死んでからが本番なコナン世界の転生者   作:たるたる

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第三話

「……あの、大丈夫、かしら?」

 

目の前には宮野明美がいる。さっき死んだ、そして死ぬ瞬間すら見てしまった宮野明美だ。

彼女のお腹には銃弾による怪我と思しきものは全くなく、血で汚れているはずの服も先ほどの怪我が嘘であるかのように綺麗だった。

 

俺はあまりにも突拍子のない出来事に頭の整理が全くできなくなる。はたから見れば間抜け面をしていること確実だろう。

 

(な、な、なにが、起こっているんだ!? 宮野明美はさっき死んだはずだ! あの怪我で生きていられるわけが……)

 

そこまで考えて俺はあることに気が付いた。

俺の目の前には宮野明美がいる。それは確かだ。

しかし、注意深く見てみると彼女が死ぬ前の時に比べて、ある違和感がある。これまでの自分だったら馬鹿馬鹿しく感じるような違和感だ。

 

(僅かであるが()()()()()()()

 

今は夜で周囲に明かりを発するものも少ない。

宮野明美を見た瞬間はわからなかったが、少し落ち着いてみるとこの暗がりでもかろうじてその事実に気づいた。

 

俺が長考している間に、宮野明美も同様に驚いた表情をしていた。

 

(……あ、そういえば彼女に大丈夫か聞かれていたな)

 

「………まさか……あなた……!」

「……すみません。少し、驚いていて返事をするのを忘れていました」

 

まだ俺の心は平静ではいられないものの、さすがに話しかけられているから返事をしないといけない。

情報量の多さでぐちゃぐちゃになった頭をなんとか整えて俺は言葉を紡いだ。

 

俺は再び宮野明美の姿を見る。やはり見間違いではない。体は透けていた。

 

(お腹に付けられた傷がないことも考えるとやはり……)

 

まさかこの現象が俺だけじゃないなんてな。

 

()()()()()()()()()()()()()。……まさか、とは思ったけれど状況的にそれしかないよな……)

 

俺は今まで死んだ後に幽霊になるのは俺だけに起こる現象だと思っていた。

実際問題、俺は自分以外の幽霊とは会ったことはなかったし、最近の殺人事件が起こった時も被害者は別に幽霊になる様子はなかった。

 

だから、今回もその通りになると思ってたんだが……

 

「……えっと、もしかしてあなたは……」

「……そうですね。少し、状況を整理しないといけませんね」

 

宮野明美の方も明らかに困惑しているとわかる。俺だって今の状況を整理なんてできないんだから彼女の方は何が何だか全く分からないだろう。

これ以上、彼女を不安にさせないためにも俺は自分が置かれている状況を話すことにした。

 

「まず、自己紹介すると俺の名前は野宮怜です。……信じられないと思いますが、何日か前に俺は殺されて、気が付けば幽霊になっていました」

 

そこまで言うと、宮野明美の表情が困惑からさっきまでの驚愕へと変えていった。そりゃそうだ。誰だって「自分は幽霊です」なんて言う奴は頭がおかしくなったのかと思うだろう。

だが、これが真実なのだから救われない。

 

「……おそらくですが、あなたも俺と同じように幽霊になったんだと思います」

 

宮野明美はまだ状況が読み込めていないようで、誰がどう見ても呆然としているのが分かるくらいだった。

 

「……え、えっ……本気で言ってるの? 冗談じゃないわよね?」

 

彼女はこちらをじっと見ており、信じられないといった雰囲気と同時にどこか不安そうなものも感じた。

冗談ならどれだけ話が分かりやすかっただろうか。

 

俺が嘘をついている様子ではないのが彼女も分かったのか、こちらへ向けていた目線をいったん外して、自分の手をじっくりと見ている。

 

しばらくすると、彼女は驚きと困惑が合わさったような声をあげながら、傷があるはずのお腹を触ったり自分の顔を触ったりしている。ちなみにだが、幽霊でも自分の体は触れるらしい。

