ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】 作:びよんど
※8/12更新しました!
―――〝オルクス大迷宮〟 奈落・100階層―――
全ての準備を終えたハジメとカオリ、ユエは、階下へと続く階段へと向かった。
その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。
柱の一本一本が直径5mはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。
柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでおり、天井までは30mはありそうだ。
地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものであり、どこか荘厳さを感じさせる空間だった。
ハジメ達は、しばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。
……すると、全ての柱が淡く輝き始めた。
ハッと我を取り戻し警戒するハジメとカオリ、ユエ。
柱はハジメ達を起点に奥の方へ順次輝いていく。
ハジメ達はしばらく警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。
感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。
200mも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。
……いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。
全長10mはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。
特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。
「……これはまた凄いな、もしかして……?」
「……反逆者の住処?」
「……ようやくだね……」
いかにもラスボスの部屋といった感じだ。
実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。
〝この先は不味い〟…と。
それはユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。
「……上等……ッ!
ようやくゴールに辿り着いたって事だ……ッ!」
ハジメは本能が響かせる危険信号を無視して歩を進める。
たとえ何が待ち受けていようと踏破するしかないのだ。
「行こう! ハジメ! ユエ!」
「……んっ!」
カオリもユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。
そして、三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた瞬間、扉とハジメ達の間30m程の空間に巨大な魔法陣が現れた。
赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。
ハジメとカオリは、その魔法陣に見覚えがあった。
……忘れようもない、あの日。
ハジメとカオリが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。
だが、ベヒモスの魔法陣が直径10m位だったのに対して、眼前の魔法陣は3倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。
「規格外な大きさだな、マジでラスボスかよ……ッ!」
「……大丈夫、私達、負けない……ッ!」
「そうだよハジメ!
私達は〝最高〟のヒーローチームなんだから!」
ハジメは引きつった笑みを浮かべるが、ユエとカオリは決然とした態度を崩さなかった。
ユエとカオリの言葉に〝そうだね〟…と頷き、苦笑いを浮かべながらハジメも魔法陣を睨みつける。
……どうやらこの魔法陣から出てくる魔物を倒さないと先へは進めないらしい。
魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。
咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとカオリ、ユエ。
光が収まった時、そこに現れたのは―――……
体長30m、6つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物―――……例えるなら、神話の怪物〝ヒュドラ〟であった。
「「「「「「 クルゥァアン! 」」」」」」
不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。
身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。
同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。
それはもう炎の壁というに相応しい規模である。
ハジメとカオリ、ユエは同時にその場を左右に飛び退き反撃を開始する。
ハジメの〝ドンナー〟が火を吹き、電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。
弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。
まずは一つ、ハジメが次の頭を狙おうとしたその時、白い文様の入った頭が〝クルゥアン!〟…と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。
……すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻った。
白頭は回復魔法を使えるらしい。
ハジメに少し遅れてカオリの〝シュラーク〟とユエの氷弾が青と緑の頭二つを吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。
ハジメは内心舌打ちしつつ〝念話〟でカオリとユエに伝える。
『ユエ! 白頭を一番に狙うぞ!
カオリ!
『んっ!』
『任せて!』
青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出す。
それはカオリが無詠唱で発動させた〝光輪〟によって優しく包み込むようにして威力を殺された。
ドパンッ
「〝緋槍〟!」
閃光と燃え盛る槍が白頭に迫る。
しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。
そして、淡く黄色に輝きハジメの〝ドンナー〟の一撃もユエの〝緋槍〟も受け止めてしまった。
衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。
『カオリ、ユエ、〝シュラーゲン〟を使う。
連発できないから引き続き
『『 ……了解!! 』』
〝念話〟にて大雑把に作戦を伝えたハジメは即座に頭上に向かって〝焼夷手榴弾〟を投げ、柱の影に隠れる。
それと同時にカオリが〝シュラーク〟の最大出力で白頭を狙い撃ちした。
ユエも合わせるように〝緋槍〟を連発する。
……ユエの最上級魔法なら黄頭を抜いて白頭に届くかもしれないが、そうすると一発でユエは行動不能になる。
吸血させれば直ぐに回復するが、その隙を他の頭が許してくれるとは思えず、せめて半数は減らさないと最上級魔法は切れない。
黄頭はカオリとユエの攻撃を尽く受け止めるが、流石に今度は無傷とはいかなかったのかあちこち傷ついていた。
「クルゥアン!」
すかさず白頭が黄頭を回復させる。
全くもって優秀な回復役であるが、その直後、白頭の頭上で〝焼夷手榴弾〟が破裂し摂氏3000度の燃え盛るタールが撒き散らされる。
勿論、白頭にも降り注ぎ、その苦痛に悲鳴を上げながら悶えている。
……他の頭が致命的な隙を晒している中、その隙をカバーするように黒頭がカオリとユエに対して恐慌の魔法を行使する。
カオリとユエの中に不安が湧き上がり―――……
「「 そんな
……いとも容易く跳ね除けてみせた。
カオリはハジメとともに生き埋めになったあの日の記憶が、ユエは気が付けばハジメに見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていた。
しかし、カオリとユエは孤独の恐怖に押し潰される前に、ハジメとの
……私達を真剣に愛し、この身を力の限り抱き締め、乱暴に、それでいて真摯に快楽を刻み付け、誰の所有物であるのかを分からせてくれた最愛の
〝君達の幸せの一部になれる、そんな〝最高〟の
「(ハジメが注いでくれた温もりが、私達の力になる!
