死んでからが本番なコナン世界の転生者 作:たるたる
お久しぶり。
俺が死んでしまい、自身が幽霊になってしまったとわかった後から数日が経過した。
そして、その期間いろいろと実験やら散策などをしていたのだが、新たに分かったことがいくつかあった。
まずだ。
そもそも俺がどうしてこの世界を『名探偵コナン』だと断定できたかをしっかりと説明しよう。
俺が転生したことに気が付いた直後、俺は自分の家や携帯などを調べていた。
なぜかはわからないが携帯のパスワードとかは覚えていたので自分の所有物なのに使えないという間抜けじみたことをしないで済んだ。
そこでだ。過去の新聞をいくつか読んでいると、衝撃的なことが書かれていたのだ。
『毛利小五郎、事件解決!』
その時の俺の驚きっぷりはいかほどか。今でも鮮明に覚えている。
エイプリルフールでもなんでもなかったため、その新聞に書かれていることが事実であるのはすぐに分かった。
直ぐにこの町の地図を見てみるとそこには『米花町』と書かれているのだ。
まさかの俺の転生先は誰もが恐れる犯罪都市であったのだ。
そこから新聞を読み漁ってみたが、毛利小五郎の活躍はどうやらつい最近から始まったものらしかった。
つまり、『名探偵コナン』の物語が始まってからあまり時間がたっていないことがわかる。
しかし、俺が殺される前に知っていたことはここまでだ。
この町の危険性を加味すると、この世界に関してもっと調べるよりかは身を守った方がよいと思ったから、これ以上の情報をほとんど得ていなかった。
だからこそ、江戸川コナンを生身で見れた時の感動はすごいものだったんだけれども。
そんなわけで、殺された後は怖いものなんてないので、じっくりと探索ができたわけだ。
そして、新たに分かったことに関してだが、正直この話と地続きなものだからそこまで重要であるかと言われればそうでないかもしれない。
ひとつづつ新たに発見したことは語っていこう。
まず、毛利探偵事務所を見つけることができた。
この体だから携帯とかを持つことはできないため、少しばかり探すのには苦労はしたものの割と目立つ場所にあったことも相まって思っていたよりかは早く発見できた。
そこでは、すでにコナン君が住んでいた。
そして、同じように阿笠博士と工藤新一が住んでいた家も見つけることができた。
調べてみたところ、灰原哀はまだいないことが分かった。
正直、これが一番の収穫である。
この情報のおかげで大体の時間間隔を知ることができた。
灰原哀が登場するのは割と序盤ではあるものの、コナン君が小さくなった直後というわけではない。
灰原哀が登場するまでに劇場版みたいな大きな事件は起こらなかったはずなのである。
正直、俺は『名探偵コナン』についてそこまで詳しいわけではない。
好きではあったものの、漫画で発生した事件についてほとんど覚えているほど熱心なファンではなかったのだ。今の状況を考えると、もっと見ておくべきだったと悔やまれる。
ただ、灰原哀という存在は『名探偵コナン』を語るうえで最上位に位置するキーパーソンだ。
その存在がまだ出ていないという事実は俺がまだ調べごとをする猶予をくれる。
だからこその、一番重要な情報なのだ。
最後に、俺の霊体関係の進捗についてだが……正直、そこまでできることは増えてはいない。
あのとき──コナン君がそばにいて空き缶を落とした時よりかは物を動かしたりすることは楽に行えるようにはなったが、大胆に動かせているかと言われれば全くそんなことはない。
未だに重たいものはびくともしないし、コツをつかみかねている状態だ。
これじゃあ、主人公組の手伝いなんて夢のまた夢だろう。
進捗としてはこんなものだ。
次に俺の家についてだが、俺の家にあった死体は警察らによって回収された。
そして、何日か経ったら何人かの作業着を着た人たちが俺の家に入ってきていたので、もうこの家は不動産にも処理されているだろう。
さすが米花町。思ってるよりもはるかに早く警察が撤収していったときは圧倒的な慣れとこの町のイカレ具合をよく認識できた。
しかしながら、幽霊になった俺からしたら警察らの早い対処は俺にしっかりと帰る場所をくれたので非常にありがたい。
