夢は天下無敵の大将軍 作:金匙
9年目:夏
朝食までの間に二刀流の型の確認ついでに軽い鍛錬を行っていると、しのぶに頼まれたのかはたまた一緒に食べようと探し回っていたのか、朝食の握り飯を運んで来たヤマトが俺の鍛錬を見て神楽舞みたいだね、と感想を溢しながら、ずっと体を動かしていて疲れないの? と休憩一つ取らない俺を見て、病み上がりなんだから無理しないようにと苦言を呈されてしまった。
そんなヤマトの言葉に大丈夫だよと苦笑しつつ、そう言えばとカイドウと戦う以前の自分を思い返して見れば、天羽々斬と閻魔を数回振っただけで息切れを起こしていたんだよな……とほんの少し前の出来事なのに、今となっては随分時間が経ってしまったかのような感覚を抱かされた。
あの時と今で何が違うのかと聞かれれば、当然ではあるが『透き通る世界』を自在に使えるようになったこととその影響で覇王色の覇気も扱えるようになったことが最たるものだろう。
父上から教わった体の隅々まで覇気を流す意識と、正しい呼吸と正しい動きに必要なモノ以外の余分を捨てること───そうすれば『透き通る世界』に入ることが出来て息切れとは無縁の疲れ知らずの肉体になるので、試したことはないがその状態であれば朝から晩まで動き続けることも可能だと思う。
ヤマトはそんな俺の話を難しいよ〜、と顔を顰めながら聞いていたが、錦えもんたちやヒョウ五郎親分たちも『透き通る世界』には懐疑的だったので、こればかりは俺がおかしいだけなので気にしなくていいとヤマトには言葉を返しておいた。
そう言う意味では当時の俺でもよく分からなかった『透き通る世界』を、俺から聞いただけでそこに入る糸口をぼんやりと掴んでいた父上はやっぱり凄いなと思ってしまうし、慣れて来たとは言えまだまだ天羽々斬と閻魔に覇王色を流して自分の手足のように扱うことは出来ていない身も加味すれば、父の背中はまだまだ遠いなと実感するばかりである。
幸い二十年後の未来に向かった父との再会まではたっぷりと時間があるので、次に会う時までにはその隣に並べるような強い侍になって、父上や錦えもんたちを驚かせられるよう精進あるのみだ。
ヤマトも俺の言葉を聞いて頑張るぞー! とやる気を出していたので、まずは流桜───もとい覇気の習得からだなと言って、しばらくは流桜の扱いが上手い河松やヒョウ五郎親分当たりにヤマトの覇気を鍛えて貰おうと思う。
それとイヌアラシから一本取るぞと意気込むヤマトの姿が、かつてアシュラから一本取ろうと四苦八苦していた昔の自分を見ているようで少しだけ懐かしい気持ちになったので、今度時間がある時に久し振りにアシュラと打ち合い稽古でもしてみようかとも思った。
9年目:秋
覇気の習得のためヒョウ五郎親分たち侠客一家の元に預けたヤマトと、お爺々様としのぶの預かりになったお庭番衆の処遇がどうなったのか気になる日々を送っていると……お爺々様から光月の先祖が作刀したという刀───二代鬼徹の捜索を頼まれた。
二代鬼徹と言えば天羽々斬や閻魔と同じ大業物の一つに数えられる名刀であり、刀の位列に疎い俺でも鬼徹一派の刀の噂は耳にしているほどの悪名高き妖刀でもある。
そんな刀を何故将軍家たる光月の先祖が作刀出来たのか驚いていると、お爺々様から自分も趣味で刀鍛冶をしていることと、何を隠そうお前とおでんが使っている天羽々斬はわしが作刀した最高傑作よ、と明かされ目玉が飛び出るほどの衝撃を受けたが……光月家が元々は石工の一族であることを考えれば趣味で刀鍛冶をしていることも別段おかしな話ではなく、聞けば父上にも石工としての才能があった様子なので、そう言う歴史もあって先祖が作刀した二代鬼徹を代々受け継いで来たとのこと。
しかしオロチに地下牢に繋がれた際にカイドウの部下が持ち出したのか二代鬼徹の行方が分からなくなっており、しのぶから刀の『声』を聞くことが出来る俺なら力になれるかもしれないと聞いたことが事の発端だった。
鬼徹一派の妖刀ともなれば当然『声』も聞こえるとは思うので、カイドウたちが国外に持ち出していなければ見つけることは可能だと言えば、国宝でもあった秋水が紛失したこともありこれ以上ワノ国の宝を失ってしまえばご先祖様たちに顔向けが出来ないからと藁にも縋るような思いで捜索を頼まれ、そう言うことであれば任せて下さいと快諾して今に至る。