もう、何も怖くないッ!!)」
「(ハジメへの好きが溢れてくる……ッ!
これが私達の〝最高潮〟………ッ!!)」
……熱が入ったように急激に感情が昂り、押し寄せていた不安を押し流していってしまった。
「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」
ドパンッ ドパンッ ドパンッ
矢継ぎ早に引かれた魔法と〝シュラーク〟のトリガー。
有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。
他の頭を切り捨ててでも白頭を守っていた黄頭であったが、ふと背後に白頭を狙っていると思われる気配を感じ取り、その場を動かず代わりに咆哮を上げる。
「クルゥアン!」
すると近くの柱が波打ち、変形して背後を守る即席の盾となった。
「関係ない、〝シュラーゲン〟は全てを撃ち貫く!」
柱の影に隠れていたハジメは背中に背負っていた対物ライフル〝シュラーゲン〟をしっかり構えて照準を合わせる。
装弾数は1発と少なく、持ち運びが大変だが、理屈上の威力は〝ドンナー〟のおよそ10倍。
素材には〝サソリモドキ〟の外殻…〝シュタル鉱石〟をふんだんに使い、最低限の耐久性を確保している。
普通の人間なら撃った瞬間、半身ごと撃ち手が粉砕されるであろう絶大な反動を持つ全長1.5mの化け物銃の砲口が白頭を捉えた。
〝シュラーゲン〟の危険性を察知したのか、黄頭が白頭を守るように立ち塞がる―――……
「〝縛印〟!」
……咄嗟にカオリが発動した捕縛魔法により、防御しようとした黄頭めがけて光の鎖が無数に飛び出しその首を縛り上げる。
〝ヒュドラ〟の力なら引きちぎることも難しくはないだろうが、その一瞬の隙が命取りとなった。
ハジメが〝纏雷〟を使い〝シュラーゲン〟が紅いスパークを起こす。
弾丸は〝タウル鉱石〟を〝シュタル鉱石〟でコーティングした地球で言うところの〝
〝シュタル鉱石〟は魔力との親和性が高く〝纏雷〟にもよく馴染む。
通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。
ドガンッ
……大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に、紅い光の柱が周囲の頭を巻き込みながら白頭に殺到する。
一瞬で弾丸は白頭に到達し、そのまま何事もなかったかのように貫通して背後の壁を爆砕した。
階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。
後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅し、ドロッと融解して断面が見える三つの頭と、周囲を四散させ、どこまで続いているか分からない深い穴の空いた壁だけだった。
一度に半数の頭を殺られた残り三つの頭が思わず、呆然とハジメの方を見る。
ハジメは煙を上げている〝シュラーゲン〟から排莢した。
薬莢が地面に落ちる音で我に返る三つの頭はハジメに憎悪を込めた眼光を向けるが、彼等が相対している敵は眼を離していい相手ではなかった。
「〝天灼〟」
……その天性の才能ゆえに同族までもが恐れ慄き、その同族によって奈落に封印されていた吸血姫の力が、神罰だとでも言うかのようにヒュドラに降り注ぐ。
三つの頭の周囲に6つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばして繋がり、その中央に巨大な雷球を作り出した。
ズガガガガガガガガガッ
中央の雷球が弾けると、6つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃が撒き散らされる。
三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。
天より降り注ぐ神の怒りを表すように、轟音と閃光が広大な空間を満たす。
……そして、10秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。
ユエがペタリと座り込む。
魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、傍らにいたカオリに支えられながらハジメに向けてサムズアップする。
ハジメも頬を緩めながらサムズアップで返す。
〝シュラーゲン〟を担ぎ直しヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けカオリとユエの下へ行こうと歩みだした―――……
ゾワッ
「「 ハジメェェ!! 」」
……カオリとユエの切羽詰まった声が響き渡る。
何事かと見開かれたカオリとユエの視線を辿ると、音もなく
思わず硬直するハジメ。
……だが、7つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすとカオリとユエをその鋭い眼光で射抜き、予備動作もなく極光を放った。
先ほどのハジメの〝シュラーゲン〟もかくやという極光は瞬く間にカオリとユエに迫る。
到底避けきれないだろう。
ハジメは銀頭が視線をカオリとユエに逸らした瞬間に、過去最高速度で駆け出し、極光がカオリとユエを丸ごと消し飛ばす直前に、立ち塞がる事に成功した。
「(……クソッ、イヤに時間の流れが遅いな……ッ!
