夢は天下無敵の大将軍   作:金匙

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14:ヤマト

 

 

 獄中生活:1日目

 

 鬼っ子───もとい、ヤマトから話を聞くに、どうやら俺は一週間近くも意識を失っていたらしい。

 カイドウの部下たちに牢まで運ばれてきた俺は、それはもう傷がないところはないと言わんばかりのボロ雑巾のような状態だったようで、突然顔見知りが同じ牢に運ばれて来たヤマトは再会を喜ぶ前に俺が死んでしまうのではないかと気が気じゃなかったとのこと。

 

 再会が牢の中と言うのは何とも言えない気持ちだったが、それでも友達とまた会えて嬉しいという旨を伝えたら一瞬驚いていたものの、すぐに笑顔を浮かべて「僕も嬉しいよ!」と返してくれた。

 一瞬驚いたのは友達だと思ってなかったからとかじゃないよね? 俺だけそう思ってたなら凄い恥ずかしいから詳しくは聞かなかったけども。

 

 それからは約束通りお互いの名前を明かして彼女がカイドウの娘であること、俺が光月おでんの息子であることが判明して一悶着あったが……これはまぁ大して語るものでもないだろう。

 ヤマトはヤマト、カイドウはカイドウだ。

 カイドウがこの国にした仕打ちは決して許さないが、だからと言ってその子供のヤマトまで恨むのは筋違いもいいところだからな。

 俺はヤマトが本心からこの国を思ってくれていることを知ってるし、それでカイドウに異を唱えて牢に繋がれていることが何よりの証拠だ。

 

 人生二周目の俺と違ってちゃんと子供のヤマトが実の父親、それもカイドウに反抗することがどれほど勇気がいる行為なのかは想像に難くない。

 あれから頭山の山頂に一度として訪れることのなかったヤマトだ、きっと鬼ヶ島に帰って間もなくカイドウの反感を買ってしまい九里に来たくても来れなかったのだろう。

 大変だったな、と少しでも心が軽くなるように労えば、案の定子供ながらに抱えていたものが溢れて涙を見せていたので、普通に考えて自分の子供にする仕打ちじゃないだろ、と余計カイドウが嫌いになった。

 

 ただ、当のカイドウはヤマトに食事を届けに来た看守曰く、俺との戦いからまだ意識を失ったままらしい。

 あれだけ血を流してたら当然だな、と思う反面、同様の状態だった俺が目覚めたのに動物(ゾオン)系の能力者のカイドウがまだ目覚めていないことがあるのか? と僅かな違和感を覚えたが……考えても仕方ないのでそういうこともあるかと割り切るしかなかった。

 

 

 獄中生活:2日目

 

 ヤマトと光月おでん談義で盛り上がった。

 

 昨日からおでんってどんな侍だったの? とやけに詳しく聞いてくるなと思っていたら、どうやらヤマトはこの場所で父上の釜茹でを見ていたらしく、それが切っ掛けで父の生き様に憧れて自分もいつか光月おでんのような侍になりたいと思うようになったのだとか。

 そんな折にちょうど息子の俺が来れば、憧れの人の生き様の軌跡が知りたいと思うことは道理であり……俺自身も父を褒められて悪い気なんてするはずもなかったので、白ひげの船で生まれてからこれまでの父のことを俺が見てきた目線で話をさせて貰った。

 

 とにかく縛られて生きるのが嫌いな自由人で、ちょっとでも目を離したら厄介事を引っ提げて帰って来る問題児で、毎日のように白ひげやロジャーと宴を開いてバカ騒ぎしているのに寝る前には必ず日誌をつけることを習慣にしていたり……こう書くとあんまり褒められた人ではないなと息子ながら笑ってしまうが、それでも俺にとっては誰よりも偉大で自慢の父親だと言うことを。

 

 ヤマトはそんな俺の話でも嫌な顔一つせず、むしろ目を輝かせながら話を聞いてくれていて、終始おでんらしいな~! と嬉しそうに相槌をうつものだから本当に父上のことが好きなんだなと思えて俺も嬉しかった。

 他にも燃える大地や雷の降る島、空に浮かぶ黄金の鐘などの話をしたが、そのどれもが鬼ヶ島で生きてきたヤマトには新鮮だったようで、いつか僕も海に出て冒険してみたいと夢を語っていた。

 

