夢は天下無敵の大将軍   作:金匙

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第二幕:英雄の足跡
19:起床


 

 

 9年目:春

 

 またしても一週間近く眠っていた件について。

 最近こんなのばっかりだな、と思いつつ……それでもあの戦いから五体満足で生き残って、当初の目的以上の成果を出せたことを考えれば悪い気持ちではなく、むしろ胸のつかえが取れたような清々しい目覚めだった。

 

 まぁ起きた傍からヤマトに飛び付かれ傷が痛むわ、イヌたちから仰々しいまでの誓いを立てられるわ、花の都で祝いの宴が開かれていたからお忍びで参加してみれば何故か一瞬で見つかって現人神の如く祭り上げられるわ、と……起きてからも一悶着と呼べないほどに色々な出来事があった訳だが、それでも満面の笑顔を浮かべて宴を楽しむワノ国の人々を目にすれば、どれもこれも些細なことでこれからも頑張ろうと心から思うことが出来た。

 

 鬼ヶ島から連れて来たヤマトの件は、しのぶの方からヤスさんやヒョウ五郎親分たちに上手く取り計らってくれたみたいで、ヤマトがカイドウの子供だと打ち明けても気にせず迎えてくれたと聞いて一安心。

 モモの助様が友と認めた者を悪く言う恩知らずな輩など、今のワノ国には一人としていませんよ、と何故かしのぶが誇らしげに語っていたが……正直ここ数日軽く都を出歩いてみて、ワノ国の住民たちの恩義やら忠誠心やらが天元突破している事実に怖いと思ってしまう今日この頃。

 

 この前なんて、おでん様とモモの助様の気持ちも知らずに申し訳御座いませんでした、と恐らく父上を罵倒していた人たちが城門に押し寄せて来て、漏れなく全員から土下座する勢いで頭を下げられたからな。

 確かに当時は思うところがあったことは否定出来ないが、今はまったく気にしていないし恨んでもいないので、父に悪いと思っているなら二十年後の戦いでまた力を貸してくれ、と答えたのだが……何故か余計号泣させてしまう結果に終わってしまい恐怖は募っていくばかりである。

 

 あとカイドウとの戦いを経て自分たちの弱さを痛感した、とイヌを筆頭に家臣たちが一層鍛錬に励むようになり、ヤスさんやヒョウ五郎親分は住民たちをまとめ上げて各郷の復興作業に勤しんでいるので、モモの助様は体を休めることを第一に考えて下さい、と外出を制限されている現状では、ネコたちに扱かれて帰って来るヤマト(友人)との会話だけが今の俺の唯一の楽しみとなっており……傷も完治していないこの状態はかなり退屈だったりする。

 そのため城の外に行く場合はもれなくしのぶの警護という名の監視が付いてくるが、それを踏まえても一度外を出歩いてみるのはいいかもしれない、とここ最近は考えていたりいなかったり。

 

 休んでばかりでは身体が鈍るし、軽く各地を歩き回るくらいなら流石にしのぶも許してくれるよな? と思いつつ、実際復興作業もどれくらいの目処で進めていくつもりなのか気になるし、改めて各郷の大名たちにもカイドウとの戦いで力を貸してくれてありがとう、とお礼を言いたいので、明日しのぶに提案してみようと思う。

 

 

 

 9年目:春part2

 

 しのぶに話をしようと思った矢先、ワノ国全土を揺らすほどの衝撃の事実が齎され───今のワノ国は歓喜と激昂、そして困惑の只中にあった。

 

 と言うのも、俺は父上から話でしか聞いたことがなかったのだが、オロチの前のワノ国の将軍───詰まるところ俺の祖父に当たる、父が病で亡くなってしまった、と語っていた『光月スキヤキ』が、オロチの手で城の地下深くに幽閉されるという形で生存していたことが発覚したのだ。

 

 事の発端はお庭番衆の今後を一任させて貰えないか、と俺に嘆願して来たしのぶが、福ロクジュを筆頭に彼らを詰問するように今後の身の振り方を問い質していた時のこと。

 一人の忍びがオロチに味方していたことを嘆くように、その後悔の念を吐き出すように……お庭番衆にとっても秘中の秘だった幽閉されているお爺々(じじ)様の件をしのぶへと告げ、その言葉に驚愕しつつも罠の可能性を考慮してイヌたちと共に指定された場所へ向かって───そこでオロチが斃れたことで満足に食事も与えられず、今にも死んでしまいそうな状態で牢の中に放置されている痩せ細ったお爺々様を見つけたことが全ての始まり。

 

 病で斃れたと言われていた先代将軍が生存していた一報は、矢文となって即座に都のみならず各郷へも伝達され、復興作業に勤しんでいたヤスさんたち大名衆が一時その手を止めて、今も早馬にてこの城に向かって駆け付けて来ているほどの急転直下の事態となっていた。

