夢は天下無敵の大将軍 作:金匙
01:誕生
1年目:春
拙者の名前は光月モモの助。
父上から授かった天下無敵の名に相応しい侍になるため、日々邁進中の若輩(赤子)である。
……この話し方疲れるな、普通に戻そう。
ええと、転生しました。
海賊だの海軍だの世界貴族だの、結構物騒な世界に。
死因とかはよく分かってないし前世の記憶も曖昧だからそこら辺は気にしてないんだけど、あまりに前世と様相の異なる世界に絶賛困惑してます。
海賊なのに一切海戦しなかったり、侍が海獣や軍艦を一振りで真っ二つにしたり、人の身で地震という災害を起こすバケモノがいたり……ここ最近は情報の暴力に頭が無量空処だった。
ていうか振動人間って何? カナヅチになるだけで地震引き起こせるようになるってチートが過ぎないか? あと大気に罅入れる演出カッコよすぎだろ! それと渡り合う父上もヤバすぎ! 海賊と侍鬼つええ!!
最近は割とそんなことばかり考えていた気がする。
物騒な世界に危機感は抱いているがそれはそれ、男としてはやっぱり強くて派手でカッコいい存在への憧れは捨てられなくて、いつか俺も父みたいな強くてカッコいい侍になって白ひげみたいなド派手な悪魔の実を食べたいと夢見るようになりました。
と言っても今の俺は赤子なので傍から見たらワーキャー騒いでいるだけにしか見えないだろう。毎回腕の中で暴れる俺を微笑ましく見守る母上には負担をかけてしまって大変申し訳なく思っている所存。
横目に見れば母上が俺を抱きながら眠っていて、父上は蠟燭の光を頼りにいつもの日誌をつけている。
日々の航海の内容を書き留めているとのことだが、正直暴れん坊将軍のような父が日誌という細かいことを日課にしていた点には驚かされた。
酒に宝に宴と大騒ぎの父が、まさか一言も話さず真剣に机に向かい合っているとは……これがギャップ萌えというやつなのか。
ちなみに俺がいきなり脳内日誌を付け始めたのも父のこの姿が切っ掛けだったりする。
昔から灯りがついてると寝れない体質だったが今世でもそれは引き継がれているらしい。
まぁ赤子の身では寝ることくらいしかやることがないので、こうして暇つぶしになることが見つかるの正直ありがたい。
ただやはり日誌をつけるなら脳内じゃなくてしっかり紙に書きたいというのが本音だ、まだ腕が思うように動かないから厳しいけど。
しばらくグーパーしながら時間を潰していると、どうやら日誌を書き終わったらしい父上が灯りを消して布団に戻って来た。
父は起きていた俺を見て驚くも、すぐに笑顔を浮かべて安心させるように頭を一撫でし布団に潜り込む。
モモの助はすごいなーと何やら勘違いしている様子だったが、父が嬉しそうならわざわざ否定するのも野暮というものだろう。
俺も眠くなってきたし、そろそろ脳内日誌をつけるのは止めて赤子の本分に戻るとしよう。
1年目:夏
今日も白ひげの船は父上を中心に騒々しい。
敵船あればすぐ突貫、島が見えれば脇目も振らず猛進、未知の冒険に目を輝かせる様はまるで幼子のようだった。
泣いて、笑って、怒られて───自由奔放な在り方は正しく海賊そのもので、母上はそんな父を見ていつも楽しそうに笑っている。
俺はと言えば相変わらず満足に歩くことも叶わないので、母の手に抱かれるか父の家臣だと言うイヌアラシとネコマムシに世話を焼かれている日々を過ごしていた。
イヌとネコにしてはデカすぎんだろ……と常々思っているが、4m近くある父を更に超える白ひげを更に凌駕する巨人族というのがこの世界にはいるのだから、もうそういうものなんだと納得せざるを得ない。
ただ骨とかネコジャラシで喜ぶのはこの世界でも共通なようで、遠くに投げたり振り回したりすればはしゃぎ回っていた。
モモの助様は賢いぜよ、とネコが嬉しそうに言っていたが世話する側とされる側が逆転していることにあいつは気づいているのだろうか。イヌもしっかりしてるように見えて結構抜けてるところあるから多分気づいてない。
まぁ、そういう所も可愛いやつらではあるんだけど……気分は大型ペットを相手にしているような感覚だ。
そんな家臣たちの中でもしっかりしているのはイゾウだ。
初対面の時はめっちゃカッコいい女の人かと思っていたが、どうやら美形なだけで性別は普通に男らしい。
父上にダダ甘な母上やイヌネコと違い、イゾウは主君だろうとハッキリ物申す出来た家臣で、父上は毎回耳が痛いとイゾウの言葉に狼狽えているが直す気は毛頭なさそうなのでイゾウには同情してしまった。
彼が扱う得物は刀剣───ではなく二挺拳銃。
侍? と首を傾げてしまいそうになったが、忠義の心さえ失わなければそれは侍だとのこと。侍道は奥が深いぜ……。
ちなみに『心は女』な弟がいるらしい。ヒーハー!
1年目:秋
練習の甲斐あって無事歩けるようになったので、父上と母上に報告しに行ったらすごい顔で驚かれた。
もう生まれて半年以上経つしそこまで不思議なことでもないのでは? と思っていたが、練習していたのを知らなかった二人からしてみれば昨日の今日でいきなり走り出せば無理もないかもしれない。
しかしイヌネコの前では普通に立ったり歩いたりして遊んでたのだから二人からそういう報告は聞いていなかったのだろうか……遊ぶことに夢中だったと言われたらそれまでだが。
ちなみに白ひげからは父上に似て将来有望だなと褒められた、やったぜ。
……そう言えば前から気になっていたんだけど、俺の身長って今後どうなるんだ?
