インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─ 作:ダブスタ親父
凰鈴音の実力
セシリアとペア戦の訓練を行った翌日。一夏はラスティに言われた事を脳内で反芻させながら教室へと歩みを進める。
セシリアとのクラス代表決定戦の時は
ラスティからは今までの延長線に答えはあると言っていた。その言葉通り、自分がやって来た事を思い出していると教室に到着した様で、自分の席に座る。
「おはよう、織斑君」
「ん? あぁ、おはよう」
クラスメイトからの挨拶をそこそこに返事をしていると一人のクラスメイトが興味深い話をしていた。
「ねぇ、聞いた? 今日隣のクラスに転入生が来るんだって」
「えぇー! どんな人なんだろうね」
こんな時期に転入生なんて珍しいなぁなんて物思いに耽っていると同じく噂話を聞き付けたセシリアも一夏へ話し掛けてくる。
「こんな時期に転入生なんて珍しいですわね」
「そうだな.....どうせならゴールデンウィーク明けとか夏休み明けとかがキリ良いのにな」
「もしかして私の存在を危ぶんでの転入ではないでしょうか!」
セシリアの言葉に一夏は何を言っているんだと言いたげな表情を浮かべて言葉を返す。
「それは多分無いから安心しろよ、セシリア」
「うぐっ......」
その会話に反応した他のクラスメイトが会話に入ってくると同時に噂話の続きを話す。
「でもあながち間違ってないかもよ? 噂だとオルコットさんと同じ国家代表候補生だって!」
「ほら! やはり私の存在故の転入ですわよ」
「そ、そうなのか...?」
「そんなワケ無いじゃない。普通に入学式に間に合わなかっただけよ」
会話に割り込んで来た人物を見て一夏は驚きで目を見開く。
「り、鈴!! 転入生ってお前の事だったのか!」
「えぇ、そうよ。驚いた?」
懐かしさと同時に、少し勝ち気な笑みを浮かべる鈴。
一夏は呆然としながらも十年近く前の幼馴染の姿が蘇り、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
「な、なんでここに......いや、それよりISにまで乗れるなんて......」
「ふふん。私を誰だと思ってるのよ、ISくらい扱えて当然じゃない」
胸を張る鈴。その一言にセシリアの眉がぴくりと動く。
「まぁ......代表候補生というのは本当でしたのね」
「そういうアンタはイギリスの代表候補、だったかしら?」
「ええ、その通りですわ」
二人の間に、目に見えない火花が散る。
一夏は慌てて手を振るが、女子たちの競い合いの空気に押されて言葉が詰まる。
そんな状況を終わらせたのは担任の千冬であった。話し込んでいる鈴の頭目掛けてファイルをたたき落とす。
「痛ッ! 誰よ......あ、ち、千冬さん......」
「織斑先生、だ。馬鹿者。それよりもホームルームの時間だ。自分の教室に戻れ」
「は、はい! あ、一夏! 放課後、アンタの実力見てあげるから逃げないでよね!」
そう言い残して嵐のように去っていく鈴。そんな彼女とすれ違って教室へ入っていくラスティ。
......凰鈴音。格闘戦主体の専用機《甲龍》を持つ。国家代表候補生の肩書きは伊達ではない筈だ......
