インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─ 作:ダブスタ親父
少々、仕事等が立て込んでおりまして、やっと一段落着いたので投稿いたします。
それでは、どうぞ!
最大の誤算
「──来い」
ラウラは挑発する様に手招きしながら吐き捨てる。
直後、間合いを測る素振りすら見せずに肩部のレールガンを放ち、轟音が鳴り響いた。
空気を引き裂く衝撃と共に、レールガンの閃光がアリーナを貫く。
警告も、牽制もない。最初から仕留める気の一撃だった。
「──っ!」
だが、その一撃は直撃しなかった。
二人は楽々回避し、セシリアはブルー・ティアーズを展開。ラウラを取り囲み、逃さない鳥籠と化す。同時に鈴が間合いへ踏み込んだ。
......囲まれたか。だが、それだけだ......
ラウラは内心でそう判断した。しかし、その一瞬の油断にも似た判断が後々、彼女を後悔させる事になる。
セシリアのブルー・ティアーズによるレーザーによる鳥籠はまさに曲芸だ。ラウラが回避出来るギリギリの隙間を作りながらも鳥籠から逃がさない様に退路を断つ。ラスティとの訓練で身に付けた効率的な位置取りと射線取りが彼女の技量を数段上に押し上げている。
「鈴さん!」
「言われなくても!」
セシリアの合図に反発しながらも鈴は彼女が空けた隙間から更に鳥籠の奥へと入り込み、ラウラの横から襲いかかる。
双天牙月の横薙ぎをギリギリで回避したラウラは焦りが目に見え始めた。
......連携だと!? だが即席の筈だ。こんな所で負ける訳にはいかん......
ラウラは悔しさから歯噛みする。
相対している二人は互いの位置も射線も、最初から理解しているかの様に見えていた。
その
啀み合っている二人は互いに戦いの中で高め合ったのだ。今更言葉にしなくとも、相手の考えは手に取る様に理解出来る様になっていた。
「......ならばッ!」
ラウラの機体が加速する。だが、その瞬間すら読まれていた。鈴は先回りして鳥籠の出口で待っていた。
「焦って強引に鳥籠から逃げようとする。アンタ、強さに拘る癖に思考が単純過ぎ」
鈴は好戦的に笑いながらラウラへと告げると双天牙月で袈裟に斬る。
モロに攻撃を食らったラウラは体勢を崩し、ブルー・ティアーズの餌食となり、四方八方から放たれるレーザーに貫かれた────
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彼女達の私闘が始まる前に遡る。
ラスティ達は職員室で報告書の作成を進めていた。
「......そろそろだな」
「何がだ。また意味深な事を言って抜け出す気か?」
隣の千冬が睨みを利かせる。
だがラスティは臆する事もなく、淡々と答えた。
「恐らくボーデヴィッヒが専用機持ちに喧嘩を吹っ掛ける頃だろう。一夏は補習中、デュノアもそれに付き添っている。とすれば、残る二人に対してだな」
「ラウラが......? いや、流石にそこまで愚かだとは思いたくないが......」
「いや、違う。アレは証明したいのさ」
一拍置いて、ラスティは言い切った。
「君の理論を。最強が最強たる所以をな」
その言葉に、千冬は返す言葉を失ってしまう。
まるでそれを裏付けるかのように、廊下の向こうから騒がしい声が届いた。
「アリーナでオルコットさんと凰さんがボーデヴィッヒさんと模擬戦してるって!」
「行こ行こ!」
静かな職員室に木霊するその声にラスティはペンを置いて立ち上がる。
「さて、私達も行くとしよう」
「......あぁ。こんな馬鹿な真似は止めなくてはな」
ラスティの後を追い、千冬もアリーナへと向かった。
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ラスティと千冬がアリーナに到着した時には既に勝敗は決していた。
ラウラ・ボーデヴィッヒの機体は空中で姿勢を崩し、ブルー・ティアーズのレーザーが四方から迫っている。
彼女は回避行動を取っている。だが、表情には明らか余裕は無い。攻撃の選択肢も、退路も、その尽くが潰されていた。
「──そこまでだ!」
千冬の声がアリーナに響くのと同時に、ラスティはスティール・ヘイズを纏い、彼女らの元へと駆ける。
次の瞬間、放たれたブルーティアーズのレーザーを
