ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】   作:びよんど

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〝ハルツィナ樹海〟にレッツゴーするって話です。

※8/13更新しました!


二十話目 シアの心情とハルツィナ樹海

 

 

―――〝ライセン大峡谷〟―――

 

 

〝七大迷宮〟の一つにして、深部に亜人族の国〝フェアベルゲン〟を抱える〝ハルツィナ樹海〟を前方に見据えて、カオリ〝魔力駆動二輪〟で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた。

 

〝二輪〟には、カオリ以外にもユエシアが乗っている。

 

当初、シアには(ユエのセクハラから逃がすために)馬車に乗るように言ったのだが、断固として〝二輪〟に乗る旨を主張し言う事を聞かなかった。

 

そのため仕方なくカオリは同乗させているという事情があったりする。

 

シアとしては、初めて出会った〝同類〟であるカオリとユエ、魔動自転車(チャリ)で並走しているハジメともっと色々話がしたいようだった。

 

ユエにしがみつき上機嫌な様子のシア。

 

果たして、シアが気に入ったのは二輪の座席かユエの後ろか―――……場合によっては身ぐるみを引っ剥がして身体中を縛って裸吊りにしてやる、とユエは内心決めていた。

 

内心ものすごく上機嫌なユエと上機嫌なシアを横目に見ていたハジメは、〝自転車(チャリ)〟を漕ぎつつ遠くを見ながらボーとしていた。

 

そんなハジメにユエが声をかける。

 

 

「……ハジメ、どうして最初、一人で戦ったの?」

 

「ん?」

 

 

ユエが言っているのは帝国兵との戦いのことだ。

 

あの時、魔法を使おうとしたユエを制止して、ハジメは一人で戦う事を選んだ。

 

……ユエが参加しようがすまいが結果は〝瞬殺〟以外には有り得なかっただろうが、どうも帝国兵を倒した後のハジメは物思いに耽っているような気がして、ユエとしては気になったのだ。

 

 

「……実は、ちょっと確かめたい事があってね」

 

「……確かめたい事?」

 

 

ユエが疑問顔で聞き返す。

 

シアも興味深そうな眼差しを向けている。

 

カオリはただ静かにハジメの言葉を聞いていた。

 

 

「ああ、それはね―――……」

 

 

話し始めたハジメの理由を要約するとこういう事だ。

 

ハジメがユエを制止して、自分一人で帝国兵全員を相手取った最大の理由は〝実験〟である。

 

〝人の命を何だと思っているんだ!〟…とこの場にコウキがいれば憤慨されそうな理由であったが、それはハジメ自身が何より理解している事である。

 

しかし、それでも確かめなければならない程の無限の可能性を秘めているのがハジメの左腕に今も纏わりついている〝デュフテンダー・モント☆改〟なのだ。

 

纏雷(でんき)を流す事で周囲の魔力を引き寄せたり、あるいは弾き飛ばす特殊な力場を形成・展開する人間離れしたハジメの肉体―――……その延長線上として偶然生み出されたアーティファクトである〝デュフテンダー・モント〟を万全に使いこなすのは容易なものではなかった。

 

〝ヒュドラ〟との激闘を潜り抜け、二ヶ月の間に改造に次ぐ改造を施し、その上で制御に時間を費やす事で手足の如く操れるようになったと自負しているハジメであったが、それでも一抹の不安は拭えなかった。

 

例えばだが、自分の命を狙う刺客を迎撃しました、その余波で近くの民家を突き破って団欒中の家族を皆殺し、最早ヒーロー以前にただの殺人者でしかない。

 

……既に多くの帝国兵士を皆殺しにした自分が言えた義理ではないが、と内心前置きしつつ、何の関係もない人々を無差別に殺す殺人鬼にならないために、最低限度を見極める必要があったのである。

 

結果を言えば上々。

 

威力の微調整にも具体的な見当がついた。

 

あと一つ理由を挙げるとすれば、自分が殺人に躊躇いを覚えないか確かめたかったとの事。

 

色々と変わってしまったハジメだが、人殺しの経験は未だなかった。

 

それ故に、帝国兵士への殺意に突き動かされるままに殺す前も殺した後も動揺せずにいられるか試したのである。

 

結果は―――……

 

 

「……最悪な気分だったよ。 理屈じゃない、人は人を殺すと以前の自分じゃいられなくなるんだ。

……出来る事なら、こんな辛い思いをカオリにもさせたくなかった。 つくづく僕はダメな奴だなァ……」

 

