルダと共に冒険した。
最初の魔境、沈黙の森で自然を愛する少女ジャスミンと出会った三人は、
彼女の案内でウェンバーから逃げながら、一つ目の宝石を探す。
一つ目の宝石、トパーズを持っていたのは、命の百合を守る黄金の騎士ゴール。
リーフ達はジャスミンの助けもあってゴールを倒し、トパーズを取り戻すのだった。


嘆きの湖
第7話 巨人の謎かけ


 リーフ、バルダ、ジャスミン、そしてヴァージニアは、爽やかで明るい朝を歩いていた。

 空は淡い青だった。

 木々の間から斜めに差し込む太陽は、

 彼らが歩く曲がりくねった小道を金色の帯で照らしていた。

 沈黙の森の暗い恐怖は、遥か後ろにあった。

 

(ワソ……一体どこにいますの……?)

 四人で歩く中、ヴァージニアは一人、行方不明のライバルを思っていた。

 影の大王に召喚された時、ワソと自分に何かしたとは思ったが、

 その時の記憶はヴァージニアにはなかった。

 ワソがどこにいるのか、ヴァージニアは知りたかったのだ。

 

 バルダの後ろを大股で歩きながら、リーフは思った。

 デルトラの混雑した廃墟の街から離れ、

 巡回する影の憲兵団の姿や飢えと恐怖の中で暮らす人々の悲惨さから離れれば、

 影の大王がこの地を支配している事をほとんど忘れてしまうだろう。

 しかし、忘れるのは愚かな事だ。

 田舎は美しかったが、嘆きの湖への道の至るところに危険が潜んでいた。

 リーフは後ろをちらっと見て、ジャスミンと目を合わせた。

 ジャスミンはこの道を来たくなかった。

 全力で反対したのだ。

 今、彼女はいつものように軽やかに静かに歩いていたが、

 体は硬直し、口はまっすぐに固く結んでいた。

 今朝は、ぼろぼろの服から引き裂いた布切れで長い髪を後ろに結んでいた。

 いつもの荒々しい茶色のカールがなくなった彼女の顔はとても小さく青白く見え、

 緑の目は大きく見えた。

 彼女がフィリと呼ぶ小さな毛むくじゃらの生き物が彼女の肩にしがみつき、

 神経質に喋りまくっていた。

 ワタリガラスのクリーは、地面に留まりたくないが、あまり遠くまで飛びたくないかのように、

 ジャスミンの横の木々の間を不器用に羽ばたいていた。

 そしてその瞬間、リーフはショックを受けながら、彼らがどれほど恐れていたかを悟った。

 しかし、ジャスミンは森の中でとても勇敢だった、とリーフは思い、

 すぐに振り返って正面を向いた。

(ジャスミンは僕達を命懸けで助けた。デルトラのこの場所は確かに危険だ。

 でも、影の大王が支配するこの時代、どこにでも危険がある。

 この場所の何が特別なんだろう? ジャスミンが僕達に話していない何かがあるのか?)

 

 四人の仲間が沈黙の森を去った後、どこに行くか話し合っていた事を思い出した。

「北を通っちゃダメ! そこは魔女のテーガンが支配しているのよ」

「ここはずっとテーガンの拠点だったんだよ、ジャスミン」

 ジャスミンは目を輝かせながら主張し、バルダは辛抱強く指摘した。

「でも、かつては多くの旅人がそこを通り抜け、生き残って話をしたんだ」

「テーガンは今、かつての10倍も強くなってるわ!

