経年劣化で錆が見られる非常階段に、葛の葉が絡みつくボロボロのアパート。
バトルバンドに表示されている座標に赴いたボクは、失礼の無いように数度ノックをし…少し待つ。
「何?」
しばらくの沈黙。床が軋む音がかすかに聞こえ。
扉から出てきたのは、深くフードを被った女の子。
金メッシュの混ざる紫色の髪は、枝毛が目立ち、あまり手入れをしていないのが明白だった。
ーーもったいない!
「やぁ、こんにちは!可愛らしいお嬢さん。ボクは…」
これほどの原石を磨かなければ、世界の損失だ!と。
本来の目的も忘れて、ナンパ→美容室のコンボを決めるため、口を開くボク。
ソレを細い指が遮り。目を細めた彼女が口を開く。
「前置きはいい。何が欲しいの?」
「え?じゃあ、君という美しい宝石が欲しいかな」
思いもよらない問いかけ。
コレ幸いにとデートのお誘いをすると、頷いてくれた少女。
よし!と、美容師さんに連絡しようとバンドに視線を向けたところで…
…スルスルと布の擦れる音。
「?…!?」
バッと視線を上げれば、フードだけじゃ無く、スカートを落とし。
胸元のリボンに手を伸ばしている彼女の姿。
「ま!?ストップストップ!バトル!バトルのお誘いだから!」
「?なら、そう言って。」
ボクの言葉に、首を傾げながら服を正す少女。
あ、危なかった…この子。ちょっと素直すぎるかもしれない。
もし、バトルの方に軌道修正しなかったら、どうなっていた事か…全く、バトル様々である。
「はは…」
「いくよ」
「「バトルスタート!」」
ーー
古びたアパートの裏。
ただ広いだけの駐車場で、二人のバトラーが対峙する。
一人は青い髪を一房に束ねた王子様。
それに対するは、紫の髪に金混ざりのくせっ毛がフードから飛び出した。悪の魔術師然とした外装を羽織った少女。
「私は、『黄金の宝珠』を発動。」
その内、外装を羽織った少女が、淡々と金のバトルバンドにカードを換装すると、その手に黄金の水晶が現れる。
「効果により三枚の基本カードを『
宣言と共に、ふわりと浮かび上がる黄金水晶。
ほどほどの高さに落ち着いたソレは、大きくまたたくと、周囲に三つの光球が生まれ、少女の手札へと宿っていく。
「いきなり、三枚も補充しただって!?」
「欲しければあげるけど?」
「え、いいのかい?じゃあ。『
そんな、いきなりの手札補充に驚愕するボク。
それを見て。こてんと首を傾げた少女の、冗談に乗っかってあげると。
心なしか嬉しそうな少女がそのままカードを発動させる。
「ん、了解。『黄金の贈り物』を発動。効果で『
そうして広がる金色の霧。
それがボクの腕に覆い被さると。
じわじわとバンド周辺に染み込み、金色のキャノンが換装された。
「へ?おお!キラキラでカッコいいじゃないか!」
なかなか見ることの無い金のキャノンに、テンションを上げ良さげな角度を探して太陽にかざす。
ずっしりとした重さがここちよく。じわじわとした痛みが……痛み?
