氷室古織の分裂 mottoⅢ   作:苗根杏

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#7 その向こうへ

 通常、ゲキバトル世界で睡眠をするということは有り得ない。

 

 現実世界の時間を何百倍にも拡大させ、何日でも戦うことができるこの世界だが、寝るというのは無意識になるということ。演じることすらしないということだ。

 

 そんな暇は現実の演劇には無い。ただ立っているだけでも、頭からつま先まで気を配らねばならないのが演劇。寝る演技だったとて、頭の中では他の人のセリフや照明に集中しつつ、本当に寝たのかと思われるくらいの演技をしている。

 

 が、気絶はある。現実世界において一瞬、一秒未満に相当する、短期間の気絶だ。俺も何回か経験した事があるが、頸を斬られなければそのまま復帰できた。今回もそれか。

 

 目を開ければ、かおちゃんが覗き込んでいた。ああ、俺はどうやら大ダメージを負って気絶していたらしい。脇腹が痛い。左腕の感覚もない。こりゃ無くなってるな。

 気が狂いそうなほど痛む身体を起こし、俺は。

 

『夢を、見た』

『夢……?』

 

 俺はウトウトって感じの脳で、必死に言葉をひねり出す。

 

『夢に……姉ちゃんが、いたんだ……今は、演劇を引退した姉ちゃんが……』

麻美(まみ)さん、だね』

 

 そうだ、かおちゃん。部長が1年の頃に部にいた、俺の姉。しかも、俺のよく知る頃の、それこそ部にいた頃のような姉だった。

 

『姉ちゃんは『どこに行くの』って聞くもんだから、ついていく、って言った。姉ちゃんと、もう一度いっしょに暮らしたくて……』

 

 今の姉ちゃんは、あの頃とは全てが違う。俺の知る王子様系演者ってのは、部長でもかおちゃんでもなく、あの頃の姉ちゃんだった。

 

『その時の姉ちゃんと、演劇がしたくて。そしたら、さ。『お前は舞台とそうでない場所、どちらかを選ぶんだよ。お前の意思で、お前が選ぶんだ』、って』

 

 パンダハウスとかいう、部長の母さんが管理人の、変な名前の木造アパートで同人誌を描いている姉ちゃんだって好きだ。

 

 繊細なタッチで、さらに繊細なエミュとカプを描き、壁サーを張る姉ちゃんも好きだ。俺の誇りだ。

 

 俺の話を聞いた部長は、口をおさえて『あの頃の麻美さんだ』とつぶやく。

 

『え?』

『彼が見たのはおそらく、今の麻美さんとは違う。私の……原点の麻美さんだ』

『……はい。あの頃の、姉ちゃんです』

 

 部長と俺の意見は、おそらく同じだ。あの頃の王子様みたいな姉ちゃんは、今よりもずっと輝いていた。俺は思わず、そんな姉ちゃんについていきそうになった。

 

『俺は……悩んだ。悩んで、悩み抜いて、まだ舞台に立つことを選んだ』

 

 でも今になって分かったよ。あれは姉ちゃんじゃあない。悪魔の誘いだったんだ。ゲキバトル世界における再起不能という、敗北を意味する悪魔の。

 

 あそこで着いていっていたならば、俺はこの世界から消えていた。

 

『そんで気がついたら、かおちゃんがいた』

 

 笑いかける俺に、かおちゃんは部長と俺の顔を交互に見て言う。そして、部長も複雑そうな面持ちで。

 

『お姉さんの件……私も、聞いたことがある』

『大土麻美さん、だよね。3年の前半で引退した……』

 

 柊たちがどよめく中、俺のシャツの襟、その後ろの方を引っ掴んだのは、バラダギ先輩だった。

 

 掴み方も相まって、悪さをした猫のような気分になる俺の背中を、彼は押す。

 

『お前の姉さんが出られなかった引退試合、この『春葬』。そこに今、俺たちは立っている』

『先輩……』

『呑気に夢なんか見てんじゃあないぞ、バカ麻琴』

 

 ホント、この人は不器用だな。そんな強い言葉を使いつつ、俺の背中を押す手は誰よりも優しく、暖かいじゃあないか。

 

『はい!!』

 

