夢は天下無敵の大将軍 作:金匙
対になるように生えた黒い六本角。
鮫肌のような鋭さを得てより強固となった龍の鱗。
うねりを増した髪先が青く染まり炎のように燃え上がって、群青色の羽衣をまとい一回り以上大きくなったその体からは、白舞はおろかワノ国全土を揺らすほどの膨大なまでの覇王色が発散されている。
蒼炎を斬り裂いてその主を見据えれば、当然ながら視線の先にいたのは───
「───ウォロロロ。久しぶりだな、モモの助」
生死の境を彷徨っていた筈の百獣のカイドウがそこにいた。
それも、今までとは様相の異なる姿と……あの時を遥かに凌駕するほどの覇気を携えて。
意識を失ったキングとクイーンを肩に担ぎながら、カイドウは白舞に倒れ伏した数多の部下たちと戦場となったその大地を見回して機嫌良さそうに言葉を続ける。
「これだけの兵力でも手負いのお前に傷一つ付けられねェか……流石だ」
大半が非能力者の集団とは言え、キングとクイーンの幹部二人までを同時に相手取って生還出来る人間などワノ国はおろかこの新世界でもごく僅かであり、カイドウは改めて目の前の侍が自身に並ぶ強者だと胸で疼く傷跡と共に実感していた。
「死の淵を彷徨っていた割に、随分と元気そうだな」
対して、モモの助もまた人獣型とは思えないその異様な姿に、この短期間で何があったのかと言葉とは裏腹に内心で驚愕する。
だからこそ、カイドウが青龍と呼ばれる悪魔の実の能力者だとヤマトから聞かされていたモモの助は、以前の人獣型と比べてもカイドウがより龍に近い姿になった印象を受け、先の明らかに熱量を増した『
「お陰様でな……そう構えるな、手負いのお前と今決着を付けるつもりはねェ」
「何……?」
天羽々斬と閻魔に覇気を流すモモの助に、しかしカイドウは応じる素振りを見せずキングとクイーンを担いでいない方の手でその動きを制する。
当然ながら今ここで決着を付ける気でいたモモの助はカイドウの言葉に面食らい、思わずと眉を寄せて怪訝そうな表情を隠せない。
確かに『透き通る世界』で正確に傷口を把握して止血していたものの、それでもモモの助がカイドウとの戦いで負った傷は深く、満足に食事も与えられず今まで牢に繋がれていたことも加味すれば今のモモの助が本来の実力の半分にも満たない力であることは明白だったが……それは目の前のカイドウも同じだと言うことは『透き通る世界』に映るその体が証明している。
「どういう魂胆だ?」
状況はカイドウが復活したことにより正しく五分。
モモの助とカイドウの勝敗が戦況を大きく左右することは誰の目にも明らかであり、各地で囚人たちが解放されている状況を鑑みれば戦いが長引けば長引くほどモモの助の陣営が有利になることもまた自明の理。
キングとクイーンをも失ったカイドウがこの状況を打開するには、今ここでモモの助を打ち倒す以外に道はなく、そんなことが分からないカイドウではない筈だ、とモモの助が怪訝そうな表情をカイドウに向けるのは道理だった。
「ウォロロロ、そう難しい話じゃねェ……互いに新しい力に目覚めたんだ、どうせなら半端な状態じゃなく万全な状態でやり合いてェだろ?」
八斎戒を握るカイドウの手に青龍の影が浮かび上がる。
同時に身震いするほどの威圧感が白舞全域に齎されるが、指向性を感じさせず無差別に発散されるその覇王色は未だにその力を制御出来ていないことを如実に物語っていた。
しかしモモの助も背後のしのぶとヤマトを守るように二刀に覇気を流して対抗するが、カイドウと異なり天羽々斬と閻魔の補助ありきで覇王色をまとうモモの助には、彼らが出力する以上の覇王色をまとう術がないため今のカイドウの覇気から身を守ることが精々とその練度の差は歴然。
故にどんな思惑があれ時間をくれると言うのならそれに越したことはないが……それでもはいそうですか、と素直に納得出来るほどカイドウを信用出来ないのもまた事実だった。