 影の大王がテーガンに力を与えたから、今では自惚れと邪悪さで膨れ上がってる。

 北を旅すれば、全滅よ!」

「あの、ジャスミン、テーガンって誰ですの?」

「膨大な魔力を持った魔女よ。北を支配しているわ」

 ジャスミンが沈黙の森を離れ、デルトラのベルトの宝石を探す旅に加わると決めた時、

 リーフ、バルダ、ヴァージニアは喜んだ。

 森で死ななかったのはジャスミンのおかげだ。

 最初の宝石、黄金のトパーズが、

 リーフが服の下に隠していたベルトに嵌めたのもジャスミンのおかげだ。

 ジャスミンの才能が、残りの六つの宝石を探す旅に役立つだろうと、

 リーフ、バルダ、ヴァージニアは知っていた。

 しかし、ジャスミンは長い間、自分一人だけで生きてきた。

 他人の計画に従う事に慣れておらず、自分の気持ちを率直に話す事も恐れなかった。

 リーフは今、ジャスミンが不快で手に負えない仲間になる時が来るだろうと、

 苛立ちながら気づいていた。

「宝石の一つは嘆きの湖に隠されているはずだ、ジャスミン。

 だから、そこに行かなきゃいけないんだ」

 ジャスミンはイライラしながら足を踏み鳴らした。

「もちろんよ! でも、だからといってテーガンが支配する北をずっと旅する必要はないわ。

 リーフ、どうしてそんなに頑固なの? 湖はテーガンが支配する地の端にあるわ。

 南から大きく回り込んで近づけば、最後まで彼女に気づかれずに通れるわ」

「そんな旅をすると、丘陵を越えなければならないから、5倍の時間がかかる」

 リーフが答える前にバルダが唸り声を上げた。

「丘陵自体にどんな危険が潜んでいるかなんて誰にも分からない。

 だから、計画通りに行くべきだと俺は思う」

「僕も。だから、2対1だ」

「わたくしは、どちらも選びませんわ」

 ヴァージニアは、まだこの世界を知らないので、投票は棄権した。

「違うわ! クリーとフィリは私に投票する」

「クリーとフィリには投票権がない」

 バルダはとうとう我慢できなくなり、唸り声を上げた。

「ジャスミン、一緒に来るか、森に戻るか。決めるのは君だ」

「……大丈夫ですの……?」

 ヴァージニアは喧嘩ばかりの三人に呆れていた。

 リーフがすぐ後ろについて、バルダは大股で立ち去った。

 ジャスミンは一分後、ゆっくりと彼らの後を追った。

 しかし、彼女は顔をしかめ、その後の数日間、ますます無口になっていった。

 

 リーフは深く考え込んでいたため、

 道の曲がり角で急に立ち止まったバルダにぶつかりそうになった。

 彼は謝ろうとしたが、バルダは静かにするように腕を振り、指差した。

 リーフ達は木々に囲まれた小道の終わりに着き、目の前には大きな裂け目があり、

 その剥き出しの岩だらけの崖は日光を浴びてピンク色に輝いていた。

 恐ろしい落差の上には、ロープと木の板でできた狭い橋が揺れていた。

 そして橋の前には、金色の目をした黒い肌の巨漢が、酷く曲がった剣を持って立っていた。

 大地にぽっかり開いた傷のように、裂け目は左右に見渡す限り広がっていた。

 風が吹き抜け、柔らかく不気味な音を立て、

 大きな茶色の鳥が翼を広げた巨大な凧のように突風に乗って舞い降りた。

 揺れる橋以外には渡る道はなかった。

 しかし、橋への道は、動かず瞬きもせず警戒している金色の目をした巨人が塞いでいた。

 

 リーフは硬直したまま立ち尽くし、心臓がドキドキしていた。

 ジャスミンもカーブを曲がって彼の後を追った。

 リーフはジャスミンが前方に何があるかを見て、鋭く息を吸うのを聞いた。

 ヴァージニアはぐっと唇を噛み締め、巨人を睨みつけた。

 金色の目をした巨人は彼らに気付いていたが、動かなかった。

 ただ立って待っていた。

 腰布だけを身に着けていたが、風に震える事はなかった。

 息をしていない限り、彫像のようにも思えるほど動かなかった。

 

「どうやら魔法がかかっているみたいね」

 ジャスミンが囁くと、クリーは小さく呻くような声を出した。

 四人は慎重に前進し、巨人は黙って彼らを見ていた。

 しかし、ついに彼らが彼の前に立ち、恐ろしい崖の端に立つと、

 バルダは剣を警戒するように振り上げた。

「友よ、我々はここを通り抜けたい」

「ならば、我が謎に答えろ」

 巨人は低くしゃがれた声で答えた。

「正しく答えれば通してよい。間違って答えれば、俺はお前達を殺す」

「誰の命令で、ですの?」

「魔女テーガンの命令だ」

 巨人はしゃがれた声で言った。

 その名前を聞くと、巨人の肌は震えたようだった。

「かつて俺は、仲間の命を救うためにテーガンを騙そうとした。

 真実と偽りが一つになるまでこの橋を守るのが俺の運命だ」

 男は一人ずつ目をやった。

「まずは、お前からだ。異世界の者よ」

「へっ……どうして、わたくしの事を知ってますの?」

 巨人はヴァージニアが異世界から来た人なのを知っているようで、ヴァージニアは困惑する。

 しばらくすると、巨人は大声を出して言った。

「千組の双子が集まると一人になった。これは何か?」

「……千組の双子?」

 巨人の声が大地を震わせるように響き渡り、ヴァージニアは立ち尽くした。

 ヴァージニアの心には一抹の不安がよぎったが、目の前の試練を乗り越える決意は揺るがない。

 リーフ、バルダ、ジャスミンは巨人の言葉が何なのかは全く分からなかった。

 ヴァージニアは慎重に考えた。

 千組の双子……双子が集まる事で一人になるとは、どういう事だろうか。

 天を仰ぎ、地を見つめ、そしてある瞬間、彼女の顔に閃きが走った。

 

