ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】 作:びよんど
※8/13更新しました!
―――????―――
魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わった事は実感した。
奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気にハジメの頬が緩む。
やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に映ったものは―――……洞窟だった。
「まぁ、そうだろうね」
〝反逆者〟として世界そのものを敵に回しているのだから住処へ続く道くらい隠すのが普通だ。
……分かってはいたが、魔法陣の向こうは地上だと確証もなく信じていたハジメは、代わり映えしない光景に思わず半眼になってしまった。
正直、めちゃくちゃガッカリだった。
頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。
緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、ハジメもカオリもユエも暗闇を問題としないので道なりに進む事にした。
途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。
三人は一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。
外の光だ。
ハジメとカオリはこの数ヶ月、ユエに至っては300年間、求めてやまなかった光。
ハジメとカオリ、ユエはその光を見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。
それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。
近づくにつれ徐々に大きくなる光。
外から風も吹き込んでくる。
奈落のような澱んだ空気ではない。
ずっと清涼で新鮮な風だ。
ハジメは〝空気が旨い〟…という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。
そして、ハジメとカオリ、ユエは同時に光に飛び込み―――……待望の地上へ出た。
……地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。
断崖の下はほとんど魔法が使えず、にも関わらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。
深さの平均は1.2km、幅は900mから最大8km、西の〝グリューエン大砂漠〟から東の〝ハルツィナ樹海〟まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。
―――〝ライセン大峡谷〟―――
ハジメ達はその〝ライセン大峡谷〟の谷底にある洞窟の入口にいた。
地の底とはいえ頭上の太陽は燦々と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。
たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。
呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていたハジメとカオリ、ユエの表情に笑みが浮かぶ。
無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見ても分かるほど頬がほころんでいる。
「……戻って来たんだな……」
「うん、短いようで長かったね……」
「……んっ」
三人はようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互いを見やり―――……そして思いっきり抱きしめ合った。
「よっしゃぁああーッッ!!
戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」
「うおあーッッ!! 帰って来たぜーッ!!」
「んっーッッ!!」
小柄なユエをサンドイッチのように挟み抱きしめたまま、ハジメとカオリはくるくると廻る。
しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。
途中、地面の出っ張りに躓き転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、三人して心の底から笑い合う。
ようやく三人の笑いが収まった頃には、すっかり魔物に囲まれていた。
「……やれやれ、流石に騒ぎ過ぎたな。
……確か魔法は使えなかったな……」
〝ドンナー〟を抜きながらハジメは記憶を掘り起こす。
座学に励んでいたハジメには、ここが〝ライセン大峡谷〟であり魔法が使えない場所であると理解していた。
「そうだね、本当に魔法が使いづらいや」
「……分解される。 ……でも力ずくでいく」
〝ライセン大峡谷〟で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。
もちろん、カオリとユエの魔法も例外ではない。
しかし、ユエはかつての吸血姫であり、内包魔力は相当なものであるうえ、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している。
……つまり、ユエ曰く、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいという事らしい。
カオリの場合、そのユエ以上の魔力を内包しており、また魔法以外の戦闘手段も充実しているためそこまで問題としていなかった。
「力ずくって、効率は?」
「……10倍くらい」
……どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしく、加えて射程も相当短くなるようだ。
「……ならここは僕とカオリがやるからユエは自分の身を守る程度に留めておいて」
「うっ、でも……」
「いいからいいから、適材適所。
ここは魔法使いにとっての鬼門だから、任せて?」
「ん、わかった、カオリ」
ユエが渋々といった感じで引き下がる。
せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。
少し矜持が傷ついたようで、唇を尖らせて拗ねている。
そんなユエの様子に苦笑いしながらハジメはおもむろに〝ドンナー〟を、カオリは〝シュラーク〟を発砲した。
相手の方を見もせずに、ごくごく自然な動作でスっと銃口を魔物に向けると、これまた自然に引き金を引いたのだ。
あまりに自然すぎて攻撃されると気がつけなかったようで、取り囲んでいた魔物の何体かが何の抵抗もできずに、その頭部を爆散させ死に至った。
辺りに銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのか分からないというように凍り付いている。
……確かに、10倍近い魔力を使えば、ここでも〝纏雷〟は使えるようだ。
問題なくレールガンは発射できた。
未だ凍りつく魔物達に、ハジメは告げる。
「……退くなら善し、襲いかかるというのなら覚悟しろ。
ここから先は一方的な虐殺だ」
こっそり〝威圧〟を使ったハジメの眼に殺意が宿る。
その眼を見た周囲の魔物達は気がつけば一歩後退っていた。
しかも、そのことに気がついてすらいない。
本能で感じたのだろう、自分達が敵対してはいけない化物を相手にしてしまった事を。
常人なら其処にいるだけで意識を失いそうな壮絶なプレッシャーが辺り一帯を覆う中、遂に魔物達が―――……
「「 ………え? 」」
「「「「 キャウゥゥン…… 」」」」
……踵を返して走り出してしまったのだ。
俗に言う、敵前逃亡である。
当然と言えば当然だろう。
自分達が狩られる側であると分かれば、よほど気が狂っていない限り誰でも逃走を選択する。
生物として当たり前の行動である。
……それほどまでにハジメ達の〝捕食者〟としての力量が逸脱している事の証左でもあるワケだが。
逃げ出した魔物達を追撃する―――……ような真似はせず、〝ドンナー〟を太もものホルスターにしまったハジメは、首を僅かに傾げる。
その傍に、トコトコとユエが寄って来た。
「……どうしたの?」
「イヤ、あまりに呆気なかったものだから……。
〝ライセン大峡谷〟の魔物と言えば、相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かな〜と思って……」
「……それだけハジメとカオリが強いって事」
「ハハハ、奈落の魔物が強すぎたって事なのかな?」
「そこら辺の感覚がどうにも麻痺しちゃってるよね」
「そうだねカオリ。 ……さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうけど、どうする?
