夢は天下無敵の大将軍   作:金匙

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22:出航

 

 

「鳴鏑!」

 

 花の都の郊外にある開けた場所で、目にも止まらぬ速度で振り抜かれた金棒が地面を抉るほどの衝撃波を生み出し、眼前で悠然と二刀を構える一人の侍を呑み込まんと雄叫びを上げて迫り来る。

 

 金棒を振るうのは鬼のような角が特徴的な、和装の上から三日月模様があしらわれた白い羽織を羽織った一人の少女。

 その齢からは考えられないほどの長身と洗練された覇気から繰り出されるその一撃は、今や『赤鞘』と謳われる光月家の家臣団の一刀に迫るほどの威力を内包しており、とてもではないが並みの侍相手に軽々と放っていいものではない。

 

「光月二刀流 肆ノ型───」

 

 しかし少女が相対するのは、光月家の家臣団を束ねるワノ国の頂点に座す光月おでんに代わる最強の侍───長身の少女を更に超えるその恵体が、その身体能力を遺憾無く発揮せんと名刀たちに業火をまとわせ眼前の一撃を迎え撃つ。

 

「───灼骨炎陽」

 

 かつてのカイドウとの戦いを再現するように、刀身から竜巻のように渦巻いた炎が迫り来る衝撃波を霧散させ宙に返す。

 朝飯前だと言わんばかりに息一つ乱さず少女を見据える侍に、しかし渾身の一撃を軽々と打ち消された少女の表情に焦燥はない。

 むしろそれでこそだ、と言わんばかりにその顔に浮かぶ笑みが深まっていく。

 

「今日こそ一本取らせてもらうよ!」

「そう簡単には取らせないさ」

 

 互いの得物が武装硬化で黒く染まる中、少女は脳裏に浮かんだ秘策を眼前の相手に悟られないよう自制して振り被った金棒と共に突貫する。

 二人が実戦に限りなく近い模擬戦を始めるようになって既に一年近く……未だに白星を上げれていない少女だったが、今回は意表を付けると断言出来る確かな作戦を以ってこの模擬戦に臨んでいた。

 

 それはここ最近になってようやくその扱いに慣れてきた、数年前に意図せず食べてしまった悪魔の実の力。

 ワノ国の守り神として伝承に残る伝説の動物(大口真神)の能力を操ることが出来るその力は、長い修練の果てに実際にその姿にならずとも常態のままでその能力(冷気)を引き出すことを可能としていた。

 

「馬幻刃」

 

 呟くように少女から吐き出された言葉と共に背中に回された金棒に霜が降りる。

 素の身体能力でも覇気の練度でもまだまだ目の前の侍には遠く及ばないのは、少女自身が誰よりも理解している。

 赤鞘の侍たちに並ぶほどの強さを持つ少女を、彼女を知る人々は口を揃えて天才だと持て囃すが、かつてこの侍の隣に立って支えることを誓った過去を思えば少女が現状に満足せずより高みを目指すことは必然であり───それ故に、他でもない光月モモの助から一本取ることは、ヤマトにとってカイドウとの決戦までに果たさなければならない至上命題だった。

 

 青天の空に神鳴が轟き、突貫した勢いと共に振り抜かれたヤマトの金棒とモモの助の構えた二刀が激突する。

 

「雷鳴八卦!!」

「桃源白滝!!」

 

 覇王色の衝突により揺れる空の下、僅かに金棒と二刀が拮抗するも……やはりその打ち合いを制したのは覇王色をまとわせた(・・・・・・・・・)モモの助だった。

 ヤマトも覇王色の制御は出来るようになったが未だに金棒にまとう術を体得していない以上、その結果はヤマト自身でも分かりきっていたことで───だからこそ、事前に金棒に仕込んでいた冷気がここでその真価を発揮する。

 

「氷諸流し……!」

「ッ!」

 

 己の得物が押し切られる前に能力を行使したヤマトが、金棒に降りた霜を固定して氷上を滑らせるかのように天羽々斬と閻魔を虚空へ受け流す。

 

「獲った!!」

 

 そんな搦め手を使ってくるとは思いもしなかった、と思わず目を見張るモモの助の姿にヤマトは己の勝利を確信する。

 苦節一年、ようやくスタートラインに立てるとその表情が歓喜に染まるが───しかし一朝一夕で考え付いた小細工で勝利を収められるほど、最強と謳われるワノ国の総大将は甘くはない。

 

「光月二刀流 漆ノ型───」

 

 体勢を崩されたその勢いを逆手に取って、陥没するほど強く地面を踏み込んだモモの助の体が宙返りと共に反転する。

 今度はお前の番だ、とまるで意趣返しをするかのようなモモの助の行動に瞠目を露わにしたヤマトは、標的を見失いそのまま空を切った金棒を目の当たりにするのと同時に、先ほどまでの勝利の確信が霧のように消失していく感覚に身を包まれる。

