犯罪王の黒くて青い春   作:POTROT

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大都市の犯罪王

 D.U.とは、District of Utnapishtim……即ち、ウトナピシュティム地区の略称である。

 学校による自治区ではなく連邦生徒会が直接管理する場所で、連邦生徒会本部であるサンクトゥムタワーもここに位置する。

 更にこの場所には矯正局などを始めとしたキヴォトスの主要な設備も多数設置されており、更には経済の中心点として様々な会社がこの地区に本社を置くなどしている。

 つまるところD.U.はキヴォトスにおける首都であり、同時に心臓部であるのだ。

 

 そして、そうであるが故にこの場所の警備は厳しい。

 ヴァルキューレ警察学校と言う治安維持に特化した学校の本校舎が存在するだけでなく、SRT特殊学園なる、いわば連邦生徒会長直属の特殊警察も存在する。

 更にはカイザーを始めとした各大企業の警備兵なども多数配置されているので、名実共にD.U.はキヴォトス内で最も治安の良い場所であり……つまるところ裏を返せば、犯罪者にとっては最も都合の悪い場所なのである。

 

 しかしリュウタロウは、そんな場所に犯罪王として足を踏み入れた。

 悪辣を働いたトリニティ生の、その親の所属する会社を破壊するためである。

 

 と、そう息巻いてまず最初の標的の近くにまで移動したリュウタロウであったが、いざ突入と思った瞬間に、ただ暴虐の限りを尽くすだけでは問題があることに気がついた。

 と言うのもこの最初の標的、大手製薬メーカーなのであるが、キヴォトス全土に製品が行き渡るような大企業であるのだ。

 

 いじめを働いた娘の親が重役を担っているという時点で叩くのは確定であるのだが、しかし単純に本社へ侵入して暴れ散らかすだけでその重役に、ひいてはその娘にリュウタロウが望んだような被害が出るのだろうか?

 否。断じて否である。

 

 リュウタロウがただ暴れたところで損害を受けるのは重役本人ではなく、企業そのもの。

 そして企業そのものが受けたダメージであるのなら、重役どもは知らん顔で役職の席に座り続け、中間管理職や末端の社員達に責任やら負担やらを押し付けるのであろう。

 

 それでは全く意味がない。むしろマイナスだ。

 リュウタロウが望むのはあくまでも悪辣を働いた娘に制裁を下す事で、その手段として親を社会的に失墜させるのである。

 いたずらに会社に損害を与え、失業者を増やしたいわけでは断じてない。

 

 であればどうするべきだろうか。

 一番手っ取り早いのはこのまま会社に乗り込んでターゲットだけをボコボコにして、二度と仕事できない体にしてやればいいだけであるが、そのようなやり方は犯罪王的にスマートでない。

 と言うかそれだと後味が最悪である。普通にやりたくない。

 しかしだからと言ってスマートなやり方を考えようにも、元々ごく一般的な学生であったリュウタロウの知能にそんな方法は思いつかない。

 

「…………うぅむ」

 

 リュウタロウは、再び思考のどん詰まりにハマってしまったのだ。

 ビルの屋上に座り込み、風を感じながらどうしたものかと長考するも、やはりいつまで経っても納得するような答えは得られない。

 そして答えが出ないまま朝日が昇り、辺りが明るくなってしまった頃。

 福音は、空の上から降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

『おはようございます! クロノススクール報道部です!』

 

 D.U.の空を回遊する、一隻の飛行船があった。

 側面には大きなモニターが据えられており、現在はニュースの映像が投影され、スピーカーから大音量の音声が流れている。

 

『早速ですが速報です! 速報ですよ皆さん! 先日、トリニティの自治区でとんでもないことが起こってしまいました! 映像がつながっていますので、詳しくは現場の■■■さんに説明していただきましょう! ■■■さーん!』

 

 パッと映像が切り替わる。

 するとモニターいっぱいに映し出されるのはクロノスの制服を着込み、マイクを握ったリポーター。

 背景に映るのはトリニティの街並みで、トリニティの調査員の他に、野次馬の人だかりが見える。

 画面左上にはLIVEの文字が踊り、それが生中継である事を示していた。

 

『はい! こちら現場の■■■です! 早速ですが、こちらをご覧ください!』

 

