ノイズの群れが街を覆ったのは、放課後の帰宅ラッシュを直撃したタイミングだった。
悲鳴。破裂音。街に満ちる銀の霧。
大通りの交差点が、瞬く間に戦場と化す。
私は制服のまま、影に身を潜めた。
すでに呼吸が浅い。
背中では、封じられたはずのザインが震えている。
「……来るよね、やっぱり」
『行ける? 同化の兆候、まだ抑えられてる』
乙姫の声が脳裏に響く。
私は短く息を吐き、目を閉じる。
「展開――マークザイン」
光が走る。銀の装甲が私の体を包み、背に六枚のブレードが展開される。
時間はない。
ノイズが人を襲うより早く、私が斬るしかない。
⸻
跳躍。空を駆け、地面に突き立てるように着地。
その衝撃波で数体が霧散する。
左腕が変形し、衝撃波を放つ小型カノン砲へ。
右脚で蹴り上げたノイズの核を、刃に変化した前腕で断ち割る。
感覚が研ぎ澄まされていく。
乙姫との意識が完全に重なり、まるで自分が自分でなくなるような錯覚さえ心地よかった。
『後方、五体。位置修正して』
「分かってる」
それは戦闘というより、ただの流れだった。
心と身体が一致し、余計な思考がいらない。
――けれど、その“流れ”は、次の瞬間に割り込まれる。
「響け我が歌、斬撃にのせて!」
響いたのは、鋭い剣戟と歌声。
⸻
背後から銀色の刀閃が舞い、私の倒し損ねたノイズが一閃で斬られる。
そこに立っていたのは、風鳴 翼――そして、
その隣には、肩を怒らせてマイクスタンド型の武器を構える少女、天羽 奏。
「unknown、か」
翼が一歩前に出る。構えは、警戒と戦意を滲ませていた。
「敵意は?」と問う視線。
「今は、共通の敵がいるだけ」
私は短く答え、再びノイズへと視線を戻す。
奏が一瞬だけ、私の装甲に目をやった。
「……アンタ、壊れそうな顔してるね」
言葉に棘はない。ただ、鋭い直感。
“過去の自分を見ている”ような眼差し。
⸻
それ以上の言葉はいらなかった。
ノイズの数がさらに増え、三人は即座に背中を預け合うような陣形になる。
「翼、左から行くわよ!」
「了解。後方支援、任せます」
翼が疾走する。美しい剣舞。舞うような刃。
奏のマイクスタンドが叩きつけられるたび、音波がノイズを穿つ。
そして私は、その隙間を縫うように立体機動で敵の核を正確に斬っていく。
戦いが、噛み合っていた。
⸻
十分後、ノイズはすべて霧散していた。
私は最後に変形した左腕を砲形態から戻し、静かに深呼吸する。
目の前には、静かにこちらを見る二人の装者。
言葉は、なかった。
私は何も名乗らなかった。
それでも、去り際に奏がぽつりと呟く。
「名前、教えてよ。……別に、偽名でもいいからさ」
私は振り返らずに、ただ答えた。
「名乗るような名前は、もう捨てたよ」
風が吹き抜ける中、私はその場から跳躍し、姿を消した。
⸻
数時間後、二課の作戦会議室。
「またしてもunknownとの接触……しかし、戦闘能力は間違いなく味方に等しい」
弦十郎が映像を見ながら静かに言う。
翼は口を結び、奏は少しだけ笑っていた。
「でも、あの子――私たちと、似た匂いがしたよね」
この主人公にヒロインはいる?
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乙姫
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響
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いらない