〝ライセン大峡谷〟と言えば、〝七大迷宮〟があると考えられている場所だ。
せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進む?」
「……なぜ、樹海側?」
「……峡谷を抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌でしょ?
樹海側なら、町にも近そうだし」
「……確かに」
ハジメの提案にユエも頷いた。
出現する魔物の難度的に考えても、この峡谷自体が迷宮というワケではなさそうだ。
ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。
ハジメやカオリの〝空力〟やユエの風系魔法を使えば絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろ〝ライセン大峡谷〟は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。
ハジメは左手の薬指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、〝魔力駆動二輪〟を取り出す。
颯爽と跨り、ハジメの前方にユエ、後方にカオリが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。
地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているワケではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かである。
ハジメ的にはエンジン音がある方が
……あくまで余談だが、無免ライダーに倣ってこっそり自転車などを製作していたハジメ。
電動自転車ならぬ魔動自転車なのだが、たぶん使う事はないだろうなぁ…と〝宝物庫〟の隅に追いやられている。
閑話休題。
ちなみに速度調整は魔力量次第である。
……まぁ、ただでさえ〝ライセン大峡谷〟では魔力効率が非常に悪いのであまり長時間は使えないだろうが。
〝ライセン大峡谷〟は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖であり、そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。
ハジメもカオリもユエも、迷う心配が無いので迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に〝魔力駆動二輪〟を走らせていく。
車体底部の〝錬成〟機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。
もっとも、その間もハジメとカオリの手だけは忙しなく動き続け、一発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らしているのだが。
しばらく〝魔力駆動二輪〟を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。
中々の威圧である。
少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようで、もう30秒もしない内に会敵するだろう。
〝魔力駆動二輪〟を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。
かつて見た〝ティラノサウルス〟に似ているが頭が二つある、いわば双頭のティラノサウルスモドキだ。
……だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。
ハジメは〝魔力駆動二輪〟を止めて胡乱な眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。
「……何だあの娘?」
「……兎人族?」
「なんでこんなところに?
兎人族って谷底が住処―――……なワケないか」
「……聞いた事ない」
「犯罪者として落とされたのかな……?
処刑の方法としてあるって聞いた事はあるけど……」
「……悪ウサギ?」
「……悪いかどうかは助けてから聞いてみよう」
ドパンッ
ドパンッ
〝ドンナー〟を取り出したハジメはすかさず双頭ティラノの二つの額めがけて発砲する。
聞いたことのない乾いた破裂音が峡谷に響き渡り、屹立したウサミミ少女の
「だずげでぐだざ〜い! ひっー、死んじゃう!
死んじゃうよォ! だずけてェ〜、おねがいじま―――……」
パァンッッ!!
……それなりの距離にいながら峡谷に木霊していたウサミミ少女の必死の叫びが容易く掻き消される。
次いで、目前に迫っていた双頭ティラノの頭部が破砕し、後頭部を粉砕しながら貫通した。
その衝撃で思いっきり顔面から地面に熱烈キッスをかましてしまったウサミミ少女。
一方、双頭ティラノはというと、一瞬ビクンと痙攣した後、あまりに呆気なく絶命し、地響きを立てながら横倒しに崩れ落ちた。
その振動と音にウサミミ少女が思わず〝へっ?〟…と間抜けな声を出しながら、おそるおそる顔を上げて双頭ティラノの末路を確認する。
「し、死んでます……。
そんな、〝ダイヘドア〟が一撃なんて……ッ!」
ウサミミ少女は驚愕も顕に目を見開いている。
どうやらあの双頭ティラノは〝ダイヘドア〟と言うらしい。
呆然としたままダイヘドアの死骸を見つめ硬直しているウサミミ少女だったが、遠くからこちらに駆け寄る足音と声が聞こえてきたためようやく意識が回復しだした。
「お〜い! 大丈夫かーッ!?」
「ふえッ!?
も、もしや貴方がダイへドアをッ!?」
「うん、そうだけど……怪我とかはしてない?」
「あ、えっと…怪我はたぶんしていないでs―――……」
「あッ! 膝擦りむいてるじゃない!
―――……〝天恵〟」
「あ、はわわ、あ、ありがとうございますぅ!」
「……〝神水〟飲む?」
「へ……? 〝神水〟……?」
「この娘の身に特にこれといった異変はないから大丈夫だよ、ユエ」
「……ん、分かった」
……何やら甲斐甲斐しく自分の心配をしてくれるハジメ達になんとなく親近感を覚えたウサミミ少女は、彼らになら自分の事情を話しても良い気がして、つい勢いに任せて口走ってしまう。
「先程は助けて頂きありがとうございました!
私は兎人族ハウリアの一人、シアと言います!
取り敢えず私の家族も助けてください!」
……助けられておきながら中々に図太い要求をしてきたウサミミ少女…シアに、三人は何とも言えない絶妙な表情を浮かべる。
少し間を置き、今度はハジメがシアに話しかける。
「とりあえず、君の知っていること全てを嘘偽りなく話してもらうよ。
その上で君の家族を助けるかどうかを決める。
もし少しでも嘘をつけば、迷いなく君達を見捨てるからそのつもりでね」
ハジメから突き付けられた条件を前に、シアの緊張は最高潮に達する。
ここに、シア・ハウリアに対する試練が始まった。
今回ちょっと短めです。