ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】   作:びよんど

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フェアベルゲンの皆さんとオハナシするって話です。


二十五話目 ギルの失敗

 

 

―――〝フェアベルゲン〟 大樹近く―――

 

 

唐突だが、ギルという虎人族は優秀な男である。

 

フェアベルゲンを外敵…人間族や魔人族の脅威から守る警備隊の隊長に任命されているのだから当然ではあるが、それでもこの男の優秀さは同胞の中でもずば抜けている。

 

 

「……俺はどうなってもいい。 ……だが、部下は俺が無理矢理連れてきたのだ。 見逃して欲しい」

 

「「「「 た、隊長…… 」」」」

 

 

ギルという男の優秀さを取り上げる上で最も分かりやすいエピソード……それはやはり、ここフェアベルゲンに10日前に訪れたハジメ一行との邂逅を置いて他にはないだろう。

 

追い詰めていたのは自分達の筈だったのに、突如襲いかかった大瀑布のごとき殺気によって形勢が一気に逆転したあの瞬間を、ギルは決して忘れられない。

 

だからこそギルは出来るだけ冷静を保ちながらも苦し紛れの次善策…ハジメ達との対話を試みたのだ。

 

結論から言って、それがフェアベルゲンを今なお存続させる随一の英断となったのだから驚きだ。

 

 

「……部下の命を助けたいなら大人しくしている事だ。

これよりリーダー…ハジメ殿が来られる」

 

 

()()()()()()()()()自分達を見下ろす兎人族の族長…カムの冷淡な言葉に思わず歯噛みするギル。

 

 

「―――(……くっ、まさかここまで兎人族の戦力が引き上げられていたとは……ッ!)」

 

 

自分と、何より自分にハウリアの襲撃を命令した一部の長老達のあまりの浅はかさを呪うギルであったが、もはや後の祭り。

 

現在のギル達の状況は、例えるならまな板の上に置かれた魚そのもの―――……抵抗など出来ず、どう調理されるかを震えながら待つしかないのだ。

 

あの人間…ハジメが来るまでの間、ギルは何故このような状況に陥ってしまったのかを回想する。

 

 

「―――(……ゼル様の御命令とはいえ、かつての同胞の背中を刺すような卑劣な所業に加担した時点でこうなる運命にあったのかもしれない。 だがそれでも、熊人族を除いた精鋭で固めた部隊を一方的に圧倒するとは予想できなかった。 この10日の内にどんな鍛錬を積んだというのだ―――)……ッッ」

 

 

ジンの命令によって熊人族を〝兎狩り〟に徴収できなかった事を差し引いてもなおハウリアの静かなる猛攻は常軌を逸していた。

 

奇襲しようとしていた相手に逆に奇襲された事、亜人族の中でも格下の筈の兎人族の有り得ないレベルの身体能力、どこからともなく飛来する正確無比な弓や石、認識を狂わせる巧みな気配の断ち方、高度な連携、そして何より機械的に淡々とこちらを無力化する姿勢―――……それら全てが激しい動揺を生み、兎狩りに参戦していた亜人族に窮地を与えていた。

 

普通に考えて、一対一で戦ったのなら兎人族が他の亜人族に勝つ事はまず叶わなかっただろう。

 

だが、この10日の間にハウリア族は、地獄というのも生ぬるい特訓のおかげでその先天的な差を埋める事に成功していた。

 

元々兎人族は他の亜人族に比べて低スペックだ。

 

しかし、争いを避けつつ生き残るために磨かれた危機察知能力と隠密能力は群を抜いている。

 

なにせそれだけで生き延びてきたのだから。

 

そして、敵の存在をいち早く察知し気づかれないよう奇襲できるという点で彼らは実に暗殺者向きの能力をもった種族であると言えるのだ。

 

ただ、以前まではその優しすぎる性分がこれらの利点を全て潰してしまっていた。

 

ハジメに諭された事で優しさだけではなく守るための強さも必要であると痛感した彼らは死ぬ気で生まれ変わろうともがき続け……その結果、彼らの心身は立派な戦闘者のそれに成っていた。