二代鬼徹の行方は皆目見当も付かないためワノ国の隅々まで探し回ることになり相当な時間がかかることは間違いないが……元々白ひげたちの所には各郷の復興作業が終わって落ち着いて来たら向かおうと思っていたので、鍛錬以外の時間は城内で暇を持て余していた今の俺にはむしろ渡りに船だった。
それに帰郷してからというもののオロチとカイドウのせいでゆっくりこの国を見て回ることも出来なかったし、この機会に父上の日誌に沿ってワノ国を漫遊してみるのも悪くない。
政はお爺々様とヤスさんたちが請け負ってくれているし、先ほども触れたが城の中にいても鍛錬以外に特にやることもないので、一度しのぶと家臣たちに今回の件と併せて話をしてみようと思う。
確か今はイヌたちが父に代わって臨時で大名不在の九里をまとめているという話だったし、俺も九里の復興作業が何処まで進んでいるのか気になるので招集場所はおでん城で決定だな。
9年目:秋part2
都で九里へ向かう準備をしているとワノ国では珍しい役人のような格好をした男にオロチの所在を尋ねられた。
今のワノ国でオロチがどうなったのか知らない人間はいないだろう、とオロチと協定関係を結んでいる外海の人間がいると福ロクジュからしのぶを介して聞いていたこともあり、捕まえて情報を吐かせようとしたら案の定と言うべきか逃走しようとしていたので問答無用で斬り捨てた後に牢屋敷に繋ぐようしのぶに連絡しておいた。
今頃はしのぶたちに尋問されている頃だろうかと思考しつつ、カイドウが去ってから白舞だけでなくワノ国のあらゆる港を封鎖しているため、今のワノ国は鯉に船を引かせる方法以外では外海から人が入れないようになっており……加えてその方法も今は各郷の大名たちが逐一目を光らせているのでとても単身で入国出来るはずがないのだが、と疑問が募る。
オロチと協定関係にあったのなら俺たちの知らない入国方法があっても不思議じゃないかと一応の納得はしたものの、福ロクジュたちも流石にそこまでは知らないとのことだったので今はあの役人が素直に情報を吐くのを待つか自分たちで探していくしかないのが現状だ。
一つ気になる点を挙げるならあの役人は常人離れした脚力で空中を足場にする歩法を体得していたので、体に負荷がかかるため長距離の移動こそ困難ではあるが、ワノ国の近海に船を止めてそこからあの歩法で入国して来たと考えれば大名たちの警備を掻い潜って入国出来たことにも辻褄は合う。
まあ問題は、実際に
九里でイヌたちに話を通したら俺も二代鬼徹の捜索がてら探してみるが、ワノ国の防衛体制を整えるためにも一刻も早い事態の解決を願っている。
9年目:冬
二代鬼徹の捜索にヤマトも加わることになった。
どこから聞いたのか、俺が捜索がてらワノ国を漫遊する話を耳にしたヤマトが、おでん城に到着するや否やイヌアラシから一本取った体勢のまま、これで僕もモモに付いて行ってもいいよね! と満面の笑みを浮かべて出迎えたのだ。
ヒョウ五郎親分から覇気を習っているんじゃなかったのか? と問えば、どうやらたった数ヶ月で覇気の基礎は覚えたようで、その勢いのままイヌアラシと打ち合い稽古をしてどうにかこうにか一本もぎ取ったらしい。
ヤマトの才能には前々から目を見張っていたがこの短期間でそこまで成長したのか? と思わずイヌに視線を向けると、一本取られたことに唖然としつつも事実だと言わんばかりに確と頷いていたので本当にヤマトの才能には驚かされてばかりである……俺なんて見聞色覚えるだけでも数え切れないほどレイリーに叩かれまくってそれでも半年以上かかったのにな。
二人の稽古を見守っていた河松曰く、俺がアシュラから一本取った時のように二度は通じぬ奇策だったとのことなので、こればかりはか細い勝利の糸を無理矢理手繰り寄せたヤマトを天晴れだと褒めるしかない。
イヌはモモの助様の一番弟子の座がッ!? とよく分からないことで悔しがっていたが、勝利を重ねて油断していたのもあると思うので、唯一指摘すべきことがあるなら稽古の場とは言え常在戦場の心得を忘れるなと言うくらいのものだった。