 リポーター指し示した方向にカメラが向く。

 すると、そこにあったのは悲惨なまでに大破した一つの店舗。

 ある程度の知識がある者ならば、そこがトリニティの中でも有名な高級時計店であったことに気付くだろう。

 

『こちらの大きく壁に空いた穴が見えますでしょうか! こちらのお店はトリニティ内の高級時計店なのですが、このように壁が大きく壊され……店内のショーケースと、その中に入っていた時計が全て破壊されています!』

 

 カメラと共に店内に入ったリポーターが指を差して示すのは、店内の床一面に散らばったガラスと壊れた時計の数々。

 正しく惨憺たる有様である。

 見るからに業物だとわかるような高級時計の数々がひしゃげ、砕け、歯車を飛び散らせたその様は、その損失の大きさを視聴者に感じさせた。

 

『酷い有様ですね……!』

『……はい! ですがこれだけではありません! 現在トリニティでは30を超える店や会社が、このように破壊されてしまっているのです!』

『現地では、一体何があったのでしょうか!?』

『……はい! 目撃証言や監視カメラの映像から、これら全ての破壊活動は現在巷を騒がせる例の怪人、犯罪王リュウタロウによる犯行であると断定されました!!』

『なんと!』

 

 リポーターとキャスターの実に白々しいやり取りが、驚愕の事実を視聴者に告げる。

 

 犯罪王リュウタロウ。

 それは数週間前から噂として知られ、そして二週間ほど前になって実存が大衆に認知された、ブラックマーケットより解き放たれた極悪犯罪者の名である。

 カイザーPMCに対するあまりにも一方的な蹂躙劇の映像はネット上に出回ってから既に多くの人々の目に触れており、その戦闘力の高さと凶暴性は多くの人間が知るところであった。

 

 しかし、それだけで終わりではない。

 

『しかし■■■さん! ネット上には犯罪王リュウタロウは悪事を働いた者にしか攻撃を加えないと言う話もあるようですが、それらの被害を受けた所はどうなのでしょうか!?』

 

 人々は、リュウタロウの活動に義賊的な一面を見出していた。

 そのきっかけは、ゲヘナで飲食店を営んでいたとある老夫婦の証言である。

 何と、リュウタロウがいきなり現れたかと思えば、驚くような額の金銭を置いていったのだと言う。

 そしてそれは、他の場所においても同じような証言が得られたのだ。

 更には一部の場所に至っては証拠映像すらあり、証言は事実であると裏付けられた。

 

 リュウタロウが私利私欲のために動いているのならば考えられないような行動だ。

 そこで一部の人間がリュウタロウが今までに標的とした会社や店の情報を調べてみれば、何と言うことだろう、その殆どに法のグレーゾーンに踏み込んだような形跡が見られるではないか。

 更にはよく考えてみれば、銀行と私兵を潰されたと被害者面をしているカイザーとて法のグレーゾーンに足を突っ込んでいることで有名な企業であるし、銀行の所在地なんてブラックマーケットのど真ん中である。

 何かやましい事がありますと、自供しているようなものだった。

 

 そこで一部の人間が、リュウタロウは単純な凶悪犯なのではなく、法で裁けないような悪に対処している、正義の味方なのではないか、と言い出したのだ。

 例え賞金狙いで襲撃を仕掛けたとしてもリュウタロウは一切反撃しようとしない、というネット上で前々からされていた学生達の発言も、その説を後押しした。

 

『それがですね……わかりません!』

『と、言いますと!』

『……トリニティが現在捜査途中とのことでして、それが終わるまで我々は今調査できないことになっています! インタビューも禁止で、ようやく許されたのがここの撮影なんですね! 正直なところインタビューのプロである私としては残念極まりありません!』

『えっ、本当に撮影以外の許可降りなかったんですか!?』

『はい! そちらの方向に人だかりが出来ているのが見えるでしょうが、そこに近づくことも許されていません! 隣にいるこちらの正義実現委員会の方々に機材を蜂の巣にされてしまいます!』

 

 カメラが回り、映し出されるのは銃を肩にかけて直立不動の姿勢を保つ、二人の正義実現委員の姿。

 その警戒の対象が撮影班に向けられていることは明らかであり、リポーターの言っていることは事実なのだろうと視聴者は認識した。

 

