ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】 作:びよんど
※8/11更新しました!
―――〝オルクス大迷宮〟 奈落・50階層―――
〝サソリモドキ〟と相対したハジメはすかさず[+鉱物系鑑定]を使用する。
見た目から連想する鉱物的な質感から半ば当てずっぽう気味に〝錬成〟の派生技能を使用したがどうやら正しかったらしい。
シュタル鉱石
魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石。
ほぼ反射的に懐から〝閃光手榴弾〟を取り出しサソリモドキに投げつける。
放物線を描いて飛ばされた閃光手榴弾はサソリモドキの眼前で強烈な閃光を放った。
「キィシャァァアア!!」
突然の閃光に悲鳴を上げ思わず怯むサソリモドキ。
「シィッッ!!!」
……間髪入れずに〝限界突破〟と[+縮地]によってサソリモドキとの距離を一瞬で詰めたハジメは、スライディングしながらサソリモドキの腹部に触れ一言呟く。
「―――……〝錬成〟」
……[+高速錬成]によって瞬く間にサソリモドキの
ドパンッ ドパンッ ドパンッ
〝纏雷〟によって電磁加速した秒速3.2kmの弾丸がサソリモドキの体内を蹂躙し―――……やがて外殻を突き破りサソリモドキの意識を強制的にシャットダウンさせる。
ドッシィィイン
……力なく倒れ伏したサソリモドキがピクリとも動かなくなり、完全に生命活動が停止したのを確認すると、ようやくハジメはカオリとユエに向き直り、少々恥ずかしがりながら頬を掻いてみせた。
「ハハハ………。
〝ヒーロー・ナグモ、参上!!〟…な〜んてカッコつけて言っちゃったけど、やっぱり恥ずかしいね……」
「ハジメ―――……最ッ高にカッコよかったよ!」
「ハジメ、スゴい、強い……ッ!(////////)」
本当に一人でサソリモドキを片付けてしまったハジメに最大限の賛辞を送るカオリとユエ。
特にユエのハジメを見る表情にはどこか熱が籠もっているように見受けられる。
サソリモドキに立ち向かう際に見せた凛々しい横顔の直後の愛らしさすら覚えるこの表情だ。
ユエは、キュンキュンする胸を抑える事が出来なかった。
サソリモドキを倒したハジメは、カオリとユエの手を借りてサソリモドキと一つ目巨人の素材やら肉やらを仮拠点に持ち帰った。
持ち運びに物凄く苦労したのだが、ユエがなんとカオリの首筋に噛みつき血を吸った事で瞬く間に魔力を充填させ見事な身体強化で怪力を発揮してくれたため、三人がかりでなんとか運び込むことができた。
ちなみに、そのまま封印の部屋を使うという手もあったのだが、ユエの精神衛生上よろしくないと判断してその案は没となった。
何年何十年何百年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。
ユエの放つ雰囲気からも察し、封印の部屋からはスタコラサッサと退出した。
そんなワケで、現在ハジメ達は消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。
「……ユエは少なくとも300年以上この迷宮に封印されていたって事なの?」
「……たぶん」
ハジメの記憶では、300年前の大規模な戦争の折、吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。
実際、ユエも長年物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚は殆どないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。
20歳の時、封印されたというから300歳ちょいということだ。
……女性に年齢の話はタブーだとキングから教わっていたため、なんとか失言を呑み込めた自分を褒めてあげたいと思っていたりいなかったり―――……
「私…先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。
でもある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって。
おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……。
でも…私…すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで…ここに……」
「ユエ……」
涙声になりながら懸命に言葉を紡いだユエを優しく包み込むように抱擁するカオリ。
カオリの豊満な胸に抱かれながら涙を拭い話を続けようとするユエに質問を投げかけるハジメ。
「吸血鬼って皆そんなに長生きするものなの?」
「……私が特別。
聞けば12歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。
普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも200年くらいが限度なのだそうだ。
ちなみに、人間族の平均寿命は70歳、魔人族は120歳、亜人族は種族によるらしい。
エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。
ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、17歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。
「(……最強の実力に加えて不死身の肉体、か。
……
比べる事自体が既に間違いかもしれないけれど、キングさんくらい強くならないと行き着く先はどうしても
欲に目が眩んだ叔父が、ユエを悪魔の如く周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが〝自動再生〟により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。
ユエ自身、当時唐突な裏切りにショックを受け、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ―――……気がつけばあの封印部屋にいたらしい。
その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。
ユエの力についても話を聞いた。
どうやらユエは全属性に適性があるらしい。
ユエ曰く、接近戦は苦手との事で、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。
「(……イヤイヤ、決めつけは良くないぞ……!
