夢は天下無敵の大将軍   作:金匙

21 / 29
21:思惑

 

 

 10年目:春

 

 二代鬼徹の捜索はまず花の都から鈴後に向かい、そこから白舞に南下して行って最後には希美から都に帰って来るようなルートで進もうかという話になった。

 

 スマートタニシで定期的にお爺々様やしのぶに連絡することと万が一の時に落ち合う場所の確認など、俺自身の立場を考えれば仕方ないことではあるが方々から身の安全を第一にと耳にタコが出来るほどの心配のお言葉を貰いながら、復興作業や防衛体制強化の件も相まって家臣たちの手が離せないこともあり、今回の二代鬼徹の捜索は俺とヤマトの二人だけで進めて行くことが決まった。

 俺としては友人と二人旅と言うのは肩肘張らないですみそうで正直ありがたいところではあるのだが、当のヤマトが家臣たちからモモの助様のことを頼んだぞ、と言われた影響でモモは僕が守るからね! と物凄いやる気に満ち溢れてしまっているため、とても気楽な二人旅とは行かなそうな点が少しばかり気がかりではある。

 

 また何故鈴後から捜索を始めるのかと聞かれることが多く、もしかして何か心当たりでもあるのですか? と言われたが別にそう言う訳ではなくて……単純に今回のカイドウとの戦いで命を落とした侍たちの供養を、ワノ国の文化に沿って鈴後でして上げたいと思ったからだ。

 聞けば父が無事に九里に帰って来られたのも彼らの尽力ありきのことだと言うし、何より俺自身も力を貸してくれる彼らがいたからカイドウとの一騎打ちに集中出来たこともあるので、せめて感謝だけでも伝えたいと思って鈴後を最初の目的地に設定したのが主な理由で……後は鈴後には名刀と呼ばれる刀がたくさんあるので、大名たちが多忙なこの時期に秋水の時みたいな墓荒らしが起きない様に目を光らせておこうと言う意味も少しだけ。

 

 今回の二代鬼徹の捜索を機に秋水も一緒に探してみるつもりではあるが、当時オロチとカイドウの支配下でありながらも動ける人材を総動員して捜索に当たった秋水が今更見つかるとは思えないので、やはり外海に持ち出されてしまった線が濃厚だと個人的には考えている。

 

 オロチが倒れ一時とは言えカイドウもワノ国から手を引いた以上、刀神様がお怒りだと各郷で頭を抱える人たちは少なくなったが……それでもあの刀がワノ国の神器として長い間民たちの心の拠り所になっていたことは間違いなく、今もその紛失を嘆く声が各郷で上がっていることは耳にしているので、出来ることならリューマの遺体共々見つかることを祈るばかりだ。

 

 

 10年目:夏

 

 花の都を発ち無事に鈴後に着いたものの、季節に関係なく常に雪が降り積もる極寒地の鈴後はヤマトには相当応えたようで……侍は寒いなんて弱音は吐かないんだ、と強がりながらも言葉とは裏腹に体が震え上がっていたので、薄手の着物と袴だけでは寒くて当然だろう、と父の関係者への挨拶回りも兼ねて鈴後の呉服所へ赴き羽織を購入して渡しておいた。

 ヤマトは光月の家臣ではないが光月家の預かりではあるので、光月の関係者と一目で分かるように錦えもんたちが着用しているのと同じような三日月の模様をあしらったものにしてみたのだが……それが余程嬉しかったのか寒空の中ヤマトが号泣してしまい、宥めるのに随分苦労した。

 お陰様で俺まで新しい着物を買う羽目になってしまったが、あれから暇があれば羽織を抱えて口元を緩ませるヤマトを見ればそれも些細なことだろう。

 

 ヤマトがカイドウの子供であることを知るのは俺と家臣たちを除けばお爺々様やヤスさんたち大名衆にヒョウ五郎親分と僅かではあるが……それでもヤマトの容姿でカイドウとの関係を懸念する住民たちも少なくはないので、元々ヤマトは味方だと方々に認知してもらう意味も込めて店主に頼んで羽織を仕立てて貰ったため、これを機に住民たちのヤマトを見る目が少しでも良いものに変わってくれることを願っている。

 ヤマト自身は縁を切ったとは言え自分がカイドウの子供であることは間違いないので、素直に打ち明けて一から信頼を積み上げて行くことも考えていたようだったが……今のワノ国の状況ではそれも難しいと思うので打ち明けるにしてももう少し時期を見てからと言うのが俺やしのぶの見解であり、しばらくは住民たちの様子を見ながら機会を伺っていこうと思う。