そして、彼女が近くにあったコンテナを触ろうとすると俺と同じようにその手がコンテナを通り抜けてしまっていた。

やはり、彼女は幽霊になったみたいだ。

 

「……本当に……本当に、私は幽霊になったの?」

「えぇ、俺もあなたと同じように自分の体以外は触ることができません。ほかの人からも見られることはないですし……俺の中では、自分は幽霊になったと理解してます」

「……まさか、そんなことが……」

 

彼女はまだいろいろと理解できない様子ではあったが、段々と正気を取り戻してきたのか、さっきまでの驚きや困惑が落ち着いていくのがはたから見ても分かった。

 

「……そういえば、あなたの自己紹介をしていたわね。ごめんなさい、驚いていて返せなかったわ」

「いや、大丈夫ですよ。誰だって自分が幽霊になったら同じような反応をするでしょう」

 

彼女はようやく落ち着きを取り戻し、クスリと笑って自己紹介を始めた。

 

「……私は宮野明美。よろしくね」

「宮野……明美さんですね。よろしくお願いします」

 

あぁ、こうやって『名探偵コナン』に出てきた重要人物と会話するのは初めてだからなのか、俺はどこか謎の感動を覚えていた。

こうやって、彼女自身の口から宮野明美という名前が出てくるのは原作を知っている者からすると嬉しいものである。

 

「……それで、幽霊になったあなたはなぜこんなところにいるの? ……あなたは別にこの場所で死んだわけじゃないんでしょ?」

「……確かに、その説明は必要ですね」

 

やべ、どうやって説明しようか。

当たり前だがこの自己紹介の前は俺と宮野明美は会ったことはない。つまり、本来の目的である宮野明美を助けたかったという説明をしてしまうと矛盾が生じてしまうわけだ。

さて、どうしようか……

 

「……江戸川コナンです」

「えっ?」

「俺が殺された事件を解決してくれたのが江戸川コナンという少年だったんです。……その少年が行く先へ付いていったら、この場所へ来てしまったんですよね」

 

まあ、嘘は言ってはいない。だが正直、ここを掘り下げられてしまうといつかボロが出るのは確実だろう。

これ以上詮索されないのを祈りながら頭を回転させて上手い言い訳を考える。

 

「そこであなたが、殺されるのを見てしまったんです。……何とか止めたかったんですが、力不足でした。本当に……申し訳ないです」

 

とりあえず、本当の目的も少し入れ混じりながら矛盾しないように良い感じにぼかしながら説明していった。

後半部分に関しては噓偽りない俺の本音だ。これだけは伝えないといけないと思った。

 

彼女は驚きながらも、クスッと笑って返事をしてきた。

 

「ふふっ、見ず知らずの私は助けたいだなんて……本当に、やさしい人なのね」

「……人が撃たれそうになっていたんですよ。助けないわけには、いかないじゃないですか……」

 

ここまで素直で慈愛のこもった反応をされてしまうと、少しばかり恥ずかしくなってくるな。

こうやって好感触な反応をされるなんて考えてもなかったし。

 

そして、彼女は俺の精一杯の謝罪の返事をしてくれた。

 

「……死んでしまったのは確かに悲しいわ。……でも、いいの。覚悟はしていたし、この体になっても楽しそうだしね」

 

彼女は笑っていた。心の底から笑っていたように俺は見えた。

宮野明美に生きてほしいという目標は結果的に失敗に終わってしまった。だが、宮野明美を救えなかったかと言われれば、俺は違うと思う。

死んでもなお、これからというものがあるのは未だに慣れない。だが、このおかげでまだ彼女が存在し続けれるなら……本当に、良かったと思う。

 

「……そう言ってもらえると、ありがたいです。本当に。……それじゃあ、ひと段落したことですしお互いの状況を確認していきませんか?」

 

さて、理解不能なことがひしめき合っているこの現実。俺も彼女も分からないことだらけだ。彼女の方は特にそうだろう。

いろいろとこの後のことも考えないとな。

それに、幽霊になってからの初めての話し相手だ。しかもその話し相手は原作での重要人物。考えることは山ほどある。

 

彼女は笑ってこう答えた。

 