 今はとてもそんな状況ではないが、俺も父の日誌に書かれていなかったロジャーたちだけが辿り着いたと言う最後の島に行ってみたかったので、揶揄い交じりに二人で海に出るか? と聞いてみれば、そんなこと言われるとは思わなかったと唖然とするヤマトの顔が視界に入って思わず笑ってしまいそうになった。

 からかったな〜! と怒るヤマトの言葉は否定出来なかったが、それでも全部が落ち着いたら世界を回ってみるのも悪くないと言うのは俺の本心だし、そこにヤマトもいればいいなと思ったことも同様だ。

 

 それを伝えるとヤマトは子供らしく気恥ずかしそうに顔を背けていて……本人には悪いが大変微笑ましかった、とだけ記しておこう。

 

 

 獄中生活:5日目

 

 単身鬼ヶ島に潜入していたしのぶと再会し、ワノ国の現状について報告を受けた。

 

 父上たちが未来へ飛ぶ件は錦えもんと傳ジロー、それに雷ぞうと菊の四人が供について無事に成功。

 ヤスさんの兎丼制圧はクイーンと呼ばれる幹部の妨害で難航していたが、駆け付けた河松と抵抗した囚人たちの助力もありヒョウ五郎親分たち親分衆の解放だけは何とか成功し、現在は白舞で防衛戦の真っ只中。

 九里はアシュラ率いる盗賊団が制圧している最中で、それが終わり次第白舞へ向かいヤスさんと敵を挟撃する手筈とのこと。

 イヌとネコは戦力が白舞と九里に集中しないように遊撃隊のような役割を担って各郷へ出向き孤軍奮闘、余裕がある時はヤスさん以外の捕らわれた大名たちに代わり郷の住民たちを白舞へ避難させているらしい。

 

 俺がカイドウと共倒れになった報は既にワノ国全土に駆け巡っており、キングと呼ばれるもう一人の幹部が部隊を引き連れカイドウと共に鬼ヶ島へ引き返したこともあって、余裕が生まれた今のワノ国の戦況は甘く見積もっても五分……しかし俺の救出が成功すれば一気に戦況が覆りワノ国を取り戻すことが出来る、としのぶは語っていた。

 

 未だにカイドウが意識を失ったままなのを考えれば、本当ならここでその首を獲りたいところではあるのだが……カイドウの周辺はキングが部下たちを率いて守りを固めているので難しいだろう。

 加えてここは敵の本拠地、傷の癒えていないこの体で無理をするよりもまずは確実に花の都を制圧した方がいいのは明白だ。

 

 そのためには天羽々斬と閻魔が必要不可欠なので『声』を頼りにしのぶにその居場所を教えようとすると、既に当たりをつけているらしいしのぶから回収はお任せ下さい、と頼りになるお言葉を頂戴した。

 

 俺のくノ一カッコよすぎだろ……と胸キュンしたのは言うまでもない。

 

 

 獄中生活:最終日

 

 どうやら俺に付けられた手錠は、無理に外そうとしたり一歩でも鬼ヶ島の外に出ようとすれば大爆発を引き起こす代物らしい。

 昨日のしのぶとの話を聞いていたヤマトからそう説明され、実際に爆発の威力を目の当たりにしたヤマトは強がっていたものの、その顔は青褪めていて震える体は恐怖を隠しきれていなかった。

 そうまでしてヤマトの自由を奪うのか……と一瞬頭が沸騰しかけたが、ふと流桜を使えばどうにかなるのでは? と思ったので、改めてヤマトに鬼ヶ島を出て俺と一緒にカイドウと───実の父親と戦う覚悟があるか問いかけた。

 

 ヤマトは困惑したように俺を見返していたが、父上みたいな侍になりたいんだろ? と後押ししてあげれば覚悟を決めたように頷き返してくれた。

 それを見て失敗は許されないなと思いつつ……『透き通る世界』で流桜がしっかり手錠にも流せることを確認していたので、正直なところ後はヤマトの覚悟一つだけだったのは内緒だ。

 

 先ほどしのぶから天羽々斬と閻魔の回収も完了したと報告を受けたので、鬼ヶ島脱獄の決行日は明日に決まった。

 脱出する船の確保はしのぶが来る時に隠していた船を使うと言っていたのでルートの確保も問題なし。

 後はこの手錠だけだが……どうせ爆発で脱獄がバレるなら派手に有効活用してやろうと思う。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 待ち望んだ『彼』との再会は、父に閉じ込められた牢の中という僕自身意図していない、全くの偶然の産物だった。

