インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─ 作:ダブスタ親父
クラス代表と転入性
クラス代表決定線の翌日の朝、ラスティは千冬とクラス代表をどうするかの話をしていた。
「クラス代表だが、昨日の夜にオルコットから私へ直訴があってな」
「クラス代表を辞退....か?」
「まぁ早い話はそうだ。試合には勝ったが、勝負には負けた。そんな自分がクラス代表にはなれないとな」
千冬の話を聴いたラスティは彼女の意見が出てくる事も予想していた。圧勝した訳ではない。ギリギリのところで一夏のミスがあったからこそ拾えた勝利。
「その意見が出てくるのは予想していた。だが、試合に勝った方がクラス代表になると決めた以上は彼女がクラス代表にならねば規律が乱れる」
「そうだな......授業前に彼女を呼んで説明しよう」
「それもだが、私は彼女へ罰を与える。その説明も同時にしなくてはな」
ラスティはそう言って内線でセシリアを呼び出す。千冬はこれ以上の面倒事は御免だと言いたげな表情でラスティを見つめる。
数分後、怯えた子犬の様な表情で職員室へとやって来たセシリア。彼女を奥の小会議室へ通してすぐに本題へ入った。
「単刀直入に言う。オルコット、君にはクラス代表をやってもらいたい」
「えっと......私は昨日、織斑先生に辞退を申し出た筈ですが......」
「分かっている。しかし、君の申し出を受けるという事はルールを捻じ曲げる事になる。試合に勝った者がクラス代表を務めるというルールを守らねば規律が乱れる」
ラスティは淡々と語って聞かせる。自分の言葉に何の疑いも持たず、さも当然の様に言ってのけた。
「ですが......」
「そう言えば、君には罰を与えなければならなかったのを思い出してね。私に負けた場合、君は罰を受ける決まりだったろう?」
「は、はい......」
ラスティは少し意地悪そうに笑って告げると彼女は怯えた様子で肩をビクッと震わせた。そんな彼女を安心させる様に優しい声音で言葉を続ける。
「安心して欲しい。何も厳しい罰にするつもりは無いさ。君に与える罰は......」
そこで言葉を止めたラスティ。セシリアはそんな彼を固唾を飲んで様子を伺っている。
「クラス代表として、クラスを纏めてみせろ」
「へ? 停学は? 反省文は? 言っていた事と違うような......」
「私も最初はそうしようと思っていた。だが、それでは勿体無いと思ってな。君がクラス代表を辞退するのなら、罰としてクラス代表をさせた方が良いのではないか、と。そういう訳だ」
ラスティの言葉を受けたセシリアは言葉を失う。別にそういう答えが返ってくるのでは無いかと全く予想しなかった訳ではない。何かしら理由を付けたり、甘い言葉でクラス代表を受ける様に説得するのではと。
しかしこの目の前に居る男はそんな事はせず、淡々と息を吐くように罰としてクラス代表をしろと言っている。呆れて物も言えないとはこの事だろうかとセシリアは思う。
「何を......罰で私がクラス代表に?」
「そうだ。自分にはその資格が無いと言うのなら、罰としてクラス代表に相応しい資格を持つ人間になってみせるんだ」
セシリアはしばらく呆然としていたが、やがて小さくため息を吐き、気丈に顔を上げて言葉を返した。
「──わかりましたわ。クラス代表としての責務、果たしてみせます」
「良い返事だ。期待している」
ラスティは軽く頷いて、椅子に再度深く腰掛ける。セシリアはぺこりと一礼すると、そのまま会議室を後にした。
ドアが閉まる音を聞いた千冬が、傍らで腕を組んだままぽつりと呟く。
「まったく、貴様は本当に人使いが荒いな。言葉の選び方一つで、あの子は余計なプレッシャーを抱えることになるぞ」
千冬は呆れたように言いながらも、口調にはどこか満更でもない響きがあった。彼女なりにセシリアの素質を見込んでいるのだろう。
「逆さ。必要な負荷だ。それに甘やかすだけじゃ成長は望めない」
ラスティは視線を机の上に落としたまま答える。過去に何度も自らが背負ってきた“責任”という名の重荷。それを思えば、セシリアに課したものなど、まだ軽い。
「それに彼女は折れない。そう見込んだからこその“罰”だ」
その言葉に千冬も静かに目を細めた。教師としての経験から、彼女もまた、セシリアの芯の強さには気付いているのだろう。
「......さてそれじゃあ次は織斑一夏の処遇についてだな」
「ああ。こっちはこっちで悩みの種だ」
二人は資料の束に目を落としながら、次なる課題に向き合っていく。
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教室に戻ったセシリアは、自席に荷物を置くと、静かに周囲を見渡した。どの顔も昨日の模擬戦を見ていた生徒達だ。勝利した筈の自分が『敗者のような表情』で引き下がった事。それを疑問視する視線が、彼女の全身に突き刺さる。
......これが......クラス代表という立場の重さ......