 

狂気はないが躊躇いもない、鋭利なナイフのような攻撃性を身に付けた彼らは中々の戦闘力を発揮した。

 

一族全体を家族と称する絆の強い一族というだけあって連携は最初からかなり高いレベルにあり、また、気配の強弱の調整が上手く、連携と合わせることで絶大な効果を発揮した。

 

加えて、そんな彼らの攻撃力を更に引き上げるハジメ製の武器の数々もハウリア族の戦闘力が飛躍的に向上した理由の一つだ。

 

全員が常備している小太刀二刀は、〝精密錬成〟の練習過程から生まれたもので、極薄の刃は軽く触れるだけで皮膚を裂く。

 

〝タウル鉱石〟を使っているので衝撃にも強い。

 

同様の投擲用ナイフも配備されている。

 

他にも、奈落の底の蜘蛛型の魔物から採取した伸縮性・強度共に抜群の糸を利用したスリングショットやクロスボウも非常に強力だ。

 

ハウリア族の中でも未だ小さい子供達に近接戦は厳しい。

 

それ故の遠距離武器であったが、子供でも先天的に備わっている索敵能力を使った霧の向こう側からの狙撃は、ハジメでさえも思わず驚きを隠せなかったほどだ。

 

……そんなワケで、パニック状態に陥った亜人族では現在のハウリア族に抵抗できるワケもなく、一人、また一人と捕縛され、兎狩り決行から僅か数刻であっという間にお縄を頂戴してしまったというワケである。

 

そして、その時は来た。

 

樹海の奥から複数の気配がこちらに近付いてくるのを察知したのだ。

 

 

「お疲れ様です皆さん。

……誰も殺してないですね?」

 

「「「「 はい! ご命令通りに!! 」」」」

 

 

〝来てしまった〟…ハジメとギル、あまりにも最悪な再会である。

 

 

「……こんな形で会いたくはなかったです、ギルさん」

 

「……全くもって同意だ、ハジメ殿」

 

 

呆れたように溜息をついたハジメ。

 

さながら〝何をやってんのお前?〟…とでも言いたげなハジメの反応に〝何をやってんだろうな俺は〟…と自虐気味に笑うギル。

 

せめて自分の命一つで手打ちにできないかとギルが口を開く……直前にハジメが口を開いた。

 

 

「皆さんを生け捕りにした理由は二つあります。

一つは現在のハウリアの力量がどこまでの域に達しているのかを試すため。 ……皆さんの様子を見る限り、少々乱暴に扱われたみたいですが死んでいる人はいないようで安心しました」

 

「そう、だな……殺された者はいない」

 

「そして、二つ目。 これが最も重要ですが……皆さん全員を五体満足で長老衆に突き出すためです」

 

「なっ……!? 命を取らないというのか……!?」

 

「えぇ、僕にしてみれば誰か一人でも欠けようものなら目標が達成できないワケだから当然ですよ」

 

「目標……?」

 

「簡単な話です。 ……どうせ長老衆の誰かに命令されて僕達を襲うつもりだったんでしょう?」

 

「……ッッ」

 

「だから、分からせようと思ったワケです。

どちらが戦力的に優れているか、どちらが格上かを分からせて余計なちょっかいを出させないためにね」

 

「そういう、ことか……クソッ」

 

「フェアベルゲンに戻ったらハウリアの強さを大々的に宣伝してくださいね。

……同胞をみすみす死なせたくはないでしょう……?

 

「!! ……分かった、この名に誓って約束する!」

 

 

これでよし、とハジメは一安心する。

 

 

「―――(……せっかくジンさんがシアのために〝救世主〟なんていう大仰な立ち位置を用意してくれたのに、そのシアの家族が亜人族を殺しちゃいましたなんて事が起きたら全てが台無しになりかねないからな。 さりとて無抵抗主義だなんて思われても意味がないし、この匙加減が難しかった―――)……ハァ」

 

「ハジメ、よく頑張ったね」

 

「……ハジメ、お疲れ様」

 

「ん? あぁ、ありがとうカオリユエ

 

