ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】   作:びよんど

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オスカーさんの口から真実が語られるってよ。

※最後に微エロ有り! 注意!!

※8/12更新しました!


十三話目 真の歴史

 

 

―――〝オスカー・オルクスの隠れ家〟―――

 

 

魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 

中央に立つハジメの眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

 

『……この映像が流れているという事は、君は()()()()と同じ〝地球〟の出身者だね?』

 

 

……何故目の前の黒衣の青年が、特定の個人の名前を言ってきたのか。

 

ハジメの知っているブラストと言えばヒーロー協会に所属するS級1位のヒーローであった筈。

 

〝地球〟という単語も含め、一気にきな臭い雰囲気になってきた。

 

 

『試練を乗り越えよく辿り着いた。

私の名はオスカー・オルクス…この迷宮を創った者だ。

〝反逆者〟と言えば分かるかな?』

 

 

話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。

 

〝オルクス大迷宮〟の創造者のようで、驚きながら彼の話を聞く。

 

 

『ああ、質問は許して欲しい。

これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。

……だが、この場所に辿り着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか、メッセージを残したくてね。 ……このような形を取らせてもらった。

どうか聞いて欲しい。 ……我々は〝反逆者〟であって〝反逆者〟ではないという事を―――……』

 

 

そうして始まったオスカーの話は、ハジメが聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた〝反逆者〟の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

 

 

 

 

……それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

 

 

 

〝神代〟の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。

 

人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。

 

争う理由は様々で、領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。

 

今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。

 

その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

……だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。

 

それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。

 

彼らには共通する繋がりがあった。

 

それは全員が〝神代〟から続く神々の直系の子孫であったということだ。

 

そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。

 

……何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。

 

〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えきれなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

彼等は〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。

 

〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った7人と()()()()()を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

 

『協力者…ブラストの手を借りる事で〝神域〟への侵入を果たし、多大なる犠牲を払いながらもエヒトルジュエを討ち取る事は出来た。

……だが奴は、エヒトルジュエは、〝神〟が仕立て上げた〝代行者〟でしかなかったんだ』

 

 

映像越しからでも分かる程にオスカーの表情が歪む。

 

〝代行者〟―――……〝神覚者〟とも呼ばれるらしいが、〝神〟によって力を与えられた者は一様にそう呼ばれ、総じて人類にとって極めて有害な存在に()()()()()()()との事。

 

 

「(……ん? じゃあなんでこの世界は今も比較的平穏無事でいられてるんだろう?

オスカーさんの話しぶり的に〝代行者〟って悪意ある災害…怪人みたいな存在だと思うんだけれど……?)」

 

 

オスカーの話は続く。

 

……見事エヒトルジュエを討ち取った〝解放者〟達であったが、勝利の余韻に浸る間もなく〝神〟は現れた。

 

 

『……我々の認識が甘かった。

ブラストの制止を振り切って〝神〟に戦いを挑んだ仲間達は、その腕の一振りによって跡形もなく消滅した。

……中には突然悶え苦しみ息絶える者もいた。

ブラストが助けてくれなければ我々は間違いなく全滅していただろう』

 

 

ブラストの手を借りて命からがら逃げ出せたまでは良かったものの、次に待ち受けていたのは守るべき人々からの敵意であった。

 

〝神〟は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。

 

その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るうワケにもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は一人また一人と討たれていった。

 

最後まで残ったのは中心の7人とブラストだけだった。

 

世界を敵に回し、彼等はもはや自分達では神を討つ事はできないと判断した。

 

そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。

 

試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か〝神〟を倒せる者が現れることを願って。

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

 

『君が何者で何の目的でここに辿り着いたのかは分からない。 ……君に神殺しを強要するつもりもない。

ただ、知っておいて欲しかった。

……我々が何のために立ち上がったのか。

君に私の力を授ける。 どのように使うも君の自由だ。

……だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。 ……話は以上だ。聞いてくれてありがとう。

君のこれからが自由な意志の下にあらんことを。

………あぁ、そうだった』

 

 

なにやら他にも言いたい事があるらしく、オスカーは更に続ける。

 

 

『……君がブラストにとっての誰であるかは分からない。

もしかしたら赤の他人なのかもしれないが、もしブラストと会う事があったら伝言を頼みたい』

 

 

徐々に薄れゆく映像の中のオスカーの言葉を、意思を、心に焼き付けるハジメ。

 

 

