※お気に入り、評価ありがとうございます。精進して参ります。
※あとがきが二重になっていたため修正しました
「正気の沙汰じゃないわね。」
「アァ!?こちとら正気なんだよォ!」
ひとりでに動き回る《踊る短剣》。
縦横無尽に襲い来るソレに手をこまねく。
《キャノン》は当たらず、《ソード》でなんとか弾き飛ばすも、強度値は未だに残っている。
…残りは《タネビ》が2枚と《ケムリ》が1枚。心許ないが、『
そう決めて、カードを盾に換装する。
「喰らいなァ!」
飛来する腕。
不気味な事極まりないソレに怯まず。
正面から見据え、その一撃に盾を合わせる。
一撃目。…衝撃を受け、弾かれた腕がまだ向かってくる。
二撃目。…気合いを込めて盾をぶつけた瞬間。短剣が、盾が。
ガラスの様に砕け散る。
「よしっ」
思わず口をついた感嘆と共に表情を緩め。
腕を弾き飛ばした私は、男の方へ振り返る。
「まだまだァ換装!」
同時に宣言。
何も着けていない腕を振り上げた男に警戒し。
何が来る!と、神経を研ぎ澄ました所で……
ーー背筋に走る鋭い悪寒。
「ッ!?」
それに従い、体を捻りながら飛び退いた私が見たのは。
変わらず浮かぶバトルガントレット。
纏う霧によって、かろうじて輪郭のわかる剣を視認して…
思考にノイズが走る。
…アレに触れられてはいけない。なんとしても防がなければ!…
「ッ換装!」
視界の隅で火花が弾け、腕に盾が換装される。
そうして、不可視の剣が盾に触れた瞬間ーーゾワリと不快感が走り、致命的に何かを間違えたことに気づく。
「なっ!コレは!」
バチバチと凄まじい音をたてながら発生する《タネビ》と《ケムリ》。
接触したその『無』を拒絶する様に激しく盾を輝かせては、バトルバンドから、無尽蔵に白紙のカードが散らばっていく。
「止め、やめなさい!そんなことしたら貴女!」
「ククク、ハハハハ!愛されてんなァ!」
デッキを押さえる手を擦り抜け、散らばっていくカードに涙が落ちる。
それでも、《タネビ》は…『炎狐ウネグ』は止まらない。
その身を虚無に貪られながら、その全てを焼き尽くさんと全力を持って主人を守っていた。
ーーーー
「おい!テルミさん!あんた審判なんだろ!あんなの普通じゃない!止めろよ!」
騎士の如きガントレットを怒りに振るわせ、一人の少年は審判を務める女性の襟首を掴み。噛み付かんばかりに吠えていた。
辺りは、徐々に薄ら寒い霧が広がり。
掠れる視界の先で、閃光と見惑う火花の連続が、その戦場で起きている何かを覆い隠している。
「しょ少年、落ち着いてくだされ!小生は解説屋なればこそ。神聖なバトルを邪魔するなど、とてもとても…」
「はぁ!?使えねぇ!!!」
あふん。と、気が抜けた声と共に床へ伸びるテルミさん。
…悪いけど同情はしないかな。
周りの大人は「闇のバトルか…」と訳知り顔でぶつぶつ呟き始めるし…
別の人は「こんなとこ居られるか!俺は家に帰る!」と店を飛び出していくし…
戦っている二人の安全と言う意味でも、周囲の安全と言う意味でも、
このままバトルを続けるのは良くない。
「もういい!俺が!」
「うん、僕も手伝…」
そうして、頷くと共に動き出した僕たちを他所に。
栓を抜いた水のように、螺旋を描いて霧が収束する。
そこには一枚のカードを掲げる男。
男はバトル開始時にも顕現していた鏡《冥府の合わせ鏡》の中心にソレを掲げ、鏡から出て来た《現実加工》が、そのカードに重なり合う。
「俺様は、《ヒトダマ》に墓地の《踊る短剣》を『現実加工』!」
「切り開くは航海の日々!魂の標に従い俺様の下へ集え!!」
「『
集う霧の中心。カードから現れたのは一本の海賊剣。
紅に染まったその剣は、空中に浮かびあがり、ゆっくりとその瞳を開く。
「おぉ!ォオオオ!!」
男が言葉にならない雄叫びをあげ、涙を流しながら剣を抱きしめる。
寝ぼけるように眼をパチクリさせた剣は、安心したように微睡へ戻りかけ……
…主人の腕にまとわりつく霧を睨みつけると、目にも止まらぬ速さで突き刺さった。
「は?」
男のライフが尽き、フィールドが四散する。
突き刺さったままの剣を見て、絶望の表情を浮かべた男は。
膝を折り、霧へ溶けるように消えていった。
ーーーー
「…おや?そうですか、キャプテンファローは…」
図書館の一室。描かれた魔法陣の上に現れた霧を纏うバトルバンドを眺め、男は1人呟く。
「…ここも寂しくなりますね。」
そのバトルバンドから、霧とカードを回収した男は、ソレらを眺め、2枚のカードを自らのデッキへと加える。
