インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─   作:ダブスタ親父

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 もう完全に冬ですねー。風邪引かないように気を付けましょう


クラス代表対抗戦 ──セシリア・オルコットVS凰鈴音──

 

 クラス代表対抗戦当日。セシリアの調子は最高だった。

 前日、ラスティから激励を受けて後は彼と共に立てた戦術を実行するだけ。

 高鳴る心臓の鼓動すら制御するように、彼女は目を閉じて精神統一を続ける。

 アリーナでは既に他クラスの試合が終わり、観客席は歓声と熱気に包まれていた。学生たちの黄色い声援、金属がぶつかり合う余韻、レーザーの閃光の残像──その全てが渦を巻いてセシリアの耳に届く。

 その喧騒に気圧されまいと、彼女は静かに深呼吸を繰り返した。

 

「本当に変わったよな、セシリアは」

 

 一夏が呟く。

 

「あぁ。この調子なら鈴にも勝てるだろう」

 

 箒も僅かに口元を緩めた。二人は安心した様子でピットを後にし、観客席へ向かう。

 残された整備ドックに、軽やかな足音が響く────ラスティだ。

 

「やぁ、オルコット。調子はどうだ?」

 

 背後から掛けられた声に、セシリアは目を開ける。

 

「問題ありませんわ」

 

 凛とした表情のまま答える彼女に、ラスティは小さく笑みを浮かべた。

 

「そうか。......本国に新規武装の申請はしなかったのか?」

 

 彼の視線は整備台に鎮座する蒼き専用機「ブルー・ティアーズ」に注がれていた。対するセシリアは小さく肩を竦める。

 

「えぇ、しましたわ。近接戦用のブレードが欲しいと。ですが本国から返ってきた答えに呆れましたの。『ブルー・ティアーズに接近戦は必要ない。よって却下する』──ですって」

 

 吐き捨てるように言う声には、落胆と諦念が入り混じっている。

 

「仕方ないので、打鉄のブレードを拝借しましたわ。これでも無いよりはマシですもの」

 

 ラスティは一瞬だけ目を細め、それから彼女の背中を軽く叩いた。

 

「コンセプト通りに戦える相手なら苦労はしない。だが、戦場は常に“不測の事態”がつきまとう。備えはしておいて損はないさ」

 

 彼の低い声が胸に響き、セシリアは自然と背筋を伸ばしていた。

 

「行ってこい。凰鈴音に一泡吹かせてこい」

「はい!」

 

 彼女は力強く返事をし、光の装甲を纏ってアリーナへと飛び出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 蒼と紅の残光が同時に舞台へ滑り込む。

 セシリアのブルー・ティアーズと、鈴の甲龍。二人の機体が対峙すると、会場は一層大きな歓声に包まれた。

 試合開始の合図と共に、両者のブースターが一斉に火を噴く。

 刃と刃が交錯し、火花が散る。鍔迫り合いの火花は観客の瞳を奪った。

 

「はっ!? アンタが接近戦? 随分と舐められたものね。付け焼き刃がアタシに通用すると思ってんの!?」

 

 鈴が押し込みながら嘲る。

 

「それは......どうでしょうか」

 

 セシリアは汗ひとつ見せず、静かに返す。

 鈴が優勢に押しているように見えたが、次の瞬間、甲龍の背後で閃光が弾けた。

 セシリアのBT兵器が浮遊し、鋭い援護射撃を叩き込んでいたのだ。

 

「ちっ......なるほどね。擬似的な二対一を作る気か。でも単純なパワー勝負なら、この甲龍が負けるワケないでしょ!」

「ぐっ......!」

 

 セシリアは唇を噛む。

 

 ......このままじゃ押し切られますわね。......なら、逆に利用して──

 

 わざと崩されるふりをし、鈴を誘い込む。振り下ろされたブレードが甲龍の胴を裂かんと迫るが、鈴は咄嗟に身を捻って回避、一度距離を取った。

 

