ありふれたヒーローオタクは世界最高を目指す【未完】 作:びよんど
※8/10更新しました!
―――〝オルクス大迷宮前〟―――
現在、ハジメ達は〝オルクス大迷宮〟の正面入口がある広場に集まっていた。
ハジメとしては薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。
制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。
なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。
戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。
入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。
まるでお祭り騒ぎだ。
浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。
馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。
入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。
ハジメ達は、お上りさん丸出しでキョロキョロしながらメルド団長の後をカルガモの雛のように着いていった。
「(やはりと言うべきか―――……一部を除いて皆、無意識の内に戦う事を、もとい、〝死〟を恐れている。
イヤまぁ、人として当然っちゃ当然だが……)」
騎士団長メルド・ロギンスは現在、〝オルクス大迷宮〟内にて魔物を相手に奮闘するハジメ達の様子を見守りながら思考していた。
この二週間あまり、ハジメ達は真面目に座学や訓練に取り組み着実に成長を遂げていた。
常人の数倍の強さを持っている事を抜きに見ても驚くべき成長力である。
だがしかし、いざ実戦となるとどうにも動きがぎこちなくなってしまう。
「(
一度、クラスメイト達に聞いた事がある。
〝お前達の元いた世界はどんなところなんだ?〟…と。
皆一様に気まずそうにしていたが、一人の男子…ハジメが進み出て分かりやすく解説してくれた。
〝竜に匹敵する脅威が月一回の頻度で人間社会を滅ぼそうとしてくる、そんな世界です〟
「(あの時は思わずひっくり返りそうになったが……。
……なるほど、そんなポンポンととんでもない脅威が出現して人間を襲うというのなら、精神が病みそうになるのも頷けるな)」
〝その脅威は総じて〝怪人〟と呼ばれていて、その怪人を倒して皆を助けてくれるのが〝ヒーロー〟と呼ばれる人達です〟
「(……竜退治の英雄も同じだけいると言う事か?
改めて考えるととんでもない世界―――……イヤイヤ、この先はコイツらに失礼かもしれんな)」
パンッ
……破裂音のする方を見れば、そこには頭から血を流し絶命するロックマウントが倒れていた。
倒したのは
「(ハジメの使う武器…
あれ程遠くにいる魔物を魔法も使わず瞬時に倒せるなど、今後の戦争の行く末を左右する絶大な可能性を秘めているな。 ……異世界にはあのような武器があるワケだ)」
ここ20階層に辿り着くまでに襲ってきた魔物は決して少なくなかった。
……その道中の魔物の殆どを倒したのが、ハジメである。
無論、ハジメ以外のクラスメイト達もそれなりに頑張って魔物を倒してはいたが、経験不足と恐怖から足が竦み、どうしても二の足を踏んでしまいピンチに陥る者も少なくなかった。
ハジメがやった事は、そんなクラスメイト達のアシストをしつつ、冷静かつ的確に魔物の急所を撃ち抜きトドメを刺すというものである。
今のところ狙いが外れたり仲間に被弾するといった事はなく、メルド団長ほか、騎士団員達のハジメに対する評価は中々に高い。
銃による遠距離攻撃のみならず、〝錬成〟を用いて敵の足場を変化させる搦手も地味に有用である。
「(自分に切れる手札を最大限活用できているな。
他の連中と違って恐怖で足が竦むワケでも逆に慢心しているワケでもない、あくまで現実を見て物事を判断している。 ……贔屓目抜きに騎士団に入れたいもんだ)」
「貴様、よくもカオリ達を―――……許さない!
万翔羽ばたき、天へと至れ―――……〝天翔閃〟!」
「あっ、コラッ、馬鹿者!」
……メルド団長の声を無視して、コウキは大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。
その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。
逃げ場などない、曲線を描く極太の輝く斬撃が
パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。
ふぅ、と息を吐きイケメンスマイルでカオリ達へ振り返ったコウキ。
〝カオリ達を怯えさせた魔物は自分が倒した、もう大丈夫だ!〟…と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。
「へぶぅ!?」
「馬鹿者がッ!! 既に倒された魔物に攻撃を加える奴があるかッ!! それに、こんな狭いところで使う技じゃないだろうがッ! 崩落でもしたらどうするんだッ!」
メルド団長のお叱りに声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪するコウキ。
「(全くコイツは……!