「えぇ、そうしようかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と宮野明美はお互いの情報を交換していった。

彼女が話してくれた情報の中には黒の組織に関するものや、妹の宮野志保のこと、この前食べに行ったパンケーキ屋の話など、それ本当に俺に話していいのか?ってものや、どうでもいいものまで多種多様だった。

 

対して、俺が話せるものは彼女のに比べて本当に少なく、正直言って重要度もそこまで高くないものばっかりだった。

 

言い訳をさせてほしい。

宮野明美は黒の組織に関わっており、なおかつ話し上手だ。重要度が高い情報を俺にもわかりやすく説明してくれた。本当にありがたい。

 

しかし、宮野明美と比べて俺は別に話し上手でもないし、黒の組織みたいな重大な何かに関わっているわけでもない。ちょっと幽霊経験が長いだけだ。

 

しかもだ。前にも言ったが、俺は転生に気が付く前の記憶を全く持っていないのだ。

転生してからの生活なんてちょっとしかしてないんだから、この世界において俺は世間話が全くできない。

そんな境遇の俺が彼女のように量もあって質も桁違いな話をできるだろうか?

無論、できない。

 

俺からの情報がほとんどないのは本当に申し訳ないが、無いものは仕方がない。俺は甘んじて彼女の話した情報をしっかりと吸収していくしかなかった。

 

何時間ぐらいたっただろうか?

さすがに幽霊の姿の宮野明美と会った場所からはもう離れており、港よりももっと明るい場所で俺たちは話している。

街灯があるからここら辺は明るいものの、周りを見てみるともう真っ暗で普通ならば皆もう家でゆっくりとしている時間帯だろう。

俺が辺りを見回しているのに彼女も気が付いたのか、彼女も俺と同じような動作をして周りを見渡す。

 

「だいぶ長い間話してしまったわね。……最後の方は、ほとんど私の世間話だったけど」

「でも、楽しかったですよ。……ただ、この時間だと車もなかなか通らないんで自宅に帰るのは難しそうですね」

「確かにそうね……私はどこへ帰るべきなのかしらね?」

 

どうしよう。どう返すのが正解なのだろうか?

結局、その言葉に俺は返事を返すことはできなかった。

 

彼女は組織に関わってしまった人間だ。今まで使っていた場所になんて帰りたいとは思わないだろう。宮野志保がいるところは別だと思うが。

 

「……そういえば、あなたは米花町に住んでいたって言ってたわね?」

「はい。今も元々自分が住んでいた家に住んでいますね。いつかは新しい入居者が出てくると思うんで、それまでの間にはなりますけど……」

「う~ん……決めた! 私も米花町に行こうかしら」

「良いと思います。……不謹慎すぎますが、あそこは殺人事件がよく起こるんで空き家が多いんですよ」

 

あまりにも不謹慎だが、そこに助けられているのは事実だ。空き家が多いからこそ、入居者は今のところいないのである。

 

「お互いが近いところへ居たら情報交換もしやすそうですしね」

「……そうね。でも、まずは志保の様子を確かめないと」

 

やっぱりそこは変わらないらしい。

こうなったら彼女はしばらくは組織に行ったっきり帰ってこないだろう。

……絶対気に病むだろうな。宮野志保が自殺しようとしてAPTX4869を飲んだこと。

 

「……志保、私が死んだことを知ったら……組織に反抗するのもいとわなさそうだわ」

「………」

 

実際、宮野明美が死んだことに対して組織から何の説明もなかったから、宮野志保は研究を中断して組織に反抗した。

そして、結果的に研究所の個室に閉じ込められた。そこで、APTX(アポトキシン)4869を飲んで体が縮んだのだ。

 

もちろん、宮野明美はAPTX4869の特性を知らない。

工藤新一と江戸川コナンが同一人物であることは最後の最後にコナン君がバラしていたが、あの薬を飲んだことによって体が縮んだことは知らないはずなのだ。

 

(……彼女に、このことを言うべきなんだろうか?)

 

宮野志保が灰原哀となるのはもう少し先の話だ。

それまで、彼女はどう行動するんだろうか?