彼の視線はただ冷静で、しかし鋭く光を宿していた。
「諸君らも噂程度には聞いていると思うが、今の生徒が新しい転入生だ。彼女は二組に所属する事になる。合同演習程度でしか関わる機会はないと思うが、トラブルは起こさない様にな」
その声により、ようやく教室が静まり返った。
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放課後。
教室から出て行く生徒達の喧騒が遠ざかる頃、廊下に一夏の姿があった。
「鈴。言われた通り、逃げずに来たぜ」
「まぁ、アンタが簡単に逃げる様な腑抜けじゃ無い事位分かってるけどね。少し積もる話もある事だし、話しましょ」
二人は自然と中庭へ向かい、並んで歩き出す。過去と言うにはあまりにも短い期間ではあるがかつての中学生時代を思い出し、懐かしい沈黙が少しだけ続いた後、鈴が不意に笑った。
「なんだか変な感じ。二年位会ってないだけなのに、こうして並んで歩くと昔のままに戻った気がするわ」
「俺もだよ。......弾と三人でバカやってたのが、もう遠い昔みたいだ」
思い出話に自然と頬が緩む。だが次の瞬間、鈴の瞳が鋭さを帯びる。
「そうね......。でもね、一夏。私は遊びに来たわけじゃないのよ。中国の国家代表候補生として、プライドを持ってここに来た。アンタがこの学園唯一の男子生徒だからって特別扱いされてるの、私としては看過できないのよ」
「うっ......」
言葉を詰まらせる一夏。しかし鈴の表情はただの敵意ではなく、どこか挑戦を楽しんでいるような笑みを浮かべていた。
「だから、しっかりしなさいよ。私の幼馴染なんだから」
その一言が、一夏の胸に妙な熱を灯す。
──その様子を、少し離れた校舎の影から見ていた人物が一人。
「やはり思った通りだ。あの闘争心は一夏には良い刺激になるだろう」
ラスティである。彼の隣には千冬や真耶も居り、教師三人が揃っている事で異様な空間となっていた。
「一つ良いか。何故君達も一緒に居る? 私はアリーナに向かうよう伝えた筈なんだが......」
「暇だったからな。......真耶は知らん」
「えっと......アリーナのカードキー......ラスティ先生がお持ちの筈だったかと......」
申し訳無さそうに真耶に言われたラスティはスーツの胸ポケットを探ると確かに一枚のカードキーが出てきた。それを見たラスティは頭を下げた後でカードキーを真耶に手渡す。
「すまない、真耶。持っていることを忘れていた」
「いえいえ、忘れる事は誰にでもありますから! それでは私はアリーナに行って準備してきますね」
去っていく真耶を追う様にラスティ達もアリーナへと向かった。
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アリーナに集合した一夏とセシリア。そしてそこには鈴の姿もあった。彼女が居ることに驚きを隠せず、狼狽えている二人を諭しながら現れたのは千冬だった。
「凰にもこれから訓練に加わってもらう事になった。これから先、三人での訓練となる」
「そういう事だからよろしく」
挨拶もそこそこに千冬はラスティから渡されたメモを取り出して読み上げる。そのメモの内容はその場にいる誰もが驚くものだ。
「鈴を相手に一夏、オルコットの両名はタッグを組んで模擬戦だ」
「な!? 同じ国家代表候補生にも関わらずこの仕打ちはなんですか!」
「私に言われてもな......ラスティの指示だ。どうせアイツの事だ、何かしら考えがあるんだろうさ。文句を言う前に身体を動かせ」
内容に不満を持ったセシリアと一夏は千冬へと詰め寄る。その不満は尤もではあるが、彼女にそれを言っても意味は無い。彼女はただ、渡されたメモを読み上げただけなのだ。
諦めた一夏とセシリアは気を取り直して鈴へと向き合う。
「やれるだけやるか」
「当然ですわ!」
両者が構えを取った瞬間、アリーナに緊張が走る。
「模擬戦開始」
千冬の宣言と同時に、二人が飛び出す。鈴の得物である偃月刀──双天牙月と一夏の雪片がぶつかり合う。
「はっ!」
距離を取った筈の鈴。彼女の甲龍の推進器が爆ぜ、赤い残光が空間を裂く。刹那、鈴音の姿が一夏の目の前に現れた。
「なっ......速い!」
「はあぁッ!」
反射的に防御の構えを取る一夏。しかし鈴の双天牙月をその上から叩き付け、衝撃が腕に走る。
