死んでからが本番なコナン世界の転生者 作:たるたる
少しばかり俺の可哀そうで、絶望級の話を聞いてほしい。
摩訶不思議な事実なんだが、俺は転生者である。それも、前世を認識しているだけでなく、今現在生きている世界がどういう世界かも理解しているタイプの転生者だ。
ざっくり言うと、俺は今生きている世界を前世で見たことがある。漫画やアニメでだ。
『名探偵コナン』
誰もが一度は見たことがある国民的アニメで、推理物の漫画と言ったら外せない日本屈指のミステリーコンテンツ作品。
そんな物語の世界に俺は転生してしまったらしい。
もちろん、俺は主要キャラと接点なんかないただのモブAだ。
……勘の良い人ならわかると思うが、なぜこれが絶望級なのかというと、この『名探偵コナン』の世界は本当に、冗談抜きでモブにやさしくない。
毎週毎週一人は死ぬし、連続殺人事件なんてありきたり、小学生が普通に爆弾とかいう単語をゲームとかじゃなく日常で使うような世界なのだ。ヨハネスブルクもびっくりの殺人頻度である。
転生者の中でも優秀な奴は「主人公の周りにいる人と関わって重要キャラになっちゃおう!」みたいに考えるかもしれないが、俺の場合、大して効果があるとは思えない。
俺が転生していることに気が付いたのはつい最近。交友関係も人脈も昔の俺と思しき人物がすでに決定してしまっているのだ。
しかも、転生に気が付く前の交友関係について俺はほとんど覚えていないというのが問題だ。ほぼ初対面みたいな友人との会話が地獄だったのは言うまでもないし、この状態からほかのコミュニティを作り出すことはほとんど不可能だろう。
今更、主人公組のところへ行ってもこの世界は俺をただのモブとして主人公の目の前で殺してくるに違いない。
死期を早めることにしか効果はないだろう。
そんなわけで、今俺が置かれている状況ははっきり言ってかなり良くない。
生き残れるかどうなんて、運動能力も頭も平凡な俺じゃはっきり言って運でしかない。これで犯人を撃退できる身体能力とか、犯行を事前に気が付けるずば抜けた──どっかの高校生探偵が持ってるような推理能力とかがありすれば、なんとかなったかもしれないが、そこまでの能力ならモブでもなんでもないだろう。
そもそも、犯人だって毎週毎週視聴者を悩ませるトリックを使ってくるような奴らだ。頭の出来で言うともはや一般人かどうかも怪しくなるレベルだ。
……いや、よく考えたらフツーに銃やらプラスチック爆弾やらが手に入る世界ならそのレベルが一般的なのか?
とにかく、俺が生き延びるためには何が何でも恨みを買わずに謙虚につつましく生きていくしかない──
△
──そう思ってた時期が俺にもありました。
「……ようやくお前をぶっ殺せる時が来たようだなァ!」
詰んでました。無理でした。
謙虚に生きてくとか、恨みを買わないように生きてくとか、どうやら無駄だったみたいです。
よく考えてみたら、俺が転生に気が付いたのはつい最近で交友関係とかも整ってるなら、恨みも俺が転生に気づく前に買ってるはずなのである。
完全なる無理ゲーだ。
「──死ねェェ!!」
「う゛っっ!!」
ッ、こいつ俺の腹に一直線にナイフを押し込んできやがった。
計画性のかけらもない行動にも見えるが、この世界は『名探偵コナン』。何かしらのトリックが仕掛けられていることは間違いないだろう。それこそが主人公への、そして視聴者への挑戦状であり餌でもあるから。
「ハハッ!いい気味だな。散々俺の女をたぶらかしてきた付けが回ってきたなァ!!」
「うぐッ……!」
あいつは俺のことを蹴り倒してそのままこの場から逃げ出してしまった。
俺は自分の腹に刺されたナイフを見ながら思考を回そうとするが、段々と目の前に黒っぽい斑点が生じ始めており、体が異常であることをまざまざと突きつけられる。
「……っ、このままじゃ本当にまずい」
何かしないといけないのはわかってはいるが、誰かに刺されるというのは初めてでもあるので冷静な思考をしようとしても、体が思うようには動かない。
推理物の小説ではダイイングメッセージとか、こういう時は残すものなのだろうけども、実際に体験してみるとわかる。できるわけがない。
「……転生しても、結局すぐ、死んじゃった、な──」
俺の意識は無残にも消えてしまった。
…………。
…………あれ?
おかしいぞ。なんでまだ考えることができるんだ?
何ならさっきの刺された瞬間よりも思考がクリアになっている。しかも、さっきまでの激しいおなかの痛みもなくなり、不思議とどこか全身が包まれているかのような温かい感覚すらある。
本当に、何が起こっているんだ?
