『貰った』
そんな言葉が聞こえたのは、ゲキバトルの世界に降り立って3秒後のことだった。
降り立ったのは、風がそよそよと心地いい花畑。赤、白、黄色……カラフルな花々が一面に広がっており東京ドーム何個分かも分からぬ敷地。奥には山が見える。スイスの原っぱのようなイメージを持った、そんなステージだ。
『おっと!?』
相手の振りかぶったダガーが、俺の首根っこめがけて飛んでくる。
すんでの所で、俺は上体を大きく後ろに反らして、イナバウアー的回避を成功させる。花の香りが鼻腔にただよって刺さり、こんな場所で殺し合いかよ、と心の中で毒づく。
そのまま何回かバク宙して、背負った杖を取り出して構える。が、まだエネルギーが溜まっていない。
『こんなにすぐって、そりゃないぜ!』
俺がそう軽い口を叩くと、花咲川の制服を着たカタブツっぽいロングヘアーが『本物の戦場でも同じことを口にするか!!』と一喝。
どこぞのバスケ選手が子供相手に本気を出して負かした時みたいなこと言うなッ。状況が違うだろう。
『覚悟!!』
『エネルギー不足だが、やるしか……ないッ!』
素早くそのまま長めの直剣でこちらに向かってくる相手。杖を前に構え、急場凌ぎの“ファンシー・P・I・N・K・タイフーン”を放とうとする。
『“二刀流・右肩ノ蝶”』
その間に割り込んだのは、一対の日本刀。そして、我が高校の主戦力。
彼自身でも認識できないほどの超スピードで移動する居合技、“二刀流・右肩ノ蝶”は、しばしばこういった移動にも使われるんだとか。
『花火!』
『間に合ってよかったです、先輩』
直剣を弾き、ひらりと軽やかに着地する花火は、花咲川の生徒に向かって『いい剣さばきしてるじゃん』と笑う。
『ただ、日本じゃあ二番目だ』
余計な一言も添えて。
彼は日本刀“千本桜”と“桜ノ雨”を腰の鞘に納刀し、ニヤニヤと相手を見つめる。
花咲川の茶色の制服を纏う女子は、剣を握る手が少しだけ震えている。動揺しているな。
『じ、じゃあ一番は誰なんだッ……?』
『ヒュゥ〜ゥ……チッチッチ♡』
人差し指を振って舌を鳴らす花火は、その指をそのまま自分に向ける。
俺こそナンバーワン。そう言いたげに、花火は両腰の鞘から剣を抜く。
『星々煌めくこの舞台、ドカンと一発上げやしょう。たったひとつのこの命、先輩のための盾となろうと……』
胸にトントンと握り拳を当て、その手を前に、正拳突きのように突き出す。
『虹ヶ咲学園24期生、穂村花火!! 演劇人として、死んでみせるッ!!!』
持ち前のバカ声量が、花畑に響き渡る。
『“二刀流・
ゆら、ゆら。そんな足取りで、彼は鞘からゆっくりと抜刀する。その刀身は、今にも溶けそうなほどに赤くなっていた。
相手はようやく彼を穂村花火と認識したようで、『くそっ、復活していたか……聞いてないぞ……!』と臨戦態勢に入る。
あの“二刀流・紛熱飛”とやらは、振動エネルギーを熱エネルギーに変えて、燃えこそしないもののとんでもない熱を持った刀を生み出す技。振動のおかげでチェンソーのような役回りも果たしているんだっけか。
『……皆殺しでいい
俺にキメ顔でそう言って、花火は相手の方に向かって走り出した。あいつ、関東大会終わってから変な方言出てるな。
相手の増援に来たであろう花咲川の生徒を、花火は次々と切り捨てていく。首を的確に狙い、時には相手の防御を熱で溶かす。
しめた、と俺がエネルギーをチャージしている間に、花火はあらかたの生徒を倒してしまっていた。傷ひとつつけられず。
唯一生き残っている、最初にケンカを売ってきたダガー野郎も、傷が少ない点からして相当な実力者ではあるのだろうが、体力の限界なのだろうか、激しい呼吸と震える手がバレバレだ。
だが。
『ずっとムカついてたんだよなぁ〜ッ』
突然構えを解き、動きを止めた花火は、自分の肩に片方の刀を置く。超高熱であるはずの日本刀を、だ。
『前作の都大会……俺が降りても、何事も無かったのように進んだ。俺がいてもいなくても変わらねーって、そう言いたいかのように』
『ぜ、前作……?』
相手は、極めて私的な花火の愚痴に困惑を隠せていない。日本刀の熱が人の皮膚を、細胞を焼く生々しい匂いが一面に漂う。
