『現実換装!カードバトラーズ!』   作:学び手

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第11話の裏、もう一つの戦いになります。よろしくお願いします。


11-EX「霧に沈める者」

 

「ええ!?キズナくんが居なくなった!?」

 

カードショップ『炎剣』

その受付カウンターで退屈に負けそうだった私に、その情報を届けてくれたのは、キズナくんの彼女さん。サクラちゃん。

慣れない全力疾走で息を切らした彼女は、息を整えもせずに言葉を続けた。

 

「ゼェゼェ…そぅです。ゴウジくんが今も…探し…てて

「それは、不味いわね」

 

騒ぎを聞きつけて、バックヤードから顔を出したのは店長であるカリン先輩。

彼女はバトルバンドを手にしようとして、大会要項をチラリと見ると眉を顰めた。

 

「おそらく狙いは…《幻想加工(イマジナリーコーティング)》」

「コトネ。お願いできる?」

 

その言葉にもちろんと了承を返す。

私であれば、肩代わりで対戦することも。

最悪運営委託権限で中止させることも出来るはずだ。

 

「すぐ解決してくるから!」

 

そうして、バトルバンドを手にした私は、走り出した。

 

ーー

 

「うわ、すごい霧…こんなの何処から探せば…」

 

バトルフィールドの反応を追って、いつかの公園に迷い込んだ私は、あたりを見渡す。

一寸先を覆い隠す濃霧。

明らかに自然現象ではないソレは、ここで何かが起きている事を明確に示していた。

 

「お姉さん…ヒマ?」

 

そんな中で聞こえた澄んだ声。

中性的な抑揚の薄い声に振り向けば、深くフードを被った小柄な人影。

濃い霧のせいで表情の見えない彼女は、不安で俯いている様にも、そうで無い様にも見える。

 

…こんな場所にいる以上。無関係とは考えられないけれど…

 

「ちょっと忙しいけど、どうしたの?迷子かな?」

「ん…。少し違う。人探しをしてる。」

 

私の言葉にふるふると首を振る彼女。

少し違和感はあるけど、この霧だ。

親とはぐれてしまったのかもしれない。

警戒度合いを下げ、安心させるように目線を合わせ。

 

ーー言葉を紡ぐ。

 

「えっと、誰を?」

 

フードの向こう。

ガラス玉のような無機質な黄金の瞳が私を捉え、どぷり。と粘度の高い水音。

うっすらと浮かべられた笑みと共に、私達の周囲が泥沼のように沈み込む。

 

「『加工』の持ち主。だよ。」

 

咄嗟に構えたバトルバンドに合わせて、構えられる金のバトルバンド。

いつか誰かが話していた私とも違う黄金が、そこに立っていた。

 

ーーーー

 

なんとか距離を取り、イエローゾーンまで相手を追い込んだ私は。

息を整えながら、カードを換装する。

 

…霧のせいか、息が重い。ねばつく様な感覚が不快感を加速させる…

 

「私は、《コイン》を《不滅の針銃》で《復元加工(リバイバルコーティング)》!」

 

シンとした霧の中、私の声が響き、鼓動の音がリズムを刻む。

 

…しかし、それは高鳴りでは無く…

 

ーー胸の奥。共にある黄金が放つ怒りや恐怖。焦燥感を祓い去るための強がりでしかない。

 

「『復元換装(リバイバルコンバート)』!行くよ!《金朽の紡ぎ手アンクルズ》!」

 

宙を舞う黄金十字。

そのカケラから生まれた兵隊がいくつもの銃を構え…

 

「ん、待ってた。私は…エフェクト《毒の蓄積》を発動。」

 

ーードクンと、胸が痛む。

 

ジワリジワリと蝕むような痛みが全身に広がり、思わず口を抑えながら片膝をつく。

 

「ング…ゴフッ。ェグッ…」

 

「このターン、強度値を増やしたプレイヤーはダメージを受ける」

 

そうして抑えた両手の隙間から、濁り切った黄金が溢れ出た。

慌てて駆け寄る黄金の兵隊。

彼らは辺りに発生した泥に足を取られ、少しづつ錆びつき始める。

 

「そして、《沈みゆく黄金》を発動。」

 

そんなコチラを見もしない少女。

彼女は見せつけるように、黄金のホログラムを沼に落とし、しゃがみ込む。

 

「貴女の墓地にある。《復元加工(リバイバルコーティング)》を加えて…」

 

沼へと手を伸ばし、拾い上げたのは《復元加工》のカード。

ソレを確かめると、興味なさげに装填し。

ゆっくりと歩き出す。

 

「《コイン》に《毒の蓄積》を《復元加工(リバイバルコーティング)》。」

 

一歩、二歩。

彼女が歩いた場所が黄金の沼に変わる。

ソレは次々と辺りの物を呑み込み。一つに凝縮。

歪みに歪んだ黄金の枯れ木となり、金の果実をその枝に付ける。

 

「『復元換装(リバイバルコンバート)』おはよ。《金濁の結晶体ギフト》」

 

少女が後ろ手を組み、背後の樹木に微笑む。

その言葉と共に目覚めた人面樹は声にならない叫びを上げ。伸ばされた蔦が少女に絡みつく。

 

……ユニットカードの暴走!?