心臓の鼓動が早まる。緊張で指先が震え、口の中が乾く。それでも彼女は椅子に座る事なく、一歩教壇の前へと進み出た。
「えー......その......皆様に、ご報告がございます」
声が上ずる。だが誰も口を挟まなかった。セシリアは、震える喉を抑えるように一度深呼吸をして続ける。
「本日より、私、セシリア・オルコットがクラス代表を務めさせていただきます。昨日の模擬戦で勝利したのは確かですが、勝負の内容に自分自身納得がいかず、一度は辞退を申し出ました。......ですが、教師の方々からの指導もあり、責任を持ってその役目を果たすことを決めました」
その言葉には、強さ、そして少しの戸惑いが混ざっている。しばし沈黙が続いた教室に、やがて一人拍手を送る者が現れた。
「そっか。よろしくな、セシリア」
試合に負けたが、勝負には勝った織斑一夏本人だった。
その無邪気な笑顔に、セシリアの胸の奥にあった緊張の糸が、ほんの少しだけ緩む。
「ふ、ふん。べ、別に貴方のためにやる訳ではありませんわ」
照れ隠しのようにそっぽを向く彼女に、一夏は笑って肩を竦めた。
その様子に、教室の空気もどこか和らぐ。次第にクラスメイトたちも、彼女に好意的な視線を向け始めた。
──これは、彼女にとっての第一歩。栄光ではなく、責任の重さに気づいた少女の、新たな物語の始まりである。
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一方その頃──
職員室の隅では、ラスティと千冬がそれぞれの資料を睨みつけながら、次なる一手を話し合っていた。
「さて、クラス代表も決まった。そろそろ次の段階へ進めようと思うのだが......」
「次、か。まさかとは思うが、また実戦訓練か?」
「そうだ」
千冬は眉を顰めた。ラスティの言う“実戦”は単なる模擬戦とは訳が違う。戦術、意思決定、連携、さらには心理的圧力──それらを全て含んだ“本物”を想定した訓練であるからだ。
「とはいえ、次は個人戦ではない。チーム戦を想定する。現実の戦場は余程の事が無ければ常に連携が求められる」
「......確かに、今の一夏に必要なのは個の力ではなく“共に戦う”ことか」
ラスティは頷いた。そして、資料の一枚を千冬の前に差し出す。
「一夏とセシリア。二人を組ませ、別のペアと模擬戦をさせる」
「相手は?」
「こちらで用意する。......と言いたい所だが、生憎アテが無くてな。束に頼んでみたが、それなりの実力者となると同世代とはいかないらしい」
「それはそうだろうな。この学園に来る専用機持ちはその国でトップと言っても過言では無いからな」
「だから山田先生に協力を仰いだ。二つ返事で了承してくれた」
千冬はその話を聴いて、興味を持ったらしい。
「──なるほど。面白くなってきたな」
千冬は口元に笑みを浮かべたのだった。
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放課後、訓練だとラスティに呼ばれてアリーナに集合した一夏とセシリア。そんな二人の前には二組の副担任を勤めている山田真耶がにこやかに立っている。
「えっと......何で山田先生が?」
「決まっているだろう。君達二人が私達に挑むんだ」
一夏の疑問を一撃で解決させる回答をラスティがISを纏いながら告げる。回答を聞いた一夏は小声でセシリアに耳打ちする。
「なぁ......これ、本当に模擬戦? あの二人、ガチなんだけど......」
「そんなの、見れば分かりますわよ......!」
この日行われたのは、あくまで軽い連携練習の予定。だがそれでも、一夏とセシリアの連携の拙さは明らかだった。
一夏は自分の戦術が近接戦の為、突っ込む事が多く、セシリアは射線の確保を優先しすぎるあまり援護が遅れるだけで無く援護射撃で彼の動きを止めさせてしまう。
互いの動きは噛み合わず、模擬戦相手である真耶とラスティは呆れるばかり。
「織斑君、オルコットさん──連携の基本は“先を読む”事ですよ」
ゴツい見た目のISとは裏腹に山田先生の穏やかな声が響く。
「動きながら相手の位置、味方の位置、自分の次の行動、全部を同時に考えるんです」
「山田先生の言う通りだ、二人共。お互いの動きの邪魔をしてどうするつもりだ」
「織斑君は前に出過ぎです。オルコットさんは援護のタイミングが遅いです。正確性よりも速さが重要ですよ」
その後も二人はお互いの動きを邪魔し合い、一夏が距離を取った時にセシリアは気付かずぶつかって制御を失って地面に落下。そこで訓練は終了となった。
練習後、セシリアは髪を払いながら溜め息を吐いた。
「......全く、あなたのせいで足を止められましたわ」
「え、俺のせい? セシリアが撃つタイミングが変なんだって」
「何ですって!」
売り言葉に買い言葉。二人の間に火花が散るが、そこにラスティが割って入る。
「言い合いはそこまでだ。──いいか、二人とも。今のままじゃチーム戦で勝つことは絶対にできない」
淡々と告げるその声に、二人は思わず口を閉ざす。
「だが逆に言えば改善の余地は山ほどある。これで分かっただろう? 自分達の実力はまだまだ足りないという事を」
その言葉に、一夏とセシリアは顔を見合わせた。
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数日後、放課後の職員室。千冬がタブレットを置き、ラスティに視線を向ける。
「中国の代表候補生なんだが、二組に配属になるらしい。」
「ほう......この時期に転入とは珍しいな?」
ラスティはタブレットを手に取り、データを参照しながら告げる。千冬はそれに同意しながら隣に座って言葉を続けた。
「一夏の幼馴染らしい」
「ほう......。面白くなりそうだな」
ラスティは僅かに口角を上げて、タブレット内にある試験動画を見て実力を見計るのだった。
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