「これが君達の言う共闘という事か。......例え喧嘩を売ったのがボーデヴィッヒからで彼女が二人纏めて来いと挑発して来たとして、君達はそれに乗る程愚かでは無い筈だ」
「......」
「......」
鈴とセシリアはラスティの剣幕に押され、言葉を失いながら武装を解除する。
ラウラはその場で機体を停止させ、荒い呼吸を整えながら二人を睨みつけていた。だが、そこに先ほどまでの勢いは無い。
ラスティはラウラの姿を一瞥し、静かに告げる。
「模擬戦とは名ばかりだな。これは完全な私闘だ」
「......」
ラウラは何も答えない。
拳を強く握りしめ、歯を食いしばったまま俯いている。
負けた。それも、はっきりと実力差を叩きつけられた。力でねじ伏せたつもりだった。だが実際にねじ伏せられたのは自分。
自分は最強だ。そう信じて疑わなかった。それが崩れた今、言葉に出来るものなど何も無い。
ラウラは顔を上げる事なく、その場を離れようとした。
「待て」
千冬の声が背中に掛かる。
ラウラは一瞬だけ足を止めたが、振り返らない。
「今後、訓練であろうと私闘は禁止だ。理由は言うまでもないな」
「......了解しました、教官」
感情の抜け落ちた返答。
それだけを残し、ラウラはアリーナを後にした。
その背中を見送りながら、ラスティは小さく息を吐く。
「君達もこれから先、一切の私闘は禁止だ。模擬戦を行うなら必ず仲裁に入る第三者がいる場で行う様にな」
「はい......」
鈴やセシリアの答えを聞いたラスティは二人を解放し、去っていく背中を見送る。
その後、ラスティは誰も居なくなったアリーナで千冬に告げた。
「大変なのはここからだな......」
「あぁ......」
千冬は短く答え、視線を落とす。
力を信じ、力に裏切られた者は、必ず次に何かを求める。
それが成長か、破壊か──まだ分からない。
ただ一つ確かなのは、この学園に吹き始めた風が、もう止まらないという事だけだった。
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夜。学園の外周を黙々と走る人影が一つ。
ラウラ・ボーデヴィッヒは独り、今日のあの対戦を反芻しながらランニングに勤しんでいた。
......何故負けた。実力は私の方が上の筈だ......
放課後の模擬戦とは名ばかりの私闘を思い出してシュミレーションを始める。
放課後とは違う戦術を行使しても、奥の手のAICを使用しても勝利という結果へ辿り着く事は無い。
走る足を止め、地面を睨み付けた。
「何故だ......」
連携、位置取り、呼吸────
それは力ではない。だが、確実にあの二人は自分を上回っていた。その事実全てが苛立ちに変わっていく。
「何故だッ! 何故勝てないッ! 実力では勝っている筈なのに!」
荒れに荒れ、近くに転がっていた石を蹴飛ばして、怒りを霧散させる。
その時、彼女へと缶コーヒーが宙を舞う。それを察知したラウラは受け止めて投げた人物へ目線を向けた。
「荒れているな、ボーデヴィッヒ」
「......何故ここに貴様が居る。ラスティ」
「教師なんだがね、私は。......まぁ、良い。少し付き合って貰おう」
呆れ気味に肩を竦めたラスティは指でラウラに着いてくるように指示して近くのベンチへ座る。しかしラウラは警戒を解かずに隣に座る事無く、反対側のベンチに腰掛けた。
「何の用だ」
「何も。ただ、荒れているなと思ったから肩の荷を下ろしてやろうと思ってな」
「余計なお世話だ」
淡々と苛立ち隠さずに言葉を返すラウラ。そんなラウラに大きく溜め息を吐いてコーヒーを啜る。
「......千冬から聞いた。君が軍では落ちこぼれだった事、そこで千冬に救われ、今の立場に上り詰めたという事を」
「ッ......」
「文句なら千冬に言え。私は問い質した訳じゃない。彼女が自ら私に話したんだ」
怒りを顕に立ち上がろうとしたラウラを手で制して真実を告げるラスティ。それを聞いた彼女は行き場の無い怒りを舌打ちという形で逃がしてから彼の話を黙って聞く。
「君が力に執着するのは当時の自分が原因では無いか、と。千冬は迷っていた」
「教官が...? そんな筈が......あの方はそんな事で迷う訳が......」
「彼女も人間だ。迷うさ」
真剣な眼差しでラウラへと告げる。彼女は未だに信じられないと言いたげな表情をしていた。
「力はあくまでも力だ。そこに信念が無ければただの暴力になる」