 

 対応しなきゃやられる、そんな思いとは裏腹にしかしヤマトはその動きを目で追うだけで精一杯で───

 

「───斜陽転身」

 

 一切の淀みなく水平に振るわれた二刀が、妖刀たる己の役目を果たさんと硬直するヤマトの首を刈り取るべく雄叫びを上げる。

 その光景に明確な死を予見させられ、脳裏に走馬灯が浮かびあがり瞬きの後には死を覚悟したヤマトだったが……しかし寸前で天羽々斬と閻魔がその妖気を収めてピタリと首筋で止まったことで、緊張の糸から解放されたヤマトが冷や汗を浮かべながら無意識に地面にへたり込む。

 

「今回も俺の勝ちだな、ヤマト」

「───……ハッ!?」

 

 現実に引き戻されたのは、華麗に着地したモモの助が惜しかったぞ、と自身の健闘を讃えそのまま敗北を突き付けた直後のこと。

 

「うわー! また負けたー!!」

 

 体の芯から湧き上がって来る悔しさを快晴の空に隠すことなく打ち放つヤマトと、そんなヤマトを見て次は通じなかった後のことも考えないとな、とどこか他人事のような態度で流れるように模擬選の総評に入るモモの助。

 

 カイドウとの戦いから早いもので六年。

 ワノ国の将軍にしてモモの助の祖父───光月スキヤキから頼まれていた二代鬼徹の捜索を無事に終え、大の大人を優に上回るほどに成長を遂げた二人は今年で十四歳になろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 14年目:春

 

 模擬戦で負けた悔しさからか、普段の倍以上も作る羽目になったおでん鍋にがっつくヤマトに苦笑しつつ、視線の先にある以前の街並みとほぼ変わらないほどまでに復興が進んだワノ国の姿を思い人心地がつく。

 カイドウとの戦いからもう六年……忙しい時ほど時間の流れは速く感じるという言葉の通り、瞬く間に過ぎ去っていった時間の中でカイドウたちがこの国に残していった傷跡は大半が修復されて、今や川の汚染も恐怖の象徴だった武器工場もこの国には影も形もない。

 スマイルと言う悪魔の実の失敗作が齎した影響は流石にどうにも出来なかったが、それでも彼らがこれからは偽りではなく本心からずっと笑い続けられるようにとお爺々様が様々な施策と共に便宜を図ってくれており、おこぼれ町の人たちから日夜届く感謝の手紙や訪れる度に手渡されるお礼の品々を思えばその取り組みが上手く行っていることは明白であるため、彼らのことはこれからもお爺々様に任せて置けば何も問題はないだろう。

 

 水と食糧の方も桃源農園の作物は汚染から免れていたこともあり時間さえかければまた各郷にその種を行き渡らせて畑を再耕させることはそう難しい話ではなく、今や各郷には昔のように腹を空かせ飢餓に苦しむ人々は一人としておらず、あちこちから子供たちの笑い声が絶えず自由に町を駆け回るその光景は紛れもなく俺がこの国に求めていた未来そのものだった。

 

 白舞の潜港も武士団の厳しい警邏の末にオロチの関係者がパタリと来なくなったので去年には封鎖を解除されたし、由緒ある場所だから解体とかにならないで本当に良かったとお爺々様の言葉を伝えるために白舞へ訪れてヤスさんと固く抱き合ったのも懐かしい話だ。

 

 そんなこんなで六年という月日が経ってしまったが、一先ずは生活面の問題は全部解決したので、俺もそろそろイヌとネコを連れて白ひげのところに向かおうと思い色々と準備を進めていると……その前にカイドウとの戦いに備えてミンク族の協力を仰ぐべく、一度ゾウと呼ばれる二人の故郷に足を運んでみてはどうかという話になった。

 光月家とミンク族は古くからの兄弟分であり、有事の際は何があっても駆け付けると言う掟があるほどに固い絆で結ばれているとのことなので、生まれながらの戦闘民族である彼らの力を借りることが出来るならカイドウとの戦いにおいてこれ以上に頼もしい味方もそうはいないだろうと言うのが理由らしい。

 もちろんそれに反対するワケもなく、ゾウへのビブルカードをネコが持っていたこともあって、そのための船を港友さん率いる大工の方たちに造船して貰っておりそれが出来上がり次第ゾウには向かうつもりだ。

 

 何でも今造っている船は、船底に海楼石を敷き詰めているため海王類が認知できず凪の帯(カームベルト)すらも自由に行き来が可能なものらしいのだが……将軍家の俺が乗るからだとか何だかで安全面に配慮した結果、軍艦サイズの設計になって予定よりも時間がかかってしまっており、俺としては最悪イヌとネコの二人を抱えて空飛んで行けばいいかなって考えていただけに至れり尽くせりな状況にちょっと申し訳ないなと言うのが正直な気持ち。

