インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─ 作:ダブスタ親父
私、少々バイクで事故ってしまいまして、もう完全な自爆で相手も居なければ、何かを壊したと言う訳でもないんですが、入院しておりましてその間何も出来ませんでした。
今後はそうならない様に気を付けます。
答えはここに。
蒼いIS──ラスティが降り立つ。暴走するISに『恐怖』という感情が渦巻く中で、その場に降り立っただけで消し去った。
『この男ならば解決してくれる』という安堵の空気が流れ始める。
ラスティを見たラウラの足が止まる。警戒していた。目の前に現れた男が自分と同等かそれ以上の実力者であるとラウラを介して動くVTシステムが判断した。
「......訓練機で良くあのラウラとやり合えたな、良くやった。だが、これ以上は君の命を危険に晒す行為だ。それは私のクライアントの意向に背く事になるんでな、撤退してくれ」
彼は箒を安心させる様に言葉を掛ける。彼女は何も言わず、歯を食いしばりながら後退した。
ラスティが一歩前へ出る。
「......ボーデヴィッヒ。それが君の求めた力の答えか?」
ラウラは応えない。代わりに一歩踏み込んだ。
その一歩が二人の間合いの境界線。お互い無防備にそれ以上は踏み込めない。もし踏み込めば問答無用で殺される。そうお互いに察知していた。
「いや、違うな。私が見ていた君はもっと他者を見ていた。今の君は他者を切り捨てている。それじゃあ、前に逆戻りだ」
殺意を乗せた一撃がラスティを襲う。鬱陶しい減らず口を黙らせると言わんばかりの先制攻撃。
だが──
「──甘い」
最小動作で躱し、
弾かれるラウラは体勢を崩す。だがすぐに立て直し、再度踏み込んでくる。
ラウラは連撃へ切り替える。
だが、ラスティはまるで先を知っていたかのように、その全てを最小限の動きで捌いた。
「......真似ているだけだ、それは」
彼は一歩も動かない。最小限の動きで、全てを捌き切る。
彼女の斬撃が空を裂く。
淡々とした声が響いた。
「それは技術じゃない。模倣だ」
その言葉に、ラウラの動きが乱れる。出力が跳ね上がり、赤い粒子が噴き出す。
VTシステムが、さらに深く彼女を侵食していく様だ。
動きが変わった。速く、鋭く、重い。力任せの連撃が彼を襲う。
しかしラスティは距離を取りながら
だが──
「......限界か」
よく見ればISの隙間から血が滲む。ラスティは小さく息を吐いた。
このままでは、中に囚われているラウラは壊れてしまう、と。
彼ですら決定打を与えられないまま、じわじわと時間だけが過ぎていく。彼もどうしたものかと考えていたその瞬間。
「......やめろ、ラウラ!!」
割り込む声。その声の正体は一夏だった。
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時は一夏とシャルルがピットに戻った時に遡る。二人は消費したISのエネルギーを補給しながらどうやってラウラを救い出すかを考えていた。
「なんとかしてラウラを止めないと」
「でもどうするの? VTシステムはモンド・グロッソで名を残した英傑達の動きを再現する。私達じゃ手も足も出ないよ。箒が何とか渡り合ってるのは今は織斑先生の動きだけを再現してるから。他の動きを織り交ぜ始めたら勝ち目は......」
焦る一夏とは対照的に現実を直視しつつ、どうするかを考えるシャルル。そんな彼の言葉も理解しつつ、一夏はそれでも納得は出来ない様子を見せる。
「でもこのままじゃラウラの命に関わるだろ」
「そうだね......」
今後の動きを模索する二人の元にラスティが急いでやってきた。
「二人共無事か?」
「ラスティ先生! ラウラを助けないと!」
「分かっている。とりあえず今は殿を務めている篠ノ之を助ける方が先だ。二人はそのまま補給を続けておけ」
