戦姫絶唱シンフォギアRVX   作:秋乃楓

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01天(そら)から舞い降りるは

世界が終わりそうになった。

人々は各々の人生の最後を悟った。

でも世界は終わらなかった。カミサマは人々に未来を託して消えてしまったから。それから人々は新たな未来へ向けて歩み出した。

もう争う事も互いに傷つけ合う事も無いと信じて。それでも分かり合えない時がある。それは自らの境遇が、生まれが、肌の色が、文化が他者と違うからか?

それとも…もっと違う何かが関わっているのか?蟠り(わだかまり)は消える事なんて無い。お互いが人間であるが故、思想や感情が異なるから争いが怒ってしまうのかもしれない。

 

私はこの先ずっとこのライブ会場で起きた出来事を忘れる事は無いだろう。あの日、私が見たのは惨劇だった。歓声で賑わっていた会場は一瞬にして悲鳴が響き渡る最悪の場と化した。

大勢の人々が怪我をした。

ノイズと呼ばれる化け物に襲われ消えたた人だって居た。この目で見た。

ハッキリと鮮明に。

触られた人が黒く煤の様に変化しボロボロに崩れ落ちて行く光景を。

そしてもう1人、私の友達で同じメンバーの初音歌奈は重傷を負ってしまった。彼女は今も入院している。

 

 

「…あの日、此処で私達の夢は壊れたんだ。」

 

 

紺色の髪が風に靡く。

彼女の名前は天城舞、2人組アイドルユニットSky-Featherの1人。

立ち入り禁止になり規制線の貼られたドームの前へ1人足を運んでいた。

未だ事故現場の整理は終わっておらず、辺りには献花台も置かれていた。

そこを見ると数多くの花束が置かれているのが目に入る。

でも私はこうして生きている。

あの日、一筋の紅い光が空から差し込み

それがノイズを蹴散らした。

その正体は1人の女の人だった。

殺され掛けた私を助けてくれた人。

優しく微笑み掛けてくれた人。

でもその人の名前は知らない。

彼女がどうなったのかは未だに解らない。

舞が辺りを見ていると携帯が鳴った。

画面には織田と書かれている。

 

 

「…もしもし、天城です。はい、解りました…直ぐ行きます。」

 

 

 

織田怜香。舞と歌奈の2人のマネージャーでグループ当初から参加してくれているうちの1人。あの事件の後も何とか活動出来る様に今も支えてくれている。

それから歩いて駅へ向かうと怜香が赤い車を近くの駐車場に停めて待っていた。

彼女の車の助手席へ座り、ドアを閉める。それから車は程なくして発進した。

 

 

「…舞ちゃん、学校の方はどう?」

 

 

 

怜香は運転しながらふと舞へ問い掛けた。車は道路を走り続けている。

 

 

「え?…まぁ、普通です。」

 

 

 

 

「普通…か。お友達とかは出来た?」

 

 

 

 

「それは…未だ……。」

 

 

 

 

「大丈夫、転入してから日も浅いしこれから出来ると思うわ。それと今日のスケジュールはソロライブの打ち合わせと…後はシングルCDのイベントの打ち合わせ。まぁ…気長にゆっくりやりましょ?」

 

 

車は走り続けると渋滞に嵌ってしまい、止まってしまう。

後ろの車もそれに続いて止まった。

怜香は思わず前を見ながらブツブツ呟いていた。

 

 

「嘘でしょ…こんな所で足止め食らうなんて!早く動きなさいよ…もう!」

 

 

怜香はハンドルを指先でコンコンしながら少し苛立っているのが解った。

舞はふと車の外を覗くと一瞬だが何か聞こえた様な気がした。

 

 

「何…今の?」

 

 

 

そんな事を思っていると漸く車が動き出した。それから舞を乗せた車は打ち合わせ先へ到着し、多少ズレはしたが何とかスケジュール通りに仕事をこなす事が出来た。それからシングルCDに関する打ち合わせが終わった時には既に外は真っ暗だった。怜香と共に打ち合わせ先の建物から出ると舞へ話し掛けて来た。

 

 

 

「じゃあ車取ってくるから此処で待ってて?」

 

 

 

 