『そうですか……少々不完全燃焼気味ですが、現場の■■■さん、ありがとうございました!』

『はい、ありがとうございました!』

 

 映像がパッと切り替わり、スタジオのキャスターに戻る。

 

『現在の判明している限りで負傷者、行方不明者は一人も出ていません。……いやー……相変わらずですねー! 我々は引き続き犯罪王リュウタロウに関する情報を募集します! 視聴者の皆さんの中に犯罪王リュウタロウについての写真、映像等お持ちの方おりましたら是非ともクロノススクール報道部に!』

 

 それでは次のニュースです、と。

 画面の情報が移り変わり、宣言通り次のニュースが映し出される。

 人々の関心も、リュウタロウからそちらの方へ移り変わってゆくのだった。

 

 

 

 

「……これだ! これしかない!」

 

 一方その頃、リュウタロウは、先程のニュースに今回の壁の突破口を見出していた。

 それは地獄に垂らされた一筋の蜘蛛の糸のようであり、そしてその蜘蛛の糸は鋼鉄製のワイヤーのようであった。

 つまりそれだけの自信があるという事である。

 

 リュウタロウはその策がうまくいけば標的に狙い通りの大ダメージを喰らわせることが出来ると確信しており、更には策が成功することも確信していた。

 それだけの妙案が思いついてしまったのである。

 更には本当に上手くいけば、犯罪王と言う存在をキヴォトス中の人間に知らしめることもできるのだから、やらない手はないと言うものだ。

 

 そうと決まれば、ずっとこの場所にいるわけにもいかない。

 リュウタロウはビルを飛び出し、目的地へと走り出した。

 そう、先程のニュースのスタジオのある場所、クロノススクールへと。

 

 

 

 

 

 

 そして、その夜。キヴォトス中が騒然となる。

 人々の視線は自宅のテレビに、手元のスマホに、街頭や飛行船のモニターに釘付けになった。

 当然の事である。何せ────

 

『あー、あー、撮れているか? 撮れているな? よし。では諸君、初めまして。瀬治山リュウタロウ、もとい犯罪王リュウタロウだ。この時間の番組は誠に勝手ながらこの映像に差し替えさせてもらった』

 

 先日トリニティを引っ掻き回したばかりの、正に時の人と言える超凶悪犯罪者が、ニュース番組をジャックしているのだから。

 ……そう、リュウタロウの考え付いた妙案とは即ち、自らがテレビに出演する事であったのだ。

 

『皆、俺のことが気になっていただろうと思ってな。俺も一度はこう言う機会が必要だと思ったので、無理矢理このような形を取らせてもらった。番組を楽しみにしていただろう者達には申し訳ない。我慢してくれ』

 

 などと言っているが、全然クロノススクールの協賛のもとこの映像は撮られている。

 何ならカメラの後ろには数人のスタッフが忙しなく動いて撮影に協力していた。

 まぁ、協力すると言ったのは何がなんでも視聴率の欲しい上層部の一人で、動いているのはその直属の部下。

 大多数のクロノス生には知らされていない。

 

『早速だが、何故俺が犯罪をするのか、それについて明言させてもらうが、悪徳な大人を打ち砕き、善良な市民や生徒達を助けるためだ』

 

 身振り手振りで演出しながら、リュウタロウは語る。

 

『それはブラックマーケットでも、ゲヘナでも変わらない。俺は悪徳な大人を打ち砕き、善良な市民や生徒達を助けるために動いたと、俺は断言しよう』

 

 リュウタロウの狙いは複数ある。

 まずは犯罪王の名前を完全にキヴォトス中に周知させることで、これは既に達成されていると言ってもいい。

 そして次が、犯罪王としてのスタンスをキヴォトス中の全員に伝える事だ。

 犯罪王はこのような人間を標的にして、どのようにするかを宣言するのである。

 

『しかし、それでは不十分だった。トリニティでは、生徒によるいじめが横行していたのだ。だが俺は生徒には手を出さないと誓った身。どうすればいいと考え……親に責任をとってもらうことにした。先日の件はそれだ』

 

 リュウタロウはスマホを開き、カメラに向けて破壊された店の写真を見せつける。

 