《虚の短剣》《現実加工》。どちらも、かつて戦ってきた敵のカードであり、このふざけた世界を壊すためのキーカードである。
「貴方の灯した標の光。絶やすことなく繋げて見せましょう。……深淵に祝福を」
ーーーー
「カリン店長!」「カリンさん!」
シンと静まるバトルフィールドへ、心配の声と共に子供達が駆け寄っていく。
見たところ外傷はない。
それでも、何か大切な物を見失ってしまったような、ぼんやりとした雰囲気の店長に戸惑い。無意識に師匠を頼ろうとして、視線を彷徨わせたが故に気づく。
「『カットラス』…。」
「モンスターの『サモン』…?」
ある者は呆然と、ある者はギラギラとした目で。大人達がデッキとフィールドを何度も見返している。
「おい!店長!俺と勝負だ!」
「いや、俺が!」「私が!」
そうして、なんらかの結論に至ったのか、爆発する様に巻き起こる喧騒。
異様な熱気は、ぼんやりと宙を見るカリンさんとは対照的で。
…この流れはまずい事くらい、子供の僕ですらわかった。
「今のカリンさんはバトルできる状態じゃ!?」
「知るか!」「ガキはすっこんでろ!」
凄まじいほどの人の圧力、殺気にもよく似た狂気の視線に思わず涙ぐみそうになった所で横割りから、よく響く声がその全てを遮ぎり。
ーー高らかに宣言を上げた。
「バトル終了ーー!チーム『神久』!ホームの防衛に成功いたしました!さぁ、挑戦するチームはいるか?『エリアバトル』の公式ルールにより、参加者への個人での挑戦は禁止されているぞー!」
「んなもん数年前のイベントじゃねぇか!」
「どこで参加しろってんだよ!」
狂乱にも似た勢いのまま、大人達はグルグルメガネの女性を睨みつける。
ふざけた高説を垂れるなら容赦しないと、バトルバンドに手をかける者すらいるなかで、いたって平常心な女性はとぼけた顔を返し、腕のバンドからホログラムを展開する。
「おや、皆様数刻前の通知をご覧になっておりませんか?それでは改めまして!」
「コレにて、『エリアバトル』のエキシビジョンバトルは終了!詳しくは本日午後3時より『ガウツ・コア・コンツェルン』より発表するから、是非待機してくれッ!であります。」
一瞬。しんとなる店内。
デカデカと浮かぶ、第二回エリアバトルの飾り文字がクルクルと回るのを見て…
「うぉおお!このタイミングって事は…」
「あぁ!きっと手に入るんだ!さっきのカード!」
「こうしちゃいられねー!」
再び喧騒が爆発する。
デッキを見直す者、仲間を探しに行く者。様々なカードバトラー達が思い思いに駆け出し…
そうして、店内はがらんと静まりかえった。
「テ、テルミさーん!」
「なんだよ、意外と頼りになるじゃんか」
先程まで頼りにならないと思っていたのをくるりと変えて、この場を納めてくれたテルミさんの元に駆け寄る。
…よく考えたら、彼女がそもそも止めていれば…まぁ、助かったのは確かだし、良しとしとこう。
師匠も言ってた。「結果よければ全てヨシ!」だって。
「いえいえ、コレもカードを愛する者の務め……。およ?失礼。電話が」
そうして照れくさそうに頬を掻いているテルミさんのデジタルバンドから鳴り響く通知音。
一言いって電話に出たテルミさんの顔が、アニメのように真っ青に染まる。
「ぬぁ〜!お父さま!怒りを、怒りをお納めくだされ!」
どうやら、電話の相手はお父さんらしい。
…なんだろう?買い物でも忘れてたのかな?…
首を傾げる僕に、通話ホログラムを覗き込んだゴウジくんが口をパクパクして固まっている。
「はい、はいぃ!今すぐ向かうであります!」
「な、なぁ、テルミさん、今のって…」
「ご想像にお任せするであります!」
それでは!っと、慌ただしく飛び出していったテルミさんを見送り。
僕達は改めてカリンさんの元に駆け寄るのだった。
「ようこそお越しくださりました!」
「カードショップ『炎剣』へようこそ!」
「本日は小生が『ガウツ・コア・コンツェルン』について説明するのであります!」
「『ガウツ・コア』社はデジタルバンドを初めて開発した複合会社であります。」
「現在では、約80%ものシェアを独占しているとすら言われ」
「バトルカードとは、切っても切れない関係にあると言えましょう。」
「であれば、大型イベントが『ガウツ・コア』社主導で行われるのは、自然な流れでありましょう。」
「いゃ〜楽しみでございますなぁ!」
「ソレでは!次回もバトルスタート!」