周りで怒号や叫び声、断末魔や武器どうしのぶつかり合う音の聞こえる中、快晴の空を見上げ、花火は黙り込む。騒がしいゲキバトル世界の中で、そこだけが静かだった。
『俺……舞台にしか居場所が無いのにな。ここでまで必要とされなくなったらさ……』
そんなに強いのに、どこで卑屈になっているんだ。めんどくさい陰キャの典型的な例だぞ。
『花火ッ! 俺は、お前が……』
『怒りで超サイヤ人は目覚める!!』
俺は、お前がいた方が楽しい。皆も絶対にそうだ! そんな俺の言葉を途中で遮り、花火は叫ぶ。
両手の日本刀どうしを当て、カチカチと鳴らし、息を荒らげて。
『アツくキメてやろーじゃん?』
先程までの、力の抜けた花火は一瞬で居なくなっていた。
そこにいたのは、ゾクゾクと全身を震わせながらも、ニヤリと不気味に笑う戦闘狂。存在証明に魂を注ぐキラーマシンだ。
まるでクスリでもやってるような、そんな目には、確かに炎が宿っていた。
彼が指を鳴らしてかけた曲は。
『さあ!! なんでもかんでも、パーッとやろうぜェ!!』
花火の刀に
その炎は、一本の刀から四頭ずつ、計八頭の龍となって舞い上がる。
『“
炎の龍は、花火の『いっけェェェェッッ』という合図と共に、相手に向かって伸びていく。
ファンネルのように自動攻撃が飛んでくる状況に、相手も命からがら、龍の噛みつきを避けることしかできない模様。
『お前ら、無責任でやらかしちまおうぜッ!!! この世は無責任にやれた奴が楽しめるんだよォ!!!』
ギャハハと笑いながら、花火は龍を操る。どうやってるんだ、それ。相当なパッションとイマジネーションがないと無理なはずだが、それをこんな序盤から。
怒りのパワーってやつもあるのかね。台本のバフだけではここまでにはならないはずだ。
痺れを切らした花火が、八頭の龍を一斉に相手に向かって襲わせる。
花咲川の生徒は、大きな舌打ちをしてから、ギャグみたいな大きさの爆弾を出す。黒く丸い、導火線の飛び出た爆弾のパブリックイメージにかなり近い爆弾。
それに炎の龍が触れたとたん、一瞬で導火線が燃える。
大爆発! 爆煙にして爆炎を伴ったその発破の如し爆弾の衝撃に、俺は思わず目を腕で覆う。砂埃を浴びながら、必死に前を見ると、こちらに向かって吹っ飛ばされる。花火がいた。
『麻琴先輩!! 足場!!』
『無茶言うなッ』
足場って。どうすればいいんだ。恐らく、苦肉の策として爆弾で自分ごと吹っ飛ばして、逃げた相手を追いたいのだろう。
ならこちらの方が早い。まったく、今回最初に使う技が、後輩を吹っ飛ばすためとはな。
『“春の地獄”ッッ』
爆風と煤のみを出す技ではあるが、こちらに向かって飛んでくる花火を飛ばすのには適している。普通は目くらましや、今のような爆風による吹っ飛び退避などで使う技だ。
『ギャハハハ!!』
『……ジェットだな、こりゃ』
ミサイルのように飛んでいく花火を見上げ、そちらに向かって走り出す。
砂埃が晴れ、開けたところに来たあたりで気づいた。花火と花咲川生徒、アイツら吹っ飛んでいる空中で剣を交えてやがる。あのままだと落ちるぞ。
『まったく……どうして花火もバラダギ先輩も、こう俺を頼るのか……』
走りながらそうつぶやいていると、『それだけ頼りになるってことさ』と横から。
見ると、部長がいた。さらには柊やバラダギ先輩も。
『早めに合流できたね。雑兵、ちゃちゃっと片付けようか』
『ああ、さっき強めの雑兵に花火が絡まれて……』
『あらっ? アレがそうかしら』
『アイツ、さては深追いしたな……』
いつの間にか出てきた麗赤は、空中で鍔迫り合いをしている様子がおかしいのかケラケラと笑い、バラダギ先輩は一般的なゲキバトルの定説的戦い方、セオリーに反する戦い方に呆れている(アンタも大概だぞ)。
案の定、鍔迫り合いをしていた2人は地面に衝突。
すぐに起き上がったのは、花咲川の生徒の方だった。よくもやってくれたな、と小さくつぶやき、ギリギリとダガーを握りしめて投げる構えを取る。
地面に大の字になった花火は、目だけをぱちりと覚まし、『いってえなぁ』と言いながらのそのそ立ち上がる。
