死んでからが本番なコナン世界の転生者   作:たるたる

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第五話

俺は転生に気づく前にこの世界での「俺」がどのような人物だったのかが全く分からない。

おかしな話だ。前世の記憶もあるくせに。

 

だからこそ、俺が殺されてしまって幽霊になった後、俺はようやくこの世界での「俺」の人生とおさらばできると思っていた。

死んでしまった後、俺を縛るものは何もないと思っていたのだ。

 

だって、そうだろう。

幽霊になってしまったら誰とも交流することもないし、この世界に「俺」が残した歴史と向き合う必要もないはずなのである。

 

だから、幽霊になった後の俺は基本的に生きていたころに比べてはるかにストレスフリーな生活を送っていた。

「殺されないように注意しなければならない」「恨みを買ってはいけない」など、生きていたころは強迫観念にとらわれて幸せなんか感じなかったのだ。

 

幽霊になった後の生活は楽しい。これは紛れもない事実だ。

物を動かす練習をしているときだって楽しかったのだ。

 

だが、ふと考えることがある。

俺が転生に気づく前に生きていた「俺」はどのような人生を送っていたのだろうか?と。

 

今となっては関係のないことだ、と一蹴するのは簡単だ。

けれど最近になって──宮野明美と出会ったことによって状況は一変したように思える。

 

単純に好奇心で知りたいという気持ちもある。

しかし、俺を突き動かしているのはその気持ちよりも、知らなければいけないという義務感の方がかなり強い。

 

なぜこのように感じるのかは今はまだよくわからない。

だが、どうも胸騒ぎがしてならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………。

 

…………ん?

 

頭が……くらくらする。

なんだろう? 寝てた?

 

そこまで考えたが、あり得ないと思い改める。

俺は今は幽霊だ。眠ることなんてできないはずだ。

 

じゃあ、今の感覚は何なんだ?

朝に起きて頭がうまく働かないような……そんな感覚だった。……じゃあ、寝てるのか?

 

 

まあ、いいや。とりあえず、宮野明美に会おう。

今まで意識を失ってたわけだし、向こうも心配しているだろう。

どうやって説明しようかな? 俺もよくわからないことだらけだ。

 

俺はまだ上手いこと回らない頭を抱えながら実験室に入った。

だが、宮野明美はいない。それどころか宮野志保も見当たらなかった。

 

「……宮野さん? 聞こえるなら返事をしてほしいです」

 

俺は何回か声替えを行ったが返事は来ない。

あれ? 俺が寝てる間にどこかへ行ったのかな?

 

もしかしたら宮野志保は他のラボの方へ呼ばれて、それについていく形で宮野明美もついていったのかもしれない。

事実、宮野志保は天才だし他のラボで意見を求められることもなくはないだろう。よくわからないが。

 

(はぁ……だとしたら失敗だな。しらみつぶしでどこにいるか調べるのは大変だぞ……)

 

それに入れ違いになることだってあるだろう。

……面倒だ。

 

(……どうせ宮野明美が付いてるんだし、俺はここでラボの中を調べているか……)

 

些か消極的な判断の仕方なのは触れてはいけない。

ダルさというのは判断において割と重要なポジションにいるのだ。

地道な努力とかじゃなく、ただただ面倒くさいのは面白くないしやる気も出ない。しかも失敗する可能性もある。

 

俺は言い訳……じゃなくて理由を絞り出しながらラボの中を調べていく。

精密機械や薬品が多く、衝撃を与えていけないものばかりだが俺は霊体。そういった心配は故意に物を動かさない限り安心安全である。

 

それにしても化学はわからんな。なにを書いているのか分かったものじゃない。

 

そんなことを考えながらラボ内を物色していると宮野志保が使っている机の上に破れた紙切れがあるのが分かった。

……さっきまではあんなものなかったぞ。

 

俺は宮野志保の机に近づいてその紙切れを見てみる。

ん? 何か書かれてあるぞ。

俺は屈んでその紙切れをよく見てみると──

 

 

 

つれてかれた

 

 

 

(……は?? どう、いうことだ?)

 

つれて、かれた……つれてかれた!?

どういうことだ!? 誰に……誰につれられた!?

 

まずい。まずいぞ。俺が意識を失ってるうちに……何が起こっていたんだ?