「あ、はい。解りました。」

 

 

怜香が姿を消してから舞は外の通りを見ていた。道路を車が行き交い、スーツを着た人だけでなく様々な年代の人が行き交っている。

少しすると爆発音が響き渡った。

舞は驚いて周囲を見回す。路地へ出ると輸送車らしき車が炎に包まれていた。

 

 

「車が…燃えてる…!?」

 

 

舞がその方向を見ていると車の丁度近くの街灯に誰かが立っている。

ふと舞の頭にある記憶が過ぎった。

それはコンサートの時に見た自分を殺そうとした白髪の少女。

あの時の少女が居たのだ。自分の眼前に。服装もあの時と同じ黒いゴスロリそのものだった。

 

 

「あ…ッ、あの時の…!?」

 

 

 

舞はたじろいで後ろへ下がってしまう。

その瞬間、近くで見ていた男性が声を上げた。あの子は化け物だと。その瞬間、男性へ目掛けて何かが突き刺さり、血を吹き出しながら地面へ倒れる。周囲はパニック状態となってしまった。

 

 

「…あった、あった!コレですよコレコレ!私が探していたモノ…!」

 

 

白髪の少女は死体や悲鳴を気にせずスーツケースから何かを取り出す。舞の位置からでは何が入っていたのかは解らない。

少女が顔を上げた途端、舞と目が合った。舞は動揺している様にも見える。

 

 

「おやおやぁ…貴女は確か…あの会場に居た時の…奇遇ですねぇ?」

 

 

 

 

「ねぇッ…貴女は誰なのッ!?どうしてこんな事するの!?」

 

 

舞は思わず彼女へ向けて叫んだ。

自分の胸の内を。

 

 

「私?あぁ…私は平和が嫌いなんですよ。何が平和か…何が相互理解か…クククッ、反吐が出るッ!!」

 

 

白髪の少女はニヤニヤと笑っていた。

舌舐りをすると少女は舞の方へ飛び掛って来る。あの時見た紅く長い爪を振り翳して。

 

 

「我が名はラキア…無惨に神により殺された者達の同胞ッ!!そしてお前は私があの時仕留め損なった獲物だぁあッッ!!」

 

 

 

突然、ザシュッという何かを裂く様な音が響いた。舞が身を守る為に前へ突き出したカバンをラキアが爪で引き裂いたのだ。足元にはバラバラと舞の私物が散らばる。

 

 

「ハズレ…でも、いつまで逃げられる?大人しく私に殺された方が貴女の為だと思いますがねぇ…いひッ、いひひひッ!!」

 

 

舞は笑っているラキアを見て背筋に悪寒が走った。あの時の悪夢がまた目の前に現れた事、そして何より自分を確実に殺しに来たのだと。

 

 

「嫌だぁッ、死にたくないッ…死にたくないッッ!!」

 

 

 

 

「良いですねぇ、良いですねぇ!?その顔、その声…あぁ…堪らない!!貴女はどんな悲鳴を上げて死んでくれるんですか…ぁッ!?」

 

 

ラキアが最後に何かを言い掛けた時、彼女の身体が後ろへ仰け反った。そして離れてという叫び声と共に舞が咄嗟に左側へ避ける。次の瞬間、銃声と共にラキアの身体を無数の光が刺し貫いていった。

まるで踊る様に身体が跳ね回ると彼女はバタリと倒れて動かなくなった。

 

 

「キミ、こっちだ!早く!」

 

 

スーツ姿の男性が舞を手招きする。車を取りに向かった怜香を置いて彼女は駆け寄った。そして2人は共に走って行く。

 

 

「此方、長谷川ッ!女の子一人を現場にて保護!至急迎えを寄越してくれ!」

 

 

長谷川と名乗った男は誰かと通信し

話している。舞は立ち止まると来た方向を振り返っていた。

 

 

「そうだ…怜香さん!怜香さんがまだ!!引き返して下さいッ、早く!」

 

 

 

 

「無茶だッ!!アイツはキミを狙っている、引き返せば殺されるんだぞ!?」

 

 

 

 

「でも…ッ!!」

 

 