ハジメに対抗意識を燃やしているようだが、いくらなんでも向こう見ずすぎる、こりゃ手を焼かされそうだな……)」
この二週間あまり、コウキとも接したメルド団長のコウキの人物評はズバリ〝自分の正しさを疑う事を知らない子供〟。
力こそ目を見張るものがあるものの、自分の価値観にそぐわない価値観を認められない幼稚さが目立ち、事実、本人にその自覚はないもののコウキに好き好んで近づく者はメルド団長が見ている限りでは極僅かであった。
……どうやらカオリに気があるようだが、そのカオリとハジメの普段から見せる仲睦まじさから察するに、既に叶わぬ恋に終わっている。
コウキを見るクラスメイト達の視線も冷たく、コウキは人知れず孤立を深めていたのだ。
それを自覚しているかは定かではないが、コウキは功績を挙げる事に人一倍強い拘りを見せるようになっていた。
……心配そうに見つめるリュウタロウやシズクすら無視して、コウキは少しずつ暴走を始めていた。
その時、ふとカオリが崩れた壁の方に視線を向けた。
「……あれ、何かな? キラキラしてる……」
その言葉に、全員がカオリの指差す方へ目を向けた。
そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。
まるでインディコライトが内包された水晶のようである。
カオリを含め女子達は夢見るように、その美しい姿にウットリした表情になった。
「ほぉ、あれは〝グランツ鉱石〟だな。
大きさも中々だ、珍しい」
「素敵……」
カオリが、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にウットリとする。
「……だったら俺らで回収しようぜ!」
そう言って唐突に動き出したのはヒヤマだった。
〝グランツ鉱石〟に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。
それに慌てたのはメルド団長だ。
「コラッ! 勝手なことをするなッ!
安全確認もまだなんだぞッ!」
しかし、ヒヤマは聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。
メルド団長は、止めようとヒヤマを追いかける。
同時に騎士団員の一人が〝フェアスコープ〟で鉱石の辺りを確認する。
そして、一気に青褪めた。
「団長ッ! トラップですッ!!」
「ッ!?」
しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。
ヒヤマが〝グランツ鉱石〟に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。
〝グランツ鉱石〟の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。
美味しい話には裏がある。世の常である。
魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。
まるで、召喚されたあの日の再現だ。
「くっ、撤退だッ! 早くこの部屋から出ろッ!」
メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが、間に合わなかった。
部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。
ハジメ達は空気が変わったのを感じた。
次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。
辛うじて着地に成功したハジメは周囲を見渡す。
クラスメイト達のほとんどは尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、コウキ達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。
どうやら、さきの魔法陣は転移させるものだったらしい。
現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。
ハジメ達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。
ざっと100mはありそうだ。
天井も高く20mはあるだろう。
橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。
……まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。
橋の横幅は10mくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。
ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。
「お前達ッ! すぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行けッ! 急げッ!!」
雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出すクラスメイト達。
しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。
階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。
更に通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が現れた。
……巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。
「まさか……〝ベヒモス〟……なのか……ッ!?」
ハジメは即座に周囲の確認を行う。
橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。
通路側の魔法陣は10m近くあり、階段側の魔法陣は1m位の大きさだが、その数が夥しい。
小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。
空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。
その数は、既に100体近くに上っており、なお増え続けているようだ。
しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイとハジメは直感していた。
10m級の魔法陣からは体長10m級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。
もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。
……ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……。
メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。
「グルァァァァァアアアアア!!」
「ッ!?」
その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「アランッ! 皆を率いて〝トラウムソルジャー〟を突破しろ! カイル、イヴァン、ベイルッ! 全力で障壁を張れッ! ヤツを食い止めるぞッ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さいメルドさん! 俺達もやります!
あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバいんでしょう!?
俺達も……ッ!!」
「コウキ君、ここはいったん下がろう!!」
「なっ、ハジメッ!?