ん?しかも視界が次第に明るくなっていく。
まさかまた転生するのか?
だとしたら少しは安心だな。コナンの世界では転生に気が付いてから気が気でない毎日だった。次はもっと落ち着いたところがいいな。……そうだな、平安時代の日本とか。
そんなことを思って、視界がはっきりするのを待っていると段々と目の前に誰かがいることが分かった。しかも、ぐったりと横たわっており、明らかに何か異常をきたしていることがわかる。
「……ッ、おい!大丈夫か!?」
俺はとっさに言葉を発しようとしたが、音が出ることはなかった。
そこで俺は決定的におかしなことに気が付いた。
目の前の人は
しかも、不思議なことにこの場所も見覚えがある。俺があいつに刺されて死んだ場所だ。今はまだ薄ぼけて見づらいが間違いがない。
確信めいた真実が俺の頭の中に浮かんできたと同時に、目の前の男の顔を鮮明に俺の目がとらえた。
そこにいたのは
俺はその事実に驚愕するとともに死体に駆け寄って自分の体に触ろうとする。が──
(……さ、触れない!! 俺の手が死体を通り抜けていくッ!)
言葉を発することができないため心の中で叫ぶ。
確実に俺の体には触れているはずなのに、まるで空気をつかんでいるような感覚に陥る。どれだけ俺の体に手を突っ込もうとしても、それは反発を知らないように何の力も感じることはできない。
異常事態に俺は混乱しつつも、死体に刺さったナイフを何とかしようと試みようと横から見てみると、またあることに気が付いた。
ナイフに反射する姿に映るはずの俺がいなかった。
俺はそのことが分かった瞬間、とうとうある事実にたどり着いた。
俺は、いわゆる幽霊になったのかもしれない。
△
(この事件、どこか引っかかるんだよな……)
オレは目の前の死体を警察の後ろから見てそう思った。
事件自体はそこまで難解なものでなく、犯人の動機もトリックも今まで出会ってきた事件の中でも簡単な方だった。
ただ……
「それにしても妙ですな。被害者はどうして一切の抵抗をしなかったのでしょうか?」
小五郎のおっちゃんが言っていた通りだ。
奇妙なのはこの事件というよりかは、被害者の方。犯人が言うには、この被害者──
鑑識も犯人が言っている状況と同じようなものを想定していたため、犯人が供述していたことは正しいとわかる。
だとしたら──
(まるで
他にも妙なことはある。
この被害者の出自に関する情報が全くと言っていいほどわからないということだ。
この人の友人関係も職業も、あらゆる個人情報がまるで後から作られたかのように淡白で無機質な印象を感じてしまう。
これに関してはオレの勘だが。
(この事件、解決したといっても……まだ謎が多い)
オレがいろいろと考えていると、横から被害者の友人同士が会話しているのを耳にした。
「……そういえばあいつ、最近変じゃなかったか?」
「わかる~。なんていうか他人行儀?みたいな」
「そうそう! いつものあいつとはなんか違ったんだよ。まるで俺らが知らない人みたいな態度とってたよな」
(……やっぱり、妙だな)
この事件は終わった。それは間違いがないことだ。
だけど、真実を見つけたとは言えない。
この事件、オレが思っている以上に何かがあるかもしれない。
(まさか……黒づくめの男と関係があるのか!?)
そこまで考えるが、すぐにオレは自分の頭を横に振って否定する。この考えはさすがに突拍子もなさすぎる。
つい最近、オレの体が縮んだこともあっていろいろと過敏になっていたのかもしれない。
(……考えすぎ、か)
そこまで考えて蘭に呼ばれているのに気が付いた。
「コナンくん!そろそろ帰るよ~」
「あ、うん!すぐ行くよ!」
いろいろと考えていたけど、今はとりあえず情報がなさすぎる。考えるにしても別にもっと後からでもいいだろう。
そう考えてオレは蘭とおっちゃんのもとに駆け寄ろうとする。すると──
コカンッ
オレの隣にあった机から飲み物の缶が落ちた。オレは戻そうと手に取って再び机の上に乗せる。
缶の中身は何もなかったからごみ箱に入れてもよかったが、さっきまで事件現場だった場所にあるものをむやみに変えてしまうのは少し忍びない。
そこでふと疑問が思い浮かんだ。
(……あれ?なんで落っこちたりなんてしたんだ?揺らしてなんかいないのに)
周りにいる人たちは誰も動いていなかったし、オレだって机にぶつかったりしていない。缶が落っこちる原因なんて無くないか?