 

「!?…ッ…」

「ギフトの効果。貴女に、《虚の大剣》を換装する。」

 

首元を締め付け、絡みつかれながら、冷静に語る少女の言葉。

一切気にしないその姿に、カードの精神共鳴が可能性として高まり。

救い出そうと手を伸ばした私の腕に、腐り溶けた黄金の果実が、まとわりつく。

 

「ぐ…!?ァァア!!?」

 

共に激痛。侵食する黄金が、私を食い尽くさんと蝕み始める。

思えば、私が黄金と共になった日も、こんな痛みだったっけ。

…なんて考えながら、歯を食いしばり一歩踏み出す。

 

「《虚の大剣》は、自動的にライフを1ずつ払い強度値を上昇させる。…そして」

 

堪えようのない激痛の中。前に進む。

決して足を止める事はしない。

現実は、嬉しい事ばかりじゃない。

辛い事も、悲しい事もある。

それでも…!

 

「負け…るかァァア!!」

 

高く振り上げた見えない大剣。

ソレが徐々に重さを増し、黄金の木に振り下ろされ…

 

ーー少女の声が耳を撫でる。

 

「『ギフト』のダメージは相手が受ける。」

 

凄まじい音を立てて崩れ落ちる黄金の大木。

その蔦から解放された少女が、ゆっくりと歩み寄り。

 

黄金の蔓に絡みつかれた私に、『虚』の剣を突き刺した。

 

ーーーー

 

オルゴールの音が響いている。

人の多い店内で、かき消されるソレに気づいたカリンは、一歩近づき。首を傾げる。

 

「あら…こんな物置いてたかしら…」

 

そんな彼女に近付いてくる二人の人影。

 

「お!?それは!」

「知っているのか!ゲンジ!?」

 

いつも通り騒がしい常連の彼ら。

いつも通り荒っぽく持ち上げるかと思った彼らは、らしくないほど丁寧にオルゴールを持ち上げると首を傾げた。

 

「いや、知らん。」

「おいおい、珍しいな。知らない物に反応するなんて」

「いや、知ってる気がしたんだよ。なんかホントに。」

 

そんな軽口と共にそっと、オルゴールを置いた彼ら。

神妙な顔をして目を見合わせると、カリンに邪魔した事を詫びてカードストレージの方へと戻っていく。

 

「…知っている気が…した?……何が…」

 

ゆっくりと辺りを見直す。

一人で回すには無理がありつつ、なんとか回せている店内に。

イベント用の特設スペース。

その片隅に置かれたこのオルゴール。

一体なんなのか…分からず仕事に戻ろうとして…。

 

チャリン…とコインが落ちる音が聞こえた。

 

「あ、悪い。財布開いてたか」

「おいおい、拾うの手伝うぜ」

 

そんな会話を背後に、一気にフラッシュバックする思い出の数々。

片手では収まりきらないソレに、思わず歯を食い縛った私は、誰かに声をかけるのも忘れて店から走り出す。

 

「お、おい!?店長!?おーーい!!」

「…店番しとくか。ゲンジ。」

「マジかぁ…」

 

ーー

 

辺りは暗くなり始め、夕焼けに染まる薄霧の広がる中。

仲良さげに歩いている二人の少年を見つけ、私は声をかける。

 

「アンタ達!」

「カリンさん!?」

「おー!カリン店長!聞いてくれよキズナが!」

 

嬉しそうなゴウジくん。

彼はキズナの勝敗リザルトを見て楽しそうに笑っている。

しかし、今は、それどころじゃない。

 

「後で聞くわ、ソレより、コトネは…どこ?」

「コトネさん?」

「あー?誰だっけ?」

 

何処か距離を感じる呟き。

ソレに嫌な予感をさらに強めた私は、二人に暗くなる前に帰るように言い含め、再び駆け出した。

 

ーー

 

そうしてたどり着いた、公園の一画。

学生の頃何度か共にバトルした思い出の場所は、まるで悪意ある何者かが薬を撒いたように芝が枯れ、粘ついた泥が残っていた。

 

「コトネ!返事をしなさい!コトネ!!」

 

辺りを見渡し、《ヒカリ》で照らす。

なんらかの異常が起きているらしく。

いつも以上に弱々しい光が、視界の先を照らすように動き、その隅に輝くものを発見する。

 

…コトネが自慢げに見せびらかしていた特注品のバトルバンド!!

 

急いで駆け寄ったそこにあったのは、コトネのバトルバンド。

そして十字のアクセサリー。

半ば沈み込むように泥に埋まるソレを、手が汚れるのも構わずに拾い上げる。

 

「何…やってんのよ…バカ…」

 

故に気づく。

彼女のデッキから、力が失われている事に。

既にここには『アンクルズ』が…《復元加工》が存在しない事に。

 

…どうして気づかなかったのか。

 

身近に

最も力のある『加工』カードが存在していた事実に。

彼女こそがターゲットになり得る可能性に…

 

力が抜け、座り込む。

気持ちの悪い泥感触に悪態をつくのも忘れて。

私はただ、彼女のデッキを見つめていた。




「ようこそ、カードショップ『炎剣』へ!」
「お、そのカードは!」「知ってるんだな?ゲンジ!」
「あぁ!『沈みゆく黄金』は、チーム『大海』のリーダーが使っていたカードだ」
「効果は、お互いの墓地から任意のカードを手札に加える効果」
「その汎用性の高さから、バカにできない金額で取引されている。」
「その割に見かけないって?」
「そこが面白いとこなんだが、噂によればカードポリスが流通量を操作してるんだとか!」
「ま、手に入ったら大事に使うといい!」
「んじゃ、次回もバトルスタート!」
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