 当然ながらその事実を知らされた都は大混乱に陥って、今や重篤のお爺々様の身を案じる者たちやお爺々様の件を隠蔽していたお庭番衆たちを責める者たちで溢れ返っており……更には普段からそんな事態を収拾させる役目を買って出ていたしのぶが、怒髪天を衝く勢いで福ロクジュに詰めてしまっていることも相まって、とてもではないが軽く各地を歩き回ってみようなんて言っていられる状況ではなくなってしまった。

 

 取り敢えず俺の方からも少しでも民衆が落ち着けるように色々気を回しているが、こればかりはお爺々様本人の口から説明して貰う以外に解決は叶わないだろう。

 当のお爺々様は未だに意識を失ったままなので今は目が覚めるのを待つしかないが……事態の解決と、何よりもお爺々様の体調が少しでも良くなるように、一日でも早くその意識が戻ることを祈るばかりである。

 

 

 

 9年目:春part3

 

 気を揉んでいても仕方ないので、イヌたちが忙しなく動き回っていることもあり鍛錬の相手がいなくなってしまった、と嘆くヤマトに稽古を付けることになった。

 ヤマト自身は元々俺に弟子入りを志願するつもりだったらしいが、我らを差し置いてモモの助様の一番弟子の座を掠め取ろうとは笑止千万、とイヌたちに言われたようで、イヌアラシさんから一本取るまでは、と俺への弟子入りを見送っていたとのこと。

 

 何だそれ、と話を聞いていて思わず笑ってしまったが、イヌたちなりに俺の体を気遣ってのことと、カン十郎の件もあってヤマトが本当に味方であるのか見極めるための期間でもあったのだろう、と考えれば合点がいった。

 ヤマトが一人で城内を歩き回っていたことと当のヤマトから聞いている普段の鍛錬での様子を鑑みるに、既にイヌたちから一定以上の信頼は得られたのは間違いないと思えたので……それなら問題ないだろう、とまだイヌアラシさんから一本取れてないと渋るヤマトを秘密の特訓と称して懐柔───もとい説得して、今日は日がな一日ヤマトの指導に熱を上げていた。

 

 鬼ヶ島を出る時から目にしていたためある程度予想していたが、やはりと言うべきかヤマトの得物は俺たちみたいに刀ではなく金棒で、一見すると剣術を収めている俺では教えられることは限られていそうにも思えるだろうが……忌々しくも、俺の脳裏にはその扱いの最高峰とも言える仇敵(カイドウ)の動きが刻み付けられている。

 俺はもちろんヤマトからしてみても不服だとは思うが、それでも強くなりたいのならばこれ以上がないと言うのも事実なので……強くして欲しいと願うその意思を尊重して、四の五の言わずにヤマトの稽古に精を出した。

 

 幸いヤマトの才能には目を見張るものがあり、何より覇王色の覇気の兆しも見えているので、このまま力を付ければ二十年後の戦いで大きな戦力になることは間違いない。

 見様見真似だけど、と言って放ったカイドウの代名詞とも言える雷鳴八卦(あの技)を見た時は確かに額の傷が疼いたし──────本当に、将来が楽しみだ。

 

 

 ただ、ワノ国には裸の付き合いがあるんでしょ? といきなり風呂場に突撃してくるのはやめてほしい。

 今はまだ子供だから構わないが……後々になってもその考えのままと言うのは流石にまずいので、今度しのぶにその辺りの常識を叩き込んで貰うか、と普段の数倍は騒がしかった湯浴みの時間を思い返し密かに思うのだった。

 

 

 

 9年目:春part4

 

 お爺々様が目覚められた。

 数日ほど前に峠は乗り越えました、としのぶから報告を受けていたので不安はなかったものの……それでも心配していたのは確かなので、一先ずは無事に目覚められて良かったと心から思う。

 

 目覚めたばかりと言うことで、医師の判断もあってお爺々様とは軽い挨拶程度の話しか交わせなかったが……別れ際にワノ国をオロチとカイドウの支配から救ってくれてありがとう、と涙ながらに頭を下げられたので、自分だけの力ではなく父や母、錦えもんたちここにはいない他の家臣たち───何よりも、今まで耐え忍んできたワノ国の人々たちのお陰で今この瞬間があるのです、と言えば、おでんの息子とは思えない、とここでも余計号泣させてしまうことになってしまい思わず苦笑いを隠せなかった。

 

 お爺々様は政まで俺に任せて負担を増やすつもりはない、と笑うと、城内で待機してるヤスさんたち大名衆と後日話をしてこの騒動を収めると言ってくれたので、これが将軍になる人の器かと感嘆するのと共に、出来ることなら反発する民衆たちを説得して貰い、牢屋敷に囚われてるお庭番衆の忍びたちを戦力としてこちらに引き込めることを願うばかりである。

 

 そして政が一任出来ると言うなら───カイドウたちから受けた傷が完治したので、俺もそろそろ日課の鍛錬を再開して行こうと思う。

 二十年後の戦いに向けて今の俺がやるべきことは山積みであり、まずは天羽々斬と閻魔が扱う覇気───覇王色の覇気を彼らの補助なしで完全に制御出来るようになることが目下の課題である。