 振り向いて彼の顔を見ると、ズビズビ泣いてた。光良さんと一緒に。台無しだよ。泣かせるつもりはなかったんだけどな。

 

 気づけば片方だけになっている腕で、俺は落ちている杖を掴む。そして、俺の身体を支えるかおちゃんは、俺としっかり目を合わせて言う。

 

『まーちゃん、生きていてくれてありがとう……本当に、いつもありがとう』

『とうとう大鶴肥満だな』

 

 花火が、まーちゃんという響きに覚えがある人のリアクションをする。そうだよな、今のかおちゃん、完全に漫才コント入る時の大鶴肥満だったよな。

 

 俺とかおちゃんは、息を合わせて頷く。

 

『またやるか? ……“合体”』

『そうだね。やれるかい』

『愚問だ』

 

 吼える古織だったものに向かい、俺たちは歩き始める。

 

『…………ふ〜〜ん』

 

 しばらく間を置いて、俺らの後についてくる足音。柊だった。

 

 柊は俺とかおちゃんの間に入るように顔を突っ込む。

 

『僕とはしないの?』

『ん? 何を?』

 

 言わせる気? とばかりに、柊はため息をつく。

 

『何をって、“合体”だよ』

『そうだそうだ〜』

 

 麗黄も続いて『多ければ多いほどいいだろ〜』と、柊に同調する。

 

『ええ〜、でもこういうのは事前にイマジネーションを練ってだな……』

『前はいきなり“合体”してた』

『いきなりだからDAOKOさんがそのまんま出てきちゃったんだろ』

 

 その言葉に、ヘトヘトの水無月と山科は初耳の事実に驚愕する。

 

『え、そのまんま出したの? ヤバいわね』

『イマジネーションとは、本当に何でもありなんだな。“叉紋”で何でも出す戦法の、俺ら成田生が言うのもなんだが……』

 

 ヤバいよ、間違いなく。ハーメルンの規約的に危ないんだぞ、アレ。

 

 気づけば、俺の右側で柊とかおちゃんがバチバチと視線だけで火花を散らしている。

 

 やがてその視線はこちらに向くことになる。

 

『私だけ……と、言ってくれたね……?』

 

 言ってねえよ。

 

『僕とは……してくれないの……?』

 

 しないとも言ってねえ。

 

 くそっ、起き抜けに修羅場みたいにするなよな。麗黄は俺をつんつくつんと指でつついて笑う。

 

『大変だねぃ〜、主人公も』

『ま、仕方ない』

 

 花火にボコボコにされて、興奮してる古織を前にしてやることかよ。

 

 それこそ、こういう主人公っぽいのは花火に任せていたんだが、そのツケが回ってきたみたいだな。

 

 返事を曖昧にするのも考えものだ。ここはひとつ。

 

『アクエリオン方式でいこう』

『!?』

『あく……?』

 

 遅れて俺の言葉の意味を理解したかおちゃんが、にっこりと頷く。これが一番丸いだろ? 

 

『そうだね、まーちゃん。一輪の花だけでは、春を彩れない……みんなで行こう』

『みんな……で……』

 

 いまいち真意を掴みかねている柊の背中を、俺は片方だけの手で叩く。

 

『三人で行くぞ、柊』

『えっ!! 三体合体!? しかも薫サマともいっしょ!! やったーッ!!』

 

 一気にイキイキとし始めた柊と共に、俺らは指を鳴らし、足並みを揃えて古織の前に止まる。

 

 よーやく、スイッチ入ってきたところだ。

 

 

梅田サイファー

『スイッチ〜BE THE MONSTERR』

from THE FIRST TAKE

 

 

『全ては俺が俺であるため、俺が後悔しないため。学校のため、我が友のため、ここで死ぬのは早すぎる!!』

『無数の人格、ひとつの目的。必ずお前をぶっ倒す!! 精神攻撃かましてやるよ! 卑怯もラッキョウもバッチコイ!!』

『どこかで会ったかな? 改めて自己紹介を。シェイクスピアの使者にして、天賦の演才を持つ者。怖がらないで、キミの心だってすぐに私を気に入るはずだ』

 