もしかして走馬灯でも見てるのか僕は……ッ!?
……僕は、僕達は、ここで終わりなのか―――……)」
……ハジメは直感していた、この極光をマトモに受ければ自分は死ぬ。
仮にカオリとユエを庇いきれても、あの銀頭の極光はそんな希望すらすぐに打ち砕いてしまうだろう。
「(……ハハ、僕にしてはよく頑張った方だよな……。
そして最期は、僕の事を心から好きになってくれた美少女二人をちょっとだけ助ける事ができる!
……十分だ、ここで命を張れるなら地獄に落ちたって文句はないッ!!!)」
……既にハジメの中で諦めは通り過ぎていた。
最期はどれだけカッコよく死ねるか、それだけを頭の中でシュミレーションして―――……
「……チーム名、決めてなかったなァ……」
『無免ライダーさん!
待ってください無免ライダーさん!』
『ん? 君はさっき女の子と一緒に助けた……』
『ハジメって言います! あの、さっきは瓦礫の中からカオリさんと一緒に助けてくれてありがとうございました!』
『……そうか、彼女はカオリちゃんって言うんだね。
……ありがとう、君のような人間がいると分かっただけでも俺がヒーローを続けていく理由になる』
『そ、その、コウキ君の暴言は気にしないで下さい。
コウキ君の正義感は…時々暴走するので……』
『彼の言った事は正論さ。
俺は、自分がヒーローに向いてるとは思ってない』
『……そんな事はないですッ!!
誰が何と言おうと、無免ライダーさんは僕とカオリさんの〝ヒーロー〟なんですからッ!!』
『ハハ、ありがとう。 ……俺がヒーローを目指した理由も、続ける理由も、ヒーロー的なものじゃなかったから、つい弱気になってしまったよ』
『理由……?』
『……君になら言ってもいいかな。
……実は俺、既婚者なんだ』
『ッッッ!?!?!?』
『初恋の相手なんだけどね、去年慎ましやかにゴーンインして、彼女のお腹の中には俺の子供が宿ってるんだ』
『え? え、え?? 子供??』
『小さい頃、彼女の前で〝ヒーローになってやる!〟…って啖呵を切ったのが全ての始まりだったな……。
……要は俺のプライドの問題なんだよ、誰かの為じゃなくて自分の見栄の為にヒーローになった俺には、最初からヒーローになる資格なんてなかったんだ』
『そ、そんな事は……ッ!』
『でも、それで良いんだ!
どれだけ非力でもいい、どれだけ負けていい、生きてさえいれば俺の帰りを待つ誰かを悲しませずに済むって分かったからね!』
『………ッ!!』
『だから俺は自分の為にこれからも人助けを続ける!
そして、今日一日精一杯頑張ったら必ず家に帰ってこう言うんだ―――……』
「〝ただいま〟を言えてないんだ、お母さんに、お父さんに」
……極光が収まり、カオリとユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。
極光に飲まれる前にハジメが割って入った光景に焦りを浮かべながらその姿を探す。
「カオリのお母さんとお父さんに交際している事も言ってない」
ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。
仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げている。
左腕には融解した〝シュラーゲン〟が固着していた。
そして―――……
「ユエの事も、まだ紹介できてない」
「「 ハ、ハジメ? 」」
……ハジメの纏う雰囲気がガラリと変わっていた。
全身からドス黒く紅いスパークを発したと思ったのも束の間、左腕に纏わりついていた〝シュラーゲン〟の残骸がベリベリとイヤな音を立てながら剥がれ落ち、そして、ハジメの掌の中に球状になって収束していく。
次いで、ドス黒かった紅いスパークの色味が徐々に鮮やかなものとなっていき、やがて、カオリやユエをして美しいと思わせる程に艶のある鮮烈な紅みを放つに至った。
まるで、ハジメが
「織り成せ、〝デュフテンダー・モント〟」
ハジメの掌の中で収束していた〝シュラーゲン〟だったものは劇的に形状を変え、再び左腕に纏わりついてゆく。
さながらガントレットとも言える
「僕達はこの奈落―――……違うな、この世界から脱出して元の世界に帰ってみせる……ッ!
……邪魔をするなら覚悟しろッ!! 奈落の底の守護者に敬意を払う程、今の僕は優しくないぞ……ッ!!」
その言葉を皮切りに、奈落の最終戦が始まった。
キリが良いのでここで区切ります。
次回、決着……ッ!!
本作オリジナルアーティファクト、〝デュフテンダー・モント〟の意味は……〝香りのある月〟らしいですハイ。