※前編はダイジェストですが、余裕がある時追記するかも?
帰りの会でエリアバトルについて話があった日の放課後。
僕とサクラちゃんは二人でカードショップ『炎剣』へとやってきていた。
「「こんにちは〜」」
「はい、こんにちは〜。挨拶できて偉いね!」
そんな僕らを迎えたのは、赤いエプロン姿の金髪の女性。
普段の防弾制服姿じゃないから、一瞬わからなかったけど。
カードポリスのコトネさんが、店員としてそこに立っていた。
「あれ?コトネさん?なんで『炎剣』に?」
「おっきな大会だからね〜。カードポリスから一人ずつお手伝いが出てるんだよ。」
僕の質問に、大会パンフレットを渡しながら話してくれるコトネさん。
その姿は慣れたもので、もしかしたら店員さんもやったことがあるのかもしれない。
そんなことも考えつつ。
カリンさんにもあいさつしようと辺りを見渡す。
騒がしい店内に、ストレージを眺める常連さん。
レジカウンターにはいつも通り、退屈そうな…あれ?
「コトネさん。カリン店長は?」
「あーっと……体調不良でお休みダヨー。」
「ええ!?やっぱり昨日のバトルで…」
コトネさんの言葉に、昨日のバトルを思い出す。
海賊姿のバトラーに、立ち込める霧の中の激戦。
そして、生きているとしか思えない短剣。《
アレは、僕の知る常識を超えたバトルだった。
…何が起きていてもおかしくない…
そんな心配が顔に出ていたのか。
「大丈夫だよ」と微笑んだコトネさん。
改めてサクラちゃんの方を見ると、空気を変える様に言葉を紡ぐ。
「あ、ところでそっちの子は彼女さん?」
その言葉に頬に熱が籠る。
…た、たしかに将来的には…いやいや、僕なんかが彼氏なんて…
「えっと…。クラスメイト…「彼女でいいんですよキズナくん」いや。うん。まぁ、そんな感じでサクラちゃんです。」
「もう…『
「わ、ご丁寧にどうも。『
しっかりとお辞儀をしながら挨拶するサクラちゃん。
それを受けてコトネさんも、改めてお辞儀をし、自己紹介を返した。
ーー
「ふんふん、よし。これで二人のエントリーを受け入れたよ。それじゃ、バトルコートに移動して?」
そのままの流れで、エントリーの手続きをしてもらった僕らは、バトルコートへと移動する。
どうやら、エントリーを確定するためには公式バトルの履歴が必要ならしく、それもあってアオイくんは僕に声をかけていたらしい。
…ごめんアオイくん…
そんな風に心の中で謝る僕と対照的に、ワクワクして楽しそうなサクラちゃんは。こちらを真っ直ぐ見て、言葉を紡ぐ。
「いきますよキズナくん!」
「負けないよ、サクラちゃん!」
「「バトルスタート」」
宣言と共に広がる虹の虹彩。
対面に立つサクラちゃんの姿が変わり。新緑のスカートに、白いシャツが綺麗に映え、桜色の羽織は柔らかな風に揺れている。
いつ見ても戦装束には見えないけれど、彼女らしくてとてもかわいいと思う。
「いきます
その姿が、一瞬で広がる桃色の花弁で見えなくなる。
《花吹雪》は強度値0の《ハナビラ》を無数に発生させるエフェクトカード。
《ケムリ》と違うのは、発動にライフコストがある事と…
「そして!《フルールカッター》!」
…専用のサポートカードが存在すること。
サクラちゃんの振るった指揮棒に合わせて、《ハナビラ》が踊る。
指定された空間に浮かんでいた《ハナビラ》はピンク色に輝くと共に強度値を獲得し、無数の斬撃としてコチラに迫ってくる。
「読めてるよ!
そこに僕が投げ込んだのは《ボム》。
基本カードの中で唯一、範囲ダメージを発生させるそれは。不安定な《ハナビラ》を吹き飛ばし、わずかな煙となって僕らの視界を遮った。
「畳みかけます。
そうして、この隙に距離を詰めようとして、煙の向こうから聞こえた声にギョッとする。
《タネマシンガン》はデッキの《タネ》を送る事で追加発動できるアーツカード。
つまり、視界が遮られても関係なく。面で攻撃ができる。
「あーもう!上手いねサクラちゃん!
僕が換装したのは盾。
さすがに強化分の打ち消し程度にしかならないけど、無いよりはマシ。
ケムリから抜けて横に軌道修正したところで、被弾数が増えるだけに違いないなら、前に。進む!