「それは弱者の思想。圧倒的な力は信念が無くとも正義だ」
彼女の言葉を聞いたラスティは理解が出来ないと首を傾げて問い直す。
「変な話だな。君は負けただろう? あの二人に。......君の理論で行けば、君は悪になるな」
「貴様ッ......」
「胸糞悪いだろうな、苛立つだろう。......私も同じ気持ちだよ。君の様な井の中の蛙を見ていると腹が立つ。何も知らない小娘が何を仰々しく語るかと思っていれば、信念が無くても圧倒的な力が正義だなんて馬鹿らしい」
彼女の様な誰彼構わず刺すような苛立ちでは無い。押し潰す様な圧を放ちながら、極めて冷静に普段通りに語る。
「例えばだが......今、私が君を殺したとしよう。それは正義か?」
「それは......」
「君に暴行を加えたとしても同じさ。どちらもただの人殺しと暴力だ。そこに正義なんて物は無い。その時点で君の理論は破綻している」
「貴様ぁッ!」
いよいよ我慢ならなくなったラウラがラスティへとISを部分展開し、レーザーブレードを突き立てようと迫った。
狙われているラスティは淡々とコーヒーを飲み干して、つまらなさそうに呟く。
「......だから井の中の蛙なんだ、君は」
彼女の刃が届くより、ラスティの方が部分展開が早い。プラズマ手刀を弾き、彼女を地面に押し倒して拘束。
顔に苦悶が滲むラウラにただ事実だけを語る。
「私が非武装だからISで攻撃して黙らせようという魂胆だったんだろうが当てが外れたな」
「くっ......」
「そうやって自分の気に食わないヤツは全て敵だ、自分を認めない人間は攻撃して黙らせようという考えはやがて身を滅ぼす」
ラスティの言葉に対してぽつりぽつりと言葉を零す。
「......ならば私はどうすれば良かったと言うんだ」
今まで彼女が心の奥底に抱え続けていた思いが溢れる。
「弱くあれば良かったのか? 落ちこぼれの私には何も無かった。私を蔑んだヤツらを見返す為の力が欲しかっただけなのに......貴様はまた力を持たない落ちこぼれになれと、そう言うのか...?」
ラスティは彼女の拘束を解き、彼女の言葉を否定して告げた。
「違うさ。力を捨てる必要は無い。今の君は力に振り回されている。強ければ良い、勝ちさえすれば良い、とね。それでは足りない。力というものは本来は水だ。そこに意味と言う器を与えて初めて真価を発揮する。君はこれから意味と言う器を探すんだ」
「器だと......?」
ラウラは拳を握り締める。
「意味など後から付ければ良い。力があれば勝てる。力があれば認められる。力があれば──」
そこで彼女の言葉が止まる。落ちこぼれだと馬鹿にされた過去。認められなかった日々。
ラスティは静かに続ける。
「ならば問おう。今日の戦いで、君は何を果たせた?」
沈黙。
「何を証明した?」
何も、出てこない。
そしてラスティは歩み寄る。
「力は否定しない。君の努力も否定しない。だがな、ボーデヴィッヒ。強さとは、誰かと並び立てることだ。上から踏みつけることではない」
ラウラは俯いたまま、低く吐き出す。
「......私は、私には並ぶことなど許されなかった」
その声は怒りではない。悔恨でもない。ただ事実を述べるような、乾いた響きだった。
「教官には常に上に立てと言われた。負ければ価値は無いと教えられた。だから私は......勝ち続けるしかなかった」
ラスティは即答しない。数歩の距離を保ったまま、静かに言う。
「それは君の選んだ道ではないな」
ラウラの肩が僅かに揺れる。
「だがこれからは違う。誰かの価値観ではなく、自分の価値観で意味を探せ」
「......意味」
「力を振るう理由だ。守る為か、支える為か、並び立つ為か。君が自分で決めろ」
沈黙が落ちる。
やがてラウラは顔を上げた。その瞳にはまだ迷いがある。だが先程までの尖った殺気は消えていた。
「......分からない」
初めての、弱音だった。
ラスティは僅かに口元を緩める。
「分からなくていいさ。分からないと認められたなら、それが最初の一歩だ」
ラウラは何も答えない。ただ拳を開き、そして静かに握り直す。
だがその握りは、先程までのものとは違う。叩き潰す為ではなく、新たな意味がそこには産まれていた。
ありがとうございました。
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