ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】 作:びよんど
※8/13更新しました!
―――〝ハイリヒ王国〟―――
時間は少し戻る。
ハジメ達が〝ヒュドラ〟との死闘を制した頃、コウキ率いる勇者一行は、一時迷宮攻略を中断し〝ハイリヒ王国〟に戻っていた。
道順の分かっている今までの階層と異なり、完全な探索攻略である事からその攻略速度が一気に落ちた事、また魔物の強さも一筋縄では行かなくなって来たためメンバーの疲労が激しい事から一度中断して休養を取るべきという結論に至ったのだ。
……ハジメとカオリが奈落に落ち、奈落に落とした張本人であるヒヤマは謎の失踪を遂げ、シズクは大の親友であったカオリを喪ったショックで命のやり取りそのものに激しい拒否感を示すようになってしまい、他にも戦意を喪失して部屋に引き篭もるようになってしまった面々も含め、クラスメイト側の戦力・士気が落ち込んでしまいながらも何とか〝ベヒモス〟を倒し、更なる探索を行っていた矢先の話であった。
もっとも、休養だけなら宿場町〝ホルアド〟でも良かった。
王宮まで戻る必要があったのは、迎えが来たからである。
何でも、〝ヘルシャー帝国〟から勇者一行に会いに使者が来るのだという。
……何故、このタイミングなのか。
元々、エヒト神による〝神託〟がなされてからコウキ達が召喚されるまでほとんど間がなかった。
そのため、同盟国である帝国に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい、召喚直後の顔合わせができなかったのだ。
もっとも、仮に勇者召喚の知らせがあっても帝国は動かなかったと考えられる。
何故なら、帝国は300年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、冒険者や傭兵の聖地とも言うべき完全実力主義の国だからである。
突然現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得はできないだろう。
〝聖教教会〟は帝国にもあり、帝国民も例外なく信徒であるが、王国民に比べれば信仰度は低い。
大多数の民が傭兵か傭兵業からの成り上がり者で占められている事から信仰よりも実益を取りたがる者が多いのだ。
もっとも、あくまでどちらかといえばという話であり、熱心な信者であることに変わりはないのだが。
そんな訳で、召喚されたばかりの頃のコウキ達と顔合わせをしても軽んじられる可能性があった。
もちろん、教会の面前で〝神の使徒〟に対してあからさまな態度は取らないだろうが。
王国が顔合わせを引き伸ばすのを幸いに、帝国側―――……特に皇帝陛下は興味を持っていなかったので、今まで関わることがなかったのである。
しかし、今回の〝オルクス大迷宮〟攻略で、歴史上の最高記録である65層が突破されたという事実をもって帝国側もコウキ達に興味を持つに至った。
帝国側から是非会ってみたいという知らせが来たのだ。
王国側も〝聖教教会〟も、いい時期だと了承したのである。
そんな話を帰りの馬車の中でツラツラと教えられながら、コウキ達は王宮に到着した。
馬車が王宮に入り、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けて来るのが見えた。
10歳位の金髪碧眼の美少年である。
コウキと似た雰囲気を持つが、ずっとヤンチャそうだ。
その正体は〝ハイリヒ王国〟王子ランデル・S・B・ハイリヒである。
ランデル殿下は、凄まじい剣幕でコウキに駆け寄ってくると大声で叫んだ。
「カオリはッ!? カオリは見つかったのかッ!?
早く答えよ勇者ッッ!!!」
……カオリ以外見えないという様子のランデル殿下の態度を見ればどういう感情をカオリに抱いているかは容易に想像がつくだろう。
実は、召喚された翌日からランデル殿下はカオリに猛アプローチを掛けていた。
……と言っても彼はまだ10歳、カオリから見れば小さい子に懐かれている程度の認識であり、その思いが実る気配は微塵もない。
……ランデル殿下はまず自分の恋敵を正しく認識するところから始めないといけない、かもしれない。
コウキは非常に申し訳なさそうに顔を歪めると、頭を下げて謝罪し、直後、毅然とした態度で決意を語る。
「申し訳ありませんランデル殿下。
……いまだカオリを見つけ出す事は出来ていません。
ですが必ずカオリは迷宮から救ってみせます!
