夢は天下無敵の大将軍   作:金匙

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13:再会

 

 

「───ああ、悪くねェ」

 

 左右の脇腹に残った光月親子の傷を撫でて、カイドウは月明かりの下で一人ごちる。

 

「モモの助……」

 

 振り返れば、そこには意識を失い地に伏したモモの助の姿。

 満身創痍の形ではあるものの、意識を失っているだけでまだ微かに息がある様子を確認してカイドウは小さく笑みを溢した。

 

「お前の勝ちだ」

 

 最後の一撃、押し切られたのはカイドウだった。

 人獣型の龍の鱗を燃やし尽くし胸元に新たに十字の傷を刻んだモモの助は、覇気の使用過多によって勝利を見届けることなくそのまま意識を失った。

 今のカイドウが立っていられるのは動物(ゾオン)系のタフネス故であって、最後に立っていた者を勝者とするならそれはカイドウに他ならないが、カイドウにとっては八斎戒を押し切られた時点で紛れもない自身の敗北だった。

 

「お前に殺されるなら……悪くねェ……」

 

 既に指先一つ動かせないほど、さしもの動物(ゾオン)系の能力者であってもこれ以上の活動は限界だった。

 三つの致命傷が刻まれたカイドウの体は既に多くの血を流し過ぎたが故に、このまま治療を施さなければ失血死するのは明白。

 それでもカイドウが部下たちを呼ぼうとしないのは、このまま死ぬのも悪くない、と自身の死に様に満足しているからだ。

 

 自分が認めた強敵との戦いの果てに、全てを出し尽くしてその命を落とせるなら───戦争国家に生まれて戦いに生き続けた自分の末路に相応しい、と。

 

「……キング」

 

 パンクハザードから脱出しここまで共に歩いてきた右腕の姿を想起する。

 彼と交わした世界を変えるという約束を果たせないことだけが心残りだが、それでもカイドウはその選択に後悔はなかった。

 自由とはほど遠い人生だったが……最後の最後には、何者にも縛られず自分のために生きることが出来たのだから。

 

「ウォロロロ……」

 

 瞼が落ちていく。

 意識が徐々に遠のいて行く。

 人獣型が解除され、力の抜けた手から八斎戒が零れ落ちる。

 

 気づけば、モモの助と同様にカイドウの体は地に伏していた。

 

 ───カイドウさんッ!

 

 倒れる間際に黒い翼を幻視して、カイドウの意識は深い闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「急げお前ら! すぐにカイドウさんを連れて鬼ヶ島に帰還しろ!!」

「し、しかしキングさん、それじゃ兎丼の囚人たちが……」

「そっちはクイーンのバカが向かってる! 白舞以外の他の大名たちは抑えた、今はカイドウさんの治療が最優先だ!!」

 

 ギリッ、と、キングはかつてないほどの傷を負い意識を失ったカイドウを視界に収め歯軋りを鳴らす。

 元々侍たちから受けた傷が完治していない身の上だったが、それでも自身が最強だと断じた男がまさか残党狩りで死の寸前まで追い詰められることになるとは思いもしなかった。

 ワノ国最強の侍と謳われた光月おでんを下した今、残るは各郷の大名たちの制圧くらいのものだろうと高を括った結果がこれだ。

 こんなことなら自分もついて行けば良かった、と後悔の念を滲ませながら、キングはカイドウをここまで追い詰めた光月おでんの息子だと言う子供へ視線を向ける。

 

「こんなガキにカイドウさんが……」

 

 光月モモの助という名前はキング自身も認知していた。

 しかしそれは、九里へ襲撃を仕掛けた部下たちから度々失敗の報告を受けていたこともあり、子供ながらに良くやるな程度の認識だった。

 それが蓋を開けて見れば、深手を負っていたとは言え自軍の長と渡り合って共倒れするほどの実力者だったなどと一体誰が予想出来るというのか。

 

 モモの助自身もカイドウに負けず劣らずの重傷具合だが、それでもこのまま放っておくと言う選択肢はキングにはなかった。

 

「おい、このガキも鬼ヶ島に連れて行け」

「え? でもキングさん、このガキ放って置いても勝手に死にますぜ」

「コイツは光月おでんの息子だ、利用価値は幾らでもある……少しは頭を使え、バカが」

 

 頭の足りない部下に嘆息しつつ、キングはモモの助が能力者の可能性も踏まえて海楼石の鎖で繋がれて行くのを眺めながら、周囲の気配を注意深く探り始める。

 

「(おでんとその家臣たちは結局見つからずじまいだった……既に城に戻ってると踏んで部下に火を放たせたが、未だに誰の死体も上がってない)」

 

 全身大火傷のおでんを連れてそう遠くへ逃げ切れるとは思えないが、ワノ国の各地に散らばる部下たちから捕らえたという報告も聞かない。

 姿を見せるなら息子の命が危機に晒されているこの瞬間を置いて他にないと考え警戒を続けるキングだったが……結局おでんとその家臣たちは最後までその姿を見せることはなかった。