スティール・ヘイズを纏い、出撃しようとした所を一夏が止める。
「一刻を争う場面だ、一夏。君も分かっているだろう?」
「俺の作戦でいきたい」
「......手短に」
一夏の真っ直ぐな、だが明らかに無茶な提案に、ラスティは微かに眉を顰めた。
「補給が終わったら俺も出ます。そしたら俺を囮に先生がラウラを救出する。ってのはどうですか」
「......今の彼女は理性を失っている。急激に成長したとは言え、今の君の技量では文字通り肉片にされるぞ」
「分かってます! 痛い目見ることも、下手をすれば死ぬかもしれないことも......でも、目の前であいつが苦しんでるのに、自分が無傷でいられる安全な作戦なんて選べない!」
傷付く覚悟、失敗のリスク、それを全部飲み込んだ上での判断。
その少年の剥き出しの覚悟を見たラスティは、ふっと短く、どこか嬉しそうに息を吐いた。
「──悪くない。君のその『綺麗事』は嫌いじゃないよ、一夏。......だが、囮になるのは私だ。君がボーデヴィッヒを救え」
ラスティは淡々とそれだけ告げて出撃して行った。その場に残された一夏はラスティの言葉に疑いを持つ。
「なんで俺が......実力なら俺より先生のが上なのに......」
「零落白夜なら、ラウラだけを傷付けずに止められるかもしれない。先生はそれに期待してるんだよ」
「そういう事か......ぶっつけ本番だけど、やるしかないな」
一夏は気合を入れ直し、補給が終わるのを待った。
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時は現在に戻る。
大気を震わせて響いた一夏の叫び。
補給を終え、不退転の覚悟を背負って戦場へと舞い戻った少年を見て、ラスティは蒼いカメラアイを微かに明滅させた。
「作戦は簡単だ。私が囮になる。その隙を突いて最大出力の零落白夜でラウラのISを停止させる。そのタイミングは任せた。......行くぞ」
「はい!」
ラスティと一夏は同時に動き出す。ラスティは真正面からラウラと対峙し、今までのスタイルとはうってかわり、自分から攻める。
武装を
「フッ────!」
一瞬の隙を突き、レーザーブレードがラウラのISの左腕を鮮やかに切り落とす。だが、VTシステムは痛覚も恐怖も置き去りにして、即座に右の裏拳をねじ込んできた。
人間としての挙動を完全に無視した、フレームが軋む超変則的なカウンター。
「カハッ!」
ISの耐衝撃吸収を超えた衝撃が襲い、身体がミシミシと嫌な音を立て、肺の中の酸素が強引に吐き出すとラスティは地面を転がり苦悶の表情を浮かべる。
......クソッ...なんだあの挙動は。いよいよVTシステムが人を道具として扱い始めたか......
体を起こそうにも節々が痛む。口の中が血の味で染まる。HUDには各所が破損した事を知らせるアラートが鳴り続けている。特に損傷が激しいのが背部のブースターだ。
右ブースターはカウンターを食らった際に潰れており、使用不可。左も衝撃で歪み、出力が低下している。
現状のベストを最短で導き出したラスティは一夏へと通信で声を掛けた。
「......一夏。一度しか言わない。聞き逃すなよ」
「はい!」
「今の攻撃でスティール・ヘイズは中破している。足止め出来て一分が限界だ。その間に最大出力の零落白夜でラウラのISを停止させろ」
「はい!」
一夏は勢いよく返事をしてラスティが隙を作るのを待つ。
カウントダウンは既に始まっている。
──あと、五十秒。
歪んだ左のブースターから強引にエネルギーを絞り出し、ラスティは爆発的な加速で地を滑る。
左腕を失い、断面から激しい火花と赤い粒子を撒き散らすラウラのISが、獣じみた咆哮と共に迫る。
右腕の一撃──まともに喰らえば、今度こそスティール・ヘイズの装甲ごと肉体がすり潰される。
......だが、ここで逃げ腰になればただ悪戯に残り少ない時間を無駄にするだけだ......