それが
コウキとしては年下の少年を安心させるつもりで善意全開に言ったのだが、この場においては不適切な発言だった。
クラスメイト達のコウキを見る目が冷たくなってゆく。
「(カオリは、か……。
さもハジメは死んでいて当然と言わんばかりの口ぶりだがよ、ぶっちゃけハジメが死んでいるならカオリだって生きていられねえんじゃねえか、コウキ……)」
リュウタロウは若干呆れながらコウキを見つめる。
カオリを見つけ出さんと日々ご都合主義を暴走させるコウキの手綱を握る形でサブリーダーを務めていたリュウタロウは隣にいる〝結界師〟であるスズとともに内心溜息を吐いた。
ランデル殿下は不倶戴天の敵を見るようにコウキを睨み、怨嗟の言葉をぶつける。
「こ、この役立たず共があぁぁ!!!
お前達揃いも揃って〝神の使徒〟を名乗っておきながらカオリ一人見つけ出せていないとは無能にも程があるぞ!
何故カオリをあんな危険な場所に行かせた!? 何故カオリを奈落の底に落とした!? その事を何とも思っていないお前達はカオリの友でも何でもない!
もはや〝敵〟―――……」
「ランデル、いい加減にしなさい。
コウキさん達が困っているでしょう……?」
「あ、姉上!? ……し、しかし!」
「しかしではありません。
皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて―――……相手の事を考えていないのは誰ですか?」
「うっ、で、ですが……ッ!」
「ランデル?」
「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」
ランデル殿下はどうしても自分の非を認めたくなかったのか、いきなり踵を返し駆けていってしまった。
その背を見送りながら、リリアーナ姫は溜息を吐く。
「……コウキさん、弟が失礼しました。
代わってお詫び致しますわ」
リリアーナはそう言って頭を下げた。
美しいストレートの金髪がさらりと流れる。
「……いいや、気にしていないよリリィ。
カオリを見つけられていないのは事実だからね。
姿を消したヒヤマの事もあるし、今こそ皆で力を合わせて頑張らなきゃいけないんだ」
コウキの言葉に申し訳なさそうに苦笑いするリリアーナ。
姉として弟の恋心を察しているため、意中のカオリがいなくなった現実を受け入れきれていないランデル殿下に多少同情はしている。
まして、ランデル殿下の真の恋敵がカオリとともに奈落に落ちた事を知っているので尚更だった。
そのリリアーナ姫は、現在14歳の才媛だ。
その容姿も非常に優れていて、国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女である。
性格は真面目で温和、しかし、硬すぎるということもなく、TPOを弁えつつも使用人達とも気さくに接する人当たりの良さを持っている。
コウキ達召喚された者にも、王女としての立場だけでなく一個人としても心を砕いてくれている。
関係ない彼等を自分達の世界の問題に巻き込んでしまったと罪悪感もあるようだ。
そんなワケで、率先してクラスメイト達と関わるリリアーナと彼等が親しくなるのに時間はかからなかった。
特に同年代のカオリやシズク達との関係は非常に良好で、愛称と呼び捨て、タメ口で言葉を交わす仲である。
……カオリが奈落に落ち、シズクはそのショックで療養中という事もあり、リリアーナも内心気を病んでいたがそれを表に出す事なく明るくコウキ達を迎え入れる。
「ご無理をなさらぬよう御自愛くださいまし。 ……改めて、お帰りなさいませ皆様。
無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」
―――それから三日後―――
「ありゃ、ダメだな。 ただの子供だ。
理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。
なまじ実力があるからタチが悪い。 自分の理想で周りを殺すタイプだな。
……が、〝神の使徒〟である以上蔑ろにはできねぇ。 取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」