「付け焼き刃ってワケじゃ無さそうね。動きは荒いけど......型はちゃんとしてる」

「えぇ。血反吐を吐くほど、教わりましたから」

 

 二人は笑い、再び激突する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃、観戦席でラスティはじっとモニターを見つめていた。

 そこへ一本の通信が割り込む。

 

「こちらラスティ。......君か。どうかした?」

『一応伝えておこうと思ってさ。学園に所属不明機が二機接近中だよ。ついでに校舎内で不審な動きをしてるネズミが一人。どうするかはお好きに』

 

 一方的な通信が切れる。ラスティは立ち上がり、千冬へ回線を繋いだ。

 

『どうしたラスティ。今は試合中だろう。世間話なら後で──』

「ただの世間話なら良かったんだがな。……試合を中止して生徒を避難させろ」

『バカを言うな。トラブルが発生していないのに、そんな真似が出来るか』

「避難が無理なら教師部隊にISを装備させて待機だ。とある兎からのお告げだ」

 

 沈黙。次いで、短く息を呑む音。

 

『......なるほど。分かった。だが、お前はどうする? 教師部隊の隊長はお前だろう』

「私は校舎だ。ネズミが潜んでいるらしい。......番犬らしく追い払ってくるさ」

 

 ラスティは通信を切ると、無言のまま校舎へ駆けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 静まり返った校舎の中、ラスティはホルスターから拳銃を抜き取り、初弾を込めて再度ホルスターに戻し、無音で廊下を進む。

 照明に切り取られた長い影が床に伸びる。靴音を殺しながら彼は心の中で呟いた。

 

 ......私の予想通りなら、奴の狙いはここだ......

 

 足が止まる。そこは情報処理室──学園のデータベースへアクセス可能な、唯一の場所だ。

 扉に触れた瞬間、違和感が走る。鍵は既に外れていた。

 ラスティは何事もないように扉を押し開ける。中には、一人の生徒が振り返った。

 

「......こんな所で独り、何をしている? 今はどの学年もクラス代表対抗戦の最中のはずだが」

「あ、えっと......あはは......鍵が空いてたから、ちょっと暇つぶしに......」

「なるほど。暇つぶしか。てっきり私と同じ理由でここに来たものだと思っていたが......」

 

 ラスティは淡々と答え、背を向ける。しかし、彼の目は背後の微細な動きを捉えていた。

 生徒の呼吸が一瞬乱れる。彼女の指先が机の影で蠢く。

 

「......まさかアンタもだったとはな」

 

 声色が低く変わる。低く唸る様な声色で、あからさまに敵対心を剥き出しにしているのが容易に判断出来た。

 彼女は本性見たりと言いたげに嬉々としてラスティへと自分の考えを述べ、目を細めて告げる。

 

「最初から怪しいと思ってたぜ。ISを動かせる男が二人も同時に現れる訳ねぇ......だから問う。アンタはどこの所属だ?」

「何を言っている? 私はただ迷ってここに来ただけだ」

 

 ラスティは揺るがぬ声で言う。目の前の少女は呆気に取られた様で目を見開いた。

 

「君も迷ってここに来たのかと思ったが......どうやら違うらしいな」

 

 口元に僅かな笑みを刻みながら、彼は確信した。

 

 ──正体を隠した“ネズミ”は、目の前にいると。

 

 ラスティは侵入者の僅かな癖を見逃さなかった。肩先の小さな緊張、視線がふっと上辺に泳いだ瞬間、指先の動きが一拍遅れる。

 その僅かな「間」が、相手がISの起動に入る直前の徴候だと、長年の戦場勘が確信させた。

 

 ......来る......