「……あ、m! mですわね! mの双子、つまりmmの千倍がmですもの!」

 ヴァージニアが巨人に答えを言う。

 その言葉に、巨人の険しい顔が驚きに変わった。

「正解だ。通ってよし」

 巨人は頷き、彼女が通るための道を開けた。

 ヴァージニアは感謝の意を込めて軽く一礼し、堂々とその道を進んでいった。

 

「次はお前だ、娘」

「……ええ」

 ジャスミンはバルダの制止する手を振り払い、前に踏み出した。

 彼女の顔から恐怖は消えていた。

「よし。ある腕のいい騎士が競走に参加した。

 騎士は次々と参加者を抜いていき、ついに三位の参加者を抜いて決着。

 さて、その騎士は何位だったか?」

「えっ?」

「何?」

 リーフとバルダは再び、困惑した。

 ただ、順位を答えるだけの問題なのに、何故か巨人の言葉は難しく聞こえた。

 ジャスミンはじっと考え込んだ後、巨人にこう言った。

「三位よ。三位の参加者を抜いたら、その順位になるからよ」

「正解だ。通ってよし」

 巨人は脇に立ち、ジャスミンは橋に向かった。

 しかしリーフとバルダが彼女を追いかけようとした時、巨人は彼らの行く手を阻んだ。

「答えた者だけが渡っていい」

 ジャスミンとヴァージニアは振り返って彼らを見ていた。

 黒い翼を大きく広げ、クリーがジャスミンの頭上に浮かんでいた。

 橋は危険なほど揺れた。

「先へ行け!」

 バルダが叫んだ。

 ジャスミンは僅かに頷き、再び向きを変え、橋を軽やかに歩き始めた。

 まるで沈黙の森の木の枝のように無造作だった。

 

「次はお前の番だ」

 金色の目をした巨人はバルダの方を向いて言った。

「貧乏人が持ち、金持ちが必要とし、食べると死ぬものは?」

 沈黙が続いた。

 そして――

 

「何もない」

「正解だ。通ってよし」

 巨人は脇に立った。

「仲間が質問に答えるまで待ちたい。それから一緒に橋を渡る」

「ダメだ」

 巨人の腕の力強い筋肉が曲がった剣に僅かに緊張した。

「早く行ってくれ、バルダ」

 リーフは囁いた。

 彼の肌は緊張で疼いたが、どんな問題であれ、リーフは答えられると確信していた。

 ヴァージニア、ジャスミン、バルダは成功したし、

 リーフは彼らよりもずっと多くの知識を持っていたからだ。

 バルダは眉をひそめたが、それ以上は何も言わなかった。

 リーフはバルダが橋に足を踏み入れ、

 ロープにしっかりと掴まりながらゆっくりと歩き始めるのを見ていた。

 ロープは、バルダの体重で軋んだ。

 大きな鳥が風に乗ってバルダの周りを舞い降りた。

 遥か下に、輝く川の細い蛇のような道があった。

 しかし、バルダは下を見なかった。

 

「四つ目の謎だ」

 金色の目をした巨人はしゃがれた声で言い、橋に戻った。

「長いから、二回言うぞ。よく聞け」

 リーフは巨人が話し始めると注意深く耳を傾けた。

 謎は韻文の形をしていた。

 

 テーガンは好物を丸呑みした

 洞窟の中で、子供達と一緒に

 ホット、トット、ジニ、ジッド、フィー、フライ、ザン、

 ゾッド、スニック、ピク、ラン、ロッド、最後に嫌われ者イカボッド

 子供達はそれぞれぬるぬるしたヒキガエルを抱いている

 ヒキガエル1匹に蛆虫が2匹

 蛆虫1匹に勇敢なノミが2匹

 テーガンの洞窟には何匹いるのだろう?

