「おかしいよ…みんなどうしちゃったんだ」
アオイ君とのバトルをした日の夜。
僕は一枚のカードを手に、グルグルとおんなじ事ばかり考えていた。
『ネバーエンドアンコール』
コレは、アオイ君のカードだ。
目覚めず、眠ったままの少女。
『葵』のデッキには入っていなかった。
そんな、彼を代表するカード。
それを見せて、いくら説明しても。
誰もアオイ君の事がわからない。
まるで、自分だけが、ボタンかけ違えた異世界に来てしまった様な不気味さが僕を襲い。
同時に、あの瞬間、消滅したユニットの姿を思い出す。
「水仙…英語名は。ナルキッソス…」
少し崩すと、自己愛の強い人を意味するその花は、どこかアオイ君を連想させ。
もしかしたら…を考えると。
胸を掻きむしりたくなるほどの後悔に駆られる。
「ぅ…いや、きっと違う。大丈夫だ、大丈夫。アオイくんが目覚めれば、きっといつもみたいに…」
そうして、モヤモヤとした気持ちのまま、何度も目が覚めてしまうのを我慢しながら。
僕はようやく眠りに着いたのだった。
ーーーー
「おはよー…」
「おはようございます。キズナくん?寝不足ですか?」
「あ、あはは。ちょっとね?」
学校への通学路。
少しふらふらしながら、集合場所に現れた僕を見て。
サクラちゃんが心配そうに顔を覗き込む。
「んー…本当に大丈夫ですか?保健室行きます?」
そっと頬に触れ、目の下の隈をなぞるサクラちゃん。
口調こそ優しいものの、目が笑ってない彼女の様子を見て。
ここは言う事を聞いておこうと、返事を返す。
「…そう、しようかな。」
ーーーー
ふらふらと、保健室に向かって歩き出す。
昇降口でサクラちゃんと別れ、長い廊下を右へ。
そうして、ようやく見えてきた保健室の扉。
その扉をなんとか開けて、辺りを見渡す。
…誰もいない。
鍵を置きっぱなしの机に、空のコップ。
しまったままのカーテンが窓の隙間に吸い込まれ、バタバタと音を鳴らしている。
それを見てため息が一つ。
寝不足の頭に響く騒音をなんとかしようと、窓際に向かい…
ーーその隙間。中庭の花壇に美しい青藤色の後ろ姿を見て手が止まる。
「あれ、は…!」
ーー
「アオイ君!」
少年の、祈りにも似た声を聞き。
花壇に目を向けていた少女が困惑と共に振り返る。
「え!?えっとあなたは?」
少女の赤色の瞳には、不安な気持ちが色濃く浮かび。
それを見た少年が、駆け寄ろうとしていた足を止め、ゆっくり歩み寄る。
「ッ!キズナ。だよ、キミは…鳴樹葵。さん?」
さまざまな感情を押し殺した小さな声。
軽く俯く少年に、困惑と申し訳なさを感じさせる声色で少女が言葉を返す。
「そう…ですけど…。ごめんなさい。私。この数年間の記憶がなくって…」
「…ぁ。そう…なんだ。」
「えっと……うん。」
酷く、落胆した様な。
あるいは、悲しんでいるかの様な小さな声。
居心地の悪い沈黙が辺りを包み。
少女が困った様子で視線を彷徨わせる。
それを見て、少年は再び口を開いた。
「…キミは、なぜここに?」
恐る恐る花壇を見ながら話しかける少年。
「えっと、何か思い出せるかもって先生がここに…」
「あぁ…。何か、思い出せた?」
「…全然です。でも…」
それに対する少女も少し俯き。迷うように視線を走らせる。
しかし、僅かな光を灯しながら、黒いチューリップの花を撫で。
笑みを添えて、言葉を紡ぐ。
「ここのお花、すごい元気で。…何かすごいなって…私には…何も無いから…」
再び訪れる沈黙。
先程と異なり、お互いの弱い心を見せた沈黙は、不思議と不快感はなく。
少年は、花々を前に語り出す。
「……ここはさ」
「はい」
「一人の男の子が、ずっと育ててたんだよ。時々お花とお話しながら。」
「そう、なんですか?」
少し嬉しそうに語る少年。
昨日までの自分の現実を、偽る事なく語れるからか。
あるいは、その誰かの思い出が心を軽くしたのか。
先程までの重さが嘘のように、自然と言葉が溢れてくる。
「うん…確かそっちが、パンジーのパンさん。手前のがチューリップ3兄弟のケン、トム、ダニエル。だったかな?」
「ふふ、かっこいいですね」