寝起きなんじゃあないかってくらいにリラックスしたその姿勢は、次第に臨戦態勢へと変わっていく。“千本桜”だけを鞘に納め、“桜ノ雨”を両手で持ち、足を肩幅のり少し大きく広げる。
身体を相手に向かって横向きにし、手は耳の横へ。少しへっぴり腰にも見えるその姿勢は、どこかで見覚えがあった。
『来いよッ。全力ホームランでストライクしてやるぜ』
それは不器用ながらも、彼なりのバッティングフォームであったようだ。下手すぎて気づけねえって。ゴルフにもバドミントンにも見える構えをして、彼は不敵に笑う。
『少年、多分野球でストライクはダメなやつだ』
『えっ、ボウリングと違うんですか。ややこしいな』
ちげえだろ。
『ま、いいよ。打ち返せばいいんだろ? 満月大根切りだ!!』
ドラベースは知ってるのに、なんで野球の基本ルールは知らないんだ。彼はずっこけそうになる周りを気にもせず、マイペースに『バットはこれでいいか……じゃ、“叉紋”ッ!』と言う。
花火が手を掲げると、野球用のヘルメットが出てくる。それを被り、彼はホームラン予告の構えを取って相手を煽る。
『さて……ほら、投げて来いよ!! 俺を誰だと思ってやがる!!』
『だ……誰だって、そりゃ穂村の……なあ?』
うろたえる相手。自分を『苗字』で見られるのが嫌いな花火は舌打ちをして、『エンタメの無ェ答えだな』とガッカリする。イラついてもいた。
もういい、と彼は言葉を遮るように叫ぶ。
すると。
『いざ掴めェッッ!!! ナンバー・ワ〜〜〜〜〜〜〜〜ンッッッ!!!』
なッ。
俺の口から、勝手に言葉が出てきた。
『ワン・ツー・スリー・フォー!!!』
どういうことだ。周りもパニックになりながら、『彼の応援』をしている。
『全国!!』
『日本!!』
周りも俺と同じ状況になっている、ということだ。
俺は、いや、俺たちは一斉に手を上に、手拍子をしながら曲に対しての合いの手を入れ始めた。“自分の意志とは関係なく”、だ。
『世界!!』
所属高校に関係なく、花火と相手以外の全員が花火に向かって声援を送る。
相手は、この洗脳されたとも呼べてしまうような不気味な集団に囲まれている、かつ完全アウェーである状況に、足が震えているようだった。
『地球!!』
しかし、これじゃあまるで……野球の応援ではないか。運動部が嫌いな彼らしくもない。何か元ネタがあるのか?
『宇宙!!』
いや、そうか。これこそ、花火の“舞台の王になれる器”たる所以。
『無責任ーッ!!』
舞台の王とは普通、観客の感情を操ることでなるものである。泣かせ、怒らせ、笑わせる。それこそが舞台に立ち、思いのままに観客の感情を制する、王。
しかし彼の場合は、敵の高校でさえ、同じ舞台に立っている者でさえ、そのアツい演技によって魅力する。独りよがりで、欲張りで、出たがりな王。それが穂村花火という人間だ……と、部長が言っていた。
俺にはそこまでする理由もよく分からない。ただ勝ちたい相手に勝てればいい、くらいの認識を持ってゲキバトルに臨んでいた。
が、このエゴだらけの奴らを、イマジネーションでねじ伏せ、あろうことか応援までさせている。少なくとも、その実力は本物だ。
よく見ると柊の顔は少し呆れ気味で、バラダギ先輩は口がへの字にひん曲がっていた。不本意な奴らまで、最終的には思い通りにしてしまう。天性の演才を俺たちは一方的に見せつけられていた。
『ギャハ……☆』
お前らは全員、俺の応援団に過ぎんッ。そう言わんばかりに花火は堪えきれなくなった笑いを漏らし、刀を横なぎに大きく振る。
『いッちッだッいッよぉぉおおおおおおおッッッ』
快音! 文字通りの火の玉ストレートを跳ね返すと、刀から心地よい音が鳴る。
そして、彼はニヤリと口角を上げ、『“一刀流・抜錨”』とつぶやく。すると、相手の首が火の玉と共に飛んでいく。俺らはそれを眺めると同時に、首が動くことに気づいた。花火の応援から解放された。
『文化部は暗いだなんて!! いつまでも言われてる場合じゃあねーだろォ!!?』
そして、エゴまみれの演者共が、花火の言葉を聞いて一気に火がついた。
文化部。その立場上、圧倒的に運動部よりも目を向けられる回数は少なく、こと部費や、試合の一般公開においても必要以上の供給をなされる運動部に比べ、文化部は。