 思い返してみれば父上だけではなく、ロジャーや白ひげもこの覇気を武器にまとわせて戦っていたので、目指すべき頂の景色には事欠かないのが幸いと言ったところか。

 

 それと白ひげの件で思い出したのだが、今回のカイドウが起こした一連の出来事は父上と兄弟の盃を交わした白ひげと、彼の船に残った父の家臣でもあるイゾウには伝えて置いた方がいいと思ったので、ワノ国の情勢が落ち着いたら一度白ひげの下へ顔を出す旨を皆に伝えようと思う。

 ついでに俺のビブルカードを作って、余裕があったら二人だけではなく外海で父上や俺と関わりのあった人たちに渡すことを検討している旨も忘れずに。

 

 ワノ国は鎖国国家だから、俺たちに何かあっても今回のように外海にいては知る術がないし、自分の預かり知らぬところで父や俺に何かあれば、イゾウたちからして見れば悔やんでも悔やみ切れないだろうからな。

 その時はイヌかネコのどちらか、余裕があれば両方を連れてロジャーの船に移る時に勝手に白ひげの船を抜け出したことを謝らせよう……白ひげは仁義を重んじる海賊だし何より父上の義兄弟なのだから、光月の家臣を名乗るならそう言うところはしっかり言い含めて置かなければ示しが付かない。

 

 白ひげ相手にしどろもどろになるイヌネコたちを脳裏に思い浮かべ笑みを溢して───ついに長いようで短かかった春が終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 新世界、フードヴァルテン島にて───

 

 

「───ウォロロロ。まだまだ力は衰えていないようで安心したぜ、白ひげ」

 

「おれのナワバリで暴れるとはいい度胸だが……たった一人で戦争でも始める気か? カイドウ」

 

 『四皇』と称される二人の大海賊が、互いの得物を手に真正面から睨み合い言葉を交わしていた。

 

 一人は海賊王亡き今、この新世界で最強と謳われる海賊───『白ひげ』エドワード・ニューゲート。

 相対するは、この世における最強生物と恐れられる海賊───『百獣』のカイドウ。

 

 『四皇』同士の激突と言う、世界の均衡が崩れるかもしれない瞬間に誰もが固唾を呑んでその光景を見守る中……白ひげはカイドウの覇王色に充てられて気絶した部下(家族)たちを後目に、部下も連れず単身で自分に挑んで来たカイドウに怪訝そうな表情を隠せないでいた。

 

「少し見ない間に随分腕を上げたようだが、それでもお前一人でこのおれに勝てるとのぼせあがってる訳じゃねェだろ?」

 

 出会い頭の覇王色をまとわせた薙刀と金棒の衝突を思い返しながら、白ひげは僅かに痺れの残った手を固く握りながら何が目的だ? とその真意を問い質す。

 並みの海賊ならば一目で震え上がるほどのその眼差しを前に、しかしカイドウは一切怯むことなく楽しそうに笑みを浮かべながら言葉を返した。

 

「偶々近くを通ってな、あいつら親子(・・・・・・)と関わりを持ってたお前には一応知らせておこうと思ってよ」

「……親子だと?」

 

 ウォロロロ、と上機嫌にその身体に刻まれた傷跡を撫でながら語るカイドウに、その刀傷を前に親子と言えば、と白ひげの脳裏を一目散に過ぎったのは──故郷に帰ったとロジャーより知らされた、かつて兄弟の盃を交わした義弟とその息子の姿だった。

 

 白吉っちゃん、白ひげ! と自身の名を呼ぶ親子と過ごした過去を想起しながら……白ひげは何故カイドウが度々自身のナワバリを襲撃しまるで見せつけるかのようにその刀傷を晒すのか、その測りかねていた真意を一瞬の内に察してしまい───

 

 ぶちり、と血管が切れる音と共に、白ひげの身体から途轍もない覇王色が溢れ出しカイドウを襲う。

 

 

「てめェ───おでんとモモの助に何をしやがった!?」

 

 

 赫怒の炎が燃え上がり、その怒りを表すように振り上げられた拳に世界を滅ぼす力(グラグラの実の能力)が宿る。

 そんな白ひげの鬼のような形相を前に、待ってました、と言わんばかりに更に笑みを深めたカイドウが同じく悪魔の実の能力を使い人獣型へと変貌を遂げて、覇王色をまとった八斎戒を振り被り迎え撃たんとする。

 

 

「カイドウッ!!」

「雷鳴八卦!!」

 

 

 天を割り、大地をも揺らす互いの一撃がぶつかり合って───この激突を皮切りに、三日三晩と続く後の歴史に語り継がれる『四皇』同士の戦いが幕を開けた。

 

 






原作でカイドウがいつの時点で四皇と呼ばれるようになったのか見つからなかったので、一先ず本作では現時点で四皇扱いとさせていただきます(既に判明してたらごめんなさい)

ちなみに白ひげとカイドウが戦ってる場所は、原作で茶ひげが襲っていた白ひげの縄張りの島です。

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