インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─ 作:ダブスタ親父
中々書き溜め出来なかったので、こんなに時間が空いてしまいました。
何話か書き溜めが完成したので、これからは定期的に投稿出来ると思います。
今後もよろしくお願いします。
クラス代表対抗前哨戦
凰鈴音が転校して来てから数日が経過。クラス代表対抗戦まで一週間を切った。クラス内は対抗戦に出場するセシリアへと優勝の商品となっている半年間有効の食堂のデザートフリーパスを手に戻ってくる事を期待して日夜応援の声を掛けている。
当の本人であるセシリアは鈴や一夏との訓練で
「はぁ......」
「珍しいじゃないか、セシリアが溜め息なんて。らしくもない」
机に突っ伏すセシリアへと声を掛けた箒。箒の言葉に愚痴るように告げると箒は更に問い掛ける。
「箒さん......。実はラスティ先生と共に鈴さん相手の戦術を立てていまして」
「上手くいってないのか?」
「えぇ、まぁ......。戦術を立てれば立てる程、鈴さんと私の実力差が浮き彫りになると言いますか......相性がとことん合わないんですの」
「相性か......また難しいな。あの人の戦術でも埋められないのか?」
「こればっかりはどうしようもないと先生も」
セシリアの弱音に、箒は腕を組んで考え込んだ。
彼女自身はラスティに対して懐疑的な目を未だに向けている。しかし一夏を短時間であそこまで成長させたという手腕は認めざるを得ない。だからこそセシリアの言葉が誇張ではないと理解できる。
「......それで、どうするつもりだ?」
「それを考えているから、こうして溜め息をついていますのよ」
「だが諦める気は無いのだろう?」
「当然ですわ」
その返答には迷いが無い。セシリアの瞳には確かに責任を背負った光が宿っていた。
そんな二人のやり取りを遮るように、教室の後方から声が飛んだ。
「おい、セシリア。ラスティ先生から今日は前哨戦って事でラスティ先生とタイマンだってさ!」
声の主は一夏。今の今までラスティに呼び出されていたらしく、その際に言われた内容を伝えに来た。
「前哨戦......?」
「なるほど......そういうことか」
セシリアは小さく頷く。彼には明確な意図がある。そう思った。
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放課後のアリーナに呼び出されたセシリア達の前で、ラスティが無骨に説明を始めた。
「対抗戦の本番に入る前に、実戦形式で鍛え上げる必要がある。。対戦相手は凰鈴音を想定し、私が近接特化で対応する」
「つまりは前哨戦ですのね」
セシリアの確認に、ラスティは小さく頷いた。
「その通りだ。しかし安心しろ。これは勝敗を問うものではない。──だが、君が“凰鈴音を超える戦い方”を見いだせなければ意味は無い」
その冷徹な口調に、セシリアの背筋が震える。それと同時に心の奥で火が灯った。
「......やってみせますわ」
アリーナではセシリアの《ブルー・ティアーズ》が展開し、ビットが空を舞う。相対するはラスティの《スティール・ヘイズ》。鈴との対戦を想定し、普段とは打って変わって実体剣を二振り装備。両肩には衝撃砲を再現した武装を搭載している。
「胸をお借りしますわ」
「あぁ。全力で来ると良い」
「模擬戦、開始」
セシリアとラスティの短い会話が終わったと同時に箒の声が響く。
戦場に火蓋が切られた。
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模擬戦が始まってから数十分が経過。状況はラスティがやや押してはいるものの膠着している。衝撃砲で動きを牽制し、距離を詰めて二振りの実体剣で攻めるラスティとBT兵器を使い、ラスティの動きを制限して距離を取るセシリア。
膠着状態に嫌気が差したラスティは彼女を焚き付ける為に煽る。
「塩試合だな。そんなに攻められるのが怖いか?」
「えぇ。鈴さんとはとことん相性が悪いですから。距離を取って、自分の得意を押し付けないと勝ちの目は出ません」
「残念だが、それだけで勝てる程......甘くは無いな!」
セシリアの言葉を否定したラスティ。対して実体剣を投げてそれを撃ち落としたセシリア。彼女が撃ち落とした時には既にラスティは加速して視界の外へと出て間合いを詰めていた。間合いを詰められたセシリアはまるで逃げるかのように後ろへと飛ぶ。
「くっ......それでもっ!」
「遅いッ!」
距離を取るセシリアに対して更に距離を詰め、残った実体剣でレーザーライフルを切断。左足で彼女を蹴って体勢を崩し、その勢いのまま回転して再度実体剣で彼女を斬る。
「ぐぅぅっ!!」
「君の動きは自分の得意を相手に押し付けている訳でも、距離を取っている訳でも無い。ただ逃げているだけだ」
「そんな事はありません! 私は私より強いと思う鈴さんに勝つ為に努力しているんですの! これでも必死に頑張っています!」
セシリアの悲痛な叫びにラスティはただただ冷酷に現実を突き付ける様に彼女へと猛攻を続けた。
「頑張っている、か。その言葉を自分の慰めに使うなよ、小娘」
「───っ」
その言葉に含まれた殺気で動きを止めた彼女へ踵落としを食らわせて地面に落とす。ISが解除され、待機状態に戻る。