「……ン!?だ、ダメージ!?」
バッと振り返りエナジースフィアを見る。
そこには、僅かに色が濁り、黄色へと近づく青の球体。
まだ、カードを発動していない為。
本来なら青いはずのエナジースフィアに困惑していると、少女が口を開く。
「『
「さ、先に言って欲しいなぁ。」
「ん、今度からそうする?」
「いや、大丈夫さ。」
少女からの種明かしに、少しうなだれてみせると。静かに頷く少女。
ちょっと心配になるくらい素直な良い子である。
「二枚装填して、バトル」
「では、ボクも三枚装填!バトルだ!」
「…フッ!」
「な、早!?でもボクだって負けてはいないさ!」
そしていよいよバトルフェーズ。
ふわりとフードを置き去りに、陸上選手もかくやと言う速度で、蛇行しながら駆け抜けてくる少女。
ソレに向けてボクは黄金の銃を向けて撃ち放つ。
狙いは上等。輝く弾丸が真っ直ぐに少女の前に踊りでて…
「いいよ、ライフで。」
笑みを深めた少女の肩と腕に突き刺さる。
「ンン、換装『
その僅かな弾丸は振り落とし、蒸気のように立ち上る黄金。
金毒の痛みすら笑みに変えた少女は金の剣を、上段に構え振り下ろす。
「換装!『リプレイランス』!」
それを受けるコチラは機械槍。
横手に持った槍が、強度差の影響もあってかガリガリと削られ。
へし折れる前に飛び退き。再びトリガーを引く。
「もう一度だ!『リプレイランス』」
僅かに広がったリーチ。
それを無くしてなるものか!と。
ジリジリとした毒の痛みを無視して振るった一撃は。
再度振るわれた金の剣に防がれ、お互いの武器が砕け散る。
「剣が…。」
「畳みかける!『コピーアームズ』!」
淡々と砕けた剣を見つめる少女に向けて、新たに換装した槍を振るう。
ボヤけたホログラムが再び槍の形を取り。
全身を蝕み、気化する黄金の霧に眉を顰めながら突きを放つ。
「ぐぅ!くらえ…!」
「罠。『黄金の循環』。効果により、墓地のカードを三枚。手札に戻す。」
ソレに対するは、黄金の霧。
槍にまとわりつき、渦の様に回転を始めた金色の粒子が収束すると、錆色に発光。
パラパラと舞い落ちると共に。
ボクの手元に二枚のカードが加えられる。
「!?バカな!ボクの槍が崩れて…」
「『リプレイランス』二枚があなたの手札に戻ったことで、その槍の強化値は失われた。」
『コピーアームズ』の弱点。
それは、対象となるカードがない場合。
強度値1の棒でしか無いと言うこと。
それはつまり、その状態を作ることが出来れば。
僅かな強度値でも、返り討ちにすることができると言う事。
しかも…その上で今回は……
「そして私は、『毒の蓄積』を加える」
「…!これほどの対策を即席で!?」
攻撃を防ぎながら、次ターンに繋ぐ起死回生の一手。
確かに、『リプレイ』シリーズは同名の数だけ強化される共通効果を持つカード群だ。
だからこそ、プロのバトラー相手なら簡単に対策されてしまう。
しかし見たところ彼女は、そういったカード知識は深くない。
その効果を2度の斬り合いと、毒の挙動から推測したのだとすれば。
凄まじい観察眼だ。
「どう?コレで満足?」
そんな風に驚愕するボクに対して。
手札の『
余裕はない事を示唆する少女。
確かにお互いのライフは、赤みがかった黄色であり、あのボムを喰らうことを考えると、発動できるカードは多くて三枚。
そこに毒による自傷ダメージを考慮すると、一枚しか発動できない可能性が大いにある。
ーーそんな状況で、十点近いであろうライフを削りきらなくてはならない。
「いや、まだだ。まだ一枚のドローが残ってる!」
面白くなってきた。と笑みを深め。
真っ直ぐに彼女へ視線を返し、デッキに手をかざす。
……ボクのデッキに、単品で火力が高いカードは多くない。
なんならそのまま『リプレイランス』を追加で発動した方が強いくらいだ。
しかし、ソレはあちらも理解している。