 

 リーフはほっとしたように微笑みかけた。

 母親がいるところで計算をしながら、何日も長い午後を過ごしただろうか。

 このテストは簡単にクリアできるだろうと、リーフは思った。

 リーフは地面に跪き、韻文が繰り返される中、指で土に数字を書きながら注意深く数えた。

(テーガンの子供は全部で13人。それにヒキガエルが13匹。それに蛆虫が26匹。

 それにノミが52匹。合計は……104か?)

 リーフは計算を二回確認し、口を開いて話そうとした。

 すると、心臓がドキドキして痛くなった。

 ちょうどいいタイミングで、間違えそうになったことに気づいたのだ。

 テーガン自身を加えるのを忘れていたのだ。

 危うく大惨事になりそうになり、リーフは慌てて立ち上がった。

「105」

 リーフは息を切らして言った。

 巨人の奇妙な目が光ったようだった。

「違う」

 巨人の手が飛び出し、鉄のように固い握りでリーフの腕を掴んだ。

 リーフは頬にパニックの熱がこみ上げるのを感じながら、目を見開いた。

「待ってくれ、計算は正しいはずだ!」

 リーフはどもりながら言った。

「子供達、ヒキガエル、蛆虫、ノミ、そしてテーガン自身を足すと105になる!」

「そうだ。だが、お前はテーガンの好物を忘れている。生きたまま飲み込まれたカラスだ。

 洞窟の中にも、テーガンの腹の中で生きたままいた。答えは106だ」

 巨人は曲がった剣を持ち上げた。

「さあ、死ぬがいい!」

 リーフは何とか逃れようともがいた。

「その質問はおかしい! お前は僕を騙した! テーガンの好物を隠したな?」

「お前が何を知っているか知らないかは俺には関係ない」

 巨人は剣をさらに高く持ち上げ、その湾曲した刃がリーフの首の高さに来るまで持ち上げた。

「嫌だ!」

「待て!」

 この恐怖の瞬間、リーフはデルトラのベルトとそれに取り付けたトパーズだけを考えていた。

 もし何もしなければ、この金色の目の巨人はリーフが死んだ後に間違いなくベルトを見つけ、

 身体からそれを奪い取り、恐らくそれをテーガンに渡すだろう。

 そしてデルトラは永遠に影の大王の手に落ちるだろう。

 ベルトを崖から投げ落とさなければならない、リーフは必死に考えた。

 

「お前は大嘘つきだ!」

 リーフは叫び、シャツの下に手を滑り込ませ、ベルトの留め具を探った。

「真実と偽りが一つになるまで、お前がこの橋を守る運命にあるのも不思議じゃないな!」

 リーフが望んだ通り、巨人は立ち止まった。

 怒りが巨人の金色の目を輝かせた。

「俺の苦しみは不本意だった。

 テーガンが俺の自由を奪い、この地に縛り付ける呪いをかけたのも、純粋な悪意のためだった。

 真実と偽りにそんなに関心があるなら、また別のゲームをしようじゃないか」

 リーフの指はベルトの上で凍りついた。

 彼の心の中に燃え上がった一筋の希望は、巨人の次の言葉と共に消え去った。

 

「お前がどちらの死に方をするか、ゲームをしよう。お前はただ一つだけ言うがよい。

 お前の言う事が真実なら、お前の首を絞める。お前の言う事が偽りなら、お前の首を刎ねる」

 リーフは頭を下げて考えるふりをしながら、指をベルトの留め具にこっそりと引っ張り回した。

 留め具は固く、開かなかった。

 リーフは、手をトパーズに押し付けた。

 苦労して手に入れたのに、急がなければすぐに失われてしまう。

「待っているぞ。さあ、答えろ!」

(真実か、偽りか? 首を刎ねるのか、首を絞めるのか? でも、そんなのは……)

 リーフは暗い気持ちで考えた。

 そして、目も眩むような閃きと共に、最も素晴らしい考えが浮かんだ。

 リーフは待っている巨人を大胆に見上げた。

 