 ゲキバトル、こと、こういった正式な大会の場において、こういう名乗りってのは気分をアゲるためだけのモノじゃあない。覚悟を決めるためだけのモノじゃあないんだ。

 

『虹ヶ咲学園23期生、大土麻琴!!! 強く……なるためにッ!!!』

『虹ヶ咲学園23期生!! 柊麗紅!! 僕たちは、生きているんだッ!!!』

『羽丘女子学園50期生……瀬田薫。シャル・ウィー・ダンス?』

 

 自分のイマジネーションに興を乗せ、“演劇人のオーラ”によって圧を発し、相手に立ち向かうためにあるモノなんだぜ。

 

 古織ちゃん、もう少し耐えてくれ。今、助けてやるからな。

 

『山を削り、海を割り!! そのビームは空をも穿つッ!! “HANAKO”おおおおお!!』

『お願い……今度は麻琴たちのために力を貸してッ!! “ビッグ麗赤”ぁぁぁッ!!』

『シェイクスピア四大悲劇、その一+二+三+四!! “断割(だんさく)マクベス”……ッ!!!』

 

 三体の巨人が“叉紋”され、その姿はみるみるうちに光り輝く。

 

『“最極叉紋(ウルティメイト・サモン)”ッッ!!!』

 

 それらは俺たちの掛け声と共に、完全に光の塊になり、ひとつに纏まる。そして、また3つに分割される。3人分の力を得たひとりひとりの巨人が3体……と言った方がいいか。

 

 ひとりは、まさしくリーダーの風格を持つ、沖縄の風をまといし巨人。

 

 ひとりは、がっちりとした体格で毛深い、ポリバケツのような巨人。

 

 そしてひとりは、竜の名を冠しながらも、帽子の似合う心優しき巨人。

 

 赤い衣装を身につけ、彼らは両手を手刀のようにして掲げる。

 

『や、やりやがったな……お前……』

『聞いてないよぉ!』

『またまんまのやつ来ちゃった!』

『やれやれね』

 

 その手刀は、古織に向けられる。全国民が聞いた事のある、あの掛け声と共に。

 

『あれはまさしく……ダチョウ……ッ!!!』

『『『ヤァァァ────ーッッッ!!!!!』』』

 

 “ヒゴ”、“テラカド”、“ウエシマ”。三体の巨人は、ファイティングポーズにも見えるような構えをとり、古織に向かって吼える。

 

 ウルトラマンティガ・ダイナ・ガイアのようにも見えてくるな。さすがベテラン、いや、その上の大ベテラン。かっこいいぜ。

 

 じゃなくて。

 

『まーた呼び出しやがった……今度は芸人か』

 

 まーた呼び出しちゃったよ。

 

 三体の巨人は、古織と取っ組み合う。まさにウルトラシリーズで、怪獣プロレスと形容されるそれだ。

 

 そして、その裏でもう一人。巨人を見て不敵に笑った、小さき勇者が吠えた。

 

『てめーらァ!!! いつまでゴタゴタ言ってやがるッ!!!』

『!?』

 

 古織の裏では、バラダギ先輩と花火が戦っている中、海老原、ニジガクをはじめとした演者たちが混乱の渦中にいた。

 

 言い争いに発展したそれは、もはやバラダギ先輩のバカ声量でなければ、治まることはなかっただろう。

 

『全員で協力!! 集団スポーツである演劇の、基礎中の基礎だろう!!』

 

 そんな彼の姿を見て、笑う演者がもう一人。息を切らしてバラダギ先輩の肩に手を乗せたのは、穂村花火だった。

 

『フフ……ま、原田木先輩の言う通りですよ。仲良くやりましょうや』

『原田木だかバラダギだか知らんがッ! この状況では!』

 

 名もなき演者がそう言うのを手でさえぎり、花火は印籠のごとき言葉を繰り出す。

 

『あの第三世代史に残る大暴走をおさめた『都大会の英雄』の頼みくらい、素直に聞きましょ?』

 

 それを聞いた演者たちは、どよめき、狼狽える。花火が口にしたのは、第三世代始まって以来の未曾有の事件、目撃者も限られている『柊麗赤の変』のことだった。

 

『お前、まさか!!』

『柊にトドメをさし、丸1日に相当する時間、ゲキバトルで負けなかったと言われる……』

『……はい?』

 