『〝私達の事で気を病まないで欲しい、〝解放者〟の皆は君に感謝こそすれ恨んだ事など一度たりともない、君は―――……紛れもなく最高の英雄(ヒーロー)だった〟…とね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像は消えた。

 

同時に、ハジメの脳裏に何かが侵入してくる。

 

ズキズキと痛むが、それが()()()()()を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。

 

……やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。

 

ハジメはゆっくり息を吐いた。

 

 

「……オスカーさん、偉大なる先達の最後の願い、しかと聞き届けました。

……僕に神殺しが成し遂げられるか分かりませんが、ヒーローを名乗る者として出来るだけ頑張ります……ッ!」

 

「……ハジメ」

 

「ハジメ、大丈夫?」

 

「……大丈夫だよ二人とも。

……それにしても、どえらい事になっちゃったな……」

 

「……ん、どうするの?」

 

 

ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

 

 

「……確信を持って言える事がある。

この世界…〝トータス〟に僕達を召喚したのは〝神〟と呼ばれる超存在で、恐らく〝神〟には僕達を故郷に帰す気がさらさらないという事だ」

 

「……だろうね、エヒトルジュエを従えていた時点で〝神〟の性格の悪さが知れるよ」

 

「僕達は故郷に帰りたい、だけどそれを〝神〟が邪魔してくる可能性が非常に高いワケだ。

…………許せる筈がない……ッ!

 

 

ハジメの心は怒りで燃え上がっていた。

 

手前勝手な理由で自分達をこの世界に攫っておきながら、その帰還を断固阻止してくるであろう〝神〟への怒りもあるが、それ以上にオスカー達誇り高き〝解放者〟に働いた悪逆非道な所業の数々がハジメの怒りに更に油を注ぐ形となったのだ。

 

 

「……オスカーさんはいったいここで何年、何十年、何百年、待ち続けたんだろう……?

途中で投げ出しても、たぶん〝解放者〟達は許してくれていた筈なんだ。 ……たぶんオスカーさんだって、そんな事は分かっていた。

……でも彼は、奈落の底で来るかも分からない()()()を待ち続ける道を選んだんだ。 ……今更〝解放者〟達の無念を晴らそうなんて気はないけれど、僕は故郷への帰還を妨げる〝神〟を殺そうと思う。

カオリとユエはどうしたい? ……僕は、君達の意思を第一に尊重したい」

 

 

これは、あまりに無謀が過ぎる死出の旅路になるだろうとハジメは直感していた。

 

そもそもの話、一騎当千を誇っていたであろう〝解放者〟達を腕の一振りで壊滅に追いやる、それこそキングを連れてこなければ勝負にもならないような異次元の怪物が相手なのだから当然の考えであった。

 

自分一人では敵わない、さりとてカオリとユエを自分の勝手な都合に巻き込んでいいものか、それゆえハジメは二人の意思に全てを委ねる事にした。

 

二人が望むならこの隠れ家で一生を過ごしても良い、そう思って尋ねたのだが、カオリとユエは僅かな躊躇いもなくハジメの両隣に寄り添い、その手を取り指を絡めて告げた。

 

 

「……ようやくアナタを守れるくらい強くなれた、今なら胸を張って隣に立てるよ」

 

「私の居場所はここ、異論は挟ませない……ッ!」

 

 

その言葉が本心であることを疑う余地はない。

 

伊達に背中を預け合っていないのだ、なんなら身体も重ねているため嘘を言っているかどうかくらいすぐに見分けられる。

 

 

「……ありがとう」

 

 

若干照れくさそうな、申し訳なさそうなハジメ。

 

それを誤魔化すためか咳払いを一つして、ハジメが衝撃の事実をさらりと告げる。

 

 

「あ~、えっとね、何か新しい魔法―――……〝神代魔法〟っての覚えたみたい」

 

「え、ウソ……!」

 

「……ホント?」

 

 

信じられないといった表情のカオリとユエ。

 

それも仕方ないだろう、何せ〝神代魔法〟とは文字通り〝神代〟に使われていた現代では失伝した魔法である。

 

ハジメ達をこの世界に召喚した転移魔法も同じ〝神代魔法〟である。

 

 

「何かこの床の魔法陣が〝神代魔法〟を使えるように頭を弄る、みたいな?」

 

「……大丈夫?」

 

「問題ないよ。 しかもこの魔法―――……僕みたいな〝錬成師〟のためにあるような魔法だね」

 

「どんな魔法なの?」

 

「え~と、〝生成魔法〟ってやつだね。

魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だって」

 

 

ハジメの言葉にポカンと口を開いて驚愕をあらわにするカオリとユエ。

 

 

「アーティファクトを作れるって事!? スゴいね!」

 

「そういう事だね。

……これで一気に出来る事が増えるぞォ……ッ!」

 

 

……そう、〝生成魔法〟は〝神代〟においてアーティファクトを作るための魔法だったのだ。

 

まさに〝錬成師〟のためにある魔法である。

 

……実を言うとオスカーの天職も〝錬成師〟だったりするが、あくまで余談である。

 

 

「カオリとユエも覚えたらどう?