メルドさん達を見捨てるつもりかッ!!」
「違うッ!! 階段側をよく見てみろッ!!
皆、訓練の事なんか頭から抜け落ちたように好き勝手に動いてるッ! パニックを収められるだけの力を持ったリーダーがいないからだッ!
皆の恐怖を吹き飛ばせるだけの力をコウキ君が持っているんだ、前ばかり見てないで後ろにも気を配れッ!!」
「ッ!? ……分かった……ッ!
メルドさん、いったん退きます!」
光輝がメルドに断りの言葉をかけた瞬間、〝ベヒモス〟が咆哮を上げながら突進してきた。
このままでは、撤退中のクラスメイト達を全員轢殺してしまうだろう。
そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。
「「「 全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず―――……〝聖絶〟!! 」」」
2m四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と4節からなる詠唱、さらに三人同時発動。
1回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。
純白に輝く半球状の障壁が〝ベヒモス〟の突進を防いだ。
衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、〝ベヒモス〟の足元が粉砕される。
橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。
撤退中のクラスメイト達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。
〝トラウムソルジャー〟は38階層に現れる魔物で、今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。
前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配にクラスメイト達は半ばパニック状態だ。
隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。
騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。
その内、一人の女子が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。
呻きながら顔を上げると、眼前で一体の〝トラウムソルジャー〟が剣を振りかぶっていた。
「あ」
そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。
〝死〟―――……その女子がそう感じた次の瞬間、〝トラウムソルジャー〟の頭部が何者かの手によって跡形もなく粉砕され、次いで周囲にいた〝トラウムソルジャー〟も破砕されてゆく。
「大丈夫ユウカさん?」
〝トラウムソルジャー〟をまるで豆腐のように握り潰し、他の〝トラウムソルジャー〟めがけて投擲し、階段への道筋を強引に作っていたハジメが声をかける。
……ステータスにものを言わせた超脳筋プレイであったが、弾数が少なくなってきた以上、つべこべ言っている場合ではない。
周囲の〝トラウムソルジャー〟を一掃し、倒れたままの女子…ユウカのもとへ駆け寄るハジメ。
ユウカの手を引っ張り立ち上がらせる。
「大丈夫、冷静に対処すればどうってことないよ。
殴ってみたけどそんなに硬くなかったからね」
自信満々にそう言うハジメをマジマジと見るユウカは、次の瞬間には〝うん! ありがとう!〟…と元気に返事をして駆け出した。
ハジメは周囲のトラウムソルジャーをぶん殴り、塵に還しながら周囲を見渡す。
コウキやリュウタロウ、シズクが脱出路確保に乗り出した事で少しずつ優位に事態を進められている。
そうなると問題は〝ベヒモス〟を抑えているメルド団長の方であり、放っておけばいずれ死者が出るかもしれない。
それに、騎士アランが必死にクラスメイト達を纏めようとしているが上手くいっていない。
コウキ以上のリーダーシップを持った人が必要だ。
自分のやるべき事を見つけたハジメは走り出した。
メルド団長達のいる〝ベヒモス〟の方へ向かって。
〝ベヒモス〟は依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。
障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。
障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。
「(階段側は、問題なさそうだな)」
「団長ッ! もはや保ちませんッ!!」
「……よし! 撤退だッ!! 総員後t―――……」
パリィィィン
……豪快に砕け散る障壁。
こちらに猛烈な勢いで突進してくる〝ベヒモス〟の姿にメルド団長達は死を覚悟する―――……
パンッ パンッ
「グルァァァアアア!?!?」
……聞き覚えのある破裂音とともに〝ベヒモス〟の両目が潰れ、突進が中断された事で命拾いするメルド団長達。
「メルド団長ッ!!」
「ッ!? ハジメかッ!! 助かったッ!!」
「階段前はなんとか確保しましたッ!
今すぐ退避しましょうッ!!」
「あぁ、そうだn―――……」
「グルァァァァアアアア!!!!」
いつの間にか赤熱化した頭部を前面に押し出した〝ベヒモス〟がこちらに向かって突進を仕掛けてきていた。
既に避けられる距離になく、今度こそメルド団長達は死を覚悟するが―――……
「うおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!」
ガシッ!!
