ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】 作:びよんど
どうなっちゃうんでしょう……?
※8/10更新しました!
―――????―――
「ぅ―――……な、何が……?」
先程まで隣にいたカオリを庇い、眩いばかりの光に思わず目を閉じていたハジメは、周囲で騒ぐ大勢の気配を感じてゆっくりと目を開いた。
そこで周囲を見渡し、呆然としてしまう。
まず目に飛び込んだのは巨大な壁画。
縦横10mはありそうなその壁画には、
背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのようにその人物は両手を広げている。
……どういうワケか例えようのない悪寒を感じて無意識に目を逸らしてしまったが。
よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。
素材は大理石だろうか、美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。
大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。
……どうやらハジメ
周囲にはハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がおり、どうやらあの
ハジメは抱き締める形で庇ったカオリを見る。
……呆然としていたが、怪我はないようでホッと胸を撫で下ろす。
そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む連中へ意識を移した。
……この広間にいるのはハジメ他、あの
少なくとも30人近い人々がハジメ達の乗っている台座の前におり、両手を胸の前で組み、さながら祈りを捧げるように跪いていたのだ。
……その内の一人、特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ30cm位はありそうな細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている70代くらいの老人が進み出てきた。
……もとい、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。
顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ50代と言っても通るかもしれない。
そんな彼は手に持った錫杖を鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。
「ようこそトータスへ。 勇者様、そしてご同胞の皆様。
歓迎致しますぞ。 ……私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。
以後、宜しくお願い致しますぞ」
……どうやら歓迎してくれているらしいが、ハジメの生存本能が大音量で〝危険〟と警告していた。
事態は最悪―――……らしい。
現在、ハジメ達は場所を移り、10m以上はありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
上座に近い方にアイコ先生とコウキ、リュウタロウ、シズクが座り、後は適当に座っている。
ちなみに、カオリはハジメとともに最後方だ。
ここに案内されるまで誰も大して騒がなかったのは、未だ現実に認識が追いついていないからだろう。
イシュタルが事情を説明すると告げたことや、アイコ先生やリュウタロウがどうにか皆を落ち着かせた事も理由だろうが。
……件の
誰もコウキの一声で安心なんかできず、むしろ未知の世界への不安で今にも気が狂ってしまいそうな者までいる。
全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイド達が入ってきた。
美女・美少女ばかりのメイド達であったが、誰も彼も余裕がないあまり目もくれない。
ハジメの傍にもメイドが来て飲み物を給仕してくれたが、隣にいる恋人のカオリを差し置いてメイドを凝視するなど男の風上にも置けないと思い、礼を言うに留めておく。
当のカオリは、こちらを優しげに見つめている。
……テーブルの下で、不安と緊張からか玉のような汗が流れた手でハジメの手を握りながら。
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。
「さて、貴方がたにおいてはさぞ混乱していることでしょう。
そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。
要約するとこうだ。
まず、この世界は〝トータス〟と呼ばれている。
そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。
人間族、魔人族、亜人族である。
人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。
魔人族は〝量〟では人間に及ばないものの、〝質〟において大きく優位に立っており、その力量差に人間族は〝量〟で対抗していたそうだ。
戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。
……それが、魔人族による魔物の使役だ。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことを指す、らしい。
この世界の人々も正確な魔物の生態は分かっていないらしく、それぞれ強力な種族固有の魔法が使える強力で凶悪な害獣という認識との事。
「(……魔人族も魔物も〝怪人〟みたいなものか?
………イヤ、流石に早計だな)」
今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。
使役できても精々一、二匹程度だという。
……その常識が覆されたのである。
これの意味するところは、人間族側の〝量〟というアドバンテージが崩れたということ。
つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。
「貴方がたを召喚したのはエヒト様です。
我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神……。
おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。 ……このままでは人間族は滅ぶと。
それを回避するために貴方がたを喚ばれた。
貴方がたの世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。
召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ、貴方がたという
貴方がたには是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。
おそらく神託を聞いた時の事でも思い出しているのだろう。
……アイコ先生だ。
「ふざけないで下さい!
結局この子達に戦争をさせようってことでしょうッ!?
そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっとご家族も心配している筈です!
貴方達のしていることはただの誘拐ですよ!」
ぷりぷりと怒るアイコ先生。
彼女は今年25歳になる社会科の教師で非常に人気があるハジメのクラスの担任だ。
……ハジメの憧れのヒーローである無免ライダーと何気に同い年という事もあり個人的に気にしている人だ。
150cm程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら生徒のためにあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくなかった。
……件の
その先生が理不尽な召喚理由に怒り、生徒のためにと立ち上がったのだ。
アイちゃん先生―――……と、希望を見出した気持ちでイシュタルに食ってかかるアイコ先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。
「お気持ちはお察しします。
しかし、貴方がたの帰還は現状では不可能です」
……場に静寂が満ちる。
誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って、ど、どういうことですか!?