『俺は大人だけでなく、ありとあらゆる悪徳と悪辣を暴力と略奪で以て打ち砕き、弱者を救う事に決めた。たとえ生徒であろうと今後いじめ、またはそれに類する行為、或いはその他の悪徳、悪辣を行った場合、俺の標的になるものだと理解しろ』

 

 語気を強め、カメラを睨め付ける。

 これでいじめや犯罪が無くなるなどとは思っていないが、しかしほんの少しでもそれらが少なくなれば万々歳というものだろう。

 

『……さて、これで本題は終わったわけだが、一つ、伝えておかなければならないことがある』

 

 そうして勿体つけてから、リュウタロウは爆弾を放り投げる。

 

『まだこのD.U.に。娘の犯した罪の報いを受けていない親がいる。今から全員分の名前、会社名と役職、娘の名前と罪状を読み上げよう』

 

 リュウタロウの口から、つらつらと情報が流れる。

 出てくる企業の名は誰もが知るような大企業ばかりであり、役職は重職も重職。

 そして娘の罪状は、聞いている側が胸糞悪くなるような悪質なものばかりであった。

 クロノスのスタッフ達も半分くらいでもう聞くに耐えないという顔をしていた。

 

『さて、俺としてはその連中に報いを受けてもらいたいわけだが……会社にいたずらに損害を与えたいわけでもない。会社は各員に適切だと思う罰を与え、それを大々的に発表しろ。3日以内だ。そうでなければ……まぁ、わかるだろう?』

 

 それは、明確な脅しであった。

 

『さて、改めて全員分を言っておこう。念の為だ』

 

 再び、先程と全く同様の内容が繰り返される。

 先程よりもよりはっきりと、絶対に聞き間違えがないように。

 

『では、失礼する。改めて言うが3日以内に、大々的にだ。以上』

 

 そうしてプツリと映像は途切れ、元の番組が流れ出す。

 しかし、人々がその番組を純粋に楽しむなど、出来るわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァルキューレ警察学校。その本校舎の一室で、拳が机に叩き込まれる。

 ガタンと机が揺れ、端の方に置かれていたファイルが音を立てて床に落ちた。

 

「─────舐め腐るにも程があるぞ、犯罪王ォ!!」

 

 目を血走らせ、歯を食い縛り、血管を浮かせながら、犬耳の少女は吠える。

 ただでさえ凶顔と言われ、子供から怖がられる顔は、もはや大の大人ですら泣いて逃げ出すようなものに変わっていた。

 そうして少女は滾る衝動のままに席を立ち上がり、外へ飛び出そうとするが、しかしその前に肩を掴まれて止められる。

 

「落ち着けカンナ、冷静になれ。冷静にだ」

 

 そう言い聞かせる彼女の先輩であるが、口調こそ穏やかであるもののやはり目は血走り、顔には血管が浮き出ている。

 それ程までに、先程の映像は挑発的であった。

 

 あの映像が残したメッセージはこうだ。

『連邦生徒会もヴァルキューレもSRTも全く怖くねぇわ。うん。俺が最強だから。酷い目に遭いたくなけりゃあお前ら素直に言うこと聞いとけ? な?』と。

 そう言っているのと大差無かった。

 と言うか完全にそう言っていた。

 

 こうされてしまえばヴァルキューレは勿論、連邦生徒会すらも黙っていられるわけがない。

 犯罪王の企みを阻止し、逮捕することができるか。

 そこに連邦生徒会の威信がかかっているとすら言っていい。

 

 悪徳な大人を打ち砕き、善良な市民や生徒達を守るだと?

 馬鹿を言うな。リュウタロウの行為は治安維持組織の信用を失墜させ、犯罪件数の増加を招くものに他ならない。

 あっていいわけがない。許されていいわけがない。

 ヴァルキューレが、連邦生徒会が、あの存在を完璧に処断しなければならない。

 

 これは、そう言う問題になったのだ!