 

「……まぁいい。花の都は福ロクジュたち忍者衆に守りを固めさせ、廉イエ以外の大名も捕らえた今、ヤツらに出来ることなんてたかが知れてる」

 

 兎丼の囚人たちが暴れ出している件もクイーンのバカなら上手くやるだろう、そう判断したキングは残党狩りなんていつでも出来ると平静を保ちながら、カイドウとモモの助を連れ鬼ヶ島へ帰還して行った。

 

 

 

 

 

 

「(モモの助様……必ず助け出しますからッ)」

 

 息を押し殺して隙を窺うくノ一に気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 ───時は、モモの助とカイドウの決着から僅かに遡る。

 

 

 

「本当にいいんだな、お前たち」

 

 錦えもんたちに応急処置を施された体をトキに支えてもらいながら、おでんは燃える城の中で改めて自分たちと共に未来へ飛ぶ決断をした家臣たちへその覚悟の有無を問いかける。

 

「我らとてモモの助様と共に戦いたい気持ちはありまする。しかしなればこそ、あの方が願われた約束を果たすため、この命を賭しておでん様たちを守り通す責務がございます」

 

 錦えもんから返された言葉に、おでんは今や守られるだけになってしまった不甲斐ない我が身を呪うばかりだった。

 一時間もの釜茹でに晒されたその肉体は、既に死んでいると言われてもおかしくないほどで満足に動かすことすらままならない重体。

 今も気力一つで何とか意識を繋ぎ止めている状態のおでんは、自分のような足手纏いがいてはワノ国を守り切ることは出来ないと断じて、モモの助を残しトキの能力で未来へ向かう決断をした。

 しかし飛んだ先の未来が絶対に安全だと言う保証はなく、その時に今の自分でトキと日和を守れるかと言われたら当然不可能なので、そのために錦えもんたちが共に未来へ飛ぶことになったのが事の顛末。

 

「モモの助様にはイヌちゃんとネコちゃん、それにアシュラさんがついてます!」

「加えて廉イエ殿と共に兎丼の援護に向かった河松もいます」

「ヤツらとて気持ちは全く同じにございますぞ!」

 

 菊と傳ジロー、そして雷ぞうの言葉におでんはここに至るまでに別れた家臣たちの姿を思い返す。

 

『ヒョウ五郎親分たちのことは拙者たちに任せろ!』

『いざという時は我々がモモの助様をゾウへ送り届けまする!』

『モコモ公国の全員がモモの助様の力になるきに、おでん様は安心して未来へ向かうぜよ!』

『二十年先の未来で待ってるど、お前ら!!』

 

 四人が残り、四人が未来へ向かう決断をし、その再会は二十年後───険しい道のりになることは明白だ。

 それでも錦えもんたちの目に迷いはない。

 主君が決死の覚悟の下に守り抜いたこの命、ここで使い果たさずして何が家臣か。

 何が何でも主君とその家族を守り抜いて再びモモの助様と再会させてみせる、と彼らはこれまでにないほどの忠義に燃えていた。

 当然、それはこの場にいないアシュラたちも同じ思いだった。

 

 それならもう何も言うまい、そんな思いで頷いたおでんは次に妻の姿を眼下に収める。

 

「───トキも、本当にいいんだな?」

「おでんさん……ええ、覚悟なら出来てる」

 

 トキとて愛する息子をただ一人残して未来になど飛びたくないだろう。

 それでも今もなお九里の空を分かつ覇王色の衝突こそが、モモの助がカイドウと渡り合う力を持つ何よりの証明。

 おでんが戦えない今、ワノ国を守れるのがモモの助を置いて他にいないことは誰の目にも明らかで───だからこそ、モモの助のその覚悟に報いるためにも、他でもないトキがここで足踏みをする訳には行かなかった。

 

「行きましょう、二十年後の未来へ!」

「「「はい!!」」」

 

 確かな決意の下に涙を拭ったトキを、おでんは流石おれの妻だ、と心の底から誇らしく思った。

 

「しのぶ!」

「ここに、おでん様」

 

 最後におでんは、錦えもんたちと一緒にここまで自分を連れてきてくれたくノ一を見据える。

 元はオロチに仕えていたお庭番衆の忍でありながら、早々にオロチに見切りをつけて今までモモの助の手足となって忠義を示し続けた彼女に、おでんは大きな敬意と感謝を抱いていた。

 同時に、彼女にならこれからもモモの助を任せられるという確かな信頼も。

 

「おれがこうして九里に戻ってこられたのは、お前があの時民衆に語り掛けてくれたからだ……改めて礼を言わせてくれ」

「ッ……勿体なきお言葉……!」

 