オレが不思議に思っていると、蘭が再びこっちに向けて声をかけてきた。
「コナンくん、まだ~?」
「──! ごめん、おまたせー!」
別段気にするほどのことでもなかったし、蘭を待たせてしまっているし、オレはそそくさと帰ることにした。
この事件は確かに妙なことが多いが、それも一旦ではあるものの解決はしている。これ以上この事件に首を突っ込んでも何か大きな手掛かりがあるってことはないだろう。
それに、この事件以上に調べたいことなんて山ほどある。
オレは次第にこの事件のことを考えなくなった。
蘭のもとへ駆け寄っていく中、再び空き缶が机の上で少しだけ動いたことをオレは気が付かなかった。
△
まさか、江戸川コナンの推理を生で見ることができる日が来るなんて誰が想像しようか。
しかも被害者は俺。頭がおかしい。
やはりというか俺が死んだあと、なぜかはわからないがすぐに毛利一家とコナン君がこの場所に来た。やっぱお前ら死神だよ。
犯人の正体自体は比較的すぐ判明したし、トリックも同様に毛利小五郎、もといコナン君、もとい工藤新一が解明してくれた。
よく考えると『眠りの小五郎』っておもしろいな。裏に何人いるんだよ。
その姿は鮮やかそのものであり、死んだのにもかかわらず俺は誰にも聞こえないだろうが拍手を送ってしまった。
……さて、本題だ。
俺はコナン君が真実を解明するまでの時間でいろいろと今起こっている状況について確認した。その際にもコナン君や警察に話しかけようとしてみたが、やはり俺の声は届かなかった。
洗面台の鏡でも確認してみたが、俺の姿はどうやっても映ることはなかった。
やはり、俺は幽霊になってしまったらしい。
別に未練なんてないはずなんだけどな。どうやらこの世界の神様は俺がこの世界から逃げかえることを認めてくれないらしい。嫌な話だ。
まあ、未練があるとするならば俺を殺した犯人がしっかりと捕まってくれれば良いとは思っていたが、それが叶っても俺の魂は消えることはなかった。
……これからどうしよう。
正直、死んでしまったのはしょうがないとすら思っている。この世界に生まれてしまっては仕方のないことだ。死ぬ覚悟はあった。
しかしだ。まさか死んだ後も意識があるなんて思わなかったから何をしたいのかも全く考えていない。
死ぬ前は死なないようにと努力をしていたが、それも今では頑張る必要なんて無くなってしまった。
俺はいろいろと考えながらもぼーっとコナン君たちを見ていると、もうそろそろコナン君たちが帰るらしいということが分かった。
そこで、ふと机に乗っている空き缶が目に入った。
コナン君が事件のことを調べている最中、俺も自分自身のことについて調べてみたわけだが、どうやら俺は現実世界にある物理的なものに触ることができない。
つまりすべての物体を通り抜けてしまうのだ。
しかしながら現実世界に干渉することが不可能かと言われれば、そうでないかもしれない。
前世でもそうであったが、ポルターガイスト現象というものがある。日本語であえて訳すのならば騒々しい幽霊現象。
前世ではあるわけがないと思ってはいたが、この状況にもなれば迷信であると確定するのは些か無理があるだろう。
もしかしたら、手では触れることはできないものの、何か……そう、念でも送れば物理的に干渉できるかもしれない。馬鹿らしいとは思わないでほしい。
俺は何とかして空き缶を動かそうと試みてみる。
すると──
(……ッ!!間違いない!今、少しではあるが動いたぞ!)
他の人は特に動いていないから、何かしらの揺れで動いているというわけでは絶対にない。
俺は再び空き缶を動かそうとさらに力を入れてみる。すると──
コカンッ
空き缶は机の端ぎりぎりに位置した後、最後の一押しで力を加えると空き缶の重心が徐々に傾いていき、最終的に空き缶は落下し軽快な音を奏でながら床と衝突した。
(よしっ! 成功した!)
コナン君が落ちた空き缶に気が付き、机に戻そうとするが、どこか不思議そうな表情をしている。
そりゃそうだ。周りの人は特に動いていないし、揺れなんて感じてないだろうし。
コナン君はしばらく不思議そうにはしていたものの、毛利蘭に呼ばれてすぐに帰っていった。
コナン君が踵を返した後、俺はもう一度空き缶を動かそうと試みてみた。
気のせいだろうか?さっきよりも少しだけ動かしやすくなっているような気がする。
(これは……もしや練習すればもっと大胆に動かすこともできるのか?)
やりたいことってのは、できることが増えてから生まれるものだ。
そして、できることが増えた今、俺には一つの目標が生まれた。とりあえず、ポルターガイスト現象をもっと起こせるように練習。そして──
(できることなら、主人公の手助けをしたいものだな)
死んでしまった今、死を怖がる必要なんてない。
だからこそ、生きている人間じゃできないことが俺にはできるはずだ。
俺はこの世界に来てから初めてのやりたいことを決意を胸に膨らますのであった。