 

「絶対に! 絶対に豚箱にぶち込んでやる! 首を洗って待っていろ、犯罪王ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 狂犬は吠える。

 憎むべき獲物、その影を睨め付けながら。

 

 

 

 

 

 

 

「……これは、流石に看過できませんね」

 

 連邦生徒会本部。その頂点。

 空を背に椅子に座る、純白の制服に身を包んだ少女は、嘆息して受話器を取る。

 

「もしもし……はい、ええ。私です。先程の映像は見ましたね? ええ。ならば話が早い。SRT、全隊出動です。徹底的にお願いします」

 

 受話器を戻すと、彼女は再び書類仕事に取り掛かる。

 連邦生徒会長は、多忙なのだ。

 故に、獲物を追うのは猟犬の役目なのである。

 

「全隊出撃だそうだ。行くぞ」

「まぁ、そうなるわよねぇ……」

「流石に、あれは見逃せないよね」

「ほらほら、早くしないと、先輩達に置いてかれちゃう!」

 

 斯くして、D.U.に猟犬達が解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅむ、これは……やらかしたか?」

 

 約束の期日である3日目。

 とあるビルの屋上で15社全てからの拒絶のメッセージと、D.U.中に配備された警察やら何やらを見て、リュウタロウは一人ごちる。

 

「しまったな。失敗だったか。いい案だと思ったのだが」

 

 リュウタロウは己が賢いとは思っていない。

 己が一人で何でもかんでも上手くできる天才であると思ってはいない。

 協力者の存在を欲しているのも、自らが未熟であることをよく理解しているからであった。

 故に、リュウタロウは己の失敗をあっさりと認めた。

 

「だがまぁ、意義はあったな」

 

 スマホを見る。

 SNSにはリュウタロウの危険性を叫び、会社と連邦生徒会の対応、それといじめの主犯を擁護するトリニティを非難する声で溢れていた。

 トレンド一位は勿論『♯犯罪王』だ。

 まぁ中にはリュウタロウを英雄扱いするあからさまに危ない人もいたし、リュウタロウを糾弾する声も相当に溢れていたが、しかしそれすらも犯罪王という名前の力になる。

 それがどのようなものであれ、犯罪王に関して声をあげている時点で、リュウタロウの狙い通りであると言える。

 

「……さて」

 

 会社は狙い通りに動いてくれなかったわけだが、引き下がるわけにもいかない。

 犯罪王としてそう宣言してしまった以上、リュウタロウはそうすべきなのである。

 

「ふぅー…………っ」

 

 リュウタロウは拳を振り上げ、息を吐く。

 そうして────

 

「はぁっ!!」

 

 思いっきり拳を叩きつけた。

 そうすることで、床に……即ち、下階にとっての天井に穴が空く。

 

「殺戮者のエントリーだ! ……なんてな」

 

 殺戮者ではなく、正確には破壊者である。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 そうして最上階に降り立ったリュウタロウは、周囲を破壊しながらガンガンと崩落しない程度に床を掘り進む。

 そうしてロビーに辿り着くと、一階から空まで届く、素敵な吹き抜けが出来上がっていた。

 ちょっと瓦礫が降ってくるのが玉に瑕であるが、匠の粋な計らいというやつだ。

 

「はい、一丁上がり」

 

 そう呟いた瞬間、けたたましいアラートが鳴り響く。

 

『ターゲットを発見! ターゲットを発見! 総員は直ちに現場へ急行せよ!』

「……ふむ、まぁ、鬼ごっこと言ったところか」

 

 そう思ってロビーを飛び出せば、既に何人もの警察がこちらに走って向かっている最中であった。

 やはり標的として発表した会社の周辺は重点的に固めているらしい。

 

「いた! いたぞ! 撃て! 撃てーっ!」

「む」

 

 警察達がリュウタロウに向かって発砲すると、飛んでくるのは銃弾ではなく紐や網、催涙ガスなど。

 どうやら本格的にリュウタロウの逮捕に乗り出したようである。

 これはリュウタロウも負けてはいられない。

 

「うわっ!?」

「ええっ!?」

 

 打ち出された紐や網の悉くを避け、第二の目標の方へ。

 そちらへ向かう最中にも同じような武装の警官達が居るが、同様に避けて行く。

 そうして第二の標的に辿り着き、取り敢えずガラス張りになった側面に蹴りを浴びせて蹴破り、内部に侵入。

 丁度いいので、そのままビルの全ての窓ガラスを破壊して回った。

 

「……楽だな、これ」

 