 ここに至るまで、おでんたちは福ロクジュ率いるお庭番衆の妨害を数え切れないほど受けてきた。

 それを無事乗り切ることが出来たのは、花の都で燻っていた侍たちを筆頭におでんたちを九里へ逃がさんとするそれ以上の助力があったからだ。

 そしてそれは、しのぶが釜茹での時におでんの真実と疎まれながらも九里を守り続けてきたモモの助の話をして、おでんたちを蔑む民衆の心を反転させ味方に付けたからに他ならない。

 

 涙に塗れながら誰がバカ殿だ!? と福ロクジュに食ってかかるしのぶの姿を、光月おでんは生涯忘れないだろう。

 

「これからも、モモの助のことを支えてやってくれるか?」

「───はい! 命に代えてもモモの助様をお守りします!」

 

 よく言った、と錦えもんたちと共に満足そうに頷いて、おでんは目線でトキに合図を送り九里の空を見上げる。

 

「(モモ、後は頼んだぞ)」

 

 二十年後の未来での再会を信じて……こうして光月おでんとその家族、そして家臣たちは未来へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ッ……」

 

 額に走った鋭い痛みに意識が引き上げられる。

 

「…………ここは?」

 

 瞼を開けば、そこは一切の光が届かない暗闇の中。

 動かそうとした手足はジャラジャラと音を鳴らすだけで満足に動かせず───この時点で自分が牢に繋がれているのだと察するには十分で、下手なことはしないよう息を殺して状況把握に努めた。

 

「(俺は……そうだ、カイドウと戦ってて……)

 

 意識を失う前に自分はカイドウと戦っていた。

 互いに満身創痍のまま雌雄を決するべく最後の一撃を放って……その後の記憶が飛んでいる。

 あの後、俺はどうなったんだろう、カイドウを倒すことは出来たのだろうか。

 

 そう考えて今の自分の状況が結果を物語っているではないか、と察してしまう。

 

「(俺は負けたんだな)」

 

 でなければ、今頃はこんな牢の中ではなく九里の城にいるはずだ。

 花の都や兎丼の収容施設ではないようだし、恐らくは今俺がいる場所はカイドウが拠点にしている鬼ヶ島かと推察する。

 

「(戦いはどうなった? 父上たちは未来へ飛べたのだろうか……)

 

 脳裏を過ぎるのは父たち家族や錦えもんたち、そして兎丼の囚人たちを解放するために行動していたヤスさんや、カイドウに反旗を翻した他の大名たち。

 俺と一緒に捕らえられていない時点で父上たちが未来に飛んだという確信はある程度持てているが、ワノ国の現在の状況ばかりはカイドウと一騎打ちをしていたため皆目見当がつかない。

 

 しのぶから渡された電伝虫があれば今の俺の状況と合わせて連絡を取り合えるのだが、恐らく取り上げられたか壊されたかされてしまい手元にはない。

 加えて、

 

「(天羽々斬と閻魔も回収されてるな)」

 

 父上から継承した刀たちも『声』を辿るにかなり遠い場所に保管されてしまっているようだった。

 鬼ヶ島にあると分かったことは幸いだが、刀もなしにこの拘束を抜け出すのは、カイドウから受けた傷が疼き満足に覇気も流せない今の俺には到底不可能。

 最低限傷の止血だけは済ませられてるからこのまま死ぬことこそないが、逆にそれは俺に利用価値があるからこそ生かしているという意味でもある。

 

「(……せめてワノ国の状況だけでも分かれば)」

 

 カイドウたちが俺を生かしている理由がなんであれ、状況が分からなければ動きようがない。

 仮に拘束をどうにか抜け出せたとしてもここは敵の本拠地、無策で行けば却って状況が悪くなることは火を見るよりも明らかだ。

 

「(看守でもいれば幾らかやりようがあるんだが……)」

 

 軽く周囲を見渡してみても、看守はおろか同じように捕らわれてる人間すらいない始末。

 これはこれで不用心が過ぎないか? と思いつつ、生かしてる以上は誰かしらの接触があるはずだからその時まで少しでも体を休めておくか、と思い目を閉じようとしたところで───

 

「んぅ……」

 

 ───対面の牢で、物音と共に何者かが起き上がる気配がした。

 暗闇と毛布を被っていたため見えなかったが、どうやら俺以外にも捕まっている人間がいたらしい。

 見聞色で探ってみれば、何処か覚えのある気配がむくりと立ち上がって柵の前まで歩いて来た。

 

「…………もしかして、起きた?」

「ッ、お前は───!」

 

 暗闇の中で微かに浮かび上がる人影を見て、思わず驚愕する。

 

 

「久しぶり、お侍さん」

 

 

 いつぞやの鬼っ子がそこにはいた。

 

 






カイドウさんが満足死したような描写でしたがちゃんと生きてます。
精神デバフは主人公のお陰(?)でほとんど解除されたのでご安心を。

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