 

 供養の方は鈴後大名の牛マルさんと相棒のオニ丸が手伝ってくれたことで予定よりも早く終わったので、今は二代鬼徹の捜索とヤマトの鍛錬に力を入れながら時折鈴後の復興作業を手伝う日々を送っている。

 二代鬼徹の捜索は『声』が聞こえないこともあって難航しているがヤマトの鍛錬は順調で、ヒョウ五郎親分から師事を受けてイヌアラシから一本取っただけあり覇気の基礎は申し分なく、後は戦闘スタイルの確立と見聞色よりも武装色の方が伸びが早いので武装硬化の習得も視野に入れつつ、覇王色の覇気を自覚させ制御出来るようになることを目下の課題としているが……正直この分なら鈴後を発つ頃には武装硬化と覇王色の自覚くらいなら出来るのではないか、と思ってしまうほどにヤマトの才能は凄まじい。

 

 打ち合い稽古ではまだまだ未熟で荒削りな部分も目立つが、日を追うごとに鋭くなっていく金棒捌きには『透き通る世界』に入っていないとは言えヒヤリとする場面も増えて来たので、俺もうかうかしてられないなと自分の鍛錬に集中出来て良い刺激になる。

 俺自身もまだまだ覇王色を父上のように自在に扱えるまでには至ってないので、より精進あるのみだとヤマトに倣って気合いを入れ直さなければ。

 

 

 10年目:秋

 

 ヤマトが悪魔の実を食べて能力者になってしまった。

 しかもカイドウと同じ動物(ゾオン)系で、牛マルさん曰くワノ国の伝承に残ってる『大口真神』と呼ばれる姿にそっくりとのことだから恐らくは幻獣種と言う───何から何までカイドウと同じで、当のヤマトはワノ国と関わりのある能力者になれて喜びたいのに素直に喜べないと言わんばかりの複雑そうな表情を浮かべていたのが印象的だった。

 

 事の発端は白舞の潜港がオロチとカイドウの手で改造されていた、と定期報告も兼ねてスマートタニシでしのぶと連絡を取り合っていた時のこと。

 見知らぬ船が滞在していた痕跡が多数あったとしのぶから伝えられたため、詳しい話を聞こうと鍛錬を切り上げてヤマトから目を離してしまったのが全ての始まり。

 話が長くなると予感したヤマトが先にご飯食べてるね! と言って町に戻り、その道中で常冬の地でありながら柿のような果物が実っているのを発見して、その唐草模様が悪魔の実の特徴だと知らなかったヤマトが小腹を満たすために口にしたことで───真っ白な毛並みの神秘的な狼へと姿を変え、混乱したヤマトがお爺々様も交えたしのぶとの会議の最中に乱入して来たことで全貌を知ったという訳だ。

 

 一先ず潜港の件はそろそろ鈴後を発って白舞に向かおうと思っていたのでその時に改めてヤスさんとも話をすることになったが、その直前にヤマトが能力者になってしまうとはあまりにも想定外の事態だ。

 しかも動物(ゾオン)系の悪魔の実は制御出来ない内は感情の昂りに応じて姿がころころと変わってしまうため、ヤマトの鍛錬に支障をきたすのは明白であり……俺は覇気や体捌きを教えることは出来ても、能力者ではないので獣型から人型への変化の仕方や動物(ゾオン)系と言えばの人獣型への成り方もヤマト自身で感覚を掴んでもらうしか解決の手段はない。

 氷や冷気を操るという分かりやすい能力を宿しているようなので狐火流を習得した経験を活かせそうなのは幸いと言うべきだが……一先ず今はヤマトがその感情に折り合いをつけるのを待つしかないだろう。

 

 能力者になること自体を忌避している様子は見られなかったので、少しでも鍛錬に前向きになれるように明日は好物のおでんでも作ってあげようと思う。

 

 

 10年目:冬

 

 能力に慣れるための鍛錬の一環として獣型のヤマトの背に跨りながら鈴後を発ち、時折襲ってくる狒々やワニザメ相手にヤマトに実戦経験を積ませつつ移動してようやく白舞に到着することが出来た。

 想定よりも時間がかかってしまったのはヤマトがまだ獣型に慣れていなかったことと、幻獣種と言うだけあり能力の感覚を掴むのが難しかったことが要因だろう。

 白舞に着いた今でも思ったように能力を制御出来ずいきなり白狼の姿になってしまうことが度々見受けられるが……それでも何とか獣型の動作自体には慣れたようで普通に生活する分には問題ないくらいには成長してくれたので一安心だ。

