夢は天下無敵の大将軍   作:金匙

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16:圧倒

 

 

「光月二刀流 壱ノ型───」

 

「構えろ、クイーン!」

「おれに命令すんじゃねェ!」

 

「円舞」

 

 モモの助の持つ天羽々斬と閻魔から覇気が立ち昇り、地面が陥没するほどの踏み込みを見送るまでもなく───円を描くように振るわれた業火の太刀が二人の眼前に迫る。

 キングは半ばから折られた絡繰刀を、クイーンは左腕の絡繰義手を軋ませながら……二人はモモの助の太刀筋に己が得物を割り込ませると、真っ向から打ち破らんと言わんばかりに気炎を上げる。

 その体格差は優に五倍以上で、更に二人がかりと言うことも加味すれば常識的に考えてモモの助に勝ち目はない。

 象と蟻がそうであるように、それが例え恐竜と人間であったとしても……絶対的強者がどちらであるかなど議論の余地もないほどに明らかだ。

 

 恐竜の相手が常識に当て嵌まる矮小な人間だったのならば。

 

「何なんだッ……この力は……!?」

「こんのバケモノがァ……!」

 

 理外の侍は拮抗することすらも許さない。

 

 キングとクイーンの巨体をその得物ごと押し切って、黒い稲妻を迸らせた斬撃が業火と共に体の内外からその身を焼き焦がす。

 血反吐を吐きながら瓦礫の山まで吹き飛ばされた二人は、大の大人はおろか巨人族をも凌ぐであろうその膂力を前に、戦い始めてからこれまで何処にそんな力があるのか、と驚愕を隠せないでいた。

 

 如何に政府ですら安易に手出し出来ない侍の生まれと言えども、所詮は刀を振るうことに特化しただけのただの人間であり、更に付け加えるならモモの助は悪魔の実とは無関係の無能力者だ。

 白ひげやビッグ・マムのように人間族とは思えない恵まれた体格を持っている訳でもなければ、ワノ国の常識から逸脱しない極々普通の体軀のこんな非力そうな子供に、なぜ動物(ゾオン)系の能力者の自分たちがその最たる強みである身体能力で真っ向から押し切られているのか……キングとクイーンには皆目見当がつかなかった。

 

 

「すごい……」

 

 そんな光景を離れた場所でしのぶと共に見守っていたヤマトは、噂には聞いていたが実際にモモの助が戦う姿を目にするのは初めてだったため、噂以上のその実力を目の当たりにしてモモの助と戦う二人とは逆の意味で目を見張っていた。

 

 キングとクイーンと言えば百獣海賊団では知らぬ者はいない大幹部であり、部下たちからは尊敬の念を込めてカイドウの両翼とも称されるほどの猛者たちだ。

 その力は双方共に災害の如き強さを誇っており、キングは戦場を火の海に変えることから『火災』、クイーンは科学の粋を集めたその絡繰兵器で戦場に疫病を蔓延させることから『疫災』と呼ばれ恐れられており、二人の脅威と悪名は政府が打ち出した懸賞金にも如実に反映されていることからその実力は折り紙付き。

 当然ヤマトも二人のことは認知しているし、鬼ヶ島でその力を発揮することも珍しくなかったためその実力を疑ったことは一度としてない。

 

 キングとクイーンの人獣型こそ初めて目にしたヤマトだったが、むしろそれは二人の評価をより底上げさせる要素でしかなく……だからこそ、それをかすり傷一つ負うことなく圧倒するモモの助を見て、ヤマトはあまりにも遠く偉大なその背中に光月おでんの影を重ねて唖然としていたのだ。

 

「モモ……」

 

 齢八つにしてカイドウと渡り合ったその実力に偽りなし。

 光月おでんの意志を継いでワノ国に夜明けを齎さんとする小さな侍を見て、ヤマトは密かに金棒を握る手に力を込める。

 今はまだ遥か彼方のその背中だけど、いつかは自分もその隣に並び立てるような強い侍になる、と確かな決意を胸に抱いて。

 

 

「───おいキング、十秒手ェ貸せ」

「……妥当な時間だな」

 

 このまま無闇矢鱈に戦っていても勝ち目はない、それを察して瓦礫の山を振り払ったクイーンからの提案に、キングは言われずとも分かってる、と意図を聞かぬまま頷くと人獣型を解除して黒翼を羽ばたかせ空へ飛翔していく。

 