「ぐっ…うりゃあ!」
盾に襲いかかる衝撃。
盾の表面を《タネ》がガリガリと削り…
ついに破れたシールドの破片を振り払いながら僕は前に駆け抜ける。
「さすがです。まさか防がれるなんて!」
「いや、防ぎきれなかったよ…?」
かろうじてライフは青のまま。
それでも、腕はジンジン痛み、ライフポイントの不安は拭えない。
ーー理由は単純。今の一撃が《タネ》何枚分なのかわからないからだ。
5点以上の大技であるかもしれないし、3点程度の様子見かもしれない。
前者であれば、それでいい。
けれど後者であれば…
次以降も撃たれる可能性を考えなくちゃならない。
「仕方ない。換装!《キャノン》」
「そのくらい当たりません!」
「なら、当てるさ!」
なんにせよ、視界良好な今がチャンス。
一発の光弾を放つと同時に、前へ踏み込む。
光弾に並走するつもりで残りの距離を詰めた僕は。
横跳びに回避を決め、若干体制を崩すサクラちゃんに、残る一発を撃ち込んだ。
「くぅ…なんだかんだで足。早いですよね」
「鍛えてるからね」
「「チャージイン、ドロー!」」
褒め言葉に目を細め、お互いにカードをドローする。
引いたカードは…
《ソード》と《ボム》、そして《
見覚えの無いカードに首を傾げる。
効果は…デッキのカードを墓地に送り、そのカードの強度値と同じにする。か。…強いカードだ。
師匠のデッキからカードを、それこそ《次元斬》を借りれば。
コストが低い剣を10点として、間合いの取りやすいまま使う事ができる。
だけど、この場面で上手く使うなら…
「多重換装《ソード》《
「知らないカード?!ですが!
言葉と共に現れるピンクの盾。
ソレに接触した剣は、一瞬拮抗し。
盾に弾かれるかと思いきや、ぐにゃりと歪み。
《ケムリ》を撒き散らしながら折れ曲がった。
「来ると思ってたよ。罠エフェクト」
一歩下がり、その場で《ソード》を振り戻す。
ニヤリと笑ってみせると、ムッとした表情のサクラちゃん。
油断なく盾を構えたサクラちゃんは、確かめるようにそれを振りかぶり、《ソード》へぶつかる軌道で殴りかかってきた。
一打、二打…煙を撒き散らしながら受け流す僕を見て。
換装時間を終えた盾を、桜色の光に還しながら彼女は呟く。
「強度値が無い、剣…ですか?」
「そうだよ、そして…」
会話の合間を縫って漂い始めた無数の《ハナビラ》。
背後に現れた桜から溢れるソレを、居合でもって切り落とす。
剣はそのまま煙へと変わり、弧を描くように《ハナビラ》を飲み込んでいく。
「空を斬る無限の剣でもある。」
他は、いらない。
ここに剣は存在するのだから。
ーーーー
「わぁ…」
バトルフィールドの外。審判として二人を見ながら感嘆の声が漏れる。
無数に舞い散る《ハナビラ》にそれを切り裂く灰色の剣。
まるで舞踏を見ているようなその光景に、心が踊る。
数値で見ればお互いに0。
ライフに影響しない攻防は、人によっては鼻で笑うだろう。
…だけどそいつはわかって無い!
強度値0。そこにあるけど、そこにはない物。それを活かして戦うバトラーがここに二人もいる!