 

 言葉には出さず、掌の中で拳銃の感触を確かめる。だが銃では間に合わない。相手が完全にISに包まれてしまえば、通常弾は通じない。

 ここで必要なのは『速度』と『ISに対する抑止力』だ。ラスティは振り返りながらISを部分展開する。

 瞬時に四肢を鋼鉄に変えて侵入者へと肉薄した。

 

「なっ──部分展開!? 速っ──!?」

「遅いッ!」

 

 驚く少女の鳩尾へと拳をアッパー気味に捩じ込んだ。くの字に折れる体躯と肺の中の酸素、そして胃液を地面に撒き散らして倒れ伏す。

 

「暫くは動けないだろう。君には、まだまだやって貰いたい事もあるからな。逃げない様に拘束させて貰う」

 

 拡張領域から拘束具を取り出して拘束。そして少女の専用機らしき物を回収する。少女は口を噤み、痛みで僅かに唸るだけ。

 応援を呼ぶと五分もしないうちに千冬と数名の教師が加勢に来た。彼女は現場を一瞥すると、低い声で状況確認を始め、そんな彼女へラスティは手短に報告した。

 

「侵入者を確保した。狙いはこの学園のデータだ。検査と尋問は頼む。致命傷は与えていない」

 

 千冬は無言で頷き、現場の指揮を引き継いだ。教師チームは迅速に防護線を張り、校内の監視カメラログを確認し始める。

 ラスティは相手に跪くように相手の顔を覗き込む。少女は親の仇の様に彼を睨み付けている。それに怯む事も無く、淡々と少女へと軽い尋問を始めた。

 

「君はこの学園の生徒として在籍していた。それは間違いないか?」

「誰がバカ正直に答えるかよ」

「では次だ。君にはこの学園に大切な人は居るか?」

 

 彼女は答えない。ただ睨み付ける目が更に鋭くなっただけ。だが彼にはそれで十分だった。

 

「居るんだな。別に揶揄うつもりは無い。このご時世だ、同性愛なんて珍しくもない。それにこんな環境じゃ男を見付ける方が難しいだろうしな」

「アイツに手出してみろ、お前の家族も恋人も全員皆殺しにしてやる!」

 

 ラスティの言葉に吼える少女。彼は悪い笑みを浮かべて答える。

 

「私には家族も恋人も、殺されて困るような間柄の人間は居ない。だがテロ屋風情が何を吐かす。君の要望が通ると思わない事だ。生徒に聞き込めば君の相手はすぐに見付かる。君が素直に尋問に応じるなら相手の無事を考えてやっても良いが、どうする?」

 

 少女にとっては悪魔の様な囁き。組織を裏切る事も、大切な人を裏切る事も出来ない。板挟みにあっている。揺れている今なら付け入る隙があると判断したラスティは最後の質問を投げた。

 

「侵入者は君だけか?」

「私だけだ......今日、私が避難に紛れられる様にアリーナを襲う仲間が居る......頼むから......アイツだけは......」

 

 掠れる様な声で漏らした情報。束の言っていた所属不明機二機。歯車が噛み合う感覚が彼の中で起こる。

 

「しまった......。千冬、後は頼む。私はアリーナに戻る」

「どうしたんだ急に!」

「生徒達が危険だ。教師部隊では歯が立たん」

 

 ラスティは急いで部屋から出ると走ってアリーナへと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 現在。セシリアと鈴の勝負は白熱している。

 セシリアは鈴との戦いの中で確実に成長していた。ぎこちなかったBT兵器とのコンビネーションからは拙さが消え、攻撃の合間に自然と援護射撃を挟み込む。

 かつては射撃一辺倒で逃げる様に間合いを取ることしか出来なかった彼女が今や自ら前線に立ち、青い機体を翻しながら鋭く斬り込んでいる。

 鈴の鋭い振り下ろしに対し、セシリアのブレードがそれを受け止め、重い金属音がアリーナに響き渡る。

 互いのISが火花を散らし、観客席の歓声がさらに熱を帯びた。

 

「随分やるじゃないの、セシリア!」

「ふふっ......お褒めいただき光栄ですわ、鈴さん!」

 