文化部は。文化部だって。文化部こそが。
『なんでもかんでも!!! やってやろうぜえええええええええッ!!!』
鬨の声が上がる。大勢がそれぞれぶつかり合い、剣戟の音、銃声、響く殴打。文化部の意地と矜恃を、その武器にこめて、首を狙い合うのだ。
ああ、いつものゲキバトルが、今、真に始まったのだ。先輩の引退試合という『春葬』の舞台の性質もあり、暗くなっていた皆の顔が、一気に輝き、ギラつき出したのを見て、俺は涙ぐむ。
『…………』
『どしたの、麻琴少年』
『後輩に、泣かされそうだ』
『……そうなるのも、全ては花火少年のアツさに由来している』
味方にまで斬りかかりかねない、鬼神というよりも破壊神の如き戦いぶり。しかし、その中には演劇を楽しむという無邪気さがあった。
純粋だからこその、練られた戦意。敵味方関係なくアツくさせようとする熱意。俺は彼に敬意を表するねッ。
『見てみな、あの真っ直ぐな瞳……ホントに少年みたいじゃあないか』
そう言った直後、花火がこちらに飛んできて『部長、あいつ硬いですッ』と言う。『おっけ。任せな』と言い、部長は背中の純白の羽、“
あいつ、というのを見てみると、紙ペラで作った式神でバリアを張る羽丘の学生がいた。妖術や陰陽道の使い手なのか?
彼女は息も絶え絶え、もはや防戦しかできないのだろう、後ろにある風車にもたれかかっている。
部長は両手の刀を上に掲げた花火に抱きつき、ふわっと浮遊。そしてクルクルと回転し、そのスピードを増しながらホバリングする。
『花火少年!』
『部長!!』
『行くぞ!!』
『行きますよ!!』
『『うおおおおおおおおおッッ』』
90度回転し、高速で回るふたりの刀の切っ先は、羽丘の彼女の方に向く。
『あれって……!?』
『……ドリルだ』
麗赤が敵の動きを止め、その瞬間にバラダギ先輩が首を切る。完璧なコンビネーション。そんな戦法を繰り広げる最中、麗紅を含めた3人は、異様な駆動音とも呼べる飛行音にたまらずこちらを見る。
なるほど、刀を回転させてドリルにする戦法というわけか。ドリルは全てを貫くからな。俺はグレンラガンを見たから分かるぞ。
ふたりに不意打ちをしようとする輩を、基本技のビームである“天使のスピード”で撃退しつつ、俺はバリアをドリルが貫くのを見守る。
はずだった。
『シェイクスピア四大喜劇、そのひとつ。“ヴェニスの商人”』
どこからともなく、そんな声が聞こえる。
刹那、白色。視界が全て真っ白になる。きわめて強い光が、上空から落ちてきたのだ。ちょうど、風車の方から。
少しだけ見えたんだよ。『お前』が風車の上にいたのが。高所恐怖症が無理してんじゃねえ。
『間に合ってよかったよ、子猫ちゃん』
視力が回復した時には、死んではいないものの、力尽きた羽丘の生徒を抱きかかえる白きタキシード。
派手な装飾に加えて、左の腰にたずさえたレイピア。そして、こちらを見つめる紅の瞳。
瀬田薫。俺の良き友人にして、演劇のライバルだ。
『羽丘……そうか、あなたがいる高校だったな……後輩さんですか、その子』
『ああ。……おや、君は……』
動きを止めた部長から離れ、花火は薫に近づく。
『お会いできて光栄です。瀬田薫さん』
『ご存知なのかい。嬉しいね、穂村花火くん』
『こちらこそ』
穏やかな挨拶。しかし、10センチほどしか間が空いていないくらいに近づいているふたりは、ほぼ同時に腰に手をやる。
達人同士の居合勝負。もし鳥が鳴いたり、タンブルウィードが転がったりするくらいの些細なキッカケさえあれば、ふたりはその武器を抜いてぶつかり合っていただろう。
思わず周囲も戦いをやめるほどの、緊張の瞬間。俺は唾をごくりと飲み、どちらも簡単には負けてくれるなよ、と願う。
『邪魔』
『っ……!』
『花火!?』
だが、その瞬間は来なかった。
割り込みの多いゲキバトル、柔軟に対応せねばならないとはいえ、この2人の勝負に割って入るのはなかなか空気が読めないやつだ。
刃牙の最大トーナメント編に出てくるローランド・イスタスのように、二人の間を本当に割って通る男が一人。その後ろについていく、踊るようにルンルンと歩く女が一人。