何か、魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。

オスカーさんも試練がどうのって言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃない?」

 

「う〜ん…私〝錬成〟使えないし……」

 

「……私も……」

 

「まぁ、そうだろうけれど……。

せっかくの〝神代〟の魔法なんだ、覚えておいて損はないんじゃない?」

 

「「 ……ハジメが言うなら 」」

 

 

ハジメの勧めによって魔法陣の中央に入るカオリとユエ。

 

魔法陣が輝きカオリとユエの記憶を探る。

 

試練をクリアしたものと判断されたのか―――……

 

 

『……この映像が流れているという事は、君はブラストと同ry―――……』

 

『試練を乗り越えよく辿り着いた。

私の名はオスry―――……』

 

 

……またオスカーが現れた。

 

何かいろいろ台無しな感じだったが、どうやらカオリとユエで話の内容は絶妙に違うらしかった。

 

ハジメとカオリ、ユエはペラペラと同じことを話すオスカーを無視して会話を続ける。

 

 

「どう? 修得できた?」

 

「うん、けど……」

 

「……アーティファクトは難しい」

 

「う~ん、やっぱり〝神代魔法〟も相性とか適性とかあるのかもしれないね……」

 

 

そんなことを話しながらも隣でオスカーは何もない空間に微笑みながら話している。

 

……すごくシュールだった。

 

後ろの亡骸が心なしか悲しそうに見えたのは気のせいではないかもしれない。

 

 

「……取り敢えずここを拠点にさせてもらうとして―――……オスカーさんは丁重に埋葬しよう」

 

「……そうだね、その方が良いよきっと」

 

「ん……」

 

 

風もないのにオスカーの骸がカタリと項垂れた。

 

……ふと、お礼でもしているようにハジメ達の目には映って見えたが、恐らく気の所為である。

 

 

「ありがとう、誇り高き英雄(ヒーロー)達」

 

 

……オスカーの亡骸を畑の端に埋め、〝偉大なる〝解放者〟オスカー・オルクスここに眠る〟…という文字を刻んだ墓石も立てた。

 

埋葬が終わると、ハジメとカオリ、ユエは封印されていた場所へ向かった。

 

ついでにオスカーが嵌めていたと思われる指輪も丁重に頂いておいた。

 

墓荒らしみたいで気が引けたが、その指輪には十字に円が重なった文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の文様と同じだったのだ。

 

まずは書斎。

 

一番の目的である地上への道を探らなければならない。

 

ハジメとカオリ、ユエは書斎にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。

 

すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。

 

通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴られたものだ。

 

 

「ビンゴ! あったぞ、カオリ! ユエ!」

 

「やったね、ハジメ!」

 

「んッ!」

 

 

ハジメから歓喜の声が上がる。

 

カオリとユエも嬉しそうだ。

 

……設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。

 

オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。

 

……事が済んだらちゃんと返却しよう、ハジメは密かに心に誓った。

 

更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということも分かった。

 

人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。

 

工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。

 

……心の中でオスカーに謝罪しつつ、これらの道具は最大限有効活用させてもらう。

 

何しろ神殺しを成そうというのだ、正直これだけあってもまだ足りないくらいだ。

 

 

「ハジメ、これ」

 

「うん?」

 

 

ハジメが設計図をチェックしていると他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。

 

どうやらオスカーの手記のようだ。

 

かつての仲間、特に中心の7人とブラストとの何気ない日常について書いたもののようである。

 

その内の一節に、他の6人の迷宮に関することが書かれていた。

 

 

「……つまり、あれか?