俺はその紙切れを俺の目の前に持ってくるように動かして、俺の見間違いじゃないことを確認しようとする。

だが、見間違いという訳じゃない。あたりまえだ。

こんな少ししか書かれていない文章とも言えない文字を見間違うはずはないのだ。

 

さっきまでの寝ぼけているような頭はどこへやら、もはや見る影もないほどに活発化していた。

俺は冷静なろうと、紙切れを少し遠ざけて深呼吸をしようとした。そのとき……

 

(……ん? さっきまで気づかなかったが、右の端がインクで塗れているな)

 

宮野志保の机を見てみると、さっきまで紙切れが置かれていたそばに壊れた黒のボールペンがあり、その周りがインクで黒く汚れているのがわかる。

おそらく、さっき宮野志保が壊したボールペンにさらに力を加えて、インクが入っている筒の部分にも傷をつけてインクを漏らしたのだろう。

そして見た感じ、故意に紙切れを汚しているように見える。

 

(……黒のボールペン……くろ……まさか、黒ずくめの組織か!?)

 

間違いない。

この故意的な状況をわざわざ作り出したのは宮野明美だ。彼女は宮野志保がつれられるとき、どうにか俺に伝えようと最小限の労力でこの状況を作ったのだろう。

 

おそらく、宮野明美は俺を起こそうとしたはずだ。

しかし、なぜかはわからないが俺が起きることはなかった。

苦肉の策として俺に伝えようとしたのがあの紙切れなのだろう。

 

(もしや、もうジンたちが宮野志保を監禁したってことか? ……いや、いくらなんでも早すぎるぞ!)

 

おかしい。

これは俺の勘違いじゃ絶対にないはずだ。

 

灰原哀が登場するのは原作にして()()()だ。

しかし、宮野明美が殺されたのは原作の()()である。

 

まだ宮野明美が殺されてからたった一日しかたっていないはずだ!

いくらなんでも展開が早すぎやしないか?

 

(……まさか原作の流れが変わってるってことか?……考えづらいが、そうとしか思えない)

 

だとしたら、どこでその違いが生まれたんだ?

俺がいることで原作が変わってしまった可能性もあるが……さすがにそんなバタフライ効果あるはずないだろう。

……だめだ。分からないな。

 

(……とりあえず、宮野志保を探さないといけないな)

 

もしも俺の考えが当たっているなら、今の彼女の状況はかなり悪い。

しかも、意識を失ってた俺が手に入れている情報はあまりにも少ない。

俺が今できることはほとんどない。最悪に近い状況だ。

 

面倒くさいから調査をしないとか言っている場合じゃない。

俺は急いでこのラボから出て、宮野志保がいる場所を探そうとする。

 

監禁しているということは人から目につきづらい場所であるのは間違いないだろう。

だとしたら、エントランス付近や階段などの人の往来がしやすい場所の近くであるはずはないだろう。

 

おそらく、目的がなければ行かないような端っこにある部屋に宮野志保は閉じ込められているのだろう。

俺は研究内の人目のつかなさそうなところを片っ端から探して回るが、なかなか彼女は見つからなかった。

 

どこだ? 研究所内のどこかには居ると思うんだが……

原作での本来の流れが違っている今、何が起こってもおかしくはない。それこそ黒の組織がすでに宮野志保を研究所の外に連れ去っている可能性だってあるのだ。

だが、もしそうだとするともう俺は詰みだ。できることがない。

 

(頼む……研究所内にいてくれ。──いた!)

 

宮野明美だ!

彼女がここにいるってことは、とりあえず最悪のケースは逃れたのだろう。

よかった……

 

「……!怜くん! ようやく来てくれたのね!」

「すみません、遅くなりました!……それで、妹さんは?」

 

宮野明美は深刻そうな表情をしているものの、僅かな希望は見つけているかのような雰囲気だった。

この様子だとやはり黒の組織が関わっているのは間違いないだろう。

 

「……今は向こうのガス室で閉じ込められているわ。……左手に手錠をつながれてね」

 

やはりここは原作通りだ。

このままいけば宮野志保はAPTX4869を飲んで幼児化するだろう。

 

だが、今の彼女はAPTX4869を持っているのだろうか?

