インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─   作:ダブスタ親父

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 寒くなったり温かくなったり、寒暖差で風邪引きそうです。
 皆様もお身体に気をつけてください




汚れ役の務め

 汚れ役の務め

 

 クラス代表対抗戦乱入事件から数日が経過。生徒の大多数からはその時の記憶も薄れ、平穏な日々がもどりつつある。

 そんな中で乱入事件の報告会が行われた。放課後の会議室。窓からはオレンジに染まる空が見え、夕陽が会議室を照らす。

 室内には当事者となったセシリアと鈴、内通者を捕獲し、乱入者の一人を撃退したラスティ、彼女らの担任の千冬、そして学園長の轡木が居た。

 

「それではこれから乱入事件の報告会を始めます。千冬君、頼むよ」

「はい。......先日のクラス代表対抗戦当日。一年一組対二組の試合中、所属不明機が二機、アリーナの防護壁を突破して乱入しました。この二機は教師部隊長のラスティとそれぞれのクラス代表が撃破しています」

「ありがとうございました。今回の件だが、生徒の君達を呼び出したのは事実確認の為だ」

 

 轡木はそう言ってセシリアと鈴へ視線を移す。彼女らは穏やかな表情の中にある鋭さにたじろぎながらも頷いて答えた。

 

「はい、事実ですわ。鈴さんとの試合中、黒いISと銀色のISが突然現れて」

「そして私とセシリアさんが危険な状況になった時、ラスティ先生に助けられました」

 

 二人の証言はカメラに捉えられていた映像と食い違った箇所は無い。それを確認した轡木はゆっくり頷いて彼女らに告げる。

 

「事実確認は以上です。君達の証言と録画されていた映像に食い違いはない。それだけの確認の為に呼び出して申し訳ない。命の危機に晒され、まだ疲れているだろう。ゆっくり休んで下さい」

「はい。失礼します」

「失礼します」

 

 セシリアと鈴が会議室を後にした後、室内には三人の大人だけ神妙な面持ちで微動だにしない。

 扉が閉まる音と共に静寂が落ちる。先程までの公式な空気が、一転して重苦しい沈黙へと変わった。

 

「......で、どう見る?」

 

 最初に口を開いたのは千冬だった。彼女は腕を組んだまま、窓の外の夕焼けを見つめている。

 その瞳の奥には、巨悪を睨む様な鋭い冷たさが滲む。

 

「あくまでも私の推測で良ければ、話をしよう」

「構いません。君の意見を聞きましょう」

 

 ラスティの声は低く、硬い。まるで戦場で報告を上げる兵士のような口調。それに対して迷わず轡木は答える。

 

「......とある人物の元で仕事をしていた時、変な噂話を聞いた。亡国機業と呼ばれる秘密結社が居ると。その組織は裏の世界で暗躍し、この世界に混沌を齎す事を望んでいると」

「それと今回の事に何の関係があると言うんだ?」

 

 千冬が眉を顰める。馬鹿な与太話を真に受けるなと言いたげな眼差しをしているが、彼女へ首を振って確証を得た事を告げた。

 

「今回の乱入事件に乗じてこの学園の機密データを盗み出そうとした生徒......ダリル・ケイシーだったな。彼女をまだ覚えているだろう? あの生徒は私に対してどこの所属だと聴いたんだ。つまり、何かしらの組織に所属して命令を受け、機密データを盗み出そうとしていた訳だ」

「という事は亡国機業に所属しているからあの特殊なISも用意出来た......という事か?」

 

 千冬の言葉にラスティは頷いて言葉を続ける。

 

「そういう事だろうな。あのISは前にも話した通り、人間を生体部品扱いしている。そんなもの、仮に法外行為を行える一国の特殊部隊だとしても採用はしない。残された可能性はただのテロ屋だけ、しかも金を持った組織に限られる。後はまぁ......勘だな。拷問でも出来れば一日で全て吐かせられるんだが......」

 