加えて───
「───今が好機であることに変わりはない。ここでお前を倒せばそれで終わりだろう」
どんな力に目覚めようとここでカイドウを倒せば全てが終わる。
ならばこそ、と……より優勢になれども断言は出来ない不確定な未来よりも、未知数ではあるものの腹心と大半の部下が倒れた今のカイドウを討つことをモモの助は選択した。
そしてその選択は今までのカイドウが相手だったのなら間違いではなかった。
苦悩と後悔で雁字搦めになり、強敵と戦うことでしかその心を満たせなかったカイドウであれば……今のモモの助の言葉にそれでも構わない、と納得を示して得物を構えただろう。
しかし、過去を振り切って腹心たちからの思いに応えるべく
「
含みのあるカイドウの言葉にモモの助だけではなく皆が一様に振り返って───あり得ないその光景に瞠目する。
「鬼ヶ島が、浮いている……?」
花の都はオロチ城天守───その直上にてカイドウたち百獣海賊団の拠点である鬼ヶ島が浮遊していた。
本来であれば海を渡った先にあるはずのその島が、カイドウの羽衣と同じ群青色の雲に包まれて抱えられるように佇んでおり、鬼ヶ島ごと持ち上げて移動するという埒外の光景がモモの助たちの視界に映り込んでいたのだ。
「あれは焔雲。浮かすも落とすもおれの意思一つだ」
言いたいことは分かるよな? と言わんばかりにモモの助を見据えるカイドウに、モモの助の脳裏に戦慄が走る。
要は戦っても構わないが、そうなったらいつ鬼ヶ島が花の都に落ちるか分からないぞ、とカイドウは言っているのだ。
当然ながら鬼ヶ島が落ちれば花の都は壊滅、都の住民たちは都市諸共崩壊に巻き込まれ命を落とすだろうし、各郷にもその被害は伝播してワノ国に未曾有の大災害が齎されるのは想像に難くない。
そうなれば例えここでカイドウを討ったとしても意味がない。
国とは人なればこそ、大勢の民が暮らし生活の基盤として国を支えている花の都が滅びれば、それは文字通りワノ国の滅亡に他ならないからだ。
言葉を失うモモの助たちを見て、カイドウは嘆息しながら言葉を続ける
「勘違いするなよ? おれもそれは本意じゃねェ」
「どの口が……ッ」
カイドウとしても、天然の要塞と化しているワノ国の国土を傷つけることは後々の計画を踏まえて本心から避けたいと思っているが……それを知らないしのぶたち現地人からしてみれば、カイドウの言葉がただの脅しのようにしか聞こえないことは明白。
拳を固く握りながら唇を噛み締めるしのぶを見送って、カイドウはモモの助へと視線を向けて更に彼らが驚愕するであろう言葉を重ねていく。
「おでんは二十年後の未来に飛んだんだろう?」
「ッ……!?」
それは、本来カイドウたちでは決して知り得ない……モモの助たちの作戦の中でも秘中の秘。
光月トキが悪魔の実の能力者であることはワノ国ではおでんとモモの助を除いて他に知る者はおらず、錦えもんたちでさえもそれを知ったのは未来へ飛ぶ直前だったことだろう。
そのおでんたちが未来へ向かった以上、今それを知るのはモモの助としのぶ、そしてしのぶから報告を受けた残った家臣たちを置いて他にはおらず……当然ながら今まで意識を失っていたカイドウがその事実を知る術は皆無だ。
何故お前がそれを知っている、とここに来て初めてモモの助の表情に動揺が走り、それに気を良くしたカイドウがしてやったりと笑みを浮かべ、今の自分の姿のことも含めてモモの助に説明していく。
「悪魔の実の能力には『覚醒』という上の
「覚醒……?」
「ああ。自らの心身が悪魔の実の能力に追いついた時に起こるもの───それが