舞と長谷川は立ち止まって言い合いになってしまう。それでも長谷川は舞の腕を取り、走り出した。

それから2人は廃墟らしき建物へと逃げ込むのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

長谷川は外部と通信しながら建物の中から外の様子を伺っている。一方の舞は座り込んでしまっていた。長谷川は通信を終えると舞の元へ来る。黒い短髪の髪にサングラスという如何にもな姿をしていた。サングラスを外し、舞へと話し掛けた。

 

 

「…ケガは無いかい?後少しすればR.E.F.R.A.I.Nの機動隊が来てくれるそうだ。だから安心して良い。」

 

 

 

「リフ…レイン…?」

 

 

 

 

「…こういった案件の専門チームさ。ラグナロク事件以降に発足された災害時のエリート部隊の1つ。本来の別組織と個別で作られたのさ。私はそこのエージェント、名前は長谷川。下の名前は辰己だ。」

 

 

彼は長谷川辰己(はせがわたつみ)と名乗った。舞も自分の名を名乗ると2人は息を潜めて救援を待っていた。

その間、舞はこうなる前の経緯を彼へ話し始めた。

 

 

「…そうか、あの化け物と出会ったのは今日が初めてじゃ無いんだな。」

 

 

 

 

「はい…あの人は私を殺し損ねたと言ってました。それで私の事を……。」

 

 

 

 

「…成程、輸送車を襲ったのは単なる向こう側の偶然という事か。アレは我々の研究機関が使用している輸送車で、あの中には秘匿事項の物が積まれている。それを狙ったのかもしれない。」

 

 

 

 

「秘匿事項……ですか。」

 

 

 

 

「あまり公には話せない。…私の任務はその気密物を回収し…ぐぁああッ!?」

 

 

長谷川の左肩を紅く鋭く尖ったモノが刺し貫いていた。血が飛沫し、舞へ微量だが掛かってしまう。

 

 

「長谷川さんッ!?まさか…ッ!!」

 

 

舞が彼の後ろへ目をやる。そこに居たのは先程、撃たれて死んだ筈のラキアだった。

 

 

「…実験体がこの程度で死ぬと思ったら大間違いですよ?流石はパヴァリア…唯では死なない肉体をくれただけの事は有る……!」

 

 

長谷川は無理やり引き抜くと舞を庇う形で振り向いた。

 

 

「貴様…やはりパヴァリア光明結社のッ!!」

 

 

 

 

「はッ…どうせ知った所で貴方達は何も出来ませんがねぇッ!!」

 

 

 

ラキアは右手を突き出すと手刀の様な形へ指を伸ばす。すると再び爪が勢い良く放たれ、2人を突き刺そうとして来た。

 

 

「くッ…!!」

 

 

 

長谷川は舞を押し退け、自身はラキアへ向けて拳銃を発砲する。爪が長谷川の腹部を刺し貫くが同時にラキアの左手にあったスーツケースを彼女の左手ごと撃ち抜いていた。

 

 

「ぐぅッ…だが、一矢報いた……ッ!!」

 

 

長谷川は拳銃を落とすと座り込んで前のめりに倒れてしまう。

息をしてはいるが、非常に危険な状態だった。

 

 

「長谷川…さん?長谷川さんッ、しっかりして下さいッ!長谷川さんッッ!!」

 

 

舞が駆け寄ろうとすると今度は2人の合間を爪が再び斬り裂いた。地面に軽くだが裂け目が生じる。

 

 

「邪魔者は居なくなった…後は心置き無く貴女を殺すだけ。」

 

 

手に付いた血をペロリと舐めるとラキアの紅い瞳が光った。

そして歩みは確実に舞へと向かっている。このままでは殺される。舞はそう思うと震えが止まらない。

腰が抜けてしまい、立つ事すらままならない。

 

 

「あ…ッ、ああ…ッッ…!!」

 

 

舞は恐怖のあまり失禁してしまった。

それはゆっくりと地面を濡らしていくとそこだけ色が変わっていた。

それを見たラキアはペロリと舌を出し、自身の唇を舐め、距離を更に詰める。

 

 

「恐怖のあまりお漏らしですか?ふふッ…可愛らしい……大丈夫、誰にも言いませんよ?だって…貴女はもう此処で死ぬのだから。」

 

