インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─   作:ダブスタ親父

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秩序の正当性

 秩序の正当性

 

 乾いた風が砂塵を巻き上げ、空気は乾いて埃っぽい。焼け付く様な陽射しが容赦無く照り付ける。辺りの景色を見渡せば建物の外壁には痛々しい弾痕と崩れた壁の破片が放置されている。

 善良な市民が放棄したと思われる建物のシャッターは歪み、風に吹かれてガシャガシャと耳障りな音を立てていた。

 ラスティは現在、中東イラクのとある街に居た。ISを使用した反政府組織が拠点にしているらしく、街を歩けばどこもかしこも武装した兵士が払い下げの旧モデルのジープを乗り回している。

 

「クロエを連れてこなくて正解だった。彼女が居たら一秒待たずに犯罪に巻き込まれていたな」

 

 街で情報収集をしていたラスティは周囲の状況を見て心の底から本当にそう思う。

 依頼主である束と三日三晩とは言わずともそれに近い間ずっと言い争いをして、クロエを戦場に連れていく事はしないという結論に落ち着いた。

 クロエは束の命令ならばと了承していたものの、当の本人は専用機を作ったのになぁと残念がっていじけた結果、彼女の専用機を解体して別の機体へと組み直し始めた。

 ラスティがこの世界に来る前も戦場を回っていたからこその意見だと彼女も分かっている。だからこそ、クロエは今ここに居ないのだ。

 

「こんなところで余所者とは珍しい」

 

 流れる汗を拭っていると背後からかけられた声に警戒しながらも振り返る。立っていたのはくたびれた迷彩服に身を包み、顔には深い皺が刻まれた男だった。

 朗らかに見える目から鋭い眼光。ラスティの全身を値踏みするように見渡している。片手に握られたAKM自動小銃の存在がこの男は只者ではないことを物語る。

 

「こんなゴミ溜めに来るヤツが観光客じゃない事は確かだな。ここで何をしている?」

 

 男の言葉には敵意というには弱いが、かなり強い警戒の色が滲む。ラスティは努めて平静を装い、ゆっくりと口を開いた。

 

「少し個人的な用事で。そういう貴方もこの街の住民では無さそうだ」

 

 男はニヤリと笑って銃を肩に担いだ。

 

「あぁ。こういう物騒な場所には、色々な目的を持った人間が集まるもんだ。お前さんもその口なんだろ?」

 

 乾いた風が再び砂塵を巻き上げ、二人の間に沈黙が流れる。ラスティは男の出方を窺いながら警戒を緩めることはなかった。

 この焼け付くような陽射しの中でも表情を崩さない。目の前に立つ男は小銃を担いではいるが、引き金に指が掛かっている。少しでも変な動きを見せれば弾丸で蜂の巣にされるだろう。逆に向こうが少しでも攻撃の意思を見せればISでミンチにするつもりでいる。

 そんな言葉を交わさない探り合いの中で男は再び口を開いた。

 

「兄ちゃん、アンタ何か探しているんだろう? この街には、色々な『モノ』がある。金になるものも、そうでないものもな」

 

 ラスティは男の言葉に、僅かに眉を上げた。情報収集の糸口になるかもしれないと思ったからだ。

 束は反政府組織の活動が活発になって来たからこれを殲滅してくれとは言っていたが、その集会がいつ何処で行われているのかは言わなかった。

 だから今、ラスティはこうしてあまり無闇に歩き回りたくない街を歩き回っている。

 

「もし何か知っているなら教えて貰えないか? 謝礼はそれなりの額を用意させよう」

 

 ラスティの言葉に男は顎に生えた無精髭を撫でながら、興味深そうにラスティを見詰めると、落ち着いた様子で言葉を返す。

 

「ほう?どんな『モノ』を探しているんだ?」

 

 ラスティは一瞬躊躇したが腹を括って答えようと思い、胸ポケットから一枚の写真を取り出して問い質す。

 写真はピンボケも良い所で背格好位しか分からない物ではあるが、効果は絶大であった。

 

「ある人物の行方を追っている。名をハサムという。数日前にこの街に来たという情報は掴んでいる」

 

 ラスティが人物の名前を出した瞬間、男の鋭い視線が一層深くラスティに突き刺さる。ほんの一瞬の事だが、ラスティは見逃さない。何か触れたくない物がこの男にはあるのだろうと踏んだ。

 

「人物、ねぇ。それにハサム? そんな名前のヤツなんざ、この国にゃゴマンといるぜ。それにな、兄ちゃん。この街で人が消えるなんて日常茶飯事だ。どういう間柄なのかは知らねぇが、諦めな」

「手掛かりがあれば何でも構わない。どんな些細な事であっても」

 

 男はラスティの言葉にまるで興が冷めたと言わんばかりに地面に唾を吐き捨てると踵を返す。

 

「生憎だが、そんなヤツは知らん。人探しなら諦めてさっさと帰んな」

 

 捨て台詞を吐いて去っていく男の後をラスティは追う。言葉の節々と名前を出した時の反応は何かを知っている。そう判断して追っていくとその結果がすぐに分かった。

 