「お前は僕の首を刎ねる」

 リーフがはっきりと言うと、巨人は躊躇った。

「それで? 僕の言った事を聞いてないのか? それは真実か、それとも偽りか?」

 しかし、リーフは巨人が答えられない事を知っていた。

 もし、その言葉が真実なら、巨人は必ずリーフの首を絞め、それは偽りになる。

 もし、その言葉が偽りなら、巨人は必ずリーフの首を刎ね、それは真実になる。

 どちらにしても矛盾が生じてしまい、答えが出ないのだ。

 そして、パニックに陥った彼がどうやってこんな事を思いついたのかと不思議に思っていると、

 目の前の巨人が深く震える溜息をついた。

 するとリーフの目が見開かれ、ショックで叫び声を上げた。

 巨人の肉が波立ち、溶け始め、形を変えていたからだ。

 茶色の羽が巨人の皮膚から生えていた。

 脚は縮み、足は広がり、爪になっていた。

 力強い腕と肩は溶けて、巨大な翼に生まれ変わっていた。

 曲がった剣は、凶暴な鉤状の嘴になっていた。

 そして、瞬く間に巨人は消え、金色の目をした巨大で誇り高い鳥が崖の上に立っていた。

 勝ち誇った叫び声と共に、その鳥は翼を広げて空に舞い上がり、

 風に乗って急降下し滑空する他の鳥達と合流した。

 

―真実と偽りが一つになるまで、この橋を守るのが俺の運命だ。

 

 リーフは震えながら見つめていた。

 何が起こったのか、彼にはほとんど信じられなかった。

 橋の守護者は、テーガンの魔法で巨人にされた鳥だった。

 それは、鎖で繋がれたかのように、テーガンの悪意で地に縛り付けていた。

 そしてリーフの巧妙な答えが、テーガンの呪いを解いた。

 リーフは自分の命を救う事だけを考えていたが、テーガンの呪いを解いた。

 鳥はついに自由になった。

 

 ある音がリーフの駆け巡る思考を破った。

 リーフは橋をちらっと見て、恐ろしい事にそれが崩れ始めているのを見た。

 それ以上考える事はなく、リーフは橋に向かって飛び上がり、両手でロープの手すりを掴み、

 想像もしなかった恐ろしい隙間を駆け抜けた。

 バルダ、ジャスミン、ヴァージニアが前方の崖の端に立って腕を伸ばしているのが見えた。

 三人の叫び声が聞こえた。

 リーフの後ろでは、ロープの結び目から滑り落ちて遥か下の川に落ち、

 板がガタガタと音を立てていた。

 既にロープは緩み始めていて、間もなくロープ自体が切れるだろう。

 橋は撓み、リーフが走ると不快なほど揺れていた。

 リーフにはもっと速く走る事しか考えられなかった。

 しかし、まだ半分しか渡れず、走るのが精一杯だった。

 今や足元の板が滑り落ちていた。

 リーフはよろめき、落ち、ロープが握りしめた手を握り締めた。

 彼は宙に浮いていて、足を置く場所がなかった。

 そして、風に吹かれて無力にぶら下がっていると、目の前の板が、

 リーフが安全に向かう唯一の道である板が横に滑り始め、遥か下の川に落ちていった。

 

 リーフは、橋に残っていた弛んだロープに沿って、

 痛みを堪えながら、手を繋いで体を揺らし始めた。

 下に何があるのか、もし手を離したらどうなるのかを考えないようにしていた。

 

(デルでゲームをしているんだ)

 リーフは手首の痛みを無視して、狂ったように自分に言い聞かせた。

 足のすぐ下に泥だらけの溝がある。

(友人が僕を見ていて、僕が落ちたら笑うだろう。

 僕がしなければならないのは、ただ進み続ける事だけだ)

 リーフは衝撃を感じ、後ろの崖からロープが外れた事を知った。

 瞬時にリーフは前方に揺れ、目の前の剥き出しの硬い崖の面に向かって猛スピードで突進した。

 数秒のうちにリーフは崖に激突し、骨がピンク色の岩の上で砕け散る。

 リーフは自分の叫び声と、風に漂うバルダ、ジャスミン、ヴァージニアの叫び声を聞いた。

 彼は目をぎゅっと閉じた……。

 

「……あれ?」

 急に何か巨大なものがリーフの下に急降下した。

 リーフは顔と腕に暖かく柔らかさを感じ、不快な揺れが止まった。

 彼は持ち上げられ、力強い翼の羽ばたきが風よりも耳に響いた。

 そしてリーフは熱心な手に掴まれ、固い地面の土の上に転がり落ちた。

 リーフの耳は鳴り響いていて、遠くから聞こえる叫び声や笑い声を聞く事ができた。

 しかし、目を開けると、ジャスミン、バルダ、ヴァージニアが彼の上に寄りかかっていて、

 安堵と喜びで叫んでいたらしい。

 