そんなワクワクが熱と共に押し寄せ、鼓動の音が強く高鳴る。
「やっぱ、私もバト…「座ってなさい」ぅ。…先輩ぃ〜!」
スパンと、小気味いい音を響かせて、ハリセンを振り抜いた先輩が現れる。
その手にはいつも通り、年季の入ったバトルバンドがつけられていて。
パチパチと小さな幻聴を響かせる彼女の様子に、思わず笑みが溢れる。
「全く、油断も隙もない…」
それに気づいていないのか、あるいは無視しているのか。
ため息をついた先輩は、小さなオルゴールを持ってこの場に現れた。
「思い出したわ…ありがと。コトネ。」
ーーそれは黄金のメモリアル。
いつか消えてしまう儚い記憶の集積装置は、決して朽ちる事なく、黄金の日々を呼び覚ますのだ。
「んふふ、お礼はバトルでいいけど〜?」
「例の件が終わってからにしなさい。」
「はぁ〜い」
上機嫌な私に、無愛想に返す先輩。
いつも通りだ。やっぱ、こうじゃ無いと面白くない。
オルゴールはそのまま机に飾り、後ろ手に腕を組みつつ一歩、二歩。
先輩の視界に入り直しつつ、問いかける。
「…それじゃ改めて…先輩、海賊男はどうなったの?」
「虚空に呑まれたわ。おそらく、貴女の探す行方不明者と同じようにね」
先輩の言葉に、やはり無関係では無かったかと、私が受け持つ任務を思い出す。
カードバトラー連続失踪事件。
腕利きのカードバトラーやコレクターが突然姿を消すこの事件は、幅広く被害が確認されており。
その起源をロマンカード研究所消失事件まで遡る。
その事件自体はとあるバトラーの尽力により、解決に向かったが、その際に確認されたのが『虚』と名のつくカード達。
「そっか……じゃあ。やっぱり」
「既に、この世界にはいないわ。かと言ってあちら側に向かう手段もない。手詰まりよ。」
首を振る先輩に思わずうなだれる。
『虚』は寂しがり屋だ。何も無い自らを埋めるため、手当たり次第に、自らの領域へと取り込んでいく。
そんな彼らを止めるのは現実的ではなく。
せめて、あちら側に向かう手段が有れば…と思い悩む。
「手段ならある。」
「知ったかはやめとけ!ゲンジ。」
「あぁ…」
どこから聞いていたのか、突然会話に入ってくる二人組。『
ソレなりに強い中堅バトラーであり、ショップバトルではよく見かける二人は、エントリーの台紙を片手に話を続ける。
「だが、お前も知ってるだろ?」
「異世界へ繋がる千本鳥居の話か?」
「あぁ!そしてそこに導いてくれるのは狐耳の巫女さんだと言う!!」
「なるほどな…でも、そもそも狐耳の人間は居ない。諦めろ。」
そんな軽口混じりの会話に、なるほどと頷きかけて気づく。
…狐に…巫女……?
すーっと視線を先輩に向ければ、流れに逆らわずそっぽを向く先輩。
そちらにぴょんと顔を出せば、また顔を逸らされ。仕方なく業務に戻る。
「情報ありがとうございます。エントリー受けとりますね。」
「あぁ!じゃあさっそく行くぞキンダイ」
「初戦が俺でいいのか……」
そのまま二人が去っていくのを見送った私は笑顔で先輩の顔を覗き込む。
「せ〜んぱい?」
「アイツのせいであの子も、私も力の大半を持ってかれたのよ。しばらくは無理ね」
バツが悪そうに、しかし淡々と事実を告げる先輩。
正直、いつもの先輩ならそのくらいできそうな気がしていたので、驚きはないが…間の悪い現実に、思わず唸る。
「ぐぬぬ、もっと早く来てればよかった…」
「まぁ、気にすること無いわよ。」
そんな私に、楽観的に返す先輩。
視界の先には、いつの間にかバトルが終わり握手をする少年少女と、入り口から駆け込んでくる少年達。
楽しそうに話す彼らは、『エリアバトル』の勝敗ディスプレイを宙に浮かべながら。明日の予定を話し合っていた。
「新しい運命は、もう巡り始めてるもの。」
懐かしそうに細められた瞳。
思い出に浸っているのだろう先輩に思わずムッとする。
…だからだろう。
「私達が、朽ちるには。まだ早いのよ!』
いつか聴いたそんな幻聴に背を押され。
先輩に抱きついた私は、記入済みエントリーシートを先輩に叩きつけ。挑発的な笑みを浮かべるのだ。
「なら、古い運命は
目を見開く先輩。
そのまま苦笑いに移行した彼女は、エントリーシートに承認印を押し、バトルガントレットを確かめて。歩き出す。
「遠慮しとくわ。」
パチパチと燃え盛る音。
篝火の幻聴は、今日も強く高鳴るのだった。
「ようこそいらっしゃいませ!カードショップ『炎剣』へ!」
「今日は私が、『ハナビラ』についてご紹介します。」
「『ハナビラ』は、空中に無数の花弁を発生させるアーツカードです。」
「強度値は0で、基本的には『ケムリ』と同じく、目眩しに使われるのですが…」
「実は、かなり多くの専用サポートカードがあり、攻撃へ転用する事ができます。」
「ぜひ、みんなも使って見てくださいね」
「それでは、次回も。バトルスタート!」