僕の予想を遥かに上回る超火力の魔法を連射できるくらいユエは凄まじいのかもしれない。
……僕がいた世界とこの世界を単純に比べる事が命取りに繋がるかもしれないし……)」
ちなみに無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。
魔法を補完するイメージを明確にするためになんらかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。
〝自動再生〟については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。
……逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。
つまり、長年の封印で魔力が枯渇していたあの時のユエは、サソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたということだ。
「それで肝心の話なんだけど、ユエはここがどの辺りか分かるかい? ……他に地上への脱出の道とか……?」
「……わからない、でも……」
ユエにもここが迷宮のどの辺なのかは分からないらしく、申し訳なさそうにしながら何か知っている事があるのか話を続ける。
「この迷宮は〝反逆者〟の一人が作ったと言われてる。」
「「 反逆者? 」」
聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わずユエに視線を改めて向けるハジメとカオリ。
ハジメの錬成作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。
「反逆者―――……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。
……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」
ユエは言葉数の少ないクール系無表情娘なので、説明には時間がかかる。
ハジメとしては、まだまだ消耗品の補充に時間がかかるし、新しい素材を手に入れた事で更なる新兵器の開発に乗り出しているため、作業しながらじっくり聞く構えだ。
ユエ曰く、〝神代〟に
しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。
その果てというのが、現在の〝七大迷宮〟と言われているらしい。
この〝オルクス大迷宮〟もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。
「……そこなら、地上への道があるかも……」
「なるほど、奈落の底からいちいち迷宮を上がってくるとは思えない。 ……神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないって事か」
見えてきた可能性に、喜びが隠せない様子のハジメ。
再び視線を手元に戻し作業に戻る。
カオリとユエの視線もハジメの手元に戻る。
「「 ……… 」」ジィ〜
「……見ててそんなに面白い?」
「……ハジメが何かに熱中してる姿が好き♡」
「私も……(/////////)」
ユエを抱き締めながら恥ずかしげもなく告げるカオリと、そのカオリにヌイグルミのように抱き締められながら恥ずかしげに頷き告げるユエ。
だぶだぶの外套を着て、袖先からちょこんと小さな指を覗かせ、ヌイグルミみたいにもて遊ばれるユエの姿はなんとも愛嬌があり、その途轍もなく整った容姿も相まって思わずハジメも抱き締めたくなる可愛らしさだ。
「(ぼ、僕にはカオリがいるんだ……ッ!
いくら可愛らしくて、正直好みのタイプだとしても、浮気をしてカオリを悲しませたくないッッ!!)」
悶々とするハジメの考えを受信したのか、すかさずカオリがとんでもない事を口走る。
「……ハジメ、いまエッチな事考えてたでしょ?
……ユエの姿を見て」
「ッッ!?!?(////////)」
「ファッ!? な、なんの事だか……ッ!?」
「……私は、ユエ
……だからハジメ? ……ユエを悲しませるような真似はしないでね」
「う、うん、分かったよ」
「カオリ………(//////////)」
努めて返事をするハジメだが、カオリの―――……というより女の勘の鋭さに内心冷や汗をかく。
そこからは黙々と作業していると、今度は自分の番と言わんばかりにユエはハジメとカオリに質問し出した。
「……ハジメ達は、どうしてここにいる?」
当然の疑問だろう。
ここは奈落の底…正真正銘の魔境だ。
魔物以外の生き物がいて良い場所ではない。
ユエには他にも沢山聞きたいことがあった。
なぜ魔力を直接操れるのか。
なぜ固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。
なぜ魔物の肉を食って平気なのか。
そもそもハジメ達は人間なのか。
ハジメが使っている武器は一体なんなのか。
そして、ハジメの語った
ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていくハジメとカオリ。
ハジメとカオリも会話というものに無意識に飢えていたのかもしれない。
面倒そうな素振りも見せず話に付き合っている。
ハジメが、クラスメイトと共にこの世界に召喚された事から始まり、無能と呼ばれていた事、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られカオリ共々奈落に落ちた事、魔物を喰って変化した事、地球への帰還の願い、〝神水〟の事、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついた事、ハジメ達の世界のヒーローの事などをツラツラと話した。
「……具体的に、ヒーローはどんな事をする?」
「そうだねェ、人助けは当然として―――……怪人を倒したりして人々の安全と平和を守っているよ!」
「怪人―――……どういう存在?」
「……唐突に人間社会に現れては人や建物、街なんかを破壊していく意思を持った災害みたいなものだね。
5段階に危険度…災害レベルが分けられていて、高い順に神、竜、鬼、虎、狼とあるよ。
……【狼】は危険因子となる生物や集団の出現を表していて、一般人でも人数と道具が揃えば対処可能な程度の脅威でしかないよ」
「……序列的に、一番弱い?」
「C級ヒーロー―――……えっと、ヒーローの中にも序列みたいなものがあってね、高い順にS、A、B、Cとあるよ。
災害レベル【狼】はC級三人あるいはB級一人で倒せるレベルの脅威なんだ」
「しー? びー?