 ルナーリア族と呼ばれる特殊な出自のキングには生まれながらに発火能力が備わっており、それを自在に操り敵を殲滅してきた経緯から『火災』の異名を付けられるに至った。

 しかし眼前の侍もまた自分と同様に炎を操り更には炎を断ち斬る術をも持つため、動物(ゾオン)系の身体能力でも上回られている現状ではキングの攻撃の大半がモモの助に意味を成さず決定打足り得ないのは誰の目にも明らか。

 

 故にこそ、例えそれが普段からいがみ合っているクイーンからの提案であったとしても、目の前の敵を倒せるなら、とキングはその提案を呑んで自身がモモの助の注意を引き付ける役を買って出たのだ。

 

「何度やっても同じだ」

 

 キングの折れた絡繰刀にマグマのような桁違いの火力がまとわれていくのを見て、モモの助は嘆息と共に閻魔を納刀して天羽々斬を両手に八相の構えを取る。

 気づけばクイーンがキングの起こした土煙に紛れて戦線を離脱していたが、未だに見聞色はその気配を捉えたままなのでキングを倒してからでも問題はない、と思考の隅に留めるだけにしてモモの助はキングのみにその意識を集約させていく。

 

「おれとお前とでは生物としての『格』が違う! 港ごと焼き尽くしてやる、光月モモの助……!!」

 

 キングの咆哮と共に、絡繰刀に集った炎が渦を巻いて形を成す。

 それは正しく龍と呼ぶに相応しい巨大な火龍で、その姿は彼が信じる最強(カイドウ)の龍の形態と瓜二つだった。

 クイーンの時間を稼ぐまでもなくおれが決めてやる、そう言わんばかりに強い闘志を宿した双眸が構えを取ったまま微動だにしないモモの助を射抜いて───

 

 

「御守火龍皇!!」

 

 

 己の絡繰刀をも焼き尽くして『火災』のキング渾身の一撃が、刃武港を覆い尽くすほどの業火となって放たれる。

 

「光月一刀流 奥義───」

 

 相対するは如何なる炎をも断ち斬る狐火流の継承者───『透き通る世界』に入り極限の集中状態から放たれんとしているその一刀は、覇王色をまとって火龍の先にいるキングをも射程に捉えて振り下ろされた。

 

 

「───(ほむら)()(ばき)

 

 

 その技は本来の狐火流には存在しない、光月モモの助が独自に編み出したオリジナル。

 

 焔裂きに流桜と覇王色を乗せることでより高次元の技に昇華させたその一刀は、炎を斬り裂くのみならず覇王色を乗せた斬撃がその炎を伝って元凶をも斬り伏せる───『透き通る世界』を開眼させたモモの助だからこそ可能にした、正に奥義と称するに相応しい回避不能の一太刀。

 

 ならばこそ、その決着は必然だった。

 

「!!?」

 

 刃武港に迫る火龍をキング諸共に天羽々斬が斬り捨てる。

 断末魔を上げるように火龍が白舞の空に消えて行き、袈裟斬りに体を斬り裂かれたキングが血反吐を吐きながら白舞の地に落下して行く。

 

 太陽の如き炎を操りながら太陽をも斬り裂く術を持った理外の侍───そんな侍の前ではかつて神とまで呼ばれた種族であっても無力に等しく、その象徴たる黒翼は左翼が半ばから断ち切られ見る影もない。

 

 それでも……完膚なきまでの敗北を突きつけられてなお、キングの目からは未だに光が消えることはなかった。

 朦朧とする意識の中でキングは確かに見たからだ───港を一望できる崖の上から、ブラキオサウルスと言う恐竜の中でも屈指の大きさを誇るその巨躯が、眼下のモモの助目掛けて自身と共に落下していくその光景を。

 

「やれ、クイーン───」

 

 だからおれに命令すんじゃねェ、そんな返答を最後にキングは意識を失って、その勇姿を見届けたクイーンはありったけの武装色を込めた渾身の一撃を放つ。

 

 

無頼男爆弾(ブラキオボムバ)!!」

 

 

 隕石と見間違うほどの巨体が刃武港に着弾した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「───なんで、倒れねェんだよ…………くそったれ」

 

 脳天から血を流しながらぼやいたクイーンが人型に戻って地に伏す光景を見送って、まだまだ自分の未熟さを痛感して思わずため息を零す。

 

 クイーンの気配は捉えていた筈なのに、キングへの新技が上手くいったからと警戒を怠りその奇襲に気付けなかったなど……考え得る限り最悪の愚行だ。

 相手がクイーンだったから咄嗟の迎撃(伍ノ型)が成功したものの、これがカイドウであったならば間違いなく今の俺は金棒で叩き潰されて虫の息になっていたことだろう。

 

 常在戦場と明鏡止水の精神を心掛け、二度とこんなことを繰り返さないよう軋む両腕に誓って改めて気を引き締める。

 

