ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】 作:びよんど
普通なら綺麗なだけなんですけど、〝ワンパンマン〟世界の月はなんだか不穏さが拭えないんですよねぇ……。
※8/10更新しました!
―――宿場町〝ホルアド〟―――
〝オルクス大迷宮〟
それは全100階層からなると言われている大迷宮である。
〝七大迷宮〟の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。
……にも関わらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。
それは、階層により魔物の強さを測りやすいからという事と、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の〝魔石〟を体内に抱えているからだ。
魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。
強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。
魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。
要するに魔石を使う方が魔力の通りが良く効率的という事だ。
その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。
魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。
ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な〝固有魔法〟を使う。
固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。
一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。 ……魔物が油断ならない最大の理由だ。
ハジメ達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に〝オルクス大迷宮〟へ挑戦する冒険者達のための宿場町〝ホルアド〟に到着した。
新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。
久しぶりに普通の部屋を見た気がするハジメはベッドにダイブし気を緩めた。
「(…そう言えば、なんで僕だけ一人部屋なんだろうな?
まあ、
そうして肩から提げた鞄から厳重に梱包された包みを取り出しその中身を解放する。
「(回転式拳銃―――……装弾数は6発で、パーツのシンプルさと頑丈さからチョイスした代物。 ……再装填に手間がかかるのがネックだけど。 ……弾数は60発か)」
デザイン等を度外視した、無骨な黒一色の拳銃がハジメの手に握られていた。
国お抱えの錬成師の皆さんとともに作り出した、ハジメにとっても趣深い一品である。
明日から早速迷宮に挑戦だ。
今回は行っても20階層までらしいが、不測の事態はいつ如何なる時でも発生するもの。
入念に準備・点検を済ませておくに越した事はないのだ。
「(……そろそろ来る頃合いかな)」
銃の点検を済ませしばらく待っていると、扉をノックする音が響いた。
「ハジメ君起きてる? カオリです。
……ちょっと良いかな?」
目的の人物が来た。
ハジメは扉に向かい、鍵を外して扉を開けると―――……そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけのカオリが立っていた。
「……その格好はどうかと思うよ(/////////)」
「えッ? ………………(////////)」
衝撃的な光景に思わずツッコミを入れてしまうハジメ。
最初はキョトンとしていたカオリだったが、自分の格好を改めて見た事で、初めてその言葉の真意を知った。
……好いている男子の前とはいえ、これは確かに恥ずかしいと慌ててカーディガンで前を隠すカオリ。
ハジメは慌てて気を取り直すと、なるべくカオリを見ないように話をする。
いくら筋トレによって性欲を昇華しているとはいえ、ハジメも立派な思春期男子。
今のカオリの格好は少々刺激が強すぎる。
「と、とりあえず入ると良いよ!
外は寒いだろうし、何か飲み物用意するね!」
「あ、ありがとうハジメ君!」
そうして部屋の中にカオリを招き入れていたハジメはお茶の準備をする。
水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキを二人分用意し、窓際に設置されたテーブルセットに座ったカオリに差し出し、そして、自分も向かいの席に座るハジメ。
「……ありがとう」
嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付けるカオリ。
窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。
黒髪には
「(改めて考えても、僕にはもったいない位に美しい女性だよなァ……)」
ハジメは改めてカオリに惚れ直していた。
カオリがカップを置く音で我を取り戻し、気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干す。
……少しむせた。
カオリがその様子を見てクスクスと笑う。
ハジメは恥ずかしさを誤魔化すために話を促した。
「……昨日言っていた
もしかして明日の迷宮攻略と関係あるのかな?」
ハジメの質問にコクッと頷き、カオリはさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。
「明日の迷宮だけど―――……ハジメ君には町で待っていて欲しいの。 教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。
……だから、お願い!」
話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願するカオリに、ハジメはただただ困惑する。
クラスメイトの中で唯一非戦系天職持ちのハジメを心配するにしては少々必死過ぎないか、と。
「えっと、確かに僕は皆の足を引っ張りそうではあると思うけど、流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……?」
「そんな事ない! ハジメ君が誰よりも強い事は私が一番よく知っているもん!