「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」
「あぁ? ……違ぇよ、少しは腑抜けた精神を叩き直せるかと思っただけだ。 あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」
短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながら極限まで引き絞られたかのように筋肉質な身体を持つ40代くらいの野性味溢れる男…〝ヘルシャー帝国〟の現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーは興味なさげにコウキを酷評した。
どうやら、皇帝陛下の中でコウキ達勇者一行は興味の対象とはならなかったようである。
無理もない、彼等は数ヶ月前までただの学生だったのだから歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど出来ている筈がないのである。
「俺が惜しいと思ってんのはのうのうと生きてる奴より死んだ奴の方だ。 ……密偵からの情報によると、奈落に落ちた〝錬成師〟の小僧が何かとんでもない武器を作り上げたらしいからな」
「確か…〝ジュウ〟と呼ばれる武器だとか。
魔法も使わず遠くにいる敵を攻撃できると……」
「ソイツの存在をいち早く知っていれば、あるいは強引にでも引き込む事も出来たかもしれねぇ。
全く、それだけが心残りだぜ……」
〝ジュウ〟の現物が王国に残っていればまだやりようはあっただろうが、どうやら迷宮に持って行く用の一丁しか製作していなかったようで思わず肩を落としてしまったのはガハルドの記憶に新しい。
詳細な設計図はハジメの頭の中にしかなかったため、ガハルドは〝ジュウ〟に関してはキッパリ諦める事とした。
「……有能な〝錬成師〟の小僧と〝治癒師〟の女がクズ一人の手によって奈落に落とされ、大多数が戦いへの恐怖から引き篭もるようになった、か……。
残ってるのはカリスマのない勇者とその他大勢―――……やれやれ、天にましますエヒト神様は人に興味がないらしい」
「おや陛下、エヒト神様への侮辱は聞き捨てなりませんな?」
「へっ、教会の連中みたいな事言うなよ。
……まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。
見るとしてもそれからだろうよ。
今は小僧共に巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ。 教皇には気をつけろ」
「御意」
酷評されているとは露にも思わず、コウキ達は、翌日に帰国するという皇帝陛下一行を見送ることになった。
用事はもう済んだ以上留まる理由もないという事だ。
本当にフットワークの軽い皇帝である。
―――????―――
「グギャアァァァァァ!?!?」
ブシャアァァァァァァァァ
……夜の闇に包まれた何処とも知れぬ森の中、一匹の魔物の絶叫が響き渡り―――……事切れた。
グチャ…クチャ…クチャグチャクチャ……グチャクチャ…
咀嚼音を立てながら魔物の死骸に群がり、その死肉を貪り喰らっていた無数の黒い物体は、歪に膨張すると途端に分裂しその総数を青天井に増やしていく。
「うげへへへ……待っていてくれよ……ッ!」
「必ず助けてやるからなぁ、カ・オ・リ♡」
「キモオタブチ殺す……ッ!」
「まだお肉足りないのォォォ!!!」
「もっと〝俺〟を増やさないと……ッ!」
「コレは天命なんだ、キモオタを八つ裂きにして初めてカオリと俺は結ばれる……ッ!」
「あ、あ、カオリ、カオリィィィ!!」
「カオリの中に〝俺〟を注ぎ込んでたくさんの〝俺〟を産んでもらうんだァ……」
「なんて幸せ! あぁコレが世界平和ッ!!」
「アァ、逝く行くイク往く伊玖ゥゥゥ!!」
「殺すよ殺す、キモオタ殺すゥ♪」
「ふぅ、カオリィ……」
「素敵だァ、幸せが増えてイク……ッ!」
黒いヒヤマ 災害レベル【虎】
夜の闇に、無数のヒヤマの顔が浮かび上がる。
その顔は醜悪に歪められていた。
急激にお気に入りが増えてびっくらポンな作者です。
この調子なら…イケるかぁ……新作!?