原作では隠し持っていたはずだが……

 

「わかっていると思うけどジンとウォッカが来たわ。……あいつら、志保が薬の研究を中断するって言ったら怒ってここへ連れてきたの」

「やっぱりそうでしたか……それで、ジンたちはどこに?」

「……ごめん、分からないわ。志保をここに閉じ込めた後、ほかのどこかへ行ったの」

「なるほど……こうなると研究所内にいるかどうかもわかりませんね」

 

この場に残っている可能性もあれば、もう用はないと研究所の外へもう行ってしまった可能性もある。

できればさっさとほかの場所へ行ってもらった方がこちらとしては都合がいいのだが……そう簡単に事が進むとは思えない。

かなり注意が必要だ。この場所へ戻ってくることも考えないといけないし。

 

「……確認させてほしいことがあるの」

「はい。……どうしました?」

「志保が作ったあの薬……本当に飲ませてもいいのよね?」

 

……正直言って、その言葉を手放しに肯定してしまうのは俺にはできない。

そもそもAPTX4869の幼児化の作用はこの薬の稀に出る副作用であるから、幼児化に成功するかどうかも危うい。

 

俺は『名探偵コナン』の物語の流れを知っているからこそAPTX4869を飲むことが最善手であると分かるが、原作での流れが違ってきている今、本当に宮野志保が幼児化してくれるかはわからないのだ。

 

だが、それ以外に宮野志保が助かる道はほとんどないのも事実なのだ。

黒の組織の情報網からして幼児化でもしない限り、変装をしたとしてもすぐに捕まってしまうだろう。

 

「俺の考えでは……それしか道はないと思います」

「……ええ、それはわかるのだけど……あなたが言うには、あの薬は毒薬として使われていたのよね?」

「そうです。痕跡が残らない毒薬として使われていましたが、偶然にも副作用として幼児化の作用が現れる人もいます。……それが、工藤新一でした」

「……その偶然に賭けるのは、やっぱり怖いわね……それしか道はないって分かってるのに……どうしても……」

 

宮野明美は話すのも難しそうに恐怖で包まれていて、よく見ると手も震えている。

その姿は彼女が生きているとき、黒の組織に会うためにタクシーで移動しているときの姿と重なって見えてしまう。

 

「気持ちはわかります。……ですが──」

「──ああああぁぁっっ!!!」

 

俺が話そうとした瞬間、突如としてガス室の方向からとんでもない大きさの悲鳴が聞こえてきた。

 

「──!! なに!? 志保の声だわ!」

「──! ガス室に行きましょう!」

 

轟音とも呼べる悲鳴はまだ続いている。

金属と金属が激しくぶつかり合う音が響き渡る。

床に何度も靴が叩きつけられる衝撃が伝わってくる。

 

俺たちはすぐ宮野志保の安否を確認しようとガス室に入る。するとそこには苦しみ悶えている宮野志保の姿があった。

 

「──志保! 大丈夫!?」

「──これは!? 体が縮んでいる!」

 

間違いない。APTX4869の副作用──幼児化が起こっている。

宮野志保の身長がみるみるうちに小さくなっていき、今まで彼女の動きを制限していた手錠から彼女の小さくなった手が自由落下する。

彼女の手首の周りは赤いブレスレットをしているかのように内出血をしていて、薬の苦しさを紛らわすために、もしくはこの苦しさから何とかして逃げるために手錠を思いきり引っ張っていたことがわかる。

 

しばらく宮野志保の悲鳴が続いたが、彼女の幼児化が徐々に止まっていくにつれてその大きさは小さくなっていく。

そして、最終的には宮野志保は灰原哀の体格となり、俺が『名探偵コナン』でよく知っている姿へと変わった。

 

「これが……あなたの言う薬の副作用なの?」

「そうです。……なんとか、毒薬としての作用は免れたみたいですね」

 

今の宮野志保の姿を見てこのような感想を述べるのは不謹慎かもしれないが、良かったというべきだろう。

これで原作の流れの最重要な部分は乗り越えることができた。

 

この薬の副作用が起こるかどうかは完全なる運でしかなかったのだ。

最悪の場合、彼女はそのまま死んでしまうこともあった。

だからこそ、一つの峠を越えたとして俺はどこか安心感を感じている部分もあった。

 

小さくなった宮野志保は不思議そうに自分の身体を見ている。

その手はさっきの薬の苦しみの影響なのか小刻みに震えている。

 

「……これは……まさか私にこの副作用が起こるなんてね」

 

しばらくして彼女は自身に何が起こっているのか理解したようで、すでにAPTX4869の副作用の影響であると分かっているみたいだ。

やはり薬の開発者であるから理解が早い。

 

「……とりあえず、志保が死なないでくれて良かったわ……本当に……」

 

宮野明美もようやく安心したような雰囲気を漂わせている。

しかし、その手はさっきの宮野志保のように震えており、姉妹なんだなとどこか他人事のように考えてしまう。

 

よし、あとは宮野志保がダストシュートから逃げ出せればいいのだが──

 