 

両隣に立ったカオリとユエの労いの言葉を受け、ハウリアのためにかけた労力は決して無駄ではなかったと得心するハジメ。

 

 

「おー、やはりと言うべきか、もう終わってるな」

 

「あ、ジンさん」

 

「ジン様!!?」

 

 

気安く接するハジメと驚愕を露わにするギル。

 

()()()()()()()()その場に現れたジンは、兎狩りに駆り出された同胞を一瞥した後、ハジメと相対し……深々と頭を下げた。

 

 

「「「「 ジ、ジン様……!!? 」」」」

 

「ハジメ殿()、この度は同胞達の愚かな行動を未然に防ぎ、あろう事かその命を救ってくれた事、誠に感謝の念に絶えぬ。 一長老として改めて礼を言いたい」

 

「気にしませんよ。 こうなったのは成り行きですから、二度とこういう事がないようにお願いしますね」

 

「相分かった……そんじゃ、そこのバカ共はこっちで引き取るぜ」

 

「えぇ、お願いします」

 

 

バカ共と省略されたギルをはじめとする亜人族達を、顎で指図して引き連れてゆくジン。

 

ジンの後をぞろぞろと歩いていく亜人族達をその姿が見えなくなるまで見送ったハジメは、ようやく本題に入れると言わんばかりにハウリアの面々と……そのすぐ近くでスタンバっていたシアのいるほうに向き直る。

 

ある意味ここが正念場だとハジメは内心身構える。

 

 

「その、あの、実は言っておかないといけない事がありまして……」

 

「父様達がムキムキマッチョになっている事でしたらカオリさんから聞いていますよ?」

 

「シアがユエ殿に惚れ込んで旅に出たがっている事でしたらカオリ殿から聞いておりますぞ?」

 

「……は?」

 

「最初聞いた時は驚きもしましたが……ハジメさんが必要だと思ってやってくれた事ですから異論ありません」

 

「ハッハッハ、道中ユエ殿に随分と可愛がられていましたからな! そんなユエ殿に惚れたと聞いても驚きはしませんでしたぞ!」

 

「……カオリィ」

 

「お節介でつい、ね?」

 

「……ありがとぅ」

 

 

自分を気遣って諸々の問題を処理してくれた最愛の恋人を優しく抱きしめるハジメ。

 

 

「―――(……とはいえだよ? シアの件はいの一番に僕に伝えるべきだと思うんだけど、この場でそれに言及するのは野暮かな―――)……」

 

 

空気が読める男ハジメは、また一つ成長を遂げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……いったいどういう事だ?」

 

過去改変(タイムパラドックス)……それも千年前まで遡る大規模な歴史変革だぞ。 誰がこんな所業を?」

 

「……特定できたわ。 名はガロウ、怪人との交戦中に死亡したけれど、一時的に精神生命体となってその怪人に憑依、何らかの手段で因果の逆転現象を引き起こしその怪人が怪人になる前の年代に送り飛ばしたようね」

 

「……千年もの間生きてきた怪人をなかった事にしただけでこれほどの規模の変革が起こるものなのか?」

 

「それだけ世界に及ぼした影響が大きかったという事だ。 とはいえ面倒な事になってしまったぞ」

 

「……またしても止められないのね」

 

「こうなってしまった以上はな。 我々にできる事はこの混沌を可能な限り自然な形に整える事くらいだ」

 

〝多重世界線交差〟……今回の混沌がもたらすのは調和か、それとも破壊か……」

 

「そう落ち込むなブラスト、何も全てが最悪というワケじゃないさ」

 

「……すまん、急用が出来た」

 

「〝トータス〟に行くのね? あそこは常に目を光らせているけれど……」

 

「……ごく僅かだったが、かつて()が使った転移魔法と同質の反応を感じた」

 

「「「 !!? 」」」

 

「俺の気の所為かもしれんが……どうにも胸騒ぎが消えん。 俺が留守の間、頼んだぞ」

 

「……無理はするなよ?」

 

「……分かっているさ」

 




次回、話をすっ飛ばしていくと思います。

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