「
早く、行ってくださあぁァいッ!!」
……何をトチ狂ったのか、〝ベヒモス〟の頭部をガッチリ掴み、その突進をすんでのところで食い止めるハジメの姿があった。
……〝ベヒモス〟が押されているように見えるのは、恐らく気の所為だろう。
「だ、大丈夫かハジメッ!?
俺達の事はいいから早く離せッ!!」
「そ、れは、メルド団長達が避難した後にしますッ!!」
「イヤ、だから―――……」
「一度ヒーローをッ! 目指したからにはッ!
半端なままでいたくないんですッ!!
これが僕のッ! ヒーローとしての意地なんだッ!!」
……普段のハジメからは想像がつかない程の一面に思わず息を呑むメルド団長達。
こうなったらテコでも動かないだろう事を直感したメルド団長の判断は早かった。
「分かった、すぐに助けを呼んでくるッ!
それまで死ぬんじゃないぞッ!!」
「はいっ!! うおおぉぉぉ!!!」
メルド団長達は駆ける。
大切な戦友を助けるために。
「グルァァァァアアアア!!!!」
「うおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!
……何もハジメは考えなしに〝ベヒモス〟と取っ組み合っているワケではない。
それ即ち、両目を貫いた弾丸。
「(何から何まで〝錬成〟で作り出した銃なんだッ!
当然―――……弾丸もッ!!)」
……今ハジメは、〝ベヒモス〟と取っ組み合いながら片手で〝ベヒモス〟の眼窩の中にあるであろう弾丸を手探りで探していた。
そして、見つけた。
「―――……〝錬成〟ッ!!!」
機能美を度外視した…いうなれば適当で不細工で欠点だらけな〝錬成〟を〝ベヒモス〟の眼窩…脳の近くで引き起こす。
パンッ!!!
「グ、ルァ………ッ」
「ハジメ君ッ!!」
……〝ベヒモス〟の動きが途端に緩慢になったのと、カオリが駆け付けてくれたのはほぼ同じタイミングであった。
これにはハジメも面食らう。
「カ、オリ……? どうしてここに……?」
「いくらなんでも無茶しすぎだよハジメ君!!
もう、こんなにボロボロになって……ッ!!」
それはもうこれ以上ないくらい怒っていた。
しかしそれも、自分の為を思って言ってくれた事なので何も言い返さずに黙って受け入れたハジメ。
「今治癒するね―――……天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん―――……〝天恵〟」
「ありがとうカオリ。 ……他の皆は?」
「皆無事だよ。 メルド団長の作戦であの魔物相手に魔法で一斉攻撃する手筈だったんだけど―――……まさか倒しちゃうなんて、スゴいよハジメ君は!」
「ハハハ、それほどでもないよ―――ドパンッ……!?」
次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が〝ベヒモス〟めがけて殺到した。
「ウソ、もう魔物は倒したのに……ッ!?」
「……向こうで何か手違いがあったのかも、急ごう!」
カオリに治癒されすっかり元気になったハジメがカオリとともにその場を後にする。
すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、クラスメイトの皆がそんなミスを犯すワケないと信じて皆のいる階段の方へ突き進む。
しかし、その直後、ハジメの表情は凍りついた。
無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球が軌道を僅かに曲げたのだ。
……ハジメの方に向かって。
明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。
「(クソ……ッ!
……イヤ、僕ならなんとか耐えられるか……?)」
「ハジメ君ッ!! 危ないッ!!」
……ハジメの眼前にカオリが現れ、火球はカオリに突き刺さった。
受けた体勢が悪かったのか、カオリは冗談みたいに遠くまで吹き飛び、そして―――……
「カオリッッ!!!」
……奈落の闇の中に消えていくカオリの後を追うように落ちていくハジメ。
光に背を向け、飛び込んだ闇の先にあるものは……?
仮にカオリが助けに来なかった場合、ハジメ君は奈落に落ちる事はなかったです。