「……ハジメはダメなんかじゃないよ。

本当にダメな人は自分の事をダメだとすら思ってないもの。 そんな人達に比べたら、ハジメは立派だよ」

 

「カオリ……」

 

「……カオリの、言う通り。 それでも、不安があるなら、もっと打ち明けて。 仲間、でしょ?」

 

「……大丈夫、心配かけてごめん」

 

 

あれだけ容赦なかったハジメが、実は初めて人を殺したという事実に内心驚くシア。

 

同時に、ハジメの僅かな変化に気がついたユエの洞察力に感心する。

 

そして、改めて、自分はハジメやカオリ、ユエのことを何も知らないんだなぁ…と少し寂しい気持ちになった。

 

 

「あの、あの!

御三方の事、もっと教えてくれませんか?」

 

「? 僕達の事は話したでしょ?」

 

「いえ、能力とかそういう事ではなくて、なぜ、奈落…という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、御三方自身の事が知りたいです」

 

「……聞いてどうするの?」

 

「どうするというワケではなく、ただ知りたいだけです。

……この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。

小さい時はそれがすごく嫌で、もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は自分を嫌ってはいませんが、それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして、だから、嬉しかったのです。

御三方に出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて、勝手ながら―――……そ、その、な、仲間みたいに思えて、だから、その、もっと御三方の事を知りたいといいますか、何といいますか―――……」

 

 

シアは話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第に小声になってユエの背に隠れるように身を縮こまらせた。

 

出会った当初も、そう言えば随分嬉しそうにしていたと思い出し、シアの様子に何とも言えない表情をする三人。

 

あの時は、ユエのセクハラにより有耶無耶になった挙句、すぐハウリア達を襲う魔物と戦闘になったので、谷底でも魔法が使える理由など簡単な事しか話していなかった。

 

きっと、シアは、ずっと気になっていたのだろう。

 

特段隠す事でもないので、シアにこれまでの自分達の経緯を語り始めた三人。

 

その結果―――……

 

 

「うぇ、ぐすっ、ひどい、ひどすぎまずぅ~。

ユエさんがわいぞうですぅ~。 そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて―――……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

 

号泣した。

 

滂沱の涙を流しながら〝私は甘ちゃんですぅ〟…とか〝もう弱音は吐かないですぅ〟…と呟いている。

 

そして、さりげなくユエの外套で顔を拭いている。

 

どうやら自分は大変な境遇だと思っていたら、ユエが自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。

 

……ハジメとカオリはユエほど大変な境遇ではない(そんな事は全くない)と無意識的に除外してしまったが。

 

しばらくメソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

 

「ハジメさん! カオリさん! ユエさん!

私、決めました! 御三方の旅に着いていきます!

これからはこのシア・ハウリアが陰に日向に御三方を助けて差し上げます!

遠慮なんて必要ありません、私達はたった4人の仲間。

共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

 

勝手に盛り上がっているシアに、ハジメとカオリ、ユエが苦笑混じりの呆れの視線を送る。

 

 

「現在進行形で守られているのに何言ってるの?」

 

「う〜ん……ハジメに同意かなァ……」

 

「……さり気なく〝仲間みたい〟から〝仲間〟に格上げしている―――……厚皮ウサギ」

 

「な、何て目で見るんですか……心にヒビが入りそう……というかいい加減、ちゃんと名前を呼んで下さいよぉ」

 

 

意気込みに反して冷めた反応を返され若干動揺するシア。

 

そんな彼女に追い討ちがかかる。

 

 

「……君、単純に旅の仲間が欲しいだけなんでしょ?」

 

「!?」

 

 

ハジメの言葉に、シアの体がビクッと跳ねる。

 

 

「一族の安全がひとまず確保できたら、彼等から離れる気なんでょ?

そこにタイミング良く〝同類〟の僕らが現れたから、これ幸いに一緒に行くと。

流石に一人旅出来るとは思えないし」

 

「……あの、それは、それだけでは……。

私は本当に御三方を―――……」

 

 

図星だったのかしどろもどろになるシア。

 

実は、シアは既に決意していた。

 

何としてでもハジメの協力を得て一族の安全を確保したら、自らは家族の元を離れると。

 

自分がいる限り、一族は常に危険に晒される。

 

今回も多くの家族を失った。

 

次は本当に全滅するかもしれない、それだけは、シアには耐えられそうになかった。

 

もちろん、その考えが一族の意に反する、ある意味裏切りとも言える行為だとは分かっている。

 