 

 取り敢えずヤマトには能力の制御を第一に鍛錬に励むよう指示しているので、白舞にいる間はもっぱら覇気よりも能力の方を重点的に鍛えて行くことになるだろう。

 せっかく覇気の方がいい感じだったのに、と嘆くヤマトには申し訳ないが、力むだけで一々獣型になっていては鍛錬どころの話ではないので、まずはそこを改善しないとどうにもならないぞと言えば、本人も痛いところを突かれたような表情で最後には納得してくれたので良しとする。

 

 その間俺が何をするのかと言えば当初の予定通りヤスさんと潜港の件について話をすることであり……実際にヤスさんから話を聞いてみたところ、後日花の都で各郷の大名たちも交えて会議をして、将軍のお爺々様の判断次第ではあるが潜港も他の港のように封鎖するか、最悪解体することになるかもしれないとのこと。

 俺としてはカイドウの一件が収まって間もないのに新たな厄介事が舞い込んできても困るのでヤスさんの言葉に特に異論はなかったが、ヤスさんからしてみれば歴史ある港の一つを解体するかもしれないと聞かされたら大名として堪えるものもあるだろう、と心中を察してしまい手放しに賛同することも出来なかった。

 

 お爺々様ならヤスさんの意を汲んで解体まではしないのでは? と思う反面、潜港まで手を回せる人材がいなければ敵の侵入を許してる以上、解体は将軍として妥当な判断だとも思ってしまうのでやるせない気持ちになる。

 ヤスさん率いる白舞の武士団もカイドウとの戦いで随分人員が減ってしまい、更にその大半が白舞の哨戒と復興作業に当たっていることも加味すれば潜港までヤスさんの手が回らないことは必然であり……今は頭の回る期待の新人が加わったとかで以前より持ち直して来ているとのことではあるが、それでも厳しいと言わざるを得ないのが現状だ。

 

 ヤスさんは父だけでなく俺にとっても大恩人なので、俺で良ければいつでも力になることを伝え今日は別れたのだが……何故かヤスさんからはお前はもっと休むことを覚えろと叱られてしまい、明日は軽い鍛錬だけに済ませてヤマトに白舞を案内するつもりですよ、と答えてもヤスさんからそう言うところだとため息をつかれ呆れられてしまった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「カイドウさん、ハナフダの奴からです」

例の物(・・・)は手に入ったんだろうな?」

「ええ───今回は随分派手に暴れたみたいで、二つも」

「ウォロロロ、景気がいいじゃねェか!」

 

 キングの持つ二つの悪魔の実(・・・・)を視界に収めながら、カイドウはかつて敵対関係にあったものの今や自身を海賊王にすべく百獣海賊団の協力者となった男の姿を思い浮かべ、酒を浴びるように口に含んでは上機嫌に体を揺らしていた。

 

「白ひげにリンリン、王直、銀斧……昔馴染みの連中のお陰で随分この力にも慣れて来た。ハナフダからの貢ぎ物も溜まってきたし、そろそろ頃合いだな」

 

 暴れに暴れたこの二年間は、百獣のカイドウという大海賊の災害の如き脅威を新世界のみならず世界全体に轟かせるに至った。

 今やその懸賞金は世界最強を謳われる白ひげに次ぐ額まで跳ね上がっており、ワノ国を離れて以降カイドウが叩き潰した新世界の強者たちは数知れず、四皇のナワバリであろうとも平然と暴れ回り甚大な被害を齎して鬼ヶ島に帰って行く様を見れば、その金額の上がりようにも納得せざるを得ないだろう。

 

 巷ではカイドウが海賊王になるためについに動き出したと噂されているが、カイドウ自身には今海賊王を目指すつもりは更々なく───その目が見据えているのは二年前から変わらずただ一つのみ。

 

「───二十年なんてのはあっという間だぞ、キング」

 

 光月モモの助との決戦、それだけが今のカイドウの原動力であり───白ひげやビッグ・マムたち(ロックスの残党)との戦いは全て、その決戦のための踏み台でしかなかった。

 彼らとの戦いを経て新しい力(覚醒)の感覚は掴めた、であれば次にやることはおでんやモモの助の家臣たちのような優秀な戦力の確保に他ならない。

 