おでんたちが未来に飛んだことを知ったのもこの『覚醒』が一因だと語るカイドウに、能力者ではないモモの助には『覚醒』がどのようなものか今一つしっくり来なかったが……それでも以前よりも格段に覇気が増している今のカイドウを思えば、その悪魔の実固有の能力が新しく発現していてもおかしくはないと納得することは出来た。
同時に、カン十郎のようなスパイが未だに潜んでいるのかもしれない……という暗雲が晴れた安堵感も抱きながら。
「何の因果か……おれたちはあの戦いから生き残った、それも互いに更に力を増してな」
片や『透き通る世界』の開眼、片や悪魔の実の『覚醒』。
カイドウの言葉の通り、今の二人は九里で戦う前と後とではその実力に天地の如き力量差が存在している。
仮に今の万全とは程遠い状態で過去の己の相手をしたとして───カイドウもモモの助もお互い傷一つ負うことなく打ち倒せると断言出来るほどに。
この時点で何となくカイドウの言いたいことを察したモモの助は、相変わらず自分とは正反対のその考えに理解こそ示さなかったが……それでも空に浮かぶ鬼ヶ島の件も考えれば否やはなかった。
「おれがお前に望むことはただ一つ───おでんたちが帰って来る二十年後に、この戦いの決着を付けることだ」
「「なっ!?」」
その条件を呑むならワノ国には二十年間一切の手出しをしない……と、今まで見せてきたどんな表情よりも真剣に語るカイドウに、唖然とするしのぶとヤマトを他所にモモの助はそれがカイドウの本心からの言葉なのだと『透き通る世界』に入らずとも理解させられた。
そして花の都の人々を人質に取るというカイドウらしからぬ手段を使ってでも、互いの全てを以ってこの戦いに決着を付けたいというその真意は───確かに光月モモの助の胸に届いた。
「いいだろう、その条件を呑んでやる」
「ウォロロロ……賢明だな」
ここでカイドウを討てないのは痛手だが、他に選択肢もない現時点ではそれが最良の選択だとしのぶからも異存はなく……むしろ二十年後に帰って来るおでんたちを安全に迎えることが出来て更に錦えもんたち赤鞘の侍たちが戦力に加わることも加味すれば、より盤石の布陣を以ってカイドウとの決戦に臨むことが出来ると考えてすらいた。
「オロチの配下は好きにしろ、おれは
言うや否や、花の都の上空に浮かぶ鬼ヶ島をカイドウは焔雲を操り軽々と動かしていく。
少しでも隙があればと様子を窺っていたしのぶだが、主君のモモの助が微動だにしなかったこととあれだけの規模の島を動かしておいて表情一つ変えないカイドウを見て奇襲は無意味だと悟り、背中の短刀に伸ばしていた手から力を抜いて嘆息する。
仮に短刀を振り下ろす隙があったとしても、自分程度の実力では首はおろかその肉体に傷一つ付けられないだろうとしのぶは理解してしまったからだ。
同時に、決戦の二十年後までに少しでも主君の力になれるよう強くなることを誓いながら、しのぶはオロチの配下───福ロクジュたちお庭番衆にモモの助がどのような処遇を下すのか思案して……すぐにその考えを振り払う。
初めて会った時に保身に走った福ロクジュたちを責めることは出来ないと言っていたモモの助様のことだ、きっと光月を裏切った彼らすらも事情が事情だと言って悪いようにはしないのだろう、と思ったが故に。
しかし、それでは他の侍や侠客たちの反感を買うのは明白だしワノ国の大将としての面目が立たないことも確かだ。
何より……しのぶ自身も福ロクジュたちには思うところが多々あるため、落ち着いた時にその処遇は自分に任せて貰えないか進言してみよう、としのぶは密かに覚悟を決めるのだった。
「───さて」
花の都から鬼ヶ島を退かしたカイドウが、残る用事はお前だけだと言うようにモモの助の隣に立つ自身の娘へとその視線を向ける。
「お前はそっちに着くんだな? …………ヤマト」
その手に掛けていた『錠』が外されていることに対してカイドウに驚きはない。