「モモー!」

 

 天羽々斬と閻魔を納めると、イヌと住民の避難に当っていたヤマトがしのぶを伴にして駆け寄って来た。

 港に着いてすぐにキングが急襲して来た時は血相を変えて慌てふためいていたヤマトだったが、今のこの輝かんばかりの笑顔を見るに無事その憂いを払うことは出来たようだと一安心。

 

「だから言ったでしょヤマト? モモの助様はあんな奴らに絶対負けないって」

 

 ホントにキングとクイーンを倒しちゃうなんて! と大騒ぎのヤマトとは対照的に、俺との付き合いが長いしのぶは俺の勝利を確信していたようで、一切動じることなく暖かい眼差しをヤマトへ向けながら笑みを浮かべていた。

 

 そんな二人の様子を見て、当初はヤマトの境遇に同情こそすれどカイドウの子をおいそれと信用出来ないと気を張っていたしのぶが、よくもここまでヤマトに気を許すようになったもんだ、と感心すると同時に、心からワノ国を思うヤマトのことを考えればそれも当然かと納得する。

 

 何せ敵だらけの鬼ヶ島で単身カイドウに抵抗し続け、長いこと牢に繋がれてなおその心を折られなかった生粋のレジスタンスだ。

 お庭番衆としてオロチに仕えることになってしまい、同胞たちがオロチに寝返る様を見続けたしのぶからすればヤマトが第一印象から好印象だったことは間違いなく……そこに生来の明るさと素直さが加われば如何にカイドウの子供と言えど、間近でその在り方を見守って来たしのぶが信を置くのは道理だった。

 

「イヌたちから連絡はあったか?」

「はい。先ほど廉イエ様と大名衆の方々を無事白舞へ送り届けた、と。今は河松様と共に周辺の警戒に当っているとのことです」

 

 無事なら何よりだ、と言葉を返しつつ、相当に心配をかけてしまっていたようで、港に着くなり戦闘中にも関わらず大号泣していたイヌアラシと河松の姿を思い浮かべ苦笑する。

 しのぶから俺を救出するために鬼ヶ島に潜入していると連絡を貰っていなかったら、残った他の家臣とヤスさんたちと共に鬼ヶ島への討入りも考えていた、と聞かされた時は頼もしいと思った反面あんまり無茶をしてくれるなとも思ってしまったが……無茶はモモの助様です! と一斉に言葉を返されてしまっては反論の余地もない。

 

 九里もアシュラたちのお陰で制圧出来たと聞くし、次はコチラに向かっていると言うネコを待って兎丼の囚人たちを解放すれば戦力差は逆転するだろう。

 そうなれば後は都を取り戻して鬼ヶ島にいるカイドウの首を獲ればこの戦いは終わりだ。

 正直万全には程遠い状態だが、カイドウが意識を失っている今これ以上の好機はそう訪れない。

 

 俺の体が持っている内にせめて兎丼の制圧までは終えたい、だから───

 

 

「邪魔をするな、キング」

 

 

 覚束ない足取りながら、それでも一矢報いようと折れた刀を手に背後を取ろうとする男へ視線を向ける。

 

 血と泥に塗れた軍服と焼け落ちたマスク。

 白髪に褐色の肌、背中で燃え続ける炎と夜の闇を溶かしたような黒翼。

 一目で特殊な種族なのだろうと察せられるその風貌を実際に『透き通る世界』で見据えてみれば、背中の炎が身体機能を大幅に活性させる役割を持っていることが見て取れて、そのお陰で致命傷を免れ命を取り留めたのだと察することが出来た。

 

「拾った命を態々捨てることはないだろう」

 

 勝敗が決した後に度々首を刎ねて回るような趣味は俺にはない。

 出来ることならこのまま捕まって貰いたいというのが本音だが……あのカイドウの腹心がそんな未来を受け入れるはずがないと言うことは火を見るよりも明らかで、それを証明するように俺の言葉を受けてもキングの歩みが止まることはなかった。

 

「……是非もなし」

 

 焦点の定まらない目から自我が希薄なのは明白。

 ならばこそ───船長と仰いだ主のため、死をも恐れず向かってくる戦士に情けは不要。

 

 敵ではあるが、その忠道に敬意を表し……一太刀で終わらせよう。

 

「閻魔」

 

 覇気を流し、閻魔を構える。

 『透き通る世界』で油断なくキングを見据えて、彼が振り上げた刀を迎え撃つ形で閻魔を振り被って───

 

 

 

熱息(ボロブレス)

 

 

 

 青い炎(・・・)が視界を覆い尽くした。

 

 

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