「あ、ありが、とう……」

 リーフは力なく目まいがして、地面を掴みながら起き上がった。

 彼の目は、彼がいなければ、

 橋の地上の守護者であり続けるであろう大きな鳥の金色の目と合った。

「ありがとう、僕を助けてくれて」

 鳥は一度頷き、翼を広げて飛び去った。

 リーフは、鳥が一緒に飛び、旋回して叫びながら、

 峡谷に沿って遠くへ、見えなくなるまで飛んでいくのを見守った。

 

「あの巨人が鳥だって知ってたよね」

 リーフはその後、ゆっくりと移動しながらジャスミンに言った。

 まだ痛みと衰弱を感じていたが、長く休むのは嫌だった。

 崖を見ただけで気分が悪くなった。

 できるだけ早くそこから逃げたかった。

 ジャスミンは、フィリと一緒に肩に止まっているクリーに目をやりながら頷いた。

「感じたわ。巨人の目の痛みと切望を見て、とても哀れに思ったの」

「巨人は苦しんでいたのかもしれませんわ」

「でも、間違いなく俺達を殺しただろうな」

 ジャスミンは顔をしかめた。

「巨人を責める事はできないわ。巨人はテーガンの命令に従う運命にあったのよ。

 そしてテーガンは怪物よ」

 ジャスミンの目は憎しみで暗かった。

 リーフは巨人の死に至らしめかけた謎を思い出し、今やその理由が分かったと思った。

 彼はヴァージニアとバルダが先に進むまで待ってから、再びジャスミンに話しかけた。

「君は自分のためにテーガンを恐れてるんじゃなくてクリーのために恐れているんじゃないか?」

「ええ。クリーはずっと前にテーガンから逃げて、沈黙の森に隠れたわ。

 テーガンがクリーの家族を連れ去った時、クリーは巣から出たばかり。

 だから、ある意味でクリーは私と似てるわ。

 私も、影の憲兵団が私の両親を連れ去った時、とても幼かったの」

 ジャスミンの唇は引き締まった。

「クリーと私は長年一緒にいたけれど、別れる時が来たと思うわ。

 だって、クリーは私を殺そうとしているのだから」

「ジャスミン……」

 クリーは低く震えるような音を立て、腕を上げて手首に抱きかかえた。

「あなたがそうする気なのは分かってるわよ、クリー。でも、私はそうじゃない。

 この事については話したから、森に帰って。生き残ったら戻ってくるから」

 ジャスミンは立ち止まり、手首を空中に上げて軽く振った。

「さあ、帰って!」

 クリーは羽をばたつかせ、抵抗するように鳴いた。

「早く!」

 ジャスミンが叫んだ。

 彼女は手を乱暴に振り、クリーを手首から振り落とした。

 クリーは金切り声を上げて空中に舞い上がり、ヴァージニア達の上を一周してから飛び去った。

 

「本当にあれでいいんですの?」

「いいのよ。その方が、クリーのためになるから」

 ジャスミンは唇を噛み、振り返らずに歩き続けた。

 フィリはジャスミンの肩の上で悲しげにさえずっていた。

 リーフは慰めの言葉を探したが、見つからなかった。

 四人は木立に着き、緑の木陰に続く狭い道を進み始めた。

 

「テーガンは美しいもの、生きているもの、自由なもの全てを憎んでる」

 緑のシダが群生し、木の枝が頭上にアーチを描く空き地に入った時、

 ジャスミンはついに言った。

「鳥達は、嘆きの湖の近くに、かつてドールという町があったと言ったわ。

 黄金の塔、幸せな人々、豊かな花と木々のある、庭園のような町。今は死んで悲しい場所よ。

 テーガンとその子供達が悪事を終えたら、当然でしょうね」

 再び、彼らの間に沈黙が訪れ、その沈黙の中で、空き地の周りの木々がざわめくのに気づいた。

 ジャスミンは身を固くした。

「敵よ! 敵が近づいてるわ!」

 リーフには何も聞こえなかったが、

 今ではジャスミンの警告の一つを無視するべきではないと分かっていた。

 ここの木々はジャスミンにとって見慣れないものだったが、

 それでもジャスミンはその囁きを理解していた。

 リーフは全力疾走してバルダの腕を掴んだ。

 バルダは立ち止まり、驚いて辺りを見回した。

 ヴァージニアは精神を集中し、ジャスミンの顔は青ざめていた。

 

「影の憲兵団が一つ、こっちへ来るわ」




土曜日にも投稿するので忙しくなりました。
巨人のクイズは挿絵を出せない都合上、原作と大きく変えました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。