 鈴が左手の剣を高く掲げて振り下ろす。対してセシリアは軽やかに跳び退き、反動で背後に浮かぶBT兵器が照準を定めた。

 四基のBT兵器が同時に青い光を放ち、鈴の死角を狙って一斉にレーザーを放つ。

 

「......っ! やるわね!」

 

 鈴は双天牙月を交差させて推進装置を吹かして急上昇。光線を掠めながら空中で身を翻すと、機体の脚部スラスターを最大出力にして突撃する。

 その速度は雷の様で席からも「速い!」という悲鳴のような声が上がっている。

 しかし、セシリアの瞳には恐れはなかった。

 鈴の動きを読み切るように、BT兵器の一基を彼女自身の正面へと呼び寄せる。

 自動操縦に切り替わったBT兵器が突撃の軌道を遮る。

 

 ......もう逃げませんわ。前にッ!......

 

「読んでいました!」

 

 鈴の突撃がBT兵器に阻まれた瞬間、セシリアは横に滑り込んでブレードを逆手に構えて踏み込みざまに薙ぎ払う。

 甲龍の外装を掠めた刃が、金属を裂く鋭い音を立てた。

 

「ぐっ......っ!? このぉッ!」

 

 鈴は回転しながらカウンターの蹴りを放つ。

 セシリアはそれを喰らい、後退しながらもBT兵器のフォーメーションを再構築する。

 今の彼女は冷静で焦りがない。以前の彼女なら、ここで距離を取りすぎて再び射撃戦に逃げていただろう。だが今は違う。

 

 ──近距離での制圧。それがラスティからの教えだった。

 

 観客席で観戦している一夏が息を呑み、手に汗を握っていた。

 

「セシリアが鈴と互角に渡り合ってる...! 接近戦あんな苦手だったのに......」

「ただ渡り合っているだけじゃない。一手先を読んでいる。あれは“経験”の動きだ」

 

 箒の声は低く、確信を帯びている。友としてでは無く、剣を教えた師としての言葉だ。

 セシリアは再び突っ込んでくる鈴の動きを見て、短く息を吸い込む。

 

 ......敵の動きが見える......

 

 脳裏をかすめたのは、ラスティの言葉だった。

 

 ──敵の攻撃を恐れるな。刃を見ろ。軌道を見ろ。次にどこへ来るかを感じ取るんだ──

 

 彼女はブレードを立てて受け、相手の二撃目、三撃目を連続で受け流す。甲龍の双剣が猛るように唸り、BT兵器が背後から援護する。

 セシリアはあえて攻撃を受け流しながら、隙を探った。

 

「......今ですわ!」

 

 体を捻り、鈴の攻撃を誘導するようにしてかわしたその一瞬。BT兵器が鈴の背後を回り込み、ビームの雨が降り注ぐ。

 爆光が弾け、甲龍の防御障壁が軋む。

 

「やるじゃないの......セシリア!」

「当然ですわ! 伊達にあの人から教わっていませんもの!」

 

 青と紅の閃光が幾度も交錯し、アリーナはまるで戦場のような熱気に包まれていく。

 観客たちは息を呑み、誰もが次の一撃を見逃すまいと目を凝らした。

 

 鈴は一瞬、後退して呼吸を整える。

 セシリアも同じく、機体を制御しながら静かに構え直した。

 互いに汗を滲ませながら、笑う。

 

「......楽しいわね、セシリア」

「ええ、とても。こんなに胸が高鳴る勝負、初めてですわ」

 

 二人は言葉を交わす間もなく、再び地を蹴った。

 青と紅の閃光が交わるたびに、空気が震え、戦場のような轟音がアリーナを満たしていく。

 次の一撃で勝負が決まる。そんな瞬間、その場にいた生徒達を絶望の縁に叩き落とす。

 観客席への被害が出ないようにドーム状に展開されているエネルギーバリアを破壊してアリーナの地面へと高威力のレーザー兵器が彼女達を襲った。

 

 




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