「数を揃えても意味がないことはおでんとの戦いで理解した。必要なのは量よりも質だ、特にあの侍たちを相手取るにはお前やクイーンのような頑丈さとタフさが必要になってくる」

 

 千を超える軍勢を以ってしてもおでんたちの進撃を止めることは叶わず、加えておでんとモモの助が特殊な覇気を体得していたことを考えれば、覇気の扱いでは相手に分があるのは自明の理。

 故にこそカイドウ自身の理念には反するが……彼が目指す最強の軍団の定義は既に定まっていた。

 

動物(ゾオン)系の能力者の軍団を作る───クイーンを筆頭に動物(ゾオン)系の悪魔の実の量産を進めさせろ、ハナフダからの貢ぎ物があればサンプルには困らねェはずだ」

 

 動物(ゾオン)系の悪魔の実であれば量産出来るかもしれない、そう言っていたクイーンの言葉を思い出し笑みを深めたカイドウは、自身が能力者として新たな段階(ステージ)に到達したことも相まってか全員が能力者の海賊団も悪くないと考えていた。

 

「……そういやクイーンの奴が、こっちに引き込みたい人材がいるからカイドウさんの許可を貰いたいとか言ってたな」

「ウォロロロ、お前に一任すると伝えておけ」

 

 そう言った研究方面に疎いカイドウは一々自分の許可を取る必要はないとキングに伝えると、愛用の瓢箪を片手に少し風を浴びてくると言葉を残し龍の姿となってドクロドームの屋上へ昇っていく。

 

 

「───今日は満月か」

 

 雲一つない夜空から差し込む月明かりを一身に受けて、カイドウの胸の傷跡が体内で燃えるように熱を帯びる。

 あの時も満月だったな、と懐かしむ様に過去を想起すれば、胸中で疼く傷跡とは裏腹にその顔には確かな笑みが浮かんでいた。

 

「そっちは順調か? モモの助」

 

 支配から解き放たれたワノ国と英雄となった宿敵の姿を思い浮かべながら、カイドウはこの二年間戦いに明け暮れながらも傷一つ残ることのなかった自身の体を見渡して、まるで語り掛けるように頭上に浮かぶ満月に胸の内を溢していく。

 

「リンリンとそのガキ共はお前には遠く及ばなかった、王直も銀斧も腑抜けてて期待外れだった……白ひげのジジイは悪くなかったがな」

 

 四皇と呼ばれる新世界を統べる大海賊たちを相手にしてなお、ワノ国から手を引いてからのカイドウの胸の傷跡は渇くばかりであった。

 久しぶりに再会したビッグ・マムは今や変わり果てた姿となって万国(トットランド)の拡大に勤しんでおり、ならばとその子供たちであればモモの助のような稀有な才能の持ち主に出会えるかと思えば……相対したのはモモの助はおろかビッグ・マムにすら及ばない半端者たち。

 

 期待外れだ、と騒ぎ立つビッグ・マムを他所にかつて所属していた海賊団の拠点のハチノスに立ち寄ってみても、そこを治めていた王直と偶然居合わせていた銀斧もカイドウのお眼鏡には適わず……今やこの海でカイドウと互角以上に渡り合えるのは白ひげを置いて他にいない現状は、カイドウにとってはモモの助との決戦に備えるための準備期間とは言えども、ワノ国の屈強な侍たちを思い浮かべて何処か物足りない感覚を抱いてしまうのは道理でもあった。

 

 しかし───

 

「───ウォロロロ、クイーンの研究が進んで来たら聖地の権力者ども相手に試してみるのも悪くねェか?」

 

 以前のカイドウであればこの渇きに耐えかねて自殺願望の赴くままに行動していたところだが……明確な未来を見据えた今のカイドウにはこの渇きすらもモモの助との決戦を思えば些細なものであり、むしろこの程度のことで昔の自分は退屈だなんだと騒いでいたのかと呆れる余裕すら生まれていた。

 

 何故なら今のカイドウにはどれだけ胸の内が渇いても必ずその渇きを満たしてくれるという宿敵への確かな信頼があって、故にこそその胸中にはかつてのように不明瞭な未来への絶望は一切存在しない。

 

「退屈しねェな、この世界は」

 

 過去の呪縛から解き放たれた最強生物は、未来を目指して進み続ける───

 

 






ハナフダ関連は本編での活動時期が曖昧なので大体オリジナルです。

ワノ国と鬼ヶ島陣営が互いに修行と研究パートに入ったので、次回からは時間が飛んでゾウに向かったりする話になると思います。
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