コツ……コツ……

 

廊下の方から足音が聞こえてくる。

その足音はこちらへと確実に向かってきており、ただの足音のはずなのに胸が不安と恐怖で強く締め付けられるような感覚へと陥ってしまう気がする。

そして、その感覚は宮野姉妹の方がより強力なようだ。

 

「──ッ!! ……ジン……」

「──ッ、まずいわ。ジンたちがここに来るわよ!」

 

まずいぞ。この二人が言うのだから間違いないだろう。

とりあえず宮野志保の幼児化はしっかりと成功はしたが、このままジンに今の彼女の姿が見られたら本当におしまいだ。

確実にジンは宮野志保を逃がすことはないだろう。

 

「……はあっ……はぁっ……!!」

 

宮野志保は恐怖で縛られていてピクリとも動けないでいる。

しかし、見るからに動悸が激しそうで、呼吸もかなり荒い。

この様子だと今の彼女はダストシュートに逃げ出せるほど機敏な動きは出来そうにもないだろう。

 

「どうしよう……このままじゃジンに今の志保を見られちゃうっ!」

「……とりあえず、何か足止めをしなければ……!」

 

このガス室の鍵は間違いなくジンが持っているだろう。

つまりジンがここへ入ってくるのを食い止めるには、ここへ入るための扉を無理やりにでも力を加えては入れないようにするしかない。

もう時間はない。

 

「宮野さん! ジンたちを足止めするの手伝ってください!」

「──っ! わかったわ!」

 

俺と宮野明美はガス室につながる扉に思いきり力を入れていく。

静止しているものであれば普通よりもはるかに強い力を出すことができる。二人もいたらその効果はさらに倍加されていくだろう。

何しろ隣にいるのはたった一日で俺よりも幽霊に慣れることができたあの宮野明美なのだ。

 

もうジンの足音は目の前にまで来ている。

しかし、宮野志保の様子はさっきと変わらず全く動けないでいるし、目を強く瞑っていてこれから起こるであろう出来事を想像しているように見える。

 

ジンの足音が止まり、このガス室の鍵が開けられる音がする。

しかし、俺たちの力がかなり掛かっているおかげで向こうは扉を何度か開けようとするが動くことはなかった。

 

「あれっ? 兄貴、この扉開きませんよ?」

「ウォッカ、貸せ」

 

どうやら最初に開けようとしたのはウォッカだったみたいだ。

しかし、すぐにジンがしびれを切らしてこの扉を開けようとする。

 

(……宮野志保は……くそっ、まだ動けないでいるな……)

 

まずいぞ。宮野志保はジンたちの会話を聞いてしまったから恐怖をさらに増してしまっているように見える。

このままじゃ俺たちがどれだけ抵抗しようともいつかは突破されてしまう。

 

どうにかして、ジンたちをここから離さないと……!

 

ジンは扉が開かないと分かると、さっきよりもさらに強い力を加えようとしている。

……だめだ。焦っていて何も案を出せない!

 

俺が何とかして打開案を導き出そうと頭を回しているうちに宮野志保が心細そうに、そして小さく呟いた。

 

「だれか……たすけてっ……」

 

俺は扉に力を加えながらチラッとそちらの方向へ見ると、宮野志保はジンたちの声が聞こえないように両耳に掌を強く当てつつその場へ縮みこんで俯いてしまっている。

 

その痛々しい様子と助けを呼ぶ声は俺の脳裏を深く刺激した。

 

(──ッ、まただ……また頭が、痛い……!)

 

それもさっき意識を失う前に感じていた頭痛よりもはるかに激しく感じる。

なんなんだこれ……なにか、思い出そうとしている?

 

(……そうだ。さっきも宮野志保を見たときに頭が痛くなっていた。宮野志保が……鍵なのか?)

 

もう一度思い返してみる。何も思い出そうとしているのかを。

俺は目を瞑って精神を落ち着かせる。

 

何か……忘れていることが……。

 

(そうだ! 俺が転生に気づく前だ! まさか……俺はすでに宮野志保と会っていたのか!?)

 

俺はようやく一つの結論を導き出すことができた。

そして、その結論に俺が気が付いた瞬間、さらに頭の痛みが激しくなった。

 

俺はあまりの痛みに宮野志保の方に向けて目を見開いてしまう。

そのことがさらに俺の脳を刺激する。

 

「……お姉ちゃん、怜……たすけてっ……!」

 

俺はその言葉によって記憶が戻っていく感覚がした。

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