ラスティはあえて前へ踏み込んだ。死線を越え、更にその奥へ。
迫る右拳を、紙一重の制動で右肩の装甲へと受け流す。
金属同士が擦れる嫌な音と共にフレームが悲鳴を上げ、HUDに『深刻なシステム異常』のエラーが赤く狂い咲いた。
「──ここだッ!!」
左腕の
肉を切らせて、骨を断つ。ラスティが己の身を盾にして作り出した、一分間の内の、たった一秒の『絶対的な隙』。
「やれ、一夏ッ!」
通信の向こうで、一夏の咆哮が轟く。
「おおおおおおおおおッッ!!!」
背後から飛び出すのは、白き一閃。
その手には、眩いばかりのエネルギーの輝きを纏った雪片弐型が握られていた。
一夏は叫びと共に肉薄する。
「これで───止まれッ!!」
最大出力の斬撃が、ラウラのISの胸元へと突き立てられた。
瞬間、爆音ではなく、完全な『静寂』が戦場を支配する。
零落白夜のエネルギー無効化攻撃が、VTシステムのドス黒い出力を根こそぎ奪い去る。
ラウラのISから赤い粒子が霧散し、パチパチと火花を散らしながら、その機能が完全に停止した。
ゆっくりと、ラウラの身体が倒れ込む。それを、一夏は両腕でしっかりと受け止めた。
「......やった、んだよな?」
息を荒くする一夏の視線の先。
機能を停止したラウラのISの向こうで、両脚のフレームを軋ませながらも、蒼いIS──スティール・ヘイズが、静かに地面に座り込んだ。
黒煙を上げる機体。だが、その蒼いカメラアイは、静かに、そして誇らしげに明滅している。
「......よくやった一夏。君の手柄だな」
ラウラを抱き留めた一夏の姿を見届けると、アリーナを包んでいた張り詰めた空気が一気にほどけた。
「......終わった」
誰かがそう呟いたのを切っ掛けに、観客席から安堵の息が漏れる。
モニター越しに戦況を見守っていた教師達も肩の力を抜き、生徒達もようやく息を吐いた。
「助かった......」
「本当に止めたんだ......」
歓声ではない。
心の底から零れ落ちた安堵だった。
だが、その中心にいたラスティだけは違う。
黒煙を上げるスティール・ヘイズをパージしたラスティは小さく咳き込む。
「......ゴホッ」
口元を押さえた手袋に、赤黒い血が滲んだ。
「......やはり無理が祟ったみたいだな」
誰にも聞こえないよう小さく呟き、静かに通信を切った。
通信機越しに聞こえるラスティの声は、どこまでも淡々と、だが確かな信頼に満ちていた。
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白い天井。鼻を突く消毒液の匂い。
学園の医務室のベッドの上で、ラウラ・ボーデヴィッヒはゆっくりと意識を取り戻した。
暴走の反動による筋肉の強張りと、鈍い頭痛。だがそれ以上に、彼女の心を支配していたのは、圧倒的な『敗北感』と『虚無』だった。
織斑千冬の影を追い、最強の力を求め、歪んだシステムに魂まで売り渡した。その結果がこれだ。
「......目が覚めたか」
カーテンの向こうから、聞き覚えのある声がした。
見れば、隣のベッドには痛々しい包帯を巻き、ジャケットを肩から掛けたラスティが居た。
スティール・ヘイズが中破するほどの衝撃をほぼダイレクトに受けた。その身体から痛みが引く訳も無く、医務室へと連れてこられていた。
「......なぜ、私を助けた」
ラウラは掠れた声で、絞り出すように問う。その瞳には、まだ世界への拒絶と、自分自身の存在価値を見失った絶望が燻っていた。
「私は何も持っていない」
ラウラは力なく笑った。
「教官の背中だけを見て生きてきた。教官のようになれれば、自分にも価値があると思っていた」
拳が震える。
「だが届かなかった。VTシステムを手に入れても届かなかった」
悔しさで涙が滲む。
「借り物の力で最強を名乗ろうとした私には、結局何も残らなかった」
ゆっくりと目を閉じる。
「私は......空っぽだ。そんな私には教官の模倣しか出来なかった。自分自身の力など何もない、出来損ないの、無価値な道具だ。そんな私のために、なぜお前も、織斑一夏も、命を懸けて割に合わない痛い目を見る?」