もしも、彼女がAPTX4869の特性を知らないまま、今の宮野志保──シェリーに出会ったしまったら、彼女は何があってもあの薬を飲ませないように画策するだろう。

シェリーと関わっていたら、あの薬が毒薬として使われてたことに気づくだろうから。

 

しかしだ。シェリーがあの薬を飲まなければ、おそらく……いや、確実に最終的には死んでしまうだろう。

組織に殺されるかもしれないし、ほかの手段で自殺しようとするかもしれない。

少なくともあの薬を飲む以外に俺は彼女が生きるビジョンが見えない。

 

しかもだ。もしも原作通りシェリーがAPTX4869を飲んだとして、宮野明美はその光景に耐えることができるのだろうか?

宮野明美はもしも研究所にたどり着けば、片時も宮野志保と離れようとはしないはずだ。

もちろん、薬を飲むと決めてしまった時もだ。

 

その時、宮野明美はどう思うのだろうか?

……俺には想像もつかない。どれだけの感情があふれだすのか。

 

「……宮野さん。今から少し、いやかなり重要なことを話します」

「……なにかしら?」

 

これを話してしまうと、もう後には戻れない。

最悪、原作との流れが変わって最終的に灰原哀が存在しないことになるかもしれない。あまりにもリスクがある行動だ。

それに、今の時点で俺では知りえない知識を話す必要も出てくる。それを話してしまうと俺が黒の組織にかかわるものだと疑われ、彼女からの信頼が一気に壊れてしまうかもしれない。

 

だが、宮野明美も俺と同じように幽霊となった今、俺には話す責任があると思う。

 

「あなたの妹が作った薬──APTX4869についてです」

「っ!!? ……あなたは……いったいどういうことなの?」

「これから言う事はあまり信じられないかもしれません。でも、真実だということは理解してください」

 

まあ、幽霊となった今なら、信じられないこともない話かもしれない。

 

「まず、江戸川コナンについてですが……あなたも聞いたと思いますが彼の正体は工藤新一という高校生です」

「!……やっぱり、そうなのね」

「えぇ、俺は江戸川コナンについて霊体となった後にいろいろと話を盗み聞きしていたんですが、どうやらある薬を飲むことによって幼児化したらしいです」

「!! まさかその薬が!」

「はい。それこそがAPTX4869です」

 

俺が言っていることはおかしなところは多いだろう。

なぜAPTX4869を知っているのか。なぜ宮野志保がその薬を作っていることを知っているのか。

今の段階ではコナン君も知らないことばかりだ。

 

しかし、ここを明確にしていかないと、絶対に信じてもらうことなんてできないだろう。

妹が毒薬を飲むかもしれないのだから。

 

「……今の宮野志保さんを考えるに、状況はかなり良くないです。……それこそ、組織に消されてしまう可能性もゼロじゃないと思います」

「そ、そんな……」

「宮野さんが言うように組織に反抗しようともすると思います。……そうなると、もっと立場が悪くなってしまうでしょう」

 

正直言って原作で宮野志保が助かることができたのは、かなり運の要素が大きい。自殺しようと飲んだ自分の作った薬がまさか幼児化するものなんて考えもしないだろうし。

 

「いずれにせよ、宮野志保が生き残るためには……APTX4869を飲んで研究所から脱出する必要があると、俺は思います」

 

……ふー、緊張したな。ここまで踏み込んだことをしゃべるのは心臓によくない。

 

とりあえず、伝えないといけないことは言う事ができた。

これでこの後彼女がどういう行動をするのかは俺がどうこう決めれることではない。この後の行動はすべて宮野明美に委ねられているのだ。

 

「……聞きたいことはいろいろあるわ。……でも、今はこれだけを聞かせてくれる?」

「はい。……なんでしょうか?」

 

「……あなたは、私の妹──志保を助けるつもりなの?」

 

その答えは最初から決まっていた。ずっとそれを望んでいたのだから。

 

「もちろんです。……俺はあなたの妹を助けたいです」

 

目の前にいる彼女は柔らかく笑った。

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