幽霊になったとしても、やっぱり住むんだったら自分の家が良いのだ。
勝手に他人の家に住み着くこともできるっちゃできるけど、さすがに人のプライベートを勝手にのぞくのに加えて、ふてぶてしく居座るほど俺は図太くはない。
しかし、自分の家を手放して野宿をするのはさすがに嫌だ。
というわけで、俺は結局この家に再び住むことにした。
今のところ、この家の新たな買い手は見つかっていないが、いつかは見つかるだろう。
その時には、俺はこの家から出ていかなければならない。
それまでの間ではあるが、この家は安息の場所として使わせてもらおう。
さらに何日かが経過し、俺が幽霊生活に慣れ始めてきたぐらいから、俺は何日かに一回はコナン君たちのところへ行って、どんな事件が起こっているかを確認している。
あちらからは俺のことが見えないのに勝手に話を聞くのは正直申し訳ない気持ちもわくが、状況を確認するためには仕方がない。
あまり日常会話を聞きすぎないように毛利探偵事務所には長居をしすぎないようにしている。
だからこそ、俺が収集できる情報はそこまで多くはない。
ただ、一応ではあるが『名探偵コナン』のあらすじを知っている身ではあるので、事前に知っている情報からコナン君たちが話している内容を当てはめて推測することぐらいはできるので、得ている情報が少ないわけではない。
今のところ、重要人物に関する話題は出てきていないので、ひとまずは安心していいだろう。
……しかし、この判断は致命的なミスだった。
△
そろそろコナン君たちのところに行って、情報収集をしようか。ついでに久しぶりに工藤新一と阿笠博士の家に行ってみよう。
そう思った俺は日課の物体移動の練習を終わらせ、毛利探偵事務所の方へ向かうことにした。
新たに分かったことだが、俺は車に乗れるらしい。
俺は霊体ではあるけれども、足は存在している。よくある幽霊のイラストは下半身がなくソフトクリームを逆さまにしたようなシルエットをしていることが多々あるが、どうやら俺の場合は違うらしかった。
つまり、立ったり座ったりはできるのである。最初はあまり気にしていなかったが、実際に椅子に座ることや階段を上ることはできた。
じゃあ浮いたりすることもできるんじゃないかと思ったがそれはできなかった。
まあ、確かに浮いている幽霊って足がないイメージな気がする。そう思って納得した。
座ったりできるということは俺が座るという動作をしている間は、椅子と自分の体に反発力が働いている証明。つまり、なにかに座っている間は下半身部分は物体を通り抜けることはないのだ。
なにかとよくわからないことが多すぎるため、当たり前のことを模索していかなければならないと悟った出来事である。
閑話休題。
俺は毛利探偵事務所の方向へ向かう車を乗り継いでいき移動していく。周りに見える景色はいつも通り綺麗でここが悪名高い暗黒街であることを忘れそうになる。
たどり着いた。目の前には毛利探偵事務所が佇んでいる。
俺は階段を上って中に入ったが、誰もいなかった。
(……失敗だな。まあ、仕方がないか)
このようなことは別に珍しくはない。
コナン君は小学校にもう通っているし、毛利蘭だって高校生である。毛利小五郎だって探偵業で出かけていることもあるだろう。
最近は俺の家の新聞も止めらて見れなかったので、最近の新聞でも呼んでおこうかと思ったが、部屋が汚くてどの新聞がいつのものなのかがよくわからない。一つ一つ確認するのはできるにしても少々だるい。
俺は毛利探偵事務所からはいったん引き上げることに決めた。
工藤家のところへ行こうかな。そっち方面に行く車を探しているさなか、ある人物が目に入った。
(あれは……コナン君じゃないか! どうしたんだ? あんなに急いで)
コナン君は遠くから見ても焦っていることがわかるくらい険しい表情をしてながらダッシュしている。
小さい体も相まって腕を全力で振って……ん?
(片手でメガネを触っている。……よく見たらメガネの端っこにアンテナが付いているな。つまりあれは追跡メガネ────ッッ!!!)
俺は気づいた瞬間、霊体であるのにも関わらず全身の血液が冷え切るような感覚に陥ってしまった。
まずい。まずいまずいまずい!