他の迷宮も攻略すると、創設者の〝神代魔法〟が手に入るという事か……?」

 

「……かも」

 

 

手記によれば、オスカーと同様に6人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を伝授する用意をしているようだ。

 

どんな魔法かまでは書かれていなかったが―――……

 

 

「……帰る方法見つかるかも」

 

 

ユエの言う通り、その可能性は十分にあるだろう。

 

実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は〝神代魔法〟なのだから。

 

 

「そうだね、これで今後の指針ができた。

地上に出たら、七大迷宮攻略を目指そう」

 

「うん!」

 

「んっ」

 

 

明確な指針ができて頬が緩むハジメ。

 

思わずユエの頭を撫でるとユエも嬉しそうに目を細めた。

 

……隣でヤキモチを焼くカオリの姿を見て、即座にカオリの頭を撫でるハジメであった。

 

それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。

 

現在確認されている〝グリューエン大砂漠〟の大火山、〝ハルツィナ樹海〟、目星をつけられている〝ライセン大峡谷〟〝シュネー雪原〟の氷雪洞窟辺りから調べていくしかないだろう。

 

しばらくして書斎あさりに満足した三人は、工房へと移動した。

 

工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。

 

中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、〝錬成師〟にとっては楽園かと見紛うほどである。

 

ハジメは、それらを見ながら腕を組み少し思案する。

 

そんなハジメの様子を見て、ユエが首を傾げながら尋ねた。

 

 

「……どうしたの?」

 

 

ハジメはしばらく考えた後、カオリとユエに提案した。

 

 

「カオリ、ユエ、しばらくここに留まらないか?

早く地上に出たいのは僕も山々なんだけれど、せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。

他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい、どう?」

 

 

特にユエは300年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、ハジメの提案に二人ともすぐに了承した。

 

不思議に思ったハジメだが―――……

 

 

「……ハジメやカオリと一緒ならどこでもいい」

 

「私もハジメとユエが一緒にいるなら文句はないよ」

 

 

……そういうことらしい。

 

カオリとユエの、この不意打ち同然の告白はどうにかならないものかと照れくささを誤魔化すハジメ。

 

結局、三人はここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、天井の太陽が月に変わり淡い光を放つ様を、ハジメは風呂に浸かりながら全身を弛緩させてぼんやりと眺めていた。

 

奈落に落ちてから、ここまで緩んだのは初めてである。

 

風呂は心の洗濯とはよく言ったものだ。

 

 

「ハジメ、気持ちいい?」

 

「チュポッ、ハジメ、痛かったらすぐ言ってね……?」

 

「……むしろ極楽だよ、二人とも……。

……うッ、生きてて良かったァ〜!」

 

 

……当初は一人で風呂に入るつもりだったハジメだったが、カオリとユエの勢いに押されてあれよあれよという間に快楽の園に嵌ってしまった。

 

湯船に浸かり、カオリに()()()()()されながら、ユエがハジメに跨り()()でお互いの思いの丈をぶつけ合う。

 

今のハジメからは考えられないほど気の抜けた声が風呂場に響く。

 

全身をだらんとさせたままボーッとしていると、不意にユエがハジメとカオリの耳元で囁いてきた。

 

 

「アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール―――……私の本名」

 

「「 え、もう良いの? 」」

 

「んっ、ハジメの言う通り、過去を真っ向から否定するのは何か違う気がしてきた。

……何より、おじ様が好きって言ってくれたこの名前を、ハジメとカオリにも知っていて欲しかったから。

これは二人への〝大好き〟の証……ッ!」

 

 

……そう言い切ると、()()()()()()()()()()()()()()()唐突にカオリと濃密な口づけを交わしたユエ。

 

……口同士を離すと、糸を引いた艶めかしい唇で、あろう事かハジメを挑発してきたのだ。

 

 

「んっ、これでカオリの〝特別〟は私のもの……。

……ハジメはいったい誰を〝特別〟にする……?」

 

イラッ「分かりきった事を、聞くな!!

 

 

……何故か唐突に苛ついたハジメがユエとカオリに何をしたのか、あえてここでは記さない。

 

……魔物がいないというのに、獣の雄叫びばかりが隠れ家に木霊する。

 




遅れましたが、この作品は〝ハジメという人間を作者である私が好きになれるかどうか〟…というコンセプトの元、私なりに丁寧に書いて投稿しております。

もはや別人レベルに人間が変わってしまったハジメ君ですが、私の出来の悪い脳みそで必死に考えた末に辿り着いた結論〝世界観そのものを変えてみよう〟…という考えの元、出来上がったキャラ造形になります。

……これからもボチボチ投稿していき、余裕が出来れば新しい小説にもチャレンジしていきたいと思います。

応援していただければ幸いです。
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