……とにかく
「その認識で良いよ。
……【虎】は多くの人命の危機を表していて、目安としてB級5人あるいはA級一人で倒せるレベルなんだけど……相性次第ではA級でも負ける事があるんだ」
「……一気に、強くなってきた」
「まだまだ、【鬼】は一つの街の機能停止もしくは壊滅の危機を表していて、A級10人あるいはS級一人で倒せるレベルとされているけれど、これまた相性次第でS級を苦戦させたり、敗北に追い込む事もあるよ」
「……街一つの壊滅、確かに脅威的」
「………あ、
ユエ、大雑把になって申し訳ないけど僕達の世界の街一つの規模はこの世界の一国に匹敵するかもしれない」
「ッ!? ……つまり、一国を滅ぼせるだけの……ッ!
……急に危険度が跳ね上がった……ッ!!」
「……上には上がいるのがヤバいところなんだよね。
【竜】は幾つもの街―――……この世界的に言うと幾つもの国々が壊滅する危機を表しているよ。 ……この次元になるとS級でも苦戦は必至、相性に関わらず余裕で勝てる人はごく一握りに限られるだろうね」
「……………ッ!」
「最後に、【神】は人類滅亡クラスの危機を表していて、これが確認された事は今のところないよ」
「……もし、そんな脅威が襲ってきたとして、ヒーローは勝てるの?
……竜に匹敵する脅威に勝てるヒーローっているの?」
「……その質問に答える前に、S級ヒーローについて教えておくね。
……彼らは軍の一個師団並の個人戦闘能力を保有していて、【鬼】や【竜】を単独で対処できる」
「軍の戦力を、個人で体現している……?
もしかしてヒーローって、人外の集まり……?」
「紛れもなく人間だよ―――……たぶん。
そんな彼らでも【竜】相手となると苦戦は必至、ここまでは言ったね?」
「……まさか、本当に、いるの?
……竜殺しの英雄が……?」
「……
……僕は
「ちょっと前まで
「……名前は、なんて言うの……?」
「彼は―――……キング。
〝最高〟のヒーローとも呼ばれている、僕が目指してやまないヒーローの一人だよ」
キングの名前を出した辺りで、ユエに変化が表れる。
それは、隠しきれない好奇心…期待に満ち満ちた憧憬にも似た感情であった。
「ハジメ、カオリ、私もハジメ達の世界に行きたい―――……ううん、絶対行く……ッ!」
「……キングさんに会いにいきたいの?」
「ん、それもある。 ……それ以上にハジメ達と同じ目線、同じ世界を生きたいって思ったから。
……ハジメとカオリは元いた世界に帰りたい?」
「そりゃあ―――……帰りたいよ。
半分人間辞めちゃった気もするけど、お母さんに、お父さんに会いたい」
「私も―――……家に帰りたい。
……ただいまって言ってあげたいよ」
「……私の帰る場所はもうない―――……けど、ハジメとカオリの隣が私の今の居場所になったから―――……」
そう言うと、ハジメとカオリの身体を強引にくっつけ、その間に挟まるように小さな身体を捩じ込んだユエは、ハジメとカオリの頬にそれぞれ吸い付くような口づけをし、両者の耳元で囁くように宣言した。
「私がハジメとカオリを支える。
……私抜きじゃ生きられないくらいに、ね?」
「「 ッッッッ!?!?(//////////) 」」
ゾクゾクゾクゾクゾクゾク……
……瞬間、背筋に電撃のような快感が走った―――……ような気がしたが、気の所為だと思い込む事にしたハジメとカオリ。
長期間に渡る極限状況下でのサバイバル生活は、ハジメとカオリの心身に多大なる影響を及ぼしていた。
掻い摘んで言えば、本能的な部分が強くなってしまい
「……カオリの血……美味だった♡
……ハジメの味……教えて……♡」
〝同意もなく襲えるか〟…と、ハジメとカオリは鋼鉄の意思で自らの獣性を押し殺しユエの純潔を散らすような真似をせずに済んだ。
奈落における最大の試練であった。
ハジメが自分に付けたヒーローネーム・ナグモは、かつて自分の先祖が名乗っていた姓を両親に聞かされていたため、そこから借り受けたものとなっております。