そういう事を言いたいワケじゃないの!」
カオリは、ハジメの誤解に慌てて弁明する。
自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。
……少し落ち着いたようで、謝罪し静かに話し出した。
「……あのね、この異世界に転移してからなんだか凄く嫌な予感がするの。
「……それで今さっき眠っていたらある夢を見たの。
……途轍もない
「……変身?」
「どれだけ声をかけても振り向いてくれず、どれだけ走っても追い付けない、それで最後は―――……」
その先を口に出すことを恐れるように押し黙るカオリ。
ハジメは、落ち着いた気持ちで続きを聞く。
「……最後は?」
カオリはグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。
「……分からない、分からないの……。
いったいどうなってしまったのか……」
「……そうか」
……しばらく静寂が二人を包み込む。
再び俯くカオリを見つめるハジメ。
あまりに不吉な夢だ。 ……が、所詮夢である。
ハジメ自身、
どちらにせよ、ハジメに行かないという選択肢はない。
ハジメはカオリを安心させるよう、なるべく優しい声音を心掛けながら話しかけた。
「夢は夢だよカオリ。
今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、どれだけ深くても20階層までしか行かない。
うちのクラス全員チート持ちだから敵が可哀想な位だよ。
僕が非戦系天職を持っている事を心配して、そういう夢を見ちゃったんじゃないかな?」
語りかけるハジメの言葉に耳を傾けながら、なおカオリは、不安そうな表情でハジメを見つめる。
「それに、心配には及ばないさ。
僕には頼れる相棒がいるからね」
「………え?」
ハジメは若干恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐにカオリと目を合わせた。
「カオリ、君の事だよ」
「……ッ!!(/////////)」
「馴れ初め自体は決して良いものとは言えなかったけれど―――……それでも、今日まで僕を支えてくれた君だからこそ背中を預けられるってそう思っているんだ。」
それに、と続けるハジメ。
「カオリは〝治癒師〟だよね?
治癒系魔法に天性の才を示す天職。 ……もし僕が大怪我する事があっても、カオリなら治せる筈。
その力で僕を守ってくれるかな?
……僕も、君を絶対守るから」
「……ハジメ君」
しばらくカオリは、ジィ〜とハジメを見つめる。
ここは目を逸らしたらいけない場面だと羞恥に身悶えそうになりながらハジメは必死に耐える。
……ハジメは、人が不安を感じる最大の原因は〝未知〟であると何かで聞いたことがあった。
カオリは今、ハジメを襲うかもしれない〝未知〟に不安を感じているのだろう。
ならば気休めかもしれないが、どんな〝未知〟が襲ってきても自分には対処する術があるのだと自信を持たせたかった。
しばらく見つめ合っていたカオリとハジメだが、沈黙はカオリの微笑と共に破られた。
「変わらないね、ハジメ君は」
「……?」
カオリの言葉に訝しそうな表情になるハジメ。
その様子にカオリはクスクスと笑う。
「ハジメ君は、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね?