 光月おでんと戦った時よりも遥かに酷い傷を負って、生死の境を彷徨って鬼ヶ島に帰ってきた父。そんな父と一緒に『彼』は───光月モモの助は鬼ヶ島にやって来た。

 父に負けず劣らずの傷だらけの血塗れの体で、今にも命の灯火が消え去ってしまいそうな状態のまま僕と同じ牢に繋がれて。

 

 ビックリした、なんてものじゃない。

 考えてもみてほしい。

 父の悪行を止めるために自分に何が出来るのか必死に考えていた時に、その元凶が今にも命を落としてしまいそうな重体で帰ってきて、ワノ国の侍たちがやってくれたんだと喜んだのも束の間、連れてこられたのは父に並ぶほどの重傷を負ったかつて再会を約束した小さな侍だった。

 しかも僕と同じ『錠』を彼に掛ける看守の人が、他でもない目の前の彼が父をあそこまで追い込んだ侍だと語っていたこともあり、当時の僕の頭はパンク寸前どころか普通に破裂して煙を上げていたと思う。

 

 混乱の渦中だったけどせめて生きてるのかだけでも確かめなきゃ、と何度も彼に声を掛けたけどまるで反応がなくて、折角また会えたのに何も言えないままお別れになってしまうのが怖くて……彼を見ないようにと毛布に包まって時間をやり過ごしていたら、彼は目覚めたのだ。

 

『俺は光月モモの助。こんな場所で何だが……また会えて嬉しい』

 

 目覚めるまでは今にも死んでしまいそうな風体だったのに、いざ目覚めればそんなことを微塵も感じさせないほどに記憶の中の彼そのままで、その姿につい驚いて言葉が出なかったけど次に会ったら自己紹介をしようという約束を果たすために、僕もまた会えて嬉しいと言って自分の名前を告げたんだ。

 

 それからの時間は、牢の中にいると言うのに人生で一番楽しい時間だった。

 

『光月おでんの息子ォ!? た、確かに似てる……』

 

 憧れの侍の息子だと知って目玉が飛び出るくらいに驚いて。

 

『父上のこと? そうだな───』

 

 彼が話す誰も教えてくれなかった光月おでんの足跡に心を躍らせて。

 

『か、からかったな~!? モモだって僕と同い年じゃないか!』

 

 子供らしい、と笑う彼からモモと愛称で呼ぶことを許されるくらいに仲を深めて。

 

『ヤマトはヤマトだろ。それ以上でも以下でもない、俺の友達だよ』

 

 僕の生まれを知っても……カイドウの子供だと知っても、モモは変わらずに僕のことを友達と呼んでくれた。

 

 この場所では誰もが僕を『鬼姫』と……カイドウの子供としてしか見てくれないから、対等の目線で話せて共通の人を尊敬しているモモと話す時間は、本当に楽しかったんだ。

 ずっとこの時間が続けばいいのに、ずっとモモがここにいてくれたらいいのに───そんな願いは、いい意味で裏切られた。

 

『ご無事ですか、モモの助様』

『……しのぶか?』

『はいっ、お助けに参りました』

 

 忍び装束に身を包んだモモの家臣が単身で鬼ヶ島に潜入し、脱獄ルートを確保して救出に駆けつけたからだ。

 

 僕は思わず目を見張った。

 だって僕は、しのぶと呼ばれるその女の人を知っていたから。

 しのぶさんは釜茹での時に僕らに光月おでんの真実を語ってくれた人だ……忘れることも見間違えることもある筈がなかった。

 

 緊張で言葉が出ない僕に代わって、モモがカイドウの子供であることは伏せて僕のことを味方だとしのぶさんに伝えてくれて、それならと納得したしのぶさんは鬼ヶ島から脱出するための作戦を僕らに提示してくれた。

 

『───以上が脱出のルートになります』

『分かった。白舞の港に着き次第、俺も制圧に乗り出す』

『御意』

 

 正直、僕はしのぶさんの言っていることは難しくてよく分からなかったけど……モモは今まで僕と話していた姿から一変して、まるで父のような王様みたいな雰囲気をまとわせてしのぶさんと会話していたのが印象的だった。

 