衝撃で意識が朦朧としているセシリアの目の前に降り立つとラスティは言葉を続けた。
「頑張るという言葉は自分以外の誰かに送るエールの筈だ。それを君はベストを尽くした、頑張っている、努力していると呪詛の様に繰り返し、君は自分を甘やかしている」
「そんな筈......」
否定したくとも出来ない。自覚があるからだ。彼女はこれまでの経験から無理をした事は無い。決められたカリキュラムと練習時間。対戦相手から何から何まで自分の今の実力に合ったものを与えられて来た。故にラスティの言う言葉を否定出来ないのだ。
「君が言うベストは君自身が設定した無理をしない程度の限界に過ぎない」
「そんな事は......」
「聡明な君の事だ、自覚症状はある筈だ。......技術はある、才能もある。数ある戦術の中から最適解を選ぶ能力もある。だが君が選ぶ最適解は負けない為の戦い方......まるで後ろ向きだ」
ラスティの言葉を受けたセシリアは言い返せずに項垂れたまま、思いの丈を叫ぶ。
「それの何がいけないと言うんですか!! ずっと頑張ってきた......ずっと頑張ってきたんですの! 家の名誉を守る為、候補生争いに負けない為にずっと!」
「......その気持ちが変わらないのであれば、それが君の終わりだ。もう私が教える事は何も無い」
「ラスティ先生、言い過ぎです!」
「......箒、ダメだ。ここで止めたらセシリアの為にならない」
止めに入る箒を更に止めたのは一夏だ。彼もセシリアや鈴と訓練を続ける中で気になっていた事はあった。
攻める自分と真反対でやたらと距離を取りたがる。最初の頃は遠距離型の機体だからと考えていたが、極端なまでに距離を取る彼女の考え方が分からなかった。それが今、ラスティの言葉で全てが繋がる。
「どうしてだ、一夏。前までのお前なら止めに入っていただろう!」
「......強くなりたいなら今まで通りじゃダメなんだ。今まで通りの事をただ淡々と繰り返す様じゃ強くなれない。現状維持は後退と同じだ」
「一夏......」
一夏の言う通りに箒の目の前では悲痛な状況が続いていた。
「私が弱いと思うなら見捨てればいいじゃありませんか! 見捨てて一夏さんと鈴さんを鍛えればいいじゃありませんか!」
「不貞腐れるのは君の勝手だ。辛い事や苦しい事から目を逸らし、耳を塞いでやり過ごす。それは確かに傷付く事の無い心地良い生き方だろう。だが、君が望む生き方はそんな負け犬の生き方なのか?」
ラスティの言葉にやっと立ち上がったセシリアは彼の胸倉を掴む。
「そんなの......私の望む生き方ではありません!! 私は! 私は......」
「なら過去を捨てろ。自分を追い込め。君の身体に染み付いた考え方を捨てろ」
「......どうしろと?」
「遠距離を捨て、接近戦で凰鈴音に勝て。唯一の勝ち筋はそこにしか無い」
セシリアは胸倉を掴んでいた手から力が抜ける。目の前に居る男の言葉が信じられない内容だったから。今まで自分が得意にしていた戦い方を捨てて相手の土俵で戦えと言うのだから。信じられないのは無理もない。
「何を......言って......」
「私も君が凰に勝てる戦術を考えてみたが、どれだけ考えてもこの道しか無かった」
ラスティはそう言って真剣な表情で言葉を続けた。
「君が選べ。私の言う無理を通すか、自分に染み付いた戦い方を通すか」
「......」
「結局の所、何を言おうが選んで戦うのは君だ。好きに選ぶと良い」
彼の言葉に項垂れたまま答えを出さないセシリア。そんな彼女に掴まれていた腕をするりと外して彼女から距離を取るラスティ。その表情はやや諦めが浮かぶ。もう無理か、期待外れだったなと判断しかけた所で彼女は答えを出した。
「接近戦を教えて下さい! 私に接近戦での戦い方を教えて下さい!」
「私が教えたら君は前と変わらないだろう? だからクラス対抗戦までの間、そこに居る二人から学ぶと良い。生身での体捌きを篠ノ之から、ISでの動き方を一夏から学ぶんだ。それもただ教えを乞うのでは無く、戦いの中で自分で答えを出せ。まずはそこからだ」
ラスティは淡々とそれだけを伝えてアリーナから去る。
彼が去った後もアリーナに残された三人の間にしばし沈黙が流れる。
セシリアは俯いたまま両拳を強く握りしめていた。震える手は、恐怖からか、悔しさからか──本人にも分からない。
「セシリア......」
箒が声を掛けるが、セシリアが先に言葉を吐き出した。
「お願いします......! 私に接近戦を、教えて下さいましっ!」
その目には決意が宿っていた。負け犬のままでは終われないという、彼女なりの誇りが燃え始めていた。
「あ、あぁ。勿論そのつもりだ。あの男は信用出来ないが実力も言う事も確かだ。そんな男が私達に託したと言う事は意味がある筈だ」
「よし、ならやろうぜ!」
箒に続いて一夏も力強く頷く。彼もまたラスティに突きつけられた“無理を通す覚悟”の重みを知っていたから。ラスティから教わったからこそ、今がある。
「ただし、生身の体捌きは私が仕込む。剣の構えから、足の運び、重心の置き方まで......基礎から叩き込むぞ」
箒も負けじと踏み出す。セシリアの決意を見て、教える意味があると感じ取ったからだ。
その瞬間から、セシリアの地獄の特訓が始まった。
ありがとうございました。
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