社会は結果が全て。役に立たない道具は排斥され、捨てられる。それが彼女の知る世界の
そんなラウラの絶望的な問いかけに、ラスティはただ、やれやれと肩をすくめて見せた。その表情には、綺麗事を嫌うリアリストらしい、少し擦れた苦笑が浮かんでいる。
「勘違いしないでくれよ、ボーデヴィッヒ。私は君達に烏滸がましい理想論や気持ちの悪い綺麗事を並べ立てるつもりは毛頭ない。世の中そんなに甘くない事くらい、私だって嫌というほど知っているんでな」
「......なら、なぜだ」
「言ったろう。私は君達の『教師』だとね。......自分の生徒が目の前でシステムに呑まれ、命の危機に瀕している。それを放っておけるほど、私は不真面目な教育者じゃない。それに直接君を助けたのは一夏だ。私は手助けしたに過ぎない」
ラウラは息を呑む。
この男は、自分を『憐れな子供』として同情したわけでも『正しさ』を振り翳す訳でも無い。
ただ、自分の選んだ『教師』という立場に対して責任を持って、極めて個人的で、ドライなスタンスを貫いただけだった。
「君が自分の力を無価値だと言うなら、それでもいいさ。模倣から始まる道だってある」
ラスティはベッドから立ち上がる。
痛む体に顔を顰める。外傷よりも内側のダメージの方が酷く、彼が咳き込んだ際に血が滲んでいるのをラウラは見逃さなかった。
「前にも言ったと思うが、力は所詮力だ。そこに意味という器を与えて初めて真価を発揮する」
コツ、と静かに医務室を出ていこうとするラスティの足音を聞きながら、ラウラはそっと自分の掌を見つめた。
最強という結果を求めて、他人を切り捨てて、一体何が残ったというのか。
脳裏に浮かぶのは、ボロボロになりながら自分を囮にして繋いでくれた大人の背中。そして、泥臭い綺麗事を叫びながら、自分を傷つけずに救うために最大出力の刃を振るった少年の姿。
ラウラの出した答えは、ひどく簡単で、そしてあまりにも明快だった。
「待て。......せめて答え位聞いて言ったらどうだ」
ラスティは背中に投げ掛けられた言葉を聞いて足を止める。振り返りながら言葉を返した。
「ほぅ。答えが出たのか」
「あぁ。助け出された時、出た気がした」
「聞こう」
ラウラの凛とした声でハッキリと宣言する様に告げた。
「私は、私と共に苦楽を歩んでくれる友の為に力を振るう」
織斑千冬の影の中じゃない。歪んだシステムの中ですらない。
この学園で、擦れた大人が自分を人として扱い、導いてくれたからこそ、自らの意志で見つけ出すことができた本物の『答え』。
──答えは既にここにあった。ただ、目を背けていただけだった。
ラウラの目から溢れた涙は、白いシーツに吸い込まれていく。
しかしその瞳には、絶望の代わりに、これから友と共に歩む新しい『道のり』への、小さくも確かな光が宿っていた。
「......それでいい」
ラスティは静かに頷く。
「答えは誰かから与えられるものじゃない。自分で見付けたからこそ意味がある」
ラウラを見る。
「ようやく君自身の力になった。その意味を忘れるなよ。君はこれから、更に強くなる」
満足そうに医務室から出ていこうとするラスティは再度足を止める。
「ボーデヴィッヒ」
「なんだ」
「次は真似事じゃなく、君自身で私に挑むといい」
「その時は私も本気で相手をしよう」
「......あぁ」
短い返事だった。
それでも、その声には暴走前には無かった確かな意志が宿っていた。
ラスティはそれ以上何も言わず医務室を後にする。
静寂だけが残った部屋で、ラウラはそっと目元を拭う。
「......ありがとう」
その言葉を聞く者は、もう誰もいなかった。
医務室の扉が閉まり、少し歩いた所でラスティは壁に手を付いてしゃがみこむ。
「......っ」
堪えていた咳が込み上げる。
「ゴホッ......ゴホッ!」
口元を押さえていた掌に滲む赤い血。
「教師というのも......割に合わない仕事だ」
苦笑を漏らしながら血を拭い、何事もなかったかのように歩き出した。
ありがとうございました。
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