 ラスティはうんざりした様子を見せるが、その瞳には怒りが滲んでいる。そんな彼に対して、今まで静観していた轡木が問い掛ける。

 

「......一日あれば情報を得られますか?」

「はい。拷問に掛ければ一日で吐くでしょう」

「......テロリストとは言え、生徒に拷問行為は流石に気が引けますね」

「心中お察しします。ですが、ここで後手に回れば更なる被害に合うのは何も知らずにこの学園に在籍している生徒達です。それだけは避けなければなりません」

 

 ラスティの提言に轡木は重く長い溜め息を吐いて天井を仰いだ。

 

「ラスティ君。これから私の言う事はただの独り言です」

「はい」

「大事なのはこの学園に在籍している生徒の安全。その為ならば最小限の犠牲は厭わない。それにこの学園はこの世界で唯一、治外法権が認められている場所。これから君がやろうとしている事は罪にはならない。自白剤はありませんが、意識を混濁させる効果を持つ麻酔は医務室に置いてあります。もし使用するのであれば、どうぞ」

 

 轡木の長い独り言にラスティはその場で踵を返し、背中越しに彼へ答えた。

 

「では、私も独り言を一つ......。賢明な判断かと思います。大事なのは生徒が命の危機に怯える事無く、笑顔で暮らせる事ですから」

 

 ラスティはそう言い残して会議室を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 学園の喧騒が静まり返る夜。

 ラスティは照明の殆どを落とされた地下格納庫を歩く。コツコツとブーツの音が硬質な床に低く響いた。

 普段は使われることのない隔離区画──そこに例の内通者が拘束されている。

 鎖に繋がれ、椅子に縛り付けられた姿は最早『生徒』とは呼び難い。

 虚ろな瞳、焦点の合わない呼吸。最低限の点滴のみで栄養を補給していた様で、肉が落ち、痩せこけている。風呂にも入れていない事を臭いで察した。

 

「やぁ、元気かな。ダリル・ケイシー」

「───────」

「話す元気も無いか? それとも話すつもりが無いのか?」

 

 他愛ない話をしながらラスティは投光器のスイッチを入れて明かりを点ける。暗闇で慣れていた目にいきなりの光が入った事でダリルは思わず目を瞑った。

 

「なんだ、まだ目を瞑るだけの力は残っているのか。君は亡国機業のエージェントだ。違うか?」

「───────」

 

 彼女はフルフルと小さく首を横に振る。ラスティはやはりダメかと半ば諦めた様子で肩を竦めながら、プロテクター入りのタクティカルグローブを嵌めて彼女へ向き直す。

 

「さっさと答えれば痛みはすぐに終わる。その後の君の待遇も約束しよう。改めて聞こう。────君は亡国機業のエージェントだ。違うか?」

「...........違う」

「────残念だ」

 

 思い切りダリルの右頬を殴り付けた。ゴシャッと肉を叩いた鈍い音が倉庫に響く。あまりの衝撃に彼女は椅子ごと地面に倒れるが、ラスティは淡々と髪の毛を掴んで立ち上がらせると拷問を続ける。

 

「さて、引き続き同じ質問だ。君は亡国機業のエージェントだ。違うか?」

「...........誰が...........言うかよ」

 

 せめてもの反抗でダリルはラスティへ口の中に溜まった血を吐き捨てる。予想通りの反応につまらないと言いたげな気怠い表情のまま、左頬に続けて拳を叩き込むと、彼女は喀血と共に嗚咽を漏らした。

 血の匂いが密室に漂い始める。もう一度言葉を投げ掛ける為にラスティは一歩下がり、冷たい瞳で彼女を見下ろしたままゆっくりと息を吐く。

 

「さっさと答えるのが君の為だ。このまま拷問を続けてもお互い面白く無いだろう? 私は一方的に動けない人間を甚振る趣味は無い。君がさっさと答えてしまえばそれで終わりなんだよ」

「...........だぁかぁらぁ......言うわけねぇだろ、バァーカ」

「────残念だ。さっさと吐けばその成端な顔が歪む事は無いと言うのにな......」

 