花火はカチンときてしまったのか、『アツくなってきたじゃねえかァ!!』と二人に向かって吠える。
『声がデカくてかなわん……穂村花火だな?』
『いかにも!!』
静かに花火を睨む男子生徒。うってかわって、女子生徒は上機嫌にその場を走り回り、『ここにいる皆、虹ヶ咲と羽丘よね!?』と俺に聞いてくる。
『誰だよ、こいつ』
バラダギ先輩もさすがに困惑している。俺は彼女の質問には答えずに、バラダギ先輩と共にいつでも攻撃ができるよう身構える。
『名前は分かりません。ただ……』
麗紅は俺と背中を合わせる。周りを囲んでいる生徒が、ほぼほぼこの二人の高校であることに気づいたのだ。何故もっと早く気づけなかったんだ、俺のバカッ。
『主戦力をまとめて葬ろうって算段かい?』
部長は冷静に周りを見回し、『ううむ』と腕を組んで悩む。バラダギ先輩も動揺、俺の隣で冷静につぶやく。
『……麻琴』
『ええ……あの仰々しい校章。あいつら、『成田学園』だ』
紫苑女学院と同じくらいの変人割合を誇るものの、実力は折り紙付き。東京の高校演劇部で言えば、五本の指には確実に入る実力を持つ、『成田学園』。
『知ってるの? じゃあ手短にっ』
『
『
その男女は名乗りを早々に終えたかと思えば、同時に“叉紋”をする。
『『“叉紋”!』』
『……“プライマルアクセプター”』
『“アイプリブレス”!!』
二人とも、腕輪のようなものを出したぞ。ひとつはデカイ宝石がついたようなもの、もうひとつはパステルなピンクが目立つ小さなもの……。
『皆さん!! 二人から離れてくださいッ!!』
花火はそれを腕に巻き付けるのを見た途端、大声でこちらに呼びかける。
何かのアニメが元ネタか。そう思った時には、既に二人は大きく息を吸っていた。
『アクセス、フラッシュ』
『アイプリバース・イン!!』
俺は柊とバラダギ先輩の前に立ち、ドーム型防御魔法“瞬間、春が香る。”を展開。部長は花火と薫を抱えて飛ぶ。
間一髪、俺らがその全てを終えた後に、山科と水無月は発光し出す。
そこにいたのは、光の巨人を彷彿とさせるような拳をあげたポーズの電光超人と、黒から派手な髪色に変わったアイドルにしてプリンセス。
『ベイビ・ドン・ドン……!』
『アイプリッ!! ♡』
最近の成田の台本担当は、『社会風刺的かつ前衛的な台本』が得意らしい。
つまりは無属性強化と叉紋強化が、主に得られるバフということだ。どうりでこんなめちゃくちゃな“
“叉紋創着”は、叉紋したものを身にまとい、一体となること。特段たいそうなものでもない、ただの“叉紋”を細分化した際の一種だが、これをやりたがる奴はほとんどいない。
理由はたったひとつ。ゲキバトルが終わった後の、精神への影響が大きすぎるのだ。ゲキバトルは何でもありだ。ただ、何でもやりすぎると、現実世界での感覚は狂ってしまう。
ALOのやりすぎで階段から落ちた桐々谷直葉のように、その現実味のありすぎる、現実味のない体験は、人の精神を狂わせる。現実には羽もなければセクレトもいないし、まめひなたのように小さくもなれない。
ゲームをしたことのない諸氏に向けて例えるならば、宇宙飛行士が最適だろう。地球に帰ってきた宇宙飛行士は、無重力に慣れすぎており、コップやペンを空中に置いてしまう。
ようは、そういう感覚が、神経が、自分の中の常識が狂ってしまうのだ。
『アクセスコード、グリッドマンキャリバー』
『コーデ・チェンジ・ザ・ライド!! 行こう、ポッピンハートバズリウムッ!!』
彼のように、巨大になってしまえば。
彼女くらい、派手な変身をすれば。
後々、現実でも自分はこうなのだという思い込みに駆られてしまう。そしてすり減りゆく神経……。
『ヒーローとアイドル……まるでニチアサだな』
『円谷は土曜日だ』
『アイプリもニチアサってよりニチヒル?』
『細かいことを気にするなあ、オタクだから』
バカデカい金色の刀を召喚した巨人と、ネオンのように光るドレスに身を包んだアイドル──何やら巨大な浮遊ステージに乗っている──は、こちらを見下ろして笑う。
『そんなに褒めないでよ、フフ……』
『さて、独壇場といこうじゃあないか』
『このエゴイストたちめ』