完全に失念していた。灰原哀が登場するまで、米花町で起こる事件の中でもデカ目の事件は起こらないと俺は思っていた。
だからこそ、主人公組が危険に陥るような事件が起こるまでは、そこまで焦る必要はないものだと考えていた。
だが違う。
より大事だったのは事件ではない。人物の方だったのだ。
(──
宮野明美──灰原哀もとい宮野志保の姉にあたる人物。
灰原哀が登場する前にジンとウォッカによって始末されてしまう人物!
そして、コナン君が黒の組織を認識するようになるきっかけとなる人だ。
言わずもがな最重要人物の中の一人だ。
(くそっ、最近の新聞を見れていなかったことに対してここまでのしっぺ返しを食らうとは!)
後悔の念が激しく自分を支配していく。だが、これ以上遅れを取るわけにはいかない。
俺はコナン君をよく観察しながら原作の知識を思い出そうとする。
(……たしか、あれは宮野明美が身に着けていた時計についた発信機を追いかけている場面だったはずだ)
正確には宮野明美というよりかは宮野明美が変装した姿をコナン君は追いかけようとしていたわけだが、結局行く先で彼女は見つからなかったはずだ。
そして、その後毛利探偵事務所に帰って、追跡メガネを充電するために阿笠博士のところへ行った気がする。
つまり、ここでコナン君を追いかけてもこの遅れを取り返せる場面はないと思われる。
それよりかは、コナン君と別行動をして宮野明美の場所を探し出した方が効果的だろう。
俺は急いで情報を収集しようとした。
今までは街中でポルターガイスト現象を起こすのは混乱を招くから控えていたが今は時間が惜しい。
ばれないように注意を払いながら新聞を読み漁っていく。すると──
(間違いない。10億円強奪事件の記事はつい最近の話だ。これで今が原作で言うところのいつなのかがやっと明確になったな)
どれだけ探しても宮野明美が死亡した記事はないから、あのコナン君の行動は俺の想像通りだろう。
とりあえずすべてが終わった後という最悪のケースだけは避けることはできた。だが、現状はかなり良くない。
(しまったな。事前に気が付けていれば宮野明美の後をつけて手掛かりを得ることができたんだが……)
はっきり言って、今更宮野明美を捜索しても無駄足になる気がしてならない。
あっちも正体がばれないように細心の注意を払っているのはもちろんのこと、どれだけ原作知識があろうが正確な現在の位置を割り出すことは不可能に近い。
宮野明美を追うには行動するのが遅すぎた。
仕方ない。毛利探偵事務所に戻るしかないな。
俺はないはずの心臓がどくどくと脈打つのを感じた。
よし、時間だ。
コナン君が追跡メガネを使って宮野明美を追う時間だ。
いつもならコナン君たちと一緒に車に乗って移動するはずだが、今回は宮野明美の共犯者が雇った大男の探偵もいるのでタクシーに座れる場所がない。
俺は少し遅れることにはなるもののコナン君たちが乗っているタクシーを追いかける形で車を乗り継いでいく。
だが、やはり乗り継ぐ必要があるのが痛い。何回か見失いそうになりながらもなんとか目的のホテルへたどり着くことができた。
(まずい。思ってたよりもコナン君たちと比べて遅れてしまっている。これじゃあ、コナン君たちと一緒に行動するのは無理そうだな)
だとすると、俺はフロントに残って宮野明美が降りてくるのを待っているべきだ。次の彼女の行動はタクシーを使ってジンとウォッカの場所へ向かうだけだから。
俺はチャンスを逃すまいとエレベーターを睨んで彼女を見逃さないように集中する。
しばらくすると──
(……っ!来たな。たくさんのスーツケースを持っているし間違いない。あれは宮野明美だ)
あのたくさんのケースの中に10億円が入っているのだろう。
俺はすぐに彼女のもとへ駆け寄り、何とか足止めしようとするが……
(……やっぱりびくともしないな。紙とはいえケースいっぱいに入っているから相当な重量だ)
やはり重すぎて俺が対処しようにもどうしようもない。
そのまま宮野明美はホテルのフロントに10億円が入ったケースを預けていく。
この行動からも分かるに、彼女は黒の組織に反抗しようとしているのだ。彼女の妹──宮野志保を助けるために。