カイドウは『錠』の仕組みを理解しているため、モモの助ならばヤマトの『錠』を外すくらい造作もないだろうと既にその答えに辿り着いていたからだ。
そして元よりワノ国の侍たちの肩を持ち自身に反抗し続けて来たヤマトに、今更カイドウがその事に関してどうこう言うつもりはない。
しかし、ただ一点……モモの助たちに加担するならば、どうしても聞かなければならないことがカイドウにはあった。
「遊びじゃねェんだ。そうまでして侍を名乗るなら───死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」
解放された覇王色がヤマト目掛けて襲い掛かる。
それは今までヤマトに与えてきた躾や折檻とは次元が異なる───百獣のカイドウの純然たる殺意の暴風。
後方で見守っていたしのぶすら一瞬意識が飛び掛けたほどのその覇気を前に、しかしヤマトは苦しそうに表情を歪めながらも決して怯むことはなかった。
強い決意を秘めた双眸が、試すようにヤマトを見据えるカイドウの視線と真正面から激突する。
「僕はワノ国が好きだ……お侍さんたちが好きだ……光月おでんが、光月モモの助が好きだ!」
「だけど
「だから僕はお前たちと戦う! モモと一緒にこの国を夜明けに導く!!」
「その果てに命を落とすことになっても僕は絶対に後悔しない! 死ぬ覚悟なんて鬼ヶ島を出る時にとっくに決めていた! 戦争でも何でも───望むところだ!
その宣言と共に、ヤマトの体から覇気が溢れ出す。
カイドウの眼差しを押し返すようにして解き放たれたその覇気は、紛れもなくヤマトを押し潰さんとしているカイドウの覇気と同種のもの───即ち、覇王色の覇気。
ヤマトもまたおでんやモモの助同様に王の素質を持っていたことに、カイドウはお前もかと驚愕を露わにして、モモの助は頼もしいなと言わんばかりに笑みを溢した。
「…………そうか」
暫しの沈黙の後、カイドウはヤマトの返答に満足したのか瞳を閉じるとその体に焔雲をまとって浮上していく。
気づけばその頭上には先ほどまで花の都にあった鬼ヶ島が浮遊しており、カイドウは担いでいたキングとクイーンを新たな焔雲を生み出して先に鬼ヶ島へ送り届けると、閉じていた瞳を開いて神妙な面持ちでヤマトへ言った。
「なら───せいぜい強くなれ、ヤマト」
その言葉を最後に、カイドウはヤマトから視線を外すと自分たちのやり取りを見守っていたモモの助へ視線を向ける。
先ほどまでヤマトに向けていた表情は影も形もなくなって───獣の如き獰猛な笑みを携えながら。
「最強の軍団を作ってお前たちを迎え撃つ……戦力を整えておけよ、モモの助」
「言われるまでもない───首を洗って待っていろ、カイドウ」
「ウォロロロ! ……ああ、本当に楽しみだ」
満足そうに笑ったカイドウが青龍の姿となって天へ昇っていくが、焔雲を操り最早空中要塞と化した鬼ヶ島を追いかける術は今のモモの助たちにはない。
故に再び見えるのは、カイドウがワノ国に干渉しないと誓った以上は二十年後の決戦の時を置いて他になく……その後ろ姿が空の果てまで消えていくのを見届けたモモの助は、今よりもっともっと強くならなければと覚醒したカイドウの姿を思い浮かべて改めて誓いを立てる。
その上でカイドウが置いていった残党たちの処分や各郷の復興作業、今後の展望について残った家臣たちや大名たちと会議を重ねたり……と、やるべきこととやらなければならないことが脳裏を過ぎっては消えていき───
「モモ!?」
「モモの助様!?」
───緊張の糸が切れたのか、意識を手放した肉体がゆっくりと傾いていった。
Q:主人公の見た目は原作通りなの?
A:大人モモの助の総髪verが一番近いかなと。そこに鬼滅の刃の継国縁壱の目の色と痣を付け足して貰えれば完成です。原作よりも成長してるので身長は現時点(八歳)でルフィより頭一つ小さいくらいです。