……でも私は、中学二年の時から知ってたよ?」
カオリの意外な告白に、ハジメは目を丸くする。
必死に記憶を探るが全く覚えていない。
う~んと唸るハジメに、カオリは再び笑みを浮かべた。
「私が一方的に知ってるだけだよ。
私が最初に見たハジメ君は土下座してたから私のことが見えていたワケないしね」
「ど、土下座ッ!?」
なんて格好悪い所を見られていたんだ…と今度は違う意味で身悶えしそうになるハジメ。
そして、人目につくところで土下座なんてどこでしたんだと必死に記憶を探る。
百面相するハジメにカオリが話を続ける。
「うん、怪人に土下座してた。
どれだけ乱暴されても止めなかったね。
その内、ヒーローが駆け付けて怪人は倒されたけど」
「そ、それはまたお見苦しいところを……!」
ハジメは軽く死にたい気分だ。
ダークヒーローに憧れていた時の黒歴史とタメを張るくらい最悪のシーンを見られていたらしい。
最早、乾いた笑みしか出てこない。
しかし、カオリは優しげな眼差しをしており、その表情には侮蔑も嘲笑もなかった。
「ううん、見苦しくなんてないよ。
……むしろ、私はあの姿を見てハジメ君は凄く強くて優しい人だって思ったもの」
「……は?」
ハジメは耳を疑った。
そんなシーンを見て抱く感想ではない……もしや、カオリには
「だってハジメ君、
その言葉に、ハジメはようやく思い当たった。
確かに中学生の頃、そんなことがあったと思い出す。
ベビーカーを引く母親の前方不注意で怪人にぶつかった際、持っていたアイスクリームをべっとりと付けてしまったのだ。
双子の赤ちゃんはワンワン泣くし、それにキレた怪人が母親にイチャもんをつけるし、母親は固まって動けずにいたし、中々大変な状況だった。
偶然通りかかったハジメもスルーするつもりだったのだが、母親がおそらくクリーニング代であろうお札を数枚取り出して渡した直後、怪人が更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点でつい体が動いてしまった。
といっても、当時は喧嘩など全くしてこなかった身だ。
厨二的な必殺技など家の中でしか出せない。
仕方なく向こうが引くくらいの土下座をしてヒーローが来るまでの時間を稼ぐ手段に打って出たのだ。
結果ヒーローは駆け付け、怪人は退治された。
「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。
コウキ君とかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……。
でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。
……実際、あの時私は怖くって―――……自分はシズクちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった……」
「カオリ……」
「だから、私の中で一番強い人はハジメ君なんだ。
高校に入ってハジメ君を見つけたときは嬉しかった。
……ハジメ君みたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ」
「そう、だったんだね」
カオリが自分を構う理由が分かったハジメは、カオリからの予想外なまでの高評価に恥ずかしいやら照れくさいやらで苦笑いする。
……以前から自分の事をヒーローのように見てくれていた事に隠しきれない喜びを感じながら。
「だからかな、不安になったのかも。
迷宮でもハジメ君が何か無茶するんじゃないかって。
怪人に立ち向かった時みたいに……でも、うん」
カオリは決然とした眼差しでハジメを見つめた。
「私がハジメ君を守るよ」
ハジメはその決意を受け取る。
真っ直ぐ見返し、そしてこう返した。
「僕もカオリを守るよ」
……月の光に照らされて二つの影が一つに重なる。
お互いの愛を確かめあった後に影は二つに分かたれる、なんて事はなく―――……
「ハジメ君―――……ハジメ君ッッ!!!」
「うぇ!? カ、オリ……?」
直後、カオリは凄まじい怪力でハジメを抱き締めると、一人部屋の一つしかないベットにハジメを押し倒し、両腕をガッチリ掴んで逃げられない状況を作り出した。
「カオリ……? イヤ、カオリの姉御……?
こ、これはいったい……? ちょ、股間が擦れて……!」
「ごめん、ハジメ君、もう私は、私を抑えられない!」
カオリの瞳にはくっきりと
もうどうにも止まらない、そう確信したハジメの精一杯の抵抗。
「カオリィ―――……せめて優しく、してェ!」
これしか言えなかった。
それからしばらく
ハジメはベッドで仰向けになりながら、思いを馳せる。
……なんとしても自分に出来ることを見つけ出し、クラスメイトの、カオリの役に立たなければならない。
それが自分に貞操を捧げた恋人への最大の意思表示になると信じて、ハジメは決意を新たにし眠りについた。
深夜、カオリがハジメの部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいたことを誰も知らない。
その者の表情が醜く歪んでいたことを知る者もいない。
ちなみに、双子の赤ちゃんのお母さんはどこぞの完璧で究極のアイドルに似ているとか似てないとか……。