(だが、このままジンたちと対面しても撃ち殺されてしまう)
それだけは避けなくてはならない。
しかし、できることはあまりにも限られている。このままだと原作通りに……
(原作では宮野明美が殺された直後、コナン君たちが彼女に駆け寄っていた。つまり、少しだけでもいいから時間稼ぎができたなら……)
チャンスがあるとしたらその時しかないだろう。
宮野明美はすでにフロントに荷物を預け、今まさにタクシーに乗ろうとしている。
乗り過ごすことがないように俺は急いでタクシーの中に入る。
宮野明美がタクシーに乗り、出発する寸前。ホテルのフロントの方を見てみるとこっちの方向へコナン君と毛利蘭が走っているのが見える。
しかし、俺たちのタクシーは無情にも出発してしまった。
俺たちが乗っているタクシーから後ろを見てみるとしっかりとコナン君たちが乗っているらしきタクシーも走っている。
よし。今のところ順調、というよりは原作通りだ。
ふと横を見てみると、宮野明美の表情がよく見える。覚悟が決まっているような、しかし怯えているような不思議な表情だった。
膝の上に両手を組んでおり、はたから見ても相当力んでいることがわかる。
(……なんとかしなきゃな)
たとえ漫画の世界であるとしてもこの世界の住民は生きている。しかも、漫画とはいえそのキャラクターに関する知識はある。
妹を守るためこんな危険な行動に出るほどやさしい人なのは勝手ながら知っている。
そんな人を死なせたくはないのだ。
数十分すると目的地であるだろう港へ到着した。
宮野明美はすでにジンたちがどこにいるのかわかっているからか、迷っている様子はなくどんどんと前に進んでいく。
俺は周りを見てみるが、輸送用のコンテナばかりで俺が動かせるようなものはない。
どうにかして宮野明美を足止めしようと腕をつかもうとするがどれだけ頑張っても手は通り抜けるだけであった。やはり俺は人に対しては干渉することはできない。
じゃあ、ハイヒールはどうだ?
脱げて足止めできれば上々だが……
「……?」
(だめだ。歩くスピードに対して俺が力を入れるまで時間が長すぎる。強い力を伝えるためには動かないものじゃなきゃダメか……)
強い力を伝えるためには宮野明美の歩みを止めなければならない。
しかし、歩みを止めさせるには何かしら強い力を与えなければいけない。
本末転倒だ。
(まずいな。これじゃあジンのもとへたどり着くまでに俺が出来ることがないぞ)
焦りが俺を徐々に、そして確実に支配していく。
だが現実は無常。宮野明美は歩みを止めることはなく、どんどんと突き進んでしまっている。
そのまま俺はどうすることもできずに彼女とともに大量にあるコンテナを傍らに進んでいくと、彼女の歩みが少しづつ遅くなっていく。
そろそろ目的地なのだろうか。俺がそう考えていると突然、目の前に二人の男が現れた。
ジンとウォッカだ。
「ごくろうだったな……宮野明美よ」
いよいよ最終局面だ。
△
宮野明美とジン、そしてウォッカのお互いがピクリとも動かず対峙している。
さっきとは比べ物にならないくらいの緊張感がこの場を支配する。
しかし、死んでしまっている恩恵だろうか。俺は緊張こそしているものの恐怖は思っているよりもしていなかった。
こんなガチの裏社会の人間となんて会ったことないので、幽霊になった今でもかなり恐怖を覚えると思ったが、どうやらそうではないらしい。
そんな場違いなどうでもよいことを考えていると、ジンの口が開いた。
「さあ、金を渡してもらおうか……」
そして、この言葉に対して宮野明美のアンサーだ。
「ここにはないわ……ある所に預けてあるの」
「なにぃ!」
宮野明美の言葉に対してウォッカが激怒する。
もうそろそろだ。もうそろそろ彼女が殺されてしまう。
「その前に妹よ!約束したはずよ!この仕事が終わったら私と妹を組織から抜けさせてくれるって……」
これが宮野明美の要求。一番守りたい妹の安全。
しかし、その要求はジンに聞き入れられることはなかった。
「そいつはできねー相談だ……奴は、組織の中でも有数の頭脳だからな……」
この会話もとうとう終わりが近づいてきている。
俺はコナン君たちが今どこにいるかが気になってしまい、会話を聞きながらもコナン君たちを探そうとする。
