私は、誰だ?
天井を見上げたまま、私はそんな問いを浮かべていた。
知らない天井。見覚えのない部屋。真新しい制服がクローゼットにかかっている。
目覚めた時、私は名前を忘れていた。
……いや、違う。この世界の“私の名前”が思い出せなかった。
鏡の中にいるのは、見知らぬ少女。
けれどその中に、自分ではない“誰かの顔”がぼんやりと重なる感覚があった。
――前世の記憶。
唐突に蘇ったそれは、無理やり押し込まれたように違和感だらけで、それでも「これが私だった」と理解できてしまった。
生まれ、育ち、そして……死んだ。
通学路で事故に遭い、意識を失い、暗闇に沈む寸前で何かを呟く声が聞こえた気がする。
だけど、それ以上はなかった。
神様の声も、転生特典も、そういったお決まりのやり取りは存在しなかった。
私はただ、“気づいたら”ここにいた。
板羽弓美という少女の身体に。
⸻
生活は既に始まっていた。
学校もある。身分証もある。周囲も私を「弓美」として扱う。
けれど、板羽弓美の記憶だけが私の中には存在しなかった。
前世の記憶はある。だが、今世の情報は空白。
だから、私は彼女のふりをするしかなかった。
「おはよう」と声をかけられれば笑い返す。
給食の好き嫌いも、彼女の癖をなぞるように選んだ。
すべてが借り物のようで、虚ろだった。
そして、気づいてしまった。
この世界が、自分の知る「現代日本」とはどこか違うということに。
異常なまでの厳戒態勢。都市部の一部でのみ流れる特殊警報。
“特異災害”という言葉。
……そして、ときおり耳にする「ノイズ」の存在。
意味がわからない。だけど、胸の奥がざわついた。
なぜか、私の中にあるものが――それに反応するのだ。
⸻
最初の異変が起きたのは、それから一ヶ月後の放課後だった。
人気のない裏通りを歩いていた私の目の前に、それは現れた。
空気が歪む。音が消える。銀の霧。
そして、ありえない姿の怪物――ノイズが、そこにいた。
恐怖で脚がすくむ。声も出ない。
私は……死ぬのか?
そう思った、その瞬間。
「展開――マークザイン」
私の口が、勝手に言葉を発していた。
身体が光に包まれる。
見たこともない装甲が、腕を、脚を、背中を、包んでいく。
それはまるで、**私を守るように現れた“鎧”**だった。
――私が願ったわけじゃない。
それでも、力は宿っていた。
目の前のノイズに向かって、私は拳を振るった。
鋭い衝撃と共に、ノイズは粒子となって霧散した。
それは一瞬だった。
⸻
けれど、戦いが終わった直後――私は異常に気づいた。
手のひらが、僅かに透けている。
皮膚の内側に、金属の網のようなものが浮かんでいる。
「……なに、これ……?」
震える指。息が浅くなる。
それでも、どこかで理解していた。
この力は、代償を伴う。
その夜、私は久しぶりに“あの夢”を見た。
真っ赤な光に包まれた少女が、こちらをじっと見つめていた。
かすれた声が、ゆっくりと形を成す。
『……あなたは……それを……使ってはいけない……』
それは、警告だった。
この主人公にヒロインはいる?
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乙姫
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響
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いらない