 はい? じゃないよ。バラダギ先輩。ピンと来てないのあんただけだよ。

 

『あの!! 『お台場のバラダギ山神』!!』

『…………』

 

 先輩は、本人の目の届かないところで肥大化していった伝承、口コミにて英雄になったことを、今初めて知ったようだった。

 

 実際、彼がトドメをさしたのは本当だ。しかし、あの場でトドメまで持っていった俺や薫、部長よりもバラダギ先輩の方が知名度は高そうである。

 

『そうそう、そのバラダギさんですよ』

『気を殺していたのか。どうりで気づけない』

『先輩!! ご無礼を許して頂きたい!!』

 

 先輩は冷や汗をかきながら、へっぴり腰で花火を見る。

 

『おい……花火』

『まあまあ、いいじゃないですか。さ、まとめちゃってください、山神さん』

 

 頭の中が混乱しているであろう中、バラダギ先輩は目をぐるぐるさせながら、どうにでもなれとばかりに叫ぶ。

 

『嫌な奴だとか、いがみあいだとか……人間だから誰しもある!! ぶつかりあって!!! 傷つけあって!!! ……だが、今はそんな事!!! 一瞬で忘れろッ!!!』

 

 

10-FEET

『Freedom』

 

 

 その言葉に、ロジャーの処刑のように湧き上がり、鬨の声をあげる演者たち。バラダギ先輩は、そんな大勢の声にも負けない声で指示を出す。

 

『俺たちニジガクが最前線を張る!! お前たちは生き残った奴の避難と、余裕がある奴は攻撃、もしくは他の奴らへの援護要請を!! 手負いの奴は麻琴たちへのエネルギーチャージを頼む!!』

 

 花火はそんな先輩の姿を見て、にっこりと笑う。分かるぜ、花火。俺も今、“ヒゴ”を操りながら同じ顔をしているだろう。

 

『軍師までやろうってのかよ、ズルいな』

 

 光良さんもまた、後方腕組みニッコリ彼氏面をしつつ、花火と並ぶ。

 

『花火。もう動けないとは言わせんぞ』

『言われなくても前線行きますよ!! よっしゃあ古織〜〜!! 戦おうぜ〜〜ッ!!』

 

 全員を見届けてから、またもや誰よりも大きい声量で、堂々とバラダギ先輩が全員に声を届ける。

 

『戦っているヤツらも聞いてくれ!! これはいち高校生の、三ノ宮光良!! そしてそれに協力する、言わば『氷室古織救出部隊』の戦いであるッ!!! 極めて私的かつエゴに満ち溢れた、独善的で恋愛ボケした!!! しかし、愛の戦いだッ!!!』

 

 ああ、そうだ。これはここ数年でも五本の指に入るような、エゴの戦いだ。

 

 それに全員が納得してんだから、不思議なもんだよな。

 

『そんな状況を理解した上での協力、本当に感謝するッ!!! 今も苦しんでいる氷室古織を救うため、俺たちができることは何か!!! 今一度、よく考えて欲しいッ!!! それは彼女の首を斬ることではなく、あの氷の十字架から!!! 怪物のゴルゴダから助け出すことだ!!!』

 

 俺らは思わず、彼の演説にうるっと来てしまう。花火の言う通り、ありゃあズルいな。

 

『三ノ宮光良はライバルである俺たちを頼り!! それでも、それでもとッ!! 後輩の救出を優先したッ!! 後腐れのない、清々しい『春葬』を執り行うことのできるようにッ!!! そして!!! 氷室古織という演者の明日が、健やかで笑顔にあふれたものになるようにッ!!!!』

『……別に、オレのライバルではないがな』

『ハハ……ちょっと盛ってら』

 

 光良さんは彼に届かないような声でツッコミを入れ、部長はへらへらと笑う。

 

『……しかし……』

 

 が、その心意気は光良さんにも届いているようだな。

 

『アツいな。あの男』

『うん。今だけは……世界で、一番』

『俺は彼のために出来ることは何でもするつもりだ!!! エゴの強いお前らのことだ、反対意見も多いだろう! 顔も知らぬヤツらのために死ねというつもりはない!! だが!!! 三ノ宮光良という、アツい男が!!! エゴに満ち溢れ、自分のエゴを叶える男が!!! 今も尚、氷室古織を救うために命をかけている!!! ならば、俺たちはその思いに応えようではないかッ!!!』