 無慈悲に拳を振り続け、鈍い音と鮮血が飛び散る。最初は短い呻き声が漏れて居たが、十発を超えた頃にはその呻き声すら聞こえなくなった。

 気絶すればバケツに入れた水を頭から被せて無理やり起こし、殴打を続ける。肉が避け、歯が飛ぶ。先程よりも濃くなった血の匂いを漂わせた後でラスティは殴打を止める。

 

「さて、話す気になったか? いい加減強がるのは辞めろ。亡国機業からしても君は完全な捨て駒だ。君をそんな扱いする奴らの為に通す義理は無いだろう?」

「同じ立場なら...........アンタは吐くのかよ...........」

 

 ......やはり強情だな。忠義心は大したものだ。全く...慣れない事をあまりさせないでくれよ......

 

「参考になるか分からないが、私が君の立場ならさっさと吐く。君の立場はただの捨て駒。残念だが、君が強情になった所で君の味方は助けには来ない。このまま私に殴殺される前にちゃっちゃと吐いた方が身の為さ」

 

 内心で嫌になりながらもそれを表に出さず、ラスティは血まみれのタクティカルグローブを新品のものに取り替えて告げる。

 

「もう元に戻るか分からないが、これ以上自分の顔を変形させたくはないだろう? 本当ならばもっと惨いやり方は幾らでもあったんだが......残念な事に器具が無くてね」

 

 そう言って頭部が動かない様に髪を掴み、殴打を続ける。新品に取り替えたはずのタクティカルグローブは既に鮮血で染まっていた。

 ボロボロになった彼女の頭を水の入ったバケツに無理やり押し込んで水責めをして意識を朦朧とさせる。

 

「................吐けば命は保証されるのか?」

「あぁ。新しい身分も用意する。全くの別人として生き直すと良い。要望があれば君の恋人も連れて行って構わない。但し、君らのISはこの学園に置いていって貰う。それでも構わなければ保証しよう」

 

 ラスティは目の前で血まみれになった少女がやっと揺らぎ始めた事に溜め息を吐いた。彼の思った通り、目の前の少女はポロポロと涙を流しながら自分の組織の事を話し始める。

 

「そうだ......アタシは亡国機業のエージェント...........亡国機業の目的は、この世界をあるべき姿に戻す事......だそうだ。メンバーはアタシ含めて四人。なぁ、もう良いだろ? これだけ話したんだから!」

「まだだ。君達亡国機業のパトロンは誰だ。ただのテロ屋風情が高性能なISを手に入れられる訳が無い」

「......知らない。アタシはただの実行部隊の人間だ。金の動きなんて知らねぇよ」

 

 それが嘘では無い事をラスティは理解した。死を覚悟した人間はペラペラと何でも話す。ラスティは過去にそういった人間を見てきたからこそ分かる。

 

「まぁ......そうだろうな。では、さようならだ......」

 

 ラスティはテーザー銃で彼女を気絶させた。千冬と医療班を呼び出して治療の為に回収させる。

 

「済まない。彼女の治療後、新しい身分とライセンスを頼む。約束してしまったからな、反故には出来ない」

 

 ラスティは医療班の一人にそれだけ告げる。

 その際、凄惨な現場を見た医療班の何人かは気分が悪そうにしており、長居したくない一心でそそくさと回収して去っていく。

 残されたラスティと千冬は向かい合った。

 

「こんなやり方認められないな......」

「だが情報は得た。やはり彼女は亡国機業のエージェントだった。手間は掛かったが無駄にはならなそうだ」

「それならば良いが......これが知られれば生徒達からの信頼は地に落ちるだろうな」

「......分かっている。けれど、綺麗事だけでは誰かが死ぬ。亡国機業という得体の知れない組織が動くのなら尚更さ」

 

 ラスティはグローブを捨て、投光器のスイッチを切ってその場を去る。千冬も彼の後を追って、倉庫を後にした。

 




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