「やはり裏で繋がっていたか......子供は素直で助かる。ハサムに会いたいなら武器持ったヤツを探せ。向こうから接触して来た時は焦ったが、このままハサムを始末すれば頭を失った組織は瓦解する。そうすれば任務は終わりだ」

 

 自分に接触してきた男が去った後でラスティはハサムの居た部屋へと突入する。彼は後ろを向いており、その頭へと拳銃の銃口を向けて告げた。

 

「動くな。ISを兵器利用し、あまつさえ政府に牙を剥く。貴様を生かしておく理由は無い。死んでもらおうか」

「...........来ると思っていた。貴様は子供は問題ない、と思っていたのだろうが、この街にいる住民全員が私の仲間だ。私の存在を探る者がいると知ってな、話してみたくなったからここへ誘導した」

「話す事なんて無い。テロ屋に交渉はしない。世界共通の常識だろう」

 

 ハサムの言葉にラスティは内心で歯噛みする。まさか住人全てが仲間であるとは思いもしなかった。少なからず関係はあるのだろうと思っていたが仲間まで深い関係であるとは予想出来なかった。

 そんな内心で荒れているラスティを他所にハサムは淡々と言葉を続ける。

 

「君は何故、私を殺しに来た?」

「依頼主からの命令だ。それ以上も以下も無い」

 

 ハサムの言葉にラスティはそこでぶった切る。このまま引き金を引いて終わらせようとした時にハサムは立ち上がり、ラスティの方を向いた。

 顔は布で覆われて目元しか見えず、服装も体格が分からない様な格好で性別の判断が付かない。ISを使われる可能性を頭の片隅に置くラスティ。

 ハサムは一歩、ラスティに近付くと語り出す。

 

「一つだけ教えておいてやろうか。この国は腐敗してるんだよ。政府は金のない国民に価値は無いと思っている。だからこうなる」

「革命家のつもりか? お前のやっている事はただのテロと変わらない」

「ならば貴様はこれを良しとするか? 何の罪も無い子供が飢えて死ぬ事を黙って見過ごせと?」

 

 ハサムの言葉にラスティは何も感じない。理由が何であれ、目の前の飢えた子供の為に他の一般人を巻き込んでいい筈が無い。目の前の男はただ、自分の怒りに正当性を持たせたいだけなのだ。

 それを分かってしまうからこそ、彼は何も感じない。ただの子供の癇癪と何ら変わりが無いから。だからラスティは心底呆れた様子を見せる。

 

「これ以上は無駄だな」

「まだ終わってないのだ! ここで死ぬ訳にはいかない!」

 

 ハサムはそう言って隠し通路から逃げる。逃走用の通路に近付く為にラスティへと近付いていた。動きにくい服装にも関わらず、ラスティから遠ざかっていく。彼は舌打ちして逃げたターゲットを追う。

 建物から出た瞬間、謎のISがラスティを襲った。すんでのところで回避した彼はすかさずスティール・ヘイズを展開し、反撃に打って出た。

 

「ッ!? ISを動かせるのか!」

「何も不思議な事ではないだろう? 何せ女なのだから」

「......宗教上の理由かと思っていたが、まさか身分を隠す為だったとはな。だが関係無い。ただ死んで貰おう」

 

 ブーストを吹かして距離を詰め、キックで体勢を崩してMA-E-211 SAMPU(バーストハンドガン)で射撃。ハサムは堪らず攻撃をわざと受けて距離を取った。

 体勢を立て直す為だろうと判断したラスティはそうはさせまいと後を追う。ラスティとハサムの距離は徐々に縮まっていく。やはり反政府組織が手に入れられる様なISではISの生みの親である篠ノ之束謹製のスティール・ヘイズには太刀打ち出来ないのだ。

 そもそも高速機動による近接戦を得意とするスティール・ヘイズと旧世代のオンボロISとではブースターの出力は天と地の差がある。

 

「追い詰めた。このまま仕留めさせて貰う」

「こんな所で死ぬ訳にはいかぬのだよ!」

 

 ラスティの繰り出すVvc-774LS(レーザースライサー)の軌跡は変幻自在でありながら常にハサムの機体の急所を捉えようとしていた。MA-E-211 SAMPU(バーストハンドガン)による牽制射撃も的確で、ハサムは得意の近接戦闘に持ち込むことすらままならない。

 

「くッ...この、小賢しい!」

 

 ハサムの焦りが嫌という程伝わってくる。その苛立ちに対してラスティの声は冷静さを保っていた。

 

「ハサム、貴様の戦術は単調だ。力任せの突撃ではいずれ限界が来る。それは貴様のやってる事も同じだ。民衆の支持を得られぬ革命など、砂上の楼閣に過ぎん」

「黙れと何度言えばわかる! 貴様のような安穏とした暮らしを送る人間に、この腐りきった政府の何が分かる!」

 

 ハサムの叫びには、抑えきれない怒りと絶望が滲んでいた。かつて抱いた理想は、繰り返される弾圧の中で歪み、憎悪へと変貌していったのだろう。

 ラスティはハサムの言葉の奥にある痛みが分かった様な気がした。しかし、その感情に流されることはなかった。

 

「理解しろとは言わん。だが、暴力では何も生まれない。貴様の革命が成功したとして、その後に待つのは更なる憎悪と報復の連鎖だろう。それで本当に民衆は救われるのか? 今の貴様はただ悪戯に自らの怒りを正当化させたいだけだ!」

 

 言葉と同時に、ラスティは再び攻撃の速度を上げた。MA-E-211 SAMPU(バーストハンドガン)Vvc-703PM(プラズマミサイル)で動きを牽制し、止まった所でVvc-774LS(レーザースライサー)がハサムの装甲を切り裂いた。彼女のIS内部のエネルギーがスパークする。

 回避しようとするハサムの動きは、徐々に精彩を欠き始めていた。

 

 ......まずい…このままでは…!......