だからこそ。一つだけ。可能性がある。
「そう?いいよ、見てる」
「ドロー!!……よし!」
思わずガッツポーズ。
引いたカードをバトルバンドに読み込み、換装を宣言する。
「いいカードが引けた?」
「あぁ、最高のカードさ!換、装!」
そして、展開されるのは、天上より照らすスポットライト。
その下で決めポーズを取ったボクは、緊張を悟られない様に笑みを深める。
「…?変なカッコ。私は『毒の蓄積』を発動。」
ソレに疑問を持ちつつ、カードを発動する少女。
再び黄金の霧が彼女から滲み出し…。
緊張がほぐれたボクは声を張り。対戦相手へと笑顔を向ける。
「そのカードはキミのメインギミック…発動してくれると信じていたよ!起動せよ!『ネバーエンドアンコール』!」
顔に翳していた手を前に。ウインクをして指を弾く。
一気に広がり始める黄金の霧。辺り一面が、眩く毒々しい濃霧に囲われ。少女のエナジースフィアが、一気に赤色へと染まっていく。
「私のライフが…」
冷静に、しかし確かにその目を驚愕に染めながらエナジースフィアを眺める少女。
その手には次の一手だったのだろうカードが握られ。
少し悔しそうに装填すると手を広げて、ボクに声をかけてきた。
「見事…だね。いいよ。おいで」
「バトルだ!換装『リプレイランス』!」
なんの効果も発動しない機械槍。
その鋭い一撃が突き刺さり。試合終了のゴングが響いた。
ーー
「ん。」
「ん?あぁ、握手だね。」
バトルが終わり、静かに起き上がった少女が手を差し出す。
……実際、いいバトルだった。
お互いに知らないカードの応酬。
それゆえに、勝利へ向かうギリギリの接戦は手に汗握るいい戦いだった。
コレで握手をしないのは失礼なんて物じゃないだろう。
そう思って差し出された手を強く握る。…と同時に眩い光。
彼女のバンドに金塊の山の上に立つ枯れ木の紋様が現れ。
ボクのバンドに王冠の紋様が刻まれる。
「コレは…紋章?」
「契約成立。困ったら呼んで。」
驚きと共に視線をやると、頷く少女。
バトル中の痛みから、何か特別な力のある相手だとは思っていたけれど。
これはむしろ、『虚』関係ではなく『黄金』に由来するもの。
バトル中の様子からしても、コレは無駄足になったのかもしれない。
「キミはいったい…」
「私?ロマン研製造のバトルロイドE-07。」
「ナナコ。と、あの人はそう言ってたよ」
背後のボロアパートに視線を向ける少女。
その視線は、無表情な彼女らしくない寂しげな物で。彼女もまた、大切な人を失っているのだろうと思い至る。
「ねぇ、ナナコちゃん。ボクの家に来ない?」
自然と言葉が出る。
聞きたいことは山ほどあるのに、それらより優先してでた言葉に、慌てて訂正しようとして。
「?私が欲しいの?」
純粋そうな期待する瞳がコチラを覗く。
……あぁ、そうか…この子にとって。
誰かに必要とされることは、全て良い事。なんだ…
何かを差し出す事。ソレが彼女にとっての生きる意味であり、それをなせたのならどんな過程も価値ができてしまうんだ。
ーーそれは、危うい。
「人聞きが……。まぁ、でもそうだね。その通りさ、ついておいで。一人は寂しいからね」
少し強引に手を引く。
彼女を縛り付けるこの場所が、どんな場所だったかはボクは知らない。
それでもきっと、ボクといる方が幸せだと傲慢に信じて見せる。
「…敗者は従うのみ。いいよ。ついてってあげる。ここにはもう…居ないみたいだし。」
そうして共に歩き出したボクらは、街の喧騒の中に消えていくのだった。
「いらっしゃいカードショップ『炎剣』へ」
「今回は私が、『毒の蓄積』について紹介するよ」
「『毒の蓄積』は、1ターンの間。強度値の増加にコスト消費を追加するエフェクトカード。」
「基本コストに追加して、上昇値をそのまま追加コストにする」
「いわゆる。『バーン効果』なんだって。」
「それじゃ、次回も、バトルスタート」