 

立ち止まると右手を広げると爪が鋭く伸びる。そしてそれを舞へ向けて横に振り翳そうと構えた。

 

 

「……それでは、さようならッ!!」

 

 

 

 

「嫌ぁあああッッッーー!!!」

 

 

舞は悲鳴を上げた。殺されたくないという思いで。また歌奈と共に舞台に立って共に歌う夢を叶えたいという願いを抱いて今日まで1人で頑張って来た。それなのにそれすら叶えさせてくれない。

 

カミサマは残酷だ。

いつだってそう、上手く行く時もあれば行かない時だって有る。

今日が偶々運が悪かっただけと思えればどれ程良かった事か。

舞は強く目を閉じていた。

そしてか細い声で呟いた。

 

 

「歌奈…ごめん……私…ッ…!!」

 

 

 

その時だった。

何かがぶつかる音が響く。

金属の様な音、そしてそれが擦れる様な音。それからガキィンッという音と共に何かが遠のいた。

 

 

「……大丈夫?」

 

 

 

その一言は聞き覚えがあった。あの時、ライブ会場で聞いた声。それと同じ。

目を開くとそこに居たのは紅い装甲服と黒いマフラーを靡かせた1人の少女。

舞はゆっくりと目を開いた。

 

 

「あの時の…女の人…!?」

 

 

 

 

「貴女は…そっか、また会えた。そして2度目も貴女を助けられた。」

 

 

ゆっくりと少女が此方へ振り向く。その右手には紅い剣が握られていた。

少女は左手を舞へ差し出すと微笑んで見せた。

 

 

「…奏宮颯、それが私の名前。」

 

 

 

 

「颯…さん……。」

 

 

舞はその手を握り締める。その瞬間、再び爪が伸びて2人を襲う。颯は舞と共に飛び退くと前を向く。

 

 

「またシンフォギア!!でもまぁ…2人纏めて殺せると思えばッ!!」

 

 

 

 

「…舞ちゃん、コレを。」

 

 

颯は舞を見ずに何かを手渡す。それは紅い結晶の様な物。まるでネックレスの様だった。舞は不思議そうにそれを眺めている。

 

 

「コレは…?」

 

 

 

 

「貴女も私と同じなら…きっと覚醒させられる。大丈夫、大事なのは自分の事を信じる事…そしてもう1つ。」

 

 

ふわりと風が一瞬だけ吹いた。

颯は少しだけ舞の方を見ると一言だけ呟いた。

 

 

「……胸の歌を信じる事。」

 

 

颯はラキアへ斬り掛かった。

ラキアもそれに応戦する形へもつれ込む。

舞は結晶体を握り締め、目を閉じた。

風が吹き渡ると舞の髪が靡く。

途端に歌奈の笑顔と声が浮かんで来た。

 

 

「私はまた大きなステージで歌奈と一緒に歌うんだ、絶対に。だから私は歌奈の事をずっと待ってる。また一緒に笑ったり、泣いたり、怒ったり出来る日が来るその日まで…!!」

 

 

 

舞は目を開くと真っ直ぐ前を見つめる。

 

 

 

「私の…私の歌を聞きなさいッッ!!!」

 

 

 

右手を高く掲げると、白い光が舞を包み込んだ。そして彼女は更にこう続ける。

 

 

「Trgen-all-amenosakahoko-tronッ!!」

 

 

彼女の着ていた衣服が全て消滅、代わりに白いインナーが彼女の身体、手足を覆う。それから腰周りに白いスカートが現れれば今度は肩に小型の装甲が付着する。今度は左右の耳を覆う様にヘッドホン型の装甲が現れ、菱形の固定具が頭頂部から左右に出現した。

右手には白銀の刃を持つ長い槍を手にするとそれを回して構えて見せた。

長い紺色の髪も綺麗に束ねられている。

舞の姿は完璧に変化していたのだ。

 

SG-x01、アメノサカホコ。

それは未だ誰も知らないシンフォギアの姿でもあった。

辺りには白い羽根が舞い散っている。

それは新たなる物語の始まりを示唆していた。

誰も知らない、知る由もない、もう1つの物語の幕開けを。

 

 

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