 そうして、リュウタロウはそんなことを呟く。

 実際、滅茶苦茶に楽であった。

 何せ手を突き出しながら走るだけで面白いようにパリパリ割れて行くのである。

 まぁ、外に破片が落ちないようにするのは大変であったが、次からは外側からやれば問題ない。

 被害的に考えれば高層ビルであるが故に修繕には時間がかかるだろうし、他のビルも同様にやれば更に時間がかかっていい嫌がらせになるだろう。

 

「よし、次もこれで行こう」

 

 最上階から飛び出して、そのまま次のビルへ。

 外側から障子を破るかの如く窓ガラスを全て破壊する。

 そうしてまた最上階から次のビルに……移動しようとして、次のビルにはあまり窓が無いことに気がついた。

 仕方がないのでまた床をぶち抜いて吹き抜けを作ってやった。

 

「む」

 

 配管の問題か上から水が降って来て、服が濡れてしまうが……まぁ、いいだろう。

 とにかく次だ。次を破壊しなくては。

 

「そこまでだ!」

 

 と、そこに現れるのは三白眼とギザ歯の怖い、金髪の少女。

 そんな彼女は凄まじい勢いでキレ散らかしながらこちらに向かって来るわけであるが……

 正直、リュウタロウの敵ではない。

 バスケ選手よろしく、フェイントをかけて抜く。

 

「なっ……待てっ!?」

 

 しかし諦めの悪い子のようだ。

 転びかけながら方向を転換し、リュウタロウの足首を掴む。

 

「ぐっ……どうだ! 捕まえたぞ!」

「……ふむ」

 

 困った。こうなってしまうとリュウタロウは動けない。

 振り解くわけにもいかなければ、このまま無視して行くわけにもいかないからだ。

 さて、どうしたものだろう。

 時間をかけ過ぎれば応援が来てしまう。

 と言うかもう来ている。早急にこの場を動きたいところだが……

 

「大人しく……しろっ!」

「ぬ」

 

 そうしてリュウタロウが困っている隙に少女は体勢を立て直し、背後から首を締め上げる格好……即ち、チョークスリーパーの体勢に移動した。

 リュウタロウの背中にたわわな感触。

 どうやらこの少女、中々のものを持っているようである。

 

 ……などと中年オヤジみたいなことを考えていたが、すぐに少女が背中に組みつく形に移動したことで、彼女を振り解かないでも足が使えるようになったことに気づく。

 ラッキーである。色々な意味で。

 

「うおっ……なっ、馬鹿なっ!? とっ、止まれっ!?」

 

 彼女を背負ったまま、次の標的へと移る。

 その後暫く少女は俺の頭を殴ったり耳の中に拳銃を撃ったり色々として来たが、しかし12個目の標的を破壊し終えたところで力尽きたのかリュウタロウの背中から落ちてしまった。

 それもビルの最上階から。

 

「うあっ……!?」

「おっと」

 

 仕方がないのでリュウタロウも飛んで彼女を抱えてやり、そのまま衝撃を殺しつつ着地して、呆然とする彼女を解放してから次の標的に移った。

 その頃には向こうもいよいよ捕獲用網を積んだヘリコプターなんかを飛ばして来たが、しかしやはりリュウタロウには当たらない。

 否、正確には一回だけ当たり、リュウタロウを地面に縫い付けたのだが……

 

「よいしょ」

 

 そんな間抜けた声と一緒に特殊合金繊維製のはずの網は破られ、結局15件のターゲットは悉くがリュウタロウの手にかかってしまった。

 

 しかも、それだけではない。

 リュウタロウはやはり会社を破壊しただけでは娘への報復になり得ないと判断し、D.U.にあった彼らの実家を破壊したのである。

 

 後に残ったのは破壊された会社に、連邦生徒会の敗北という事実と、無理矢理捻出した費用による赤字。

 そして、連邦生徒会に不信感を抱いた一般市民達。

 唯一の吉報であるはずの怪我人が一人もいないという報告は、むしろ一般市民からは犯罪王の本気を一片も引き出せなかったと見做された。

 

「……あーあ」

 

 誰かの失望の声が、ひどく大きく響いた。

 リュウタロウの、犯罪王の完全勝利であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クックック……成程、犯罪王。犯罪王ですか、興味深い」




思想的にはワンパンマンのガロウに近い。
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