 

 ハサムの脳裏には革命に賛同し、共に立ち上がった同志たちの顔が過ぎった。彼らの犠牲を無駄には出来ない。だが、目の前の敵はあまりにも手強い。冷静沈着でありながら、内に秘めた強さは底知れない。

 

「貴様のような男が、なぜ我々と敵対している! 何故政府の犬なんかやっているんだ!」

 

 ハサムは最後の力を振り絞って叫んだ。

 

「貴様ほどの力があれば、私とでは無かったとしてもこの腐敗した世界を変えられた筈だ!」

 

 ラスティはその言葉に一瞬、動きを止めた。その言葉には、ハサムの中にある、怒りよりも更に奥に存在する切実な願いが込められているように感じられたからだ。

 自分もかつては世界の腐敗を無くし、平和を求めた青い正義から戦いに身を投じた。だが今は違う。腐敗は無くならない。青い正義では何も変わらない事を知った。だからこそ、すぐにその感傷を振り払う。

 

「私の戦う理由は貴様とは違う。私は、今の秩序の中にこそ未来への希望があると信じている。貴様のやり方では待っているのは破滅だけだ」

 

 再び戦闘が再開される。しかし、ハサムの抵抗はもはや散発的だった。機体の各部は損傷し、動きは鈍く、攻撃の精度も大きく落ちている。

 ラスティはその抵抗を冷静に見据え、確実に仕留めるための動きを着実に実行していく。

 そして決定的な瞬間が訪れた。ラスティの放った弾丸が、ハサムの機体の制御中枢を正確に撃ち抜いたのだ。

 轟音と共にハサムのISは絶対防御を起動させてパイロットの命を最低限守った後で機能を停止させた。

 

「......まだ......まだ終わってはならない......! 何も変わっていないのだ!」

 

 這いずってラスティから逃げようともがくハサム。スティール・ヘイズを解除して生身に戻ったラスティはゆっくりと彼女の元に歩み寄り、彼女を仰向けに蹴った。

 

「貴様は......満足か...? この世界の腐敗を見過ごして......苦しむ者を見捨てて......満足か?」

「知らん。貴様はただ自分の怒りに正当性を持たせたかっただけだ。これが怒りに身を任せた者の末路だ」

 

 ラスティは最後の最後まで相手の言葉を一蹴して、ハンドガンの引き金を引く。一発の乾いた銃声が響いて、この争いは終わったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ハサムとの争いから2ヶ月程が経過した。ラスティの中からハサムという人物の事がすっかり忘れ去られた頃、束はラスティにいつも通りに任務を与える。

 

「ラスティ。前から少し言及してたと思うけど、君には来月からIS学園の教師に就任して貰うから」

「任務なら断る事はしないか、私は人に教えられる程の学は無い」

「大丈夫、大丈夫。君に適任な科目を割り振るように言っておいたから」

 

 束はそう言ってラスティに自身の仮身分証と担当科目などが記載された資料を手渡す。

 渡された資料にすぐさま目を通したラスティは何点か疑問点を見付けて束へと問い掛ける。

 

「戦術概論? そんな科目があるのか? それに名前......シュヴァルベってどういう事だ? 私に性は無いんだが......」

「だからだよ、ラスティ。今の時代、表で何かをするなら苗字が無いと不便なんだ。不服かもしれないけど、我慢してね」

「あぁ」

 

 ラスティは束の答えに頷きながら自分の顔写真が貼られた身分証を胸ポケットの中に仕舞い、もう一度束へと問い掛けた。

 

「私の任務はなんだ? 学園に行って何をしろと?」

「別に何も。強いて言うなら私の妹、篠ノ之箒の監視及び護衛、かな。学園でのトラブルは君の独断で対処して良いよ。正直、箒ちゃんさえ無事ならば他は特に気にしない」

 

 彼女の無慈悲にも思える言葉にラスティは淡々と頷く。傭兵として雇い主の命令は無視出来ないから。裏切るとしたらそれはもう取り返しのつかない状況になってからだ。彼はそう自分に言い聞かせ「了解」と短く一言添えて部屋から出ていくと自室の荷物を纏めてIS学園へと発った。

 

「IS学園での経験が君の為になる事を祈っているよ、ラスティ」

 

 彼女独りだけとなった部屋は無音に包まれる。そんな中で彼女は既に居ないラスティへと消える様な声音で呟いた。

 




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