上手く慰められたかは定かではないが俺自身もそれを忘れてクイーンから思わぬ反撃を貰った訳だし、また一歩成長したな、とイヌの肩を叩いてやればモモの助様! と口惜しそうな姿から一転して目を輝かせて喜んでいたので良しとしよう。
河松がその後ろでやれやれと首を振りながらイヌを見て呆れていたが、そんなちょっと抜けてる部分も可愛い所なので許してやってほしい。
◇◇◇
世界政府の本拠地たる聖地マリージョアのパンゲア城内にて───五老星と称される最高権力者の五人の老爺が、頭を抱えるような体勢で円卓を囲み言葉を交わしていた。
「これで何度目だ、四皇同士の衝突は?」
「白ひげだけに飽き足らず、この短期間で他の二勢力にまで手を伸ばすとは……」
「金獅子の如く
「センゴクも手を尽くしている様子ではあるが、如何せん四皇を同時に相手取るにはどうしても戦力不足は否めぬか」
「加えて四皇以外の海賊たちの動向にも気を配らねばならない現状では、王下七武海を動かすことも主力の鷹の目が赤髪に付きっきりと来てしまえば尚更と言うもの」
「「「「「…………カイドウめ」」」」」
五老星の話の中心は、当然ながら世界の均衡など知ったことかと言わんばかりに各地で際限なく暴れ回る怪物───四皇・百獣のカイドウ。
突如としてナワバリにしていたワノ国を離れ海賊海軍問わず強者と見れば戦いを仕掛けるカイドウは、今や世界最強の男たる白ひげに迫るほどの力を身に付けて新世界の各地に戦争の火種を手当たり次第にばら撒いており、その圧倒的な戦闘力もさることながら空中要塞と化した鬼ヶ島のことも相まって正しく災害そのもので、五老星をして手が付けられない存在となっていた。
「ワノ国を手放してまで何が目的だと言うのだ……?」
何より不可解なのは古代兵器が眠る鉄壁の要塞たるワノ国を、何故見す見す手放す様な真似をカイドウが取ったのかと言うことであり……世界的に見ても重要な位置付けにあるワノ国を、カイドウがその価値を知らぬが故に放り出したとはとてもではないが五老星には考えられなかった。
ならばこそ、今のカイドウの行動にはなんらかの意味があるはずだ、とここ数ヶ月の間に海軍元帥のセンゴクも交えて幾度も会議を重ねて来たが、余りにも一貫性のないカイドウの行動からどれだけ考えても結論が出ることはなかった。
「……しかし派遣した
ワノ国で仲介人を介して行われていた武器の輸出がパッタリと途絶えたこともあり、怪訝に思ったCPがワノ国に諜報員を向かわせたとのことだが……未だに五老星の耳に帰還の報告が届いていないことが全てを物語っているのは明白。
例えワノ国で異常事態が起こっていたとしても、カイドウと言う脅威が介在していない今は古代兵器諸共ワノ国を世界政府の手中に収める絶好の機会に他ならず、五老星としてもこのままワノ国を放置しておくつもりは毛頭なかった。
「CP-0を向かわせそれでもダメだと言うなら───……その時は
脳裏に世界の王たる主の姿を思い起こしながら、五老星は古代兵器と忌々しき
そうなればゴール・D・ロジャーの時のような過ちを繰り返すこともなく、古代兵器があればカイドウたち海賊のみならず世界政府に楯突く他勢力への大きな抑止力にも繋がるのだから、それを思えばカイドウが新世界で暴れ回っている状況もいい隠れ蓑になって悪くないのでは? と考えてすらいた。
その根底には何が起ころうと自分たちの命が脅かされることはないという絶対の自信があり、四皇の関与していないワノ国など侍と言う未知の戦力がいた所でどうとでもなると高を括るのは、世界政府が抱える戦力や世界貴族と言う彼らの立場から見ても道理であり───
「全てはあの方の御心のままに」
───故にこそ、五老星はカイドウがワノ国を自ら手放したのではなく、手放さざるを得なかったのだと言う事実に気づけない。
同時にカイドウに並ぶ怪物が既に誕生していて、その牙を今もなお研ぎ澄ませ続けていると言うことも……それを思い知るのは、彼らが生涯癒えることのない傷跡をその身に刻み付けられてからのことなのだから。
この時の五老星は───世界貴族の勢力は、まだ太陽に近づき過ぎた者がどのような末路を辿るのか知る由もなかった。