 しかし物資が勿体ないから、とイヌとネコを抱えてゾウに向かう旨を素直にしのぶに伝えたら普通に丸一日コースの説教を受けさせられたので、申し訳ないと言う気持ちを押し込めて俺からはもう何も口出ししないことを心に決めた。

 

 

 

 14年目:春part2

 

 船が無事に完成したとの報告を受けたので、出航の前に二代鬼徹の様子はどうかと一度お爺々様のいる将軍城へ顔を出して来た。

 相変わらず妖刀らしく俺も連れていけと言わんばかりの血に飢えた気配をビシビシと叩き付けてきたが、取り敢えずは何事もなく無事なようで一安心だ。

 

 ヤマトと二代鬼徹を捜索していた時はまさかお膝元の九里にあったとはと二人して驚いたものだが、二代鬼徹を守ってくれていた編笠村の老夫婦からそのワケを聞けばそれも納得という経緯で、端的に言うと二代鬼徹がなくなった理由はオロチでもカイドウのせいでもなかった。

 

 発端は編笠村の老夫婦がオロチと同じ黒炭の血筋を引いており、遠縁であったため粛清から逃れて九里で正体を隠し慎ましく暮らしていた折に、将軍になったオロチが好き放題する様を見てまた先祖の二の舞を演じるつもりかと老夫婦が激怒、そしてあの惨劇を再び繰り返すワケには行かないと少しでも自分たちに出来ることをしようとした結果、カイドウとオロチの部下が二代鬼徹を狙っていたことを知りそれを防ぐためにお堂から二代鬼徹を拝借して今に至るというのが事の顛末。

 

 老夫婦は父や俺にオロチを止めてくれたことを感謝していたが、それ以上にまた黒炭がワノ国に混乱を招いたことをひどく嘆いており、祀られていた二代鬼徹をオロチの手から守るためとは言え許可なく持ち出してしまったことをとても後悔している様子で、放っておけばそのまま切腹してしまいそうな勢いだったのでむしろ助かったと言うことと今まで守ってくれてありがとうと逆にコチラが感謝を告げれば今度は感極まって号泣と……とにかく老夫婦を宥めるのに苦労したものの、光月とか黒炭とか関係なしにこれからもこの国に何かあれば力を貸してほしいと話を付けて、二代鬼徹の捜索の任は無事に果たすことが出来たのだ。

 

 隠しても仕方ないとお爺々様に正直にその話をした時は、光月と黒炭の因縁に頭を痛めこそすれあの事件と関わりのなかった老夫婦に罪はないと、俺と同じくむしろ二代鬼徹を守ってくれていたことに心から感謝している様子だったので、今後オロチや過去に罪を犯した人物とは無関係の黒炭の人々が平穏無事にこの国で暮らしていけるように、俺もお爺々様もこの国に深く根付いたそのしがらみを取り払えるように尽力していくつもりである。

 

 そんなこんなで無事に二代鬼徹をお堂に持ち帰って再び祀ることが出来たわけだが……如何せん妖刀としての気質が強すぎるため、こうして顔を合わす度に『声』が聴こえる俺に責務を果たさせろ、と先にも述べたが連れていけアピールが凄まじい。

 正直こんな風に祀り上げるよりも誰かの手に収まって振るわれる方がこの刀の性には合っているとお爺々様には伝えたものの、刀鍛冶でもあるお爺々様もその性根を理解している様子ではあったが、閻魔に並ぶかそれを凌ぐほどの妖刀である二代鬼徹を使いこなせる人間がこの国にはいないのだからどうしようもないと言葉を返されては是非もない。

 

 二代鬼徹からはお前なら扱えるだろと言わんばかりの熱烈な眼差しを受けたが、俺自身は天羽々斬と閻魔以外の刀を手にするつもりは毛頭ないので、二代鬼徹には本当に申し訳ないけどいつか相応しい持ち主がお前の前に現れるさ、と丁重にお断りしておいた。

 

 

 

 14年目:春part3

 

 イヌとネコ、ついでにお目付け役のしのぶだけを連れてゾウに向かうつもりが、何故かヤマトまでも連れて出航することになってしまった。

 僕はモモの相棒だからね! と到底船に忍び込む理由になってないその言い訳にしのぶは肩を竦め、いつの間に一番弟子からランクアップしたんだ、とイヌネコはしのぶとは別方向に文句を溢していたが……正直気づいてたけど、ここ数年はずっとヤマトと一緒にいたのでいざ離れるとなるとそれはそれで寂しいなと思い黙っていたのは内緒だ。

 と言うかイヌとネコはロジャーの船に乗り込んで来た前科があるんだから人のこと言えないぞ? すっかり忘れてるみたいだけど、お前たちには白ひげに迷惑かけてごめんなさいってちゃんと頭下げてもらうつもりだから肝に銘じておくように。

 

 白ひげのグラグラパンチが飛んできても俺はお前たちのことは庇わないからな。

 

 

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