「ぐっ......! 重い!」
「当たり前でしょ! まだまだ行くわよ!」
彼女の連撃が始まる瞬間、間一髪の所でセシリアのビットが援護射撃を行うが、鈴音は半身を捻ってを避けそのまま地面を蹴って後退。
「援護射撃ね......。でも遅いわよ。それじゃ避けてくださいって言ってる様なものね」
「くっ......良いように言われて引き下がる訳にはいきませんわ!」
「ばっ、馬鹿よせ! 遠距離特化の機体で鈴と張り合える訳が無い!」
「何、早速喧嘩? アンタ達、ペア失格よ」
近接武器のショートブレードを装備したセシリアが距離を詰め、勢いを加えた突きを放つ。だが、近接戦闘に慣れた鈴には目を瞑ったままでも避けられる程に単純でつまらない攻撃。
一夏は間に入りたくとも今の彼には援護が出来る様な武装は無い。かと言って間に入る為に距離を詰めれば連携が取れずに互いの動きを邪魔するだけ。
それを分かっているからこそ、手を出せない歯がゆさを感じている。
「このっ......! 逃がしませんわ!」
セシリアは空中に陣を描くようにビットを展開し、射線をクロスさせる。だが鈴音は全てを正面から突破するように突撃してきた。
「真正面から来るなんて馬鹿ですわね!」
だが次の瞬間、鈴は双天牙月を合体させて双刀にするとビットの射撃を弾きながら距離を詰める。
「しまっ──」
「遅いっての!」
ショートブレードを構えるセシリアへと鈴音の拳が叩き込まれ、青い火花が散る。重い衝撃でバランスを崩し、セシリアは後退る。
その瞬間を待っていたと言わんばかりに一夏は前に出て、セシリアが体勢を立て直す時間を稼ぐ。
「セシリア、交代だ」
一夏は前に出て、鈴と刀を交える。実力は鈴が上回っていた。しかし速度は一夏に軍配が上がり、力は鈴に軍配が上がる。
一夏は鈴の一撃に負けぬ様に手数の多さで攻め立てる。しかし鈴の一撃の重さには敵わない。一撃で自分の手数が覆される。
「甘いっ!」
一夏は刀を押し返されて弾かれる。体勢が崩れ、鈴の横凪が飛んでくるが、すんでのところで膝を使いガードして体勢を立て直すと目を鋭く光らせた。
......ラスティさんが言ってた......"周りを俯瞰して戦え”って言葉の意味が今なら分かる気がする......
セシリアの現在地、ビットの位置と角度、鈴音の突撃ルート──
頭の中で全てが繋がる様な感覚を覚えた一夏は次の一手を選ぶ。
「セシリア! 右上に射線を!」
「了解ですわ!」
セシリアが射線を張ると、鈴音は反射的に左へ回避。それが彼女のミスだった。双天牙月を分離させ、片方で防御するだけで良かったのだ。わざわざ目線を一夏から逸らしてまで回避する必要は無い。そこに付け込んだ一夏が回り込み、刀を振り下ろした。
「なっ......!?」
鈴は双天牙月で受け止めるが、初めて表情に驚きが走る。受け止めた直後に反撃に出るが、その反撃を止める様にセシリアからの援護射撃が飛び、反撃を辞めて仕切り直す為に距離を取った。
そこで聞きなれた男の声が響く。
「そこまでだ!」
ラスティの制止が響き、両者が警戒態勢を解いた。
「ふぅ......やるじゃない、一夏。二対一とは言え、ここまで追い詰められるとは思わなかったわ」
「まだまだ、だけどな」
一夏は額の汗を拭いながら、息を整える。
「驚きましたわ。一夏さんのあの判断。私のブルー・ティアーズの位置を正確に把握しているとは......」
セシリアも心底感心した様子で呟く。
ラスティはゆっくりと歩み寄り、淡々と告げた。
「凰の甲龍は真正面からの突破力と破壊力に優れる。それに実力もこの中では相性も相まってトップと言っていい。だが複数の情報を重ね合わせれば必ず対抗できる。......良い判断だった、一夏」
鈴は少し拗ねたように口を尖らせつつも、笑っていた。
「次はちゃんと倒すわよ! 二人共!」
鈴はそう言ってアリーナから去っていく。ラスティが諌めないという事は今回の彼女の役割は終わったという事であると皆が判断して、彼の言葉を待つ。
「今日は模擬戦だけだ、二人共。明日からはペアをローテーションで切り替えて訓練していく。自分が鳳と同じ役割を担う事になるのを頭にいれておくように」
ラスティもそれだけ告げてアリーナから去る。明日からの本格的な訓練に闘志を燃やす二人だった。
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