喚べたのなら帰せるでしょう!?」
アイコ先生が叫ぶ。
「先ほど言ったように、貴方がたを召喚したのはエヒト様です。
我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、貴方がたが帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第という事ですな」
「そ、そんな……!」
アイコ先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。
周りの生徒達も口々に騒ぎ始め、パニックになる。
「(〝エヒト様の御意志次第〟って―――……極端な話、その日の気分でいつでも僕達を殺せるって事じゃないか……!)」
表面上はどうにか平静を保てていたハジメも、この事実に少なくない衝撃を受ける。
ハジメ達が元いた地球には、魔法みたいなスゴい戦い方をするヒーローがいる、キングなどがその最たる例だろう。
だが、実際に魔法を使える者はハジメが見聞きしている範囲ではいない。
……助けが来る可能性は〝ゼロ〟ではないが、〝ゼロ〟に限りなく近いだろう。
「ハジメ君……」
「カオリ、大丈夫、大丈夫だから……」
……誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。
ハジメはなんとなく、その目の奥に侮蔑の感情が込められているような気がした。
今までの言動から考えると、エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか、とでも思っているのかもしれない。
「(手前勝手な理由で喚んでおいてそれはないだろ…ッ!
皆、到底戦える精神状態じゃないのに……ッ!)」
未だパニックが収まらない中、コウキが立ち上がりテーブルを叩いた。
その音にびっくりしコウキに注目するクラスメイト達。
コウキは全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない、彼にだってどうしようもないんだ。
……俺は、俺は戦おうと思う。
この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。
それを知って、放っておくなんて俺にはできない。
それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。
……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな、エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね?
ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。
ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えて良いでしょうな」
「うん、なら大丈夫。
俺は戦う。 ……人々を救い、皆が家に帰れるように。
俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作り、そう宣言するコウキ。
無駄に歯がキラリと光る。
「ムリよ……
ふと、誰かがそう呟いた。
……コウキの隣に座り、見えない
流石のコウキも困惑の色が隠せない。
「シ、シズク? 何を言って……?」
「
どこまでいってもヒーローにはなれないって……ッ!」
「な……ッ! 俺は奴らとは違うッ!
俺は、俺こそが〝本物〟のヒーローなんだッ!!」
コウキの叫びが虚しく大広間に響き渡る。
「……良いですか、イシュタルさん」
「ええ、貴方は……」
「ハジメと言います。 …この際ハッキリ言いましょう。
僕達は貴方がたが期待されるような勇者などではありません。 ……ただの一般人です」
「ッッ!? そ、そんな筈は……ッ!」
「……それも
貴方がたに僕達を元の世界に戻す方法があるかどうかに関わらず、貴方がたの力になれる人はほんの一握りだと思います。 その点は理解してもらいたいです」
「で、ですが……!」
「……戦争には参加してもらわないといけない、分かってます。 だからこそ、戦争への参加はあくまで志願制にしてもらい、志願しなかった人には戦う以外の選択肢を与えていただけないでしょうか?
……あと、僕達はこの世界の事を全く知りません。
知識を得る機会をいただければ幸いです」
ハジメ自身、これが分の悪い賭けである事はよく分かっていた。
ここは魔法のあるファンタジー世界…未知と危険がひしめく死と隣り合わせな領域なのだから。
向こうに自分達の要求を軽く突っぱねる程の途轍もない力―――……武力は当然として洗脳なりをする手段がないと言い切れない以上、ハジメは今更ながら自分の言動の浅はかさに引き攣った笑いが込み上げそうであった。
……こんな人前で長ったらしく喋った事がなかった事もハジメの緊張を後押ししていた。
「ハジメッ! 君って奴はッ!
ここは皆で足並みを揃えるべき時だr―――……」
「私は、ハジメ君の意見に賛成です!
戦争に参加するかどうか、いま決めるべきじゃないと思います!」
「カ、オリ……?」
「俺もハジメの言った事に賛成だ。
勝手に喚んでいきなり戦争しろっつっても無理だぜ」
「リュウタロウ……?」
「ごめんなさい、私、戦える自信がなくって……」
「シズクちゃんが謝る事なんてないよ!」
「シズク……?」
「私はそもそも戦争の参加に反対です!
この子達を絶対に人殺しにさせません!」
アイコ先生の一声を皮切りに一人、また一人と自分の意見を口にするクラスメイト達。
クラスメイト達の表情は、一部を除いて真剣そのもので、さしものイシュタルもある程度彼らの言い分を聞かざるを得ない状況に陥っていた。
コウキはそんなクラスメイト達をただ呆然と見ている事しか出来なかった。
「(……もし、僕の取った行動が原因でクラスメイトの皆に危険に及んだら……)」
「ハジメ君、たぶん大丈夫だよ」
「カオリ……」
「ハジメ君は自分に出来る事をしてくれた、皆がそれに応えてくれたのならそれはきっと良い事なんだよ。
それに、キングさんが言ってたじゃない?
〝テキトーに全力を尽くせば、それがベスト〟だって」
「……ありがとう、カオリ」
……過ぎ去った時は二度と元に戻らない。
何でも出来て何にでもなれる、そう信じていた〝子供〟は大災害に飲み込まれ死んだ。
……しかし何度殺されようと、命尽きぬ限り必ずヒーローは現れ弱き人々の窮地に駆け付けてくれるとハジメは信じている。
「僕、もっと強くなって成ってみせるよ。
皆を助けられる、〝最高〟のヒーローに……!」
そして、かつて少年が夢見た〝憧れ〟は、目指すべき〝目標〟となったのだ。
次回、ステータス公開ですね。
ここでちょこっとネタバレ。
朝の筋トレが終わったら、ハジメ君とカオリさんはキングさんにマッサージを施してもらい、一日の疲れを吹っ飛ばしてもらっています。
……そのマッサージ、〝強化訓練〟にて疲弊しきったヒーロー達を回復させるマッサージと全く同じなんです。