だが〝それでも〟…と決めたのだ。

 

最悪、一人でも旅に出るつもりだったが、それでは心配性の家族は追ってくる可能性が高い。

 

しかし、圧倒的強者であるハジメ達に恩返しも含めて着いて行くと言えば、割と容易に一族を説得できて離れられると考えたのだ。

 

言動に反してシアは、今この瞬間も〝必死〟なのである。

 

もちろん、シア自身がハジメ達に強い興味を惹かれているというのも事実だ。

 

ハジメの言う通り〝同類〟であるハジメ達に、シアは理屈を超えた強い仲間意識を感じていた。

 

一族の事も考えると、正にシアにとってハジメ達との出会いは〝運命的〟だったのだ。

 

 

「別に責めてるワケじゃない―――……けど、変な期待はしない方がいい。

僕達の目的は〝七大迷宮〟の攻略なんだ。

おそらく奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃い、君じゃ瞬殺されて終わりだよ。

だから、同行を許すつもりは毛頭ない」

 

「……」

 

 

ハジメの全く容赦ない言葉にシアは落ち込んだように黙り込んでしまった。

 

シアは道中、大人しく〝二輪〟の座席に座りながら、何かを考え込むように難しい表情をしていた。

 

それから数時間して、遂に一行は〝ハルツィナ樹海〟と平原の境界に到着した。

 

樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

 

「それでは、ハジメ殿、カオリ殿、ユエ殿。

中に入ったら決して我らから離れないで下さい。

お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。 それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいですな?」

 

「ええ、聞いた限りだとそこが本当の迷宮と関係してそうですから」

 

 

カムが樹海での注意と行き先の確認をする。

 

カムが言った〝大樹〟とは、〝ハルツィナ樹海〟の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には〝大樹ウーア・アルト〟と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づく者はいないらしい。

 

峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

当初、ハジメは〝ハルツィナ樹海〟そのものが大迷宮かと思っていたのだが、よく考えれば、それなら奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、とても亜人達が住める場所ではなくなってしまう。

 

なので、〝オルクス大迷宮〟のように真の迷宮の入口が何処かにあるのだろうと推測した。

 

そして、カムから聞いた〝大樹〟が怪しいと踏んだのだ。

 

カムはハジメの言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてハジメ達の周りを固めた。

 

 

「ハジメ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。

大樹は神聖な場所とされておりますから、あまり近づく者はおりませんが、特別禁止されているワケでもないので、〝フェアベルゲン〟や他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。

我々はお尋ね者なので見つかると厄介です」

 

「分かりました。 僕もカオリもユエも、ある程度隠密行動はできるから大丈夫です」

 

 

ハジメはそう言うとカオリとともに〝気配遮断〟を使う。

 

ユエも奈落で培った方法で気配を薄くした。

 

 

「ッ!? これはまた―――……ハジメ殿、カオリ殿、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

 

「ん? ……こうですか?」

 

「このくらいでいいですか?」

 

「はい、結構です。

さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。 イヤ全く、流石ですな!」

 

 

もともと兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。

 

地上にいながら奈落で鍛えたユエと同レベルと言えば、その優秀さが分かるだろうか。

 

正に達人級といえるが、ハジメとカオリの〝気配遮断〟は更にその上を行く。

 

普通の場所なら、一度認識すればそうそう見失う事はないが、樹海の中では、兎人族の索敵能力を以てしても見失いかねないハイレベルなものだった。

 

カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑いだ。

 

隣では何故かユエが自慢げに胸を張っている。

 

シアはどこか複雑そうだった。

 

ハジメの言う実力差を改めて示されたせいだろう。

 

 

「それでは行きましょうか」

 

 

カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

しばらく道なき道を突き進む。

 

すぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。

 

しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。

 

現在位置も方角も完全に把握しているようだ。

 

理由は分かっていないが、亜人族は亜人族であるというだけで樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 

道中魔物に襲われる事もあったが、ハジメとカオリ、ユエによって静かに迅速に処理されて逝く。

 

樹海の魔物は一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もなかった。

 

しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、ハジメ達は歩みを止める。

 

数も殺気も連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。

 

カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

そして、その正体を察したのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 

シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

ハジメとカオリ、ユエも相手の正体に気がつき、かなり面倒な事になってきたと思わず溜息が出そうになった。

 

その相手の正体は―――……

 

 

「お前達、何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 

……虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

 




新作の執筆に時間をかけすぎて他の小説の投稿が疎かになってしまってすみません……。
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