「うん、いつも「おや、ダニエル?今日もキミは美しいね」なんていいながら楽しそうでさ!」
「はは、そんな風に話してたんですか?なんか、親近感が湧くなぁ。」
楽しそうに語る少年に、少女も少し。
気持ちが軽くなる。
初めて会ったはずの少年に。
その話の中の男の子に親近感を覚え、ふと。思い出せた思い出を語る。
「実は私も、昔。お花の前で演技の練習をしていたんです。」
「演技?」
「ええ、宝塚って言うかっこいい女性の劇団があるんですけど。」
「うん」
「昔、家族みんなで見に行ってかっこいいなーって。だから、練習してたんです。庭先の水仙に向かって」
懐かしい記憶。
亡くなる前の両親が私の演技に驚き、嬉しそうに抱き上げてくれる姿。
演技に付き合って、年上の兄がダンスを共にしてくれた夜。
そのどちらも。庭の白い水仙は見守ってくれていた。
「…ぁ。…そぅ。うん。そっかぁ……。グス…いい、話だね。」
そんな話を聞いた少年は、突然上を向いたかと思うと、涙を拭い相槌を打つ。
「え、ええ!?そんな泣くほど!?ど、どうしよ…あ!そうだ」
当然困ったのは、初対面の少女。
しかし、お互いの事はよく知らず。
何か、この子が泣き止む方法は、と会話の流れを思い出し。
ハッと気づくと軽く深呼吸。
ーー呼吸を整えて、口を開く。
「泣いているのかい?キズナクン?」
口から出たのは、少し低めな。男の子を思わせる声。
練習もしていなければ、多少の劣化があってもおかしくない演技用の声が、まるで使い慣れた管楽器のように奏でられる。
「ッ!アオイ、くん?」
不安そうに、寂しそうな少年を安心させるように抱きしめる。
「ふふ、なんだ寂しかったのかな。大丈夫、ボクがそばにいるとも」
イメージするのはカッコいい自分。
憧れたイメージがそのまま自分に重なり。
スラスラと言葉が浮かんでくる。
「ぅう…僕、キミが居なくなったんじゃ無いかって…」
涙を流す少年。
先程より、弱々しく。小さく感じる少年の背を優しく撫でたボクは。
キズナクンの目元を拭い、真っ直ぐに視線を合わせ。口を開く。
「そんなはず無いじゃないか、だってボクらは、約束しただろう?」
「約束?なん、だっけ?覚えてないや。」
「おや、残念だね。このボクが言った事を忘れてしまったのかい?」
おどけて、肩をすくめる。
柔らかな風に揺れ。
花壇の花々が、その朝露を輝かせているのに気づき。
笑みを浮かべながら、彼の言葉を待つ。
「うん、ごめん。」
「じゃあ、改めて…。」
僅かな金の光を発するキズナクンのポケット。
そこから『ネバーエンドアンコール』を取り出し、ウインクを一つ。
バトルバンドを手に、言葉を紡ぐ。
「また、バトルをしよう。次はエリアバトル本戦で。ね?」
キラリ光る翠の片目、いつも通りに浮かぶキラキラとしたエフェクトに…
見惚れ、抱きついた少年は、笑顔を浮かべながら、涙を流すのだった。
「ようこそ。カードショップ『炎剣』へ」
「何よ?え?レアカードを見せて欲しい?」
「ケースに飾ってあるから、好きに見ていきなさい。」
「なんでこんなに種類が少ないのか?」
「当たり前じゃない。レアカードは往々にして、」
「バトラー達が生み出したカードばかり」
「そう易々と市場には出回らないわよ。」
「なら、なんで出回るカードがあるのか?」
「…さあ?カードが自分から現れてるんじゃないの?」
「あら、試してみるのね?毎度あり。パックのゴミはゴミ箱にね。」
「では、次回もバトルスタート!」
詳細が気になる陣営は?
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神久
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深淵
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烈火
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大海
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黄金