 同い年なのにやっぱりモモは凄いや、と思わず見惚れてしまって、憧れのしのぶさんと全然お話出来なかったなと若干の後悔を滲ませながら眠りに就いて───何で忘れてたんだと『錠』の存在を思い出したのが、いい意味で願いを裏切られた切っ掛け。

 

『この手錠が爆発する……?』

 

 手錠の爆発に呑み込まれた男の人を脳裏に思い浮かべながら、僕はモモに僕らに掛けられた『錠』のことを打ち明けた。

 例え脱出経路を確保しても、この手錠がある限り僕たちはこの鬼ヶ島から抜け出すことは出来ない。

 父も看守も手錠の鍵は存在しないと言っていたし、このまま逃げ出したらモモは死んじゃうよ、と僕は必死に脱出を止めるように訴えた。

 

 モモは僕の言葉を聞くとジッと手錠を眺めていて……どれだけ眺めていたかは覚えてないけど、視線を上げたモモの表情は絶望とは程遠くて、むしろ何てことないと言わんばかりに笑っていたんだ。

 

『大丈夫、これなら爆発する前に外せそうだ』

 

 だから改めて聞かせてくれ。

 モモはそう言葉を続けて、唖然とする僕へ問いかける。

 

『お前はカイドウと───実の父親と戦う覚悟があるか?』

 

 俺はカイドウがこの国にした仕打ちを決して許さない、例えお前に憎まれることになっても俺はアイツの首を獲るぞ、と。

 

 強い覚悟の秘められた双眸に射貫かれて、すぐに頷くつもりだった僕の意思とは裏腹に体は鉛の様に重く硬直して動かなかった。

 それはまだ僕に覚悟が足りていなかったのか、それともこんな状態になっても父に家族としての情を感じていたからなのか……いや、恐らくどっちもだったんだと思う。

 この期に及んで僕はまだ、父が改心してワノ国の皆と笑いあえる夢を思い描いていたんだ。

 モモが言ったように、既にそんな夢を語っていられる段階にないほど彼らの恨みは強く根深く、後戻り出来ないところまで来てしまっていたのに。

 

 だから僕はその問いかけに答えられず俯いてしまった。

 カイドウの娘の僕に、この国を一緒に守る資格なんてないような気がしてしまったからだ。

 

『ヤマト』

 

 そんな僕に、先とは打って変わって優しい声音で名前を呼ぶモモの言葉で、泥沼に沈んでいた意識が引き上げられる。

 そうして顔を上げた先───そこには王としての光月モモの助の姿はなく、初めて出会った時のように仕方なさそうに笑う友達(モモ)の姿があった。

 

『光月おでんみたいな侍になりたいんだろ?』

 

 あの時と同じように僕の背中を押してくれるその言葉は、決して僕を拒むことはないという確かな意思を宿していた。

 同時に、その夢が本物なら悩む必要なんてないだろう? と悩む僕を諭すように赫灼の瞳で真っ直ぐに見据えて。

 

 ワノ国の未来を一身に担う彼にそこまで言われてしまえば……あとは僕の覚悟次第だった。

 

『戦うよ、お父さんと……百獣のカイドウと!』

 

 九里で見たあの光景を守りたいと思ったことも、光月おでんの生き様に憧れたことも───どちらも紛れもなく僕の本心なんだから。

 

 モモはそんな僕を歓迎するよと笑って受け入れてくれて、本当に彼には敵わないなと思い知らされてしまった。

 

 そして───

 

 

 

 

 

「外すぞ、ヤマト」

「うん……ねぇ、モモ」

 

 なんだ? と貨物船の上で首を傾げる彼に、僕は心からの言葉を述べた。

 

「ありがとう」

 

 心と体を縛っていた『錠』が解かれ、港で数多の船を巻き込む大爆発を見守りながら僕は誓う。

 彼と一緒にカイドウを討つことを。

 ワノ国に……この世界に夜明けを齎すモモの力になることを。

 

 ありがとう、モモ。

 僕に道を示してくれて。

 僕に自由を与えてくれて。

 

 君と出会えたことこそが、何物にも代え難い僕の宝だ。

 

 






Q:モモの助が捕まってカイドウさん怒らないの?
A:あれから意識を失ったままなので捕まってることすら知りません。勿論目覚めたら勝手なことするなってブチ切れます。

カイドウがまだ目覚めてない理由は次話かその次くらいで書いていこうと思います。

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