 

 彼の〆の言葉はこうだ。

 

『オール・フォー・ワンッ!!! 全てのカオスにケリをつけるぞッ!!!!』

『了解ッッ!!!』

 

 その場にいる全員がそれに応え、完全に面白くなってきた先輩は、アメリカンクラッカーをぶん回して古織にぶち当てる。

 

『退屈しないで済みそうな相手……ならば血を流し挑むが掟。お前も野に咲く花なら、力の限り俺と戦って見せろ!!』

『先輩……ッ』

『俺を誰だと思ってやがる!!! 虹ヶ咲学園22期生、原田木燦迅ッ!!! かかってこいよ!!! 俺はここだッ!!!』

 

 横にてサムライ・キャリバーの剣を振るう山科は、『敵校ながらアッパレだ』と微笑む。

 

 な、カッコイイだろ。うちの先輩。

 

 そんな彼の声に、思わず氷の怪物はたじろぐ。そして、前足で彼を踏みつぶそうとする。

 

『バラダギさん!!!』

 

 水無月が叫んで彼のもとに向かうも、部長は彼女と肩を組み、退避させる。

 

 普通の演者なら、受け止めきれない古織ストンプ。だが、彼はアメリカンクラッカーを持ったまま、堂々とガイナ立ちでそれを迎える。

 

『死なないってば』

 

 部長の言葉通りだ。彼は、あんな無茶苦茶な攻撃でも死なない。彼の方がもっと無茶苦茶だからな。

 

 原田木燦迅、今回の春葬にて、実に177回の攻撃を受け、5回の死亡。持ち前の回復力をもってして、片目の視力と内臓のいくつかが不全。肺は潰れ、呼吸すら痛みを伴う、苦痛の生。

 

 だが、血にまみれて尚、その背中には一切の傷は無かった。逃げなかったのだ、彼は。何を目の前にしても。これまでの3年間、ずっとそうだったんだろう。

 

 怪物は、すっかり殺した気になって前足を上げる。そこには、氷のくずにまみれたバラダギ先輩が、変わらず血だらけで立っていた。

 

 かき氷のようになった氷屑と血が混じり合い、それを見てはじめて古織は、自分の前足にバラダギ先輩型の穴が空いていることに気づく。

 

『ほ〜らね』

 

 そう、今回6回目の死亡からも、彼は生還してしまった。日本語が破綻しているな。

 

『……バケモノだ……』

 

 水無月のこぼした言葉通り、高校演劇最後のゲキバトルでも、彼はバケモノだった。

 

 この世界で一番の怪物は、彼かもな。いや、ヒーローか。

 

 先輩に失礼な言葉ではあるが、彼の実力は部内でもさほど高くない。花火や柊とタイマンをしたらボロ負けだろう。ただしぶといだけの、ゾンビ戦法男。

 

 そんな人が、みんなの前に立って人を救おうとしている。

 

 俺は、彼のような人をヒーローと呼ぶのだと思う。正義などない、戦争のようなゲキバトルの世界。純然たる強さを持つ物が英雄視されがちだが、実際、カリスマ性と前に立つ度胸を持っている彼は、ヒーロー以外の何者でもないだろう。

 

バラダギ・イン・ダ・ハウス(俺はここにいるぜ)……』

 

 かおちゃんの操る“ウエシマ”の“チェックメイト・パンチ”と共に、彼は肌の色さえ見えない血濡れの拳を、怪物にぶち当てる。

 

『おりゃあああああああああああッッッ』

『オセヨォォ──────……ッッ』

 

 先輩と“ウエシマ”のダブルパンチをくらい、怪物は大きくよろける。

 

『俺らのターンだッッ!!!』

 

 10-FEETの旋律の終わりに被せ、彼は大ファンであるアイドルの曲を、指を鳴らして特大音量で流した。

 

 ああ、完全に俺らのターンだな。先輩。

 

 

i☆Ris

『アルティメット☆MAGIC』

 

 

『究極の未体験、見せてやるよ』

 

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