だが、いくら俺が物体を通り抜けれるといっても、大量にあるコンテナから作られる道は複雑でコナン君たちがどこにいるかを探るのはかなり難しい。
だめだな。コナン君にこの場所を教えるのも向こうの場所も分からないようでは不可能だろう。
だとしたら……
(チャンスは一回だけか……)
俺の頭が導き出せた解決策はたった一つだけだった。
だが、正直言って無理がある。しかし、やらないわけにはいかない。
「最後のチャンスだ……金のありかを言え」
ジンはそう言って拳銃を宮野明美に向けて突き出す。
ここだ。俺にとっても最後のチャンスだ。
俺はジンが持っている拳銃に向けてどんどん力を加えていく。
強い力を加えるには対象物が静止していることが条件。宮野明美が殺されるのを食い止めるためにできることは今しかない。
「…………」
(ああ、そうだよな。おかしいよな。表情を出してなくても分かるよ。お前は今、どういう訳か拳銃が横に引っ張られるような力を感じている。ありえないよな?そんなこと)
「あまいわね……私を殺せば、永遠に分からなくなるわよ」
宮野明美は最後のチャンスを蹴って、ジンに向かって不敵な笑みを浮かべる。宮野明美の最後の抵抗だ。
そして、俺がさらに力を加えていくと僅かではあるがジンの持っている拳銃が横に傾いていくのが分かった。
「………チッ」
ジンが舌打ちすると同時に再度宮野明美へ銃口を向けようと腕を動かした。
腕を動かされたこともあって、今まで加えていた力が分散してしまった。
(──しまった! また力を加えなければ!)
「あまいのはおまえの方だ……だいたいの見当はついている」
俺は再びジンの持っている拳銃に向けて力を加えていくが、やはり強い力を生み出すには時間が必要だ。
一度、分散されてしまった力をさっきと同等の力まで強めるには余裕がない。
「それにいっただろ? 最後のチャンスだと……」
(間に合ええええ!!!)
俺は今まで出したことがないほどの叫び声をあげながら全身全霊で力を加えていく。
しかし、ジンが持つ拳銃は宮野明美をとらえたまま
無情にも
引き金がひかれた。
△
そこからは原作通りだった。
コナン君たちは宮野明美を見つけることはできたが、すでに手遅れ。
彼女は最後の力を振り絞って、コナン君に黒の組織の存在を伝えた。
最後に、10億円の入ったスーツケースの在りかもコナン君に伝えて死んでしまった。
今はすでに救急車や警察も来ており、遺体の調査がもう始まっていた。
周りにいる毛利蘭たちなどはあまりの衝撃に言葉を失っており、コナン君に至っては消失感という言葉が表情こそ見えないものの感じてしまう。
そして、俺もそうだ。
消失感。そして後悔。
今の俺を支配しているのはその二つだ。
(どうして……どうして思い出せなかったんだ。宮野明美を)
俺が気が付いてさえいれば、何か変わったかもしれない。彼女が死ぬ運命を変えられたかもしれない。
その事実はあまりに俺にとって重かった。
(なにも……なにもできなかった。なに一つ良くなることなんてなかった。俺なんかじゃ何かを変えることなんてできないのか……)
この前──俺が幽霊になったときに志していた目標なんて意味のないものだった。
結局、救うことなんてできないのだ。
俺は悔しさでその場でうずくまってしまう。
無力な自分を呪って力いっぱい拳を握るが滲み出てきたのは悲しさだけだ。
(……はあ、疲れたな)
気持ちを落ち着かせるためにしばらく動かずにじっとしていた。
未だに悲しみと後悔が胸に突き刺さるが、ここにいてもしょうがない。
俺は帰ろうと立ち上がろうとする。その時──
コツコツ
俺は警察が集まっている宮野明美が死んだ場所からは少し離れている場所にいる。
宮野明美が死んでいる姿を見たくなかったし、警察の声も聞きたくなかったからだ。
だが、足音は間違いなく次第に大きくなっており、こっちに向かっている気がする。
別にその足音が自分の方へ向かっているものではないと分かっているが、俺は反射的に後ろを向いてしまう。
それと同時に、女性の声がした。聞き覚えのある声だった。
「……あの、大丈夫、ですか?」
死んだはずの宮野明美がこっちを見ていた。
ぜひ高評価とお気に入り登録をお願いします!