母上は前世でも上澄みの2m近い長身で、父上に至っては前世では考えられない4mに迫る巨躯だ。
今の成長率で考えるとほぼ間違いなく父並みかそれ以上の身長になることが予想されるが、4m超えの景色と言われてもあまりピンと来ないし何より前世の違和感を解消するのにかなり苦労しそうだ。
まぁ体格に恵まれているのはいいことだし、今の内から鍛えて慣らしていけば大丈夫だろう。
母は渋そうな顔をするだろうけど、父は喜んで鍛えてくれそうだしイヌネコも問題なさそう。
イゾウには御身が第一って少しの無理すら許してくれなさそうだから黙ってよう……これが常々イゾウにお小言を言われる父上の気持ちか、確かにあんな顔になるのも頷ける。
あと一応文字も書けるようになったが、流石にこれは言ってない。
1歳にもなってない子供が文字を読めたり書いたりするのは幾ら父上の子と言っても無理があるし、勉強してる素振りすら見せてなかったから詰められたら正直に白状する以外に道がない。
父や母は俺に前世があるって知っても笑って受け入れてくれるという確信はあるが、少なくない混乱を招くのは目に見えているので言わないに越したことはないだろう。俺も好き好んで言いたいとは思わないし。
だからもうしばらくはこの脳内日誌を続けていくことになりそうだが……誰かに見られるという可能性を考慮すればむしろ今の形が最適解なのでは? 見返せないというのが難点だが、別に大したこと書いてある訳でもないしね。
1年目:冬
子供は寝ることが仕事、ということで鍛錬の提案は無事却下された。
意外なことに父や家臣たちからも賛成意見は出ず、鍛えるのは土台が出来上がってからと言われてしまえばぐうの音も出ない。
しかしそれではあまりに退屈なのでと反論してみれば、代わりにと与えられたのはずっと気になっていた悪魔の実図鑑。
俺が悪魔の実に興味があることをイゾウが察してくれていたようで、わざわざ船内を探して持ってきてくれのだ。あまりの喜びに飛びついてしまったのはご愛嬌だ。
ただ、父上から妖術使いになりたいのか? と聞かれた時につい白ひげみたいなカッコいい能力が欲しいと言ってしまい、それが切っ掛けで一波乱あり船の一部が破損してしまったのは本当に申し訳ないと思ってる。
白ひげは気にしないと嬉しそうに笑っていたが、父は最後まで「おでん二刀流もカッコいいぞ!?」と対抗していた。
父上が一番カッコいいと言えばすぐに機嫌を直したので、今頃は上で仲直りの宴をしているところだろう。
夜更かししないことを条件に母から図鑑を渡してもらったが、見張りのイヌネコは酒と食事に潰れ既に床に就いているので読み放題である。勿論母上を悲しませるようなことはしたくないので、蝋燭の灯りが消えそうな今は読み途中の図鑑を机に置いて布団に潜り込んでいる。
悪魔の実は俺が思っていたよりも奥が深く、『
『自然系』は自然そのものに、『動物系』はその動物の姿と能力を得て、『超人系』は原型はそのままに特殊な体質となるらしい。
白ひげの地震能力はグラグラの実という『超人系』に分類される悪魔の実で、『超人系』の中でも群を抜いて強大な力を持つとのこと。そりゃ地震なんて世界を滅ぼせる力を手に入れられるので納得の一言だ。
まだまだ途中ではあるが、他にも爆弾になったり武器になったりと様々な能力がありワクワクが止まらない。
この先自分が能力者になれるかどうかは分からないが、こういうのは考えてるだけでも楽しいものだ。
そしてどの系統にもメリットやデメリットはあるが……もしこの中で選べるなら俺は『動物系』がいい。
白ひげみたいな派手で見栄えのある『超人系』や自然現象を操れる『自然系』も捨て難いが、俺は『動物系』のある能力を目にしてこれしかないと思ったんだ。
『動物系・幻獣種』
それは神話や伝説で語り継がれる幻の生物に変身出来る能力───カッコよすぎだろ! ていうかウチの船にもいたじゃん、不死鳥みたいな能力者! あのパイナップルみたいな髪型の人!
『幻獣種』は数少ない『自然系』より更に稀少とのことで図鑑にはどんな実があるのか乗っていなかったが、不死鳥がいるならドラゴンだっているに決まってる。
ドラゴンに変身出来る天下無敵の侍……考えただけで脳汁が止まらんわ。
ただ図鑑にも載ってないから、例え見つけてもそれが『幻獣種』になれる悪魔の実って判別がつかないのが難点だ。
悪魔の実は二つと食べれないみたいだし、チャンスは一度きりって考えるとそれこそ宝くじ当てるような感覚に近いと思う。
安全策を取るならまずは図鑑に載ってない悪魔の実を探して、その情報を集めて確定してから口にすることだろうけど……そんなことしてたら時間が幾らあっても足りないし、何より面白くない。
男なら出たとこ勝負、そういうギャンブルは嫌いじゃない。
と言ってもそもそも滅多に見つからないし、取引も最低で